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異世界人受付カウンター  作者: 唐科静玖
第二章 来訪者の魔法と冒険
24/48

23.連絡

「コホン、取り乱してしまってごめんなさい」


 自失状態から帰ってきたアンナは、ユウが町の魂を浄化してしまった時のように、凄みつつサタナイト鉱石の説明を行った。

 ユウ達は気圧されつつも事情を把握し、別に悪いことは無いのだと理解する。

 その後アンナが平静を取り戻し、今に至る。


「そのような伝説の鉱石だったとは。驚くのも無理も無いだろう」

「ですが、結構普通にありましたよね?」

「そんなこと言って、あなた達、かなり深いところまで行ったでしょ?サタナイト鉱石は地中深くに眠っているものらしいし、龍災によるダンジョン構造の変化で奇跡的にそこまで辿り着けたのかもね」


 3か月前の龍災は観測史上で最も規模が大きかったと言われている。コルヴァ全体どころか、周辺ダンジョンをも同時に襲ったとされているため、構造変化の規模も計り知れない。

 本来はもっと高難易度の深層ダンジョンの最下層に挑まなければ手に入らないような貴重な鉱石だ。雷の坑道のようなせいぜい中難易度のダンジョンで手に入るのは極めて幸運と言える。


「そんなにすごい鉱石なら、これを王都のギルドとかに送ればアンナさんの功績として認められて、一発でこんな不運な境遇とはおさらばできるんじゃね?」

「おお。こうせき、だけに?やるのう」

「ちげーよ、たまたまだ!」


 リョウタがハッと思い付いたことを口に出す。ダジャレになってしまっていることにハピコが素早く茶々を入れると、リョウタは少し顔を赤くして偶然を主張した。

 そんな漫才を繰り広げられても、アンナは冷静にリョウタの意見を否定する。


「それができれば好都合なのだけれどね………。王都のギルド本部には、私を陥れたフィリって職員が勤めてるのよ。それに私のコルヴァ行きを許可したのはフィリの祖父であるギルド総帥だし、その息の掛かった本部の職員は信用できないわ。だから、王都に送る線は駄目ね」

「なんじゃと……。な、なら、わしが必死に運んだこのサタナイト鉱石とやらに使い道は!?」

「まあ落ち着きなさいな。使い道は考えたわ。本部は駄目でも、他の場所ならまだ可能性はある。一番うまくいく可能性の高い『ウェルサ』のギルドに連絡を取りましょう」

「ウェルサ?」

「私の友達のユナって子が配属されてるはずの町よ。ウェルサはユナの出身地で、配属先の希望もウェルサにしていた。何事も無ければユナはウェルサのギルドに配属されているはず。彼女なら、絶対に私の力になってくれるわ」


 ギルドに対する猜疑心が高まっているアンナは、どこまでフィリの、いや、ギルド総帥の手が回っているかに対して最大限の警戒を払っている。そんな中でも唯一信頼できる相手、ユナにまず連絡を取ることが出来れば、手の打ちようが出て来る。

 しかしそれにも問題があって、そもそも連絡を取れるかどうかが定かでない。連絡手段である転送装置は送り先が送り元からの干渉を許可していなければ作動せず、不発になってしまう。コルヴァが機能停止していることで、コルヴァからの転送装置の干渉の許可を打ち止めにされていれば、どうしようもないのだ。

 そうは言っても、今できる最良の手がウェルサへの連絡であることに変わりはなく、ただ通じることを祈るのみである。


 ギルドのカウンターの奥にある転送装置部屋に移動した。


「おお、ここだけ見れば我々の世界よりも技術が進んでいるように見えるな」


 部屋の内部を見渡したトシシゲが、そう感嘆する。

 近未来感のある操作パネルと、天井を貫く筒状の巨大な装置。見るからにハイテクで、ここだけまた別世界のようである。

 アンナは手際良く、とはいかないがなんとかショックスパイダーの糸を繋ぎ合い、転送装置の配線を完了させた。転送装置の操作方法は学校で習っており、優秀なアンナなら初めての実践でもミスなく操作できる。だから後は、天運に身を任せるだけだ。

 黒い石の板に石灰石で文字を書いて、巨大な筒の根元にある台座に乗せた。簡単に言うと雷属性の『促進』の性質を利用した装置であるため、著しく腐敗・劣化してしまう有機物は転送できない。紙を使えない以上、このような原始的な道具を使うしかないのだ。


【こちら、現在復興活動中のコルヴァのギルド職員、アンナ・ガーネットです。そちらにユナ・ユラという新人職員がいらっしゃれば、取り次ぎをお願い致します】


 転送装置を起動すると、筒が傾き、石の板を乗せた台座が筒にセットされる。そして、一瞬雷のバチっという破裂音がしたとともに閃光が走ると、台座から石の板は消滅していた。

 第一段階は成功だ。受け取る側が拒否する設定になっていれば、転送する物は台座の上に残される。消滅したということは、受け取る側にきちんと届いたことの証明だ。


「良かった……。後は、ユナに届くことを祈るだけね」


 第一関門は突破しても、まだ不確定要素がある。

 コルヴァからの連絡など、事情を知っている職員には悪戯にしか見えないだろう。そう思われて無視されれば終わりだ。

 それでも、職員の名指しがあれば、取り合ってくれる可能性も高まるはずだ。直接ユナに届けばいいのだが、都合よくユナが転送装置係になっているとは思わない方がいい。

 緊張は高まる。が、想定外の速度で転送装置に受け取りの反応が起こった。それはウェルサからの物で、アンナが送った黒板に、びっしりと文字が書き込まれていた。


【アン!ユナだよ!卒業の日に急にアンだけ別のところに連れていかれたのを見て、その後行方が分からなくなったって聞いたから、すごく心配してたんだよ。あたしも捜索に加わりたかったんだけど、エヴァンさんに、あたしはウェルサの転送装置係になっているのが一番アンの助けになるって言われて……。最初は気が気じゃなかったけど、ジルさんがアンの無事を確認してくれたし、ほんとにアンから連絡来るなんてびっくりだよ。ていうか、本当に無事でいるんだよね!?】


 返ってくるかも分からなかった返信だったが、その内容を読んで納得した。都合が良すぎると勘繰る必要もない。エヴァンが早々に手を回してくれていたのだ。


(私がユナを頼ることを読んで、ウェルサのギルドに連絡したら確実にユナに繋がるようにしてくれるなんて、本当にあの人はどこまで先が見えているのかしら)


 頼もしすぎてもはや苦笑いが出てしまうほどだった。ユナの言い方では、まだアンナがコルヴァのギルドに居ることすら分かっていない段階で、エヴァンはそこまでの判断ができたのだから恐ろしい。


【ええ、私なら大丈夫よ。面倒な事無しにユナとのやり取りを始められて良かったわ。それで、こっちの状況なのだけれど……】


 相手がユナであれば、全て話しても問題ない。そう判断したアンナは、コルヴァに来てから起きたことを簡潔にまとめて返信した。


【協力者が居るっていうのはジルさんが持ち帰った情報で知ってたけど、異世界からだなんて信じられないよね……。アンが言うことだから信じるけど。で、彼らにショックスパイダーの糸を採ってきてもらって、こうして転送装置使えるようになった、と】

【そういうこと。それで、ここからが最重要なの。実は、彼らが採ってきたのはショックスパイダーの糸だけじゃなくて、サタナイト鉱石も採ってきちゃったのよ】

【えっ!?サタナイト鉱石って、この世で一番硬い武具の素材になるあの伝説の!?】

【ええ、正しくそれよ。それで、サタナイトを換金して町の復興資金に充てたいのだけれど、本部は当てにならないから、ウェルサの方でどうにかならない?】

【うーん、サタナイトって価値を付けることすら難しいとんでもない鉱石だったと思うけど……。でも、頑張って支部長に交渉してみる!あ、本部に頼らないのは大正解みたいで、エヴァンさんは今回のアンの一件にはフィリの裏に別の真犯人が居るだろうって言ってたの。本部の白黒にはもうすぐ結論が出るらしいから、それまで迂闊な行動をしないようにって】

【裏に真犯人?考えてみれば、確かにフィリが首謀者にしてはボロが出てないものね。異世界人が来てなければ多分、私は今ごろ絶望してただろうし、フィリ一人にそこまでしてやられるなんて考えられないわ。予想以上の大事だと用心した方が良いわね。あ、換金は相場より大幅に下でいいわよ。下手に大きなお金を動かすとその真犯人とやらに感付かれるかもしれないし】

【そうだね、できる限り普通の取引を装わないと。本当はできる限りの援助をしてあげたいんだけど……。何か必要なものがあったら言ってね?絶対にこっちで用意して転送するから!】


 そこで今日の連絡は終わった。

 アンナは、頼もしい味方に恵まれた、と誇らしく思う。裏で糸を引く真犯人とやらの存在は気になるが、全く臆する気持ちは湧かない。どれだけ卑劣な相手でも、迎え撃つのに十分な縁と資金が手元にはある。エヴァンは既に全貌を明らかにするために細やかに手を回してくれているはずだ。


(兄さんには会長を頼りすぎるなと言ってしまったけれど、頼らなくてもここまでしてくれてるなんて……。どこまでも優しい人ね)


 生徒会でたまたま一緒になっただけの自分を色々と助けてくれるエヴァン。それは学生時代も今も変わらないのだと思うと、申し訳無さと、じんわりとした温かさが心から沸き上がり、キュッと胸を包み込む。込み上げたそれは鼻の奥に留まり、なんだか甘酸っぱい。アンナはトクンと鼓動する理由も分からないまま、胸へと手を当て、ほぅ、と息を吐いた。



 アンナがユナと転送装置でやり取りしている間、他の4人は邪魔にならないように離れて集まっていた。

 今回のところはこちらの世界での成果は上々であり、疲れもあるため、帰還しようかという話になっている。


「今日は皆ご苦労様だった。特にリョウタMVPだったな」

「そうですね、リョウタさんは凄かったです!」

「一人で全部の魔物を倒したからの~。頑張ったのじゃ!」


 トシシゲの労いに、ユウとハピコも便乗する。


「ああ、確かに凄く暴れた感じはあるけど……」


 リョウタは誉められたことに照れ臭そうにするが、その顔には何か不安のようなものも浮かんでいた。


「どうした?やはり、魂の無い魔物といえど自律して動くものを殺すのは辛いか?」

「いや、ダンジョンでも言ったけど、そこは別になんとも思ってねえって。俺が気になってるのは、魔法が日本に戻っても使えるのかどうかだ」


 リョウタは右手でグーとパーを繰り返し、それを神妙な面持ちで見つめる。

 リョウタは体を動かすのが好きだ。特にボールを投げる事は、彼の最大の趣味である。

  しかし、もし日本でも魔法を使える場合、魔法を暴発させてしまったらと思うと、リョウタの生活はかなり制限されてしまうことになる。


「確かに、それは気になるな……。少なくとも私の『地図作成』やハピコの魔法は使えんと思うが。何しろ魔法紙などというものが日本には存在しないからな」

「ま、またわしだけハブなのじゃ!?いや、どうせ全ての魔法がこの世界だけでしか使えんのじゃろ!そうでなければ不公平じゃ!」


 ハピコがやっかむが、それに対してユウが慎重に考えた後、否定する。


「あの、魔法が日本では使えないというのは、無いと思います。私の家、七天山家は国お抱えの祈祷師の家系ですが、その祈祷が単なる形式上の祭事ではなく、確かな効果を持つことは私がこの目で何度も目にしてきました。そして、七天山家に生まれた者は15歳になると山に修行に出ますが、あれは恐らく天の精霊との契約の為のものなのだと、この世界で得た知識から推測できます。そこから考えれば、七天山家の力は魔法によるものだと思うんです」


 ユウ自身はあらゆる家の行事から除け者にされ、山への修行も行かされることは無かったが、異世界へと来てアンナから色々と教えてもらったことで、腑に落ちる点が多くあった。

 だから、この世界でしか魔法を使えない可能性は低いと見ている。


「……ユウよ、それは私達に話しても良かったのか?七天山家の機密事項だと思うのだが」

「た、確かに、秘密を知ったら存在を消されるとか、ありそうなんじゃけど!?」

「そこまではしないと思いますよ、多分。それに、どうせいつかは皆さんにも話すことになってたでしょうから、それが早いか遅いかだけの話です。あ、もちろん口外は厳禁なので、そうした場合の身の安全は保障できませんけど」

「ひぃぃ……!やっぱ知ったら危ない奴なのじゃ!?サラッと怖いこと言うのは止めるのじゃ~……」


 ユウは可愛らしく口の前で指をバツにして口止めをするも、内容は全く可愛くない。ハピコは顔を青くして耳を塞いでしまった。


「ユウの話が合ってるなら、向こうでも使えちまうのかもなあ。うっかり使っちまって大惨事を起こさないように気を付けねえと」

「魔法については、色々と検証しないといけなさそうですね。特にハピコ先生の魔法は、きちんと把握しないと犯罪になりそうですし」

「うむ、そうじゃな。今のところわしの私物と実家の一輪車という、わしが認識しておる物を優先して召喚できておるが、より確実に狙ったものを召喚できるようになるまで、おいそれと使えんのじゃ」


 ハピコの魔法は謎が多すぎた。召喚できるものと出来ない物の違い、類似品が多数存在する時に召喚される個体の優先度、そして、生物は召喚できるのか?出来るとして生命活動に異常は来さないのか?など、検証が色々と必要だ。


 そんな話をする中、ユナとの連絡終えたアンナが戻ってきた。


「あ、何か嬉しそうですね。その様子だと上手くいった感じですか?」

「そ、そんなに見て分かるかしら?まあ、ユナとの連絡は上手くいったわ。資金も手に入りそうだし、これも全部あなたたちのお陰よ。本当にありがとう」


 アンナは思いの外上がっていたらしい口角をキュッと引き結びながらお礼を言う。それを受け、ユウ達も嬉しさを表しながらも、何やらアイコンタクトを交わし合う。


「なるほどなるほど、私たちの初めての依頼は、無事達成できたということだな」

「ぐへへ……、それなら、報酬の方をたっぷり貰わんといかんのう?」

「えっ……」

「おい、怖がらせてどうする」

「あっ、報酬って、あれのこと?」


 謎に悪い顔のハピコに詰め寄られ、アンナは彼らの善意の気持ちが過酷なダンジョン探索で変わってしまったのかと思った。が、そんなはずもなく、悪ふざけしたハピコがトシシゲに首根っこを掴まれて引き剝がされたことで、冷静に思い出すことができた。


「そうです、あれです、笑顔です!」

「へへっ、さっき俺だけ先に良い笑顔を見せてもらったけど、すごく良かったぜ」

「何ぃ!リョウタだけズルいのじゃ!早くわしらにも飛びっきりのを見せて欲しいのじゃ!」

「ちょ、ちょっと。見せるは見せるけれど、あんまりハードルを上げないでよ。『私の笑顔は高い』なんて言ってしまったの、実は後ですごく恥ずかしくなったんだから。期待は緩めでお願いね?」


 盛り上がる彼らに対してそう予防線を張りつつ、アンナは今日のことを色々と思い出す。絶望的な状況のはずが、彼ら来訪者たちのお陰で、とても愉快になっていた。楽しい、嬉しい、心強い、それらの嘘偽りない感情を再燃させ、表情から溢れさせた。


「皆、ありがとう!」


 屈託のない笑顔。抜群の破壊力。異世界美少女が見せたこれ以上ない報酬は、日本へ戻る前の者達の心に深く刻まれ、今回の来訪の最高の締め括りとなったのだった。


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