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異世界人受付カウンター  作者: 唐科静玖
第二章 来訪者の魔法と冒険
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22.雷の坑道②

 一行はダンジョンの更に奥へと進む。

 目標のショックスパイダーは痺れ効果のある糸を罠のように張り巡らせて、掛かった獲物を屠るのだが、それはつまり罠として地図に表示されてしまうことも意味する。罠の密集地帯にショックスパイダーが居るのも丸分かりだ。そのため、彼らは地下深くの罠が多く表示されている場所へ向かっている。

 魔物とも30体近くと遭遇したが、ユウの的確なナビで接敵を事前に察知し、トシシゲのデコイで炙り出し、リョウタが遠くから位置的で仕留める。卑怯とも言うべき必殺の戦術で全て一方的に処理し、驚くほど順調に探索は進んでいた。

 しかし、彼らはダンジョンの真の恐ろしさを知らない。静かに牙を研ぐダンジョン、徐々に冷たくなり死のように絡みつく空気感に気付くことなく進む彼らは、やがて恐怖の深淵と相見え、心胆を震え上がらせることになる――」


「不穏なナレーションみたいなこと言うな!」

「おお、それじゃ。ナイスツッコミじゃ!」


 突然始まったハピコのナレーションごっこに容赦なくツッコミを入れるリョウタ。ハピコも反応の良さに気持ち良さそうである。


「いやいや、流石に洒落にならねえって。死とか恐怖とか、実際にそうなったらどうすんだよ」

「だからこそじゃ。順調過ぎるとそれがフラグになってしまうからの。こうして悪い展開を予想しつつボケることで、良くないフラグを折ることができる高等テクなのじゃ」

「確かに順調過ぎるけどよ、そんなんで何か変わるのかよ?」

「うむ、ツッコミがなければ死亡フラグじゃったから危険な橋じゃったけど、お主のお陰で生存フラグになったのじゃ」

「いや分かんねー……。てか卑怯とか言うなよなー。俺達にガチ戦闘とか無理なんだしさ」


 ともあれ、そこからの道中も危なげなく進んだ。ハピコのフラグ管理の効果があったかどうかは定かではないが。


「ここから先は、罠の場所も特定できないくらい見事に緑マークだらけですね」


 ダンジョンに入ってから約2時間が経過したところで、ユウの言葉に皆の足が止まる。


「アンナさんはダンジョンの中層辺りにショックスパイダーが居ると言っていたが、思っていたよりも深くに来てしまったな。というか、もはや最深部ではないか」

「龍災によってダンジョンの構造が変化しているからそうとも限らないとも言ってましたからね。とにかく、もう少しでゴールです」


 地図によると、目の前の道には数十メートルに渡って罠が設置されている。ショックスパイダーの糸はほぼ透明で、視認性がとても低い。肉眼では一見何もないように見えても、そこには触れれば強力な痺れをもたらす糸が赤外線センサーのように張り巡らされていて、危険極まりない。

 しかし、それも彼らにとっては問題では無い。有ると分かっている時点で罠は罠にならないのだ。


「うっし、また俺の出番だな!せいや!」


 リョウタが目の前の道に向けて、火球を投げ込んだ。すると、プツン、プツンと次々に焼き切れる音が聞こえ、地図から罠の表示が消えていく。

 魔物に作られたものとはいえ、所詮は蜘蛛の糸。熱に極めて弱く、リョウタが魔力を込めた火球を投げれば一瞬で無力化できてしまう物だった。

 全ての罠を駆逐できたのを確認し、その勢いのまま先へ進む。すると、現れたのは道を塞ぐように張られた巨大な蜘蛛の巣。そして、その中央に陣取っているこれまた巨大な蜘蛛、ショックスパイダーだ。


「ひいぃぃぃ……。覚悟はしとったが、あれは生理的に無理なのじゃ……」


 全長5メートルは有ろうかというその恐ろしい巨体に、刺々しい足、そしてメタリックな光沢を放つ見るからに頑丈そうな胴体。

 その悍ましい見た目に、ハピコが悲鳴を上げながらユウの後ろに隠れる。


「確かに、あんまり見てると夢に出てきそうですね……」

「そうだな。あれは我々地球出身者には刺激が強すぎる。さっさと片付けるのが吉だ。やるぞ、リョウタ」

「ああ、サクッとやっちまおうぜ」


 今まで遭遇した魔物の中では強さの意味でも見た目の意味でも断トツで凶悪な魔物ではあるが、こちらがやることは変わらない。

 トシシゲがデコイを放り投げ、ショックスパイダーの全ての複眼がギョロリとそれに向く。そして、デコイに向けて糸を吐き出して攻撃を始め、ヘイトが完全に取れていることが分かった。


「うわ、おっかねえ……。あれがこっちに飛んで来てたら避けらんねえな。けど、この勝負はもらった!せい!」


 リョウタの気合の入った貫通球が、見事なコントロールでショックスパイダーの頭部に吸い込まれる。硬い装甲もなんのその、球は余裕で頭部を突き抜けた。急所を一撃で破壊されたショックスパイダーは、何が起きたかを理解する間も無く、今までの魔物同様にあっけなく霧散していった。

 

「あの巨大蜘蛛を一撃!すごいです!」

「ようやったのじゃ、リョウタ!」

「へへっ、それほどでもねえぜ」


 女性陣からの称賛を受けて、リョウタはちょっと良い気になってはにかむ。


「ドロップしたのは丸まった毛糸のような物、これが目的の物で間違いないな」

「そのようですね。あ、私が拾ってきます」


 ユウが小走りでドロップアイテムを拾いに行く。

 この時、強敵を難なく倒し、地図には敵性反応は無く、誰もが気を抜いていた。


 だからこそ、地図上では行き止まりであるはずの、ショックスパイダーが巣を張っていた場所の奥で、何かが煌めくのに気付くのも遅れてしまったのだ――。


* * * * * * *


「はぁ……。本当に大丈夫かしら?」


 コルヴァのギルドのエントランスで、アンナが落ち着きなくあちこち歩き回っていた。

 アンナの為に、と危険なダンジョンに出立した4人のことが心配で、何も手に付かないでいるのだ。

 思いつく限りのアドバイスはしたし、彼らには緊急脱出手段もある。それでも、不安な気持ちを拭いきることはできない。

 彼らが無事に帰って来たならそれでいいのだが、帰ってこなかった場合はちゃんと元の世界に帰還できたのか、それともダンジョンの猛威の犠牲になったのかが判断できない。それが、アンナの不安を重くさせていた。

 彼らが出発してからもう5時間は経過している。順調に進めばそろそろ帰ってきても良い頃合いなのだが……。

 そんな中、入り口の扉がガチャリと開く音がした。その音にアンナが扉の方へ飛ぶように駆けつける。


「戻ったぜー」

「!!お帰りなさいっ!」


 中に入って来たのはリョウタだった。その元気そうな姿に、アンナは顔を綻ばせる。営業用の作られた笑顔ではなく、心から湧き出た安堵によるそれは凄まじい破壊力だ。


「お、おお。ほら、これがショックスパイダーの糸だ」


 その破壊力にリョウタもドギマギさせられた。心の動揺を隠すように、リョウタは腰に付けていた麻袋に手を突っ込んで中の物を近くの机にばら撒く。ショックスパイダーの糸だけでなく、他に倒した魔物のドロップアイテムも含まれていた。


「すごいわ!これがあれば他のギルドと連絡が取れるわ!ありがとう!……ところで」


 無事に帰って来ただけでなく、きちんと目的も達成してくれたことに、アンナは大歓喜だ。

 しかし、アンナはここで違和感に気付く。リョウタが入って来てから、他に誰も帰ってくる気配が無い。

 リョウタが無事だったのだから、他の3人も無事に決まっている。そう考えるのが自然だというのは思い込みで、彼らの身に何かあったのでは、という不安がぶり返した。

 

「他の三人は……?」


 アンナは揺れる瞳でリョウタを見つめるが、リョウタはサッと目を逸らし、


「それが、その……」


 と、口ごもってしまった。それは、アンナの嫌な予感の的中を裏付けてしまう。


「まさか……!?」


心臓が凍てつくような寒気がアンナに突き刺さる。危ない目に遭って即時帰還で逃げただけかもしれない。だが、それならリョウタが言葉を詰まらせる必要はない。であれば、来訪者たちの力だけで町を復興できるなどという自分の甘えた考えが、彼らの命を奪う結果をもたらしてしまったのではないか?そのような推察が頭によぎると、アンナは足に力が入らなくなり、近くの椅子に半ば倒れ込むように寄りかかってしまう。

 アンナの様子の急変に、リョウタはギョッとして駆け寄った。


「アンナさん!?」

「ごめんなさい、私のせいで、三人が犠牲になるなんて……」

「ぎ、犠牲?何か勘違いしてねえか……?」

「だ、だって、リョウタ以外誰も帰って……」

「あっ。えっと、それはだな……」


 リョウタが何か説明しようとしたタイミングで、再び扉が開く。


「ふぅ、やっと着きました!」

「ひぃ、ふぅ、うばぁぁぁぁあぁ…………。死ぬのじゃ、いや、もう足の感覚が無くなっとるから、死んでおるのかもしれん……、ぶぇっ」


 入って来たのは、ユウとハピコだ。


「えっと、どういうこと……?」


 アンナは二人が帰ってきたことを喜ぶのも忘れ、その様子のおかしさにキョトンとする。二人とも多大な汗をかいているどころか、ハピコに至っては着いた途端に床にベチャンとうつ伏せに倒れ込んでしまった。


「私が説明しよう。ユウとハピコは、今回あまり役に立たなかったからと、荷物持ちに名乗り出たのだ。私は一応の護衛として二人に付いていた」


 最後に入って来たトシシゲが、苦々し気にそう説明する。


「せっかく冒険に出たのに、何の成果も無いのでは詰まらないので、せめて荷物だけでも、と思いまして」

「ユウはまだ地図読みで仕事しとったのに、そのユウが役立たずだと自称するもんじゃから、わしまで荷物運びを避けられんくなってしもうたんじゃ……」

「え?ああ、なるほど?……じゃあ、なんでリョウタはあんな意味深な顔してたのよ!何かあったのかと思うじゃない!」

「だって……、女子に荷物持ちさせるなんて、男として失格だろ?」

「何よそのプライド、そのせいで私がどれだけ心配したと思ってるの!ていうか、魔物の素材はリョウタが持ってきたので全部でしょ?他に何を運べばここまでヘトヘトになるのよ?」

「それは、実際に見てもらうのが早いだろう。外に出て確認してみてくれ」


 アンナは無駄に精神を消耗させられたことにまだ文句を言ってやりたい気持ちもあったが、トシシゲに促されたことでその気持ちを一旦しまい込んだ。そして、しまい込んだものが弾け飛ぶのに、数秒もかからなかった。


「一体何が……。って、えええぇぇぇ!?」


 外に出たアンナが目にしたのは、見たことの無い車輪と容器がくっついたような道具2台。作業に使う用の一輪車だ。しかし、アンナが驚いたのはその未知の道具にではない。それに山と積まれた、鉱石の数々の方にだ。

 ユウが運んだ方の一輪車には、紫色の透明な水晶のような石が積まれている。これは、可能なら採ってきて欲しいと頼まれていた『雷晶石』だ。転送装置にエネルギーを補充するために使う物で、今は残存エネルギーが十分でない転送装置を惜しみなく使えるようになる。

 そして、もう片方のハピコが運んできた一輪車には、もっととんでもない物が積まれていた。アンナを顎が外れそうなほど驚かせたそれの正体は……。この世界で最も硬く最も希少な鉱石、『サタナイト鉱石』だ。加工すれば最強の武具を作り出せるそれは、欠片でも採掘できれば、5年は遊んで暮らせるだけの値段で取引できる。冒険者としての評価も爆上がりし、現ギルド総帥に至っては、サタナイト鉱石を大量に採掘してきた力が評価されてその地位に就けられたほどである。

 それ程の価値がある伝説の鉱石が、一輪車いっぱいに積み込まれている。鉱石自体は硬くて採掘不能で周りの岩ごと運ばれていることを考えても、とんでもない量だ。


「頼まれていた雷晶石と思われる石と、その近くにあったやたらと光沢の強い鉱石もついでに採って来たのだが、それほど驚くものなのか?」

「だって……、これ、サタナイト鉱石……」


 もはや頭が追い付かず、夢でも見ているかのようなほわっとした口調になっているアンナ。

 他の四人は顔を見合わせ、しかし場を纏められるアンナがこれではどうしようもないと、しばしアンナの復帰を待つことにした。

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