第一話 無能な神と巻き込まれた私(達)
遡ること昨日(多分)
私は17年来の約束を果たすため、東京の実家から、生まれ故郷の祖父母の家がある奈良に向かっていた。
鉄道を乗り継ぎ、最寄り駅から祖父母宅に荷物を置きに行こうと向かっていた途中で後ろから凄まじい衝撃を受けて、気を失った。
木原玲央奈 享年22歳 トラックの暴走による追突事故死であった。2048年7月30日没
ーーーーーーーーー
「そんな感じですまんのう、御主死んでしもうたんじゃ。」
ホログラムみたいな映像が流れたあとに世界神ジロンと名乗るお爺さんはテヘッ☆みたいな感じで言ってきた。
「嘘でしょ・・・どうして私は一番大事なタイミングで死んじゃったの・・・」
「すまんのう・・・今世界の歯車は最大に狂っておるのじゃ・・・その影響で御主の天命もズレたのじゃ・・・」
お爺さんは顎髭を弄りながら申し訳無さそうな顔ですごく謝っていた。
「それで死んだ私はこれからどうなるんですか?」
「本来は死んだ者は輪廻の輪に戻り、来世へと向かうのじゃが、御主には一つお願いしたいことがあってのう・・・」
お願い?なんのことかわからないけど、彼に会えるように私がお願いしたいぐらいなんだけどなぁ・・・
「釈然としませんけど、どうせ死んでるんだし、聞くだけ聞きますよ。」
どの道、後は来世に行くだけだしなあ・・・
「いやのぅ、アレンドランっていう異世界があるんじゃけどな?そこで儂ら神々がやらかした過去最大の失態のしわ寄せが来とるんじゃ、そのしわ寄せを戻してくれたら一つだけなんでもお願い聞くから頼まれてくれんかのぅ?」
世界神とまで名乗るのに土下座してまで頼んできた。何、何やらかしたの一体。
「えっと・・・とりあえずやらかしの内容としわ寄せの戻し方を教えて頂けますか?」
聞くしかないじゃん!何もわかんないし!
「詳しい所までは言えぬが、昔々に倒された諸悪の根源みたいなやつがおってのう、其奴の魂を浄化する行程をミスですっ飛ばしたまま、輪廻の輪に戻してしもうたんじゃ。」
うわまじでやらかしてんじゃん。
「それで?」
面倒臭いけどもう聞くしかないよね、あはは。
「其奴の魂が西暦で言う52年前に御主の世界に迷い込んでの、そこから徐々に次元の歯車が狂い始めたんじゃ。」
52年間神様達は何してたのよ・・・
「それで私は何をすればいいんですか?」
なんで私が・・・って思うけど、お爺さんまじで申し訳なさそうだし、やることはやったんだろうなぁ。
「其奴の息子を救ってやってほしい。」
今まで腰の低かったお爺さんが急に威厳を持って言った。
「・・・もうちょっと詳しく聞かせてもらえますか?」
この通り言われたことは全然わかりませんがね。
「儂らも今まで頑張ってその魂をどうにかしようと画策し、その家庭や周りの環境に頼んだのじゃ。しかしその家庭は 神の存在を特別嫌っておってな・・・説得に時間がかかり過ぎて、その頃にはもう手がつけられんかった。」
話が大き過ぎて地球でそんなことあったのかレベルで相槌を打つ。
「説得に応じてくれようとなった22年前に其奴の息子が生まれたんじゃ。其奴の息子は其奴との血の繋がりを疑うレベルで清い心を持っておった。その子は家庭や周りの環境にあまり恵まれなかったにも関わらず、ずっと前向きに生きておった。」
同い年か・・・その人ずっと頑張ってたんだなぁ・・・。
するとお爺さんはまた申し訳無さそうに俯き、落ち込んだ声色で話し始める。
「しかし、彼は3年前に死んでしまったのじゃ、誰でもない其奴の行き過ぎたやり方に、命を絶たれてしまった。」
もうそれはどうにも可哀想すぎて目も当てられない・・・。
「儂ら神々全員で土下座したのじゃ、『儂らのミスで死なせてしまった、本当に申し訳ない。』と。」
お爺さんは更に言葉を続ける。
「しかし彼は己の死を受け入れなかった。『まだ死ぬわけにはいかない。僕には絶対に生きなければいけない理由があるんです。』と、強い意志の籠もった眼差しで神々を圧倒した。」
なにそれ凄い良い人じゃん。ほんとに神々何やらかしてんの、罰当てる人間違えてるよ??
「儂らとしてもどうにかしてやりたかったんじゃが、地球に戻すのは肉体の損傷が酷すぎて不可能じゃった。そこでしわ寄せの一つになっていた異世界の魔王を倒して解決したら願い事を一つ叶える条件を提示して、アレンドランに転生させたんじゃ。」
条理なのか摂理なのか、とりあえず人を扱き使ってる割に何もできないのが神々っていうのはすごく伝わってくるなぁ。
「それでその人の魔王討伐を手伝ってほしいってことですか?」
「そうではなくてのぅ。実は転生させた10日後に魔王討伐が果たされて世界に平和もたらしおったんじゃよ。」
凄すぎでしょその人、めちゃめちゃ頑張ってんじゃん。
「そしたらそれ以外に何を・・・?」
そう言うと、お爺さんはバツが悪すぎて胃痛がします的な感じで涙を流しながら正座をして話を続けた。
「彼の願いは『元の世界に元の体で戻してほしい。』とのことじゃった。しかし肉体は修復不可能で、親の魂の影響で神の力も阻まれ、因果律も操作できず、叶えられんかったのじゃ・・・。」
うーわ、悪も神もクソオブクソじゃん。
「それで?」
もう私も疲れてきて返す言葉が雑になってきていた。
「それを伝えたら彼は願いを変えたのじゃ『僕の大切な三人の魂を、未来永劫護ってください。そしてうちの両親をこっちの世界に呼んでください。此方で永久に封印します。』とな。儂らはそのぐらい任せておけ。と大見えを切り、諸悪の存在をアレンドランに送り、言われた三名の魂を因果律により未来永劫護る契約を交わしたのじゃ。」
その人いい人過ぎるでしょ。聖人君子か何か?ってレベルじゃん、幸せになって欲しいよほんとに。
「彼は言った通り其奴の魂を自らを糧に存在ごと封印した。しかししわ寄せの影響で儂らは契約を果たせず、三名とも死んでしまったのじゃ。」
神様たちがやらかしすぎてもう笑うしかない。
「それじゃあなんですか?その諸悪の根源をその人から切り離してどうにかすれば、私の役目は完了なんですね?」
もう聞くに聞けなくて半ば投げやりである。
「そういうことじゃの、御主に頼みたい。」
まあ、私ももう死んだしなあ、それが終われば約束を果たしに行けるかもしれないし、選択肢はあってないようなものかな。
「わかりました。とりあえず行くことにします。」
すると世界神さんが荒ぶる滝のように涙を流してこう言った。
「有難う。本当に有難う。御主の手助けとなるように強力な能力を2つと、あの世界でのヒントを1つ与えさせてもらう。」
うわ、これ本気の感謝じゃん。もう神様でも本気になるレベルで狂っちゃってるのね。
「はい、お願いします。」
ここまでなってたらもうやるしかないじゃん。
「能力はあちらの世界に行ってから確認してほしい。『ステータス』と念じれば浮かぶはずじゃ。ヒントは、御主と同じようにアレンドランに行ってもらった者が後三人おる。その者たちと合流してほしい。」
私と同じように頑張る人が後二人いるってことか、同じ環境の人は多いほうが良いし、それは確かにヒントかもね。
「詳しいことはわかりませんけど、とりあえずわかりました。」
「では頼む。本当に頼む。」
そう言って世界神様は魔法陣を展開して、私は白い光に包まれた。