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第八話 加護メンテ

 エルナスを出発してから2日ほど経過した。

 奇跡的に魔物との遭遇率は0で順調に歩みを進めている。

 とは言ってもミューラちゃん以外の私達二人は馬に乗ることができない。

 なので、こまめに休憩を挟みながら、なるべく余裕を作って、その時間に私と野原くんは乗馬訓練をしている。

 野原くんは既にほぼ乗れるようになっている。習得早いなぁと思う。私はもっと頑張らないといけないんだろうなぁ。

 逆に料理は、彼女以外の私達が出来る。

 今日はミューラちゃんが薪と寝床の確保、野原くんが料理当番、私が休憩の日だ。

 (っていうか野原くんの料理がなんか、家庭の味なんだよね〜)

 高校の頃から家で料理の練習をしていた私が「あ、これ勝てないわ。」ってなるレベルの手際と優しい味付け。これもう野原くん主夫だよ!

 そんなことを考えながら料理を食べる。今日の献立はエルナスで買った食材を使って作ったレバニラ炒めらしき何かだ。

 「野原くん、料理歴は・・・?」

 興味本位で野原くんに聞いてみた。

 「えーっと、数えてないんで覚えてないですね。少なくとも10年は作ってたと思います。」

 少なくとも10年!?なにそれ!?私より若いよね!?

 「マサトさんすごいです!一端の料理人レベルです!」

 ミューラちゃんも目を輝かせながら皿に乗っているレバニラ炒めもどきを口の中に消して行く。

 「・・・いえ、僕は親が仕事でいない時、妹に作っていただけですから。」

 やっぱりミューラちゃんに対してはまだ苦手意識がありそう。野原くん人見知りだからなぁ。

 「マサトさんすごい良い人ですね!妹さんの為にって!!その妹さんは今どうしていらっしゃるんですか?」

 ミューラちゃん、家族ネタは異世界人の地雷だよ…

 「あー・・・妹は実家でしっかりやってると思います。恐らくですが…。」

 野原くんも思いっきり地雷踏み抜かれてめちゃめちゃ気まずそうにしてるよ!!この空気どうしよ!?

 「そんなことよりなんですけど、気になることがありまして。」

 野原くんが話題転換、私達にとってこの話題は確かにきついもんね、ミューラちゃんにもいつかはわかってもらえたら良いんだけど、それはまだ先になりそう。

 「気になること?」

 「はい、街の外には魔物や盗賊が生息しているから、気をつけて進まなきゃいけないって言われていたのに、僕たちまだ魔物どころか盗賊にも出会ってないじゃないですか、気になるなぁって。」

 「確かに、気になるって言われたら気になるかなぁ。」

 本当は魔物も盗賊も見たことがないからピンと来なくて気になりようがないんだけどね…。

 「マサトさんの言う通り気になります。こんなに魔物が出ないのはあり得ません。街の周辺ですら出なかったら運が良いレベルなのに。」

 「確かに、出ないに越したことはないけど、ミューラちゃんの話を聞く限り何か仕組まれてる感じがして怖いんだけど…。」

 「・・・まあ、そう言われましても、出たら出たで戦うしかないので、備えるしかないかと。」

 そう言って先に食べ終えた野原くんは先生に渡されたメモの束を読み始めた。

 私も別で渡されているので、なんとなくわかるが、あのメモはこの世界でどうやったら強くなれるか、その他マナーや金銭の価値などの常識などが書かれてある。毎度ながらフレイノール先生ありがとうございます。

 そんなことを考えながら食事を続けていると、突然どこからかアナウンスが鳴った。

 『只今より、300秒の間、加護メンテナンスを行います。』

 ・・・加護メンテナンス?

 「なにそれ?」

 「月イチぐらいで来るいつものやつですね〜、加護メンテ中は加護が一切機能しなくなるだけですよ。」

 ミューラちゃんがさぞ当たり前かのように説明をする。何?この世界月イチぐらいに毎回アナウンス流れてるの?どこの管理?

 「!!お二人とも、気をつけてください。周辺に魔物です。めちゃめちゃ多いです。」

 「なんで!?さっきまでこんな気配一切なかったのに!?」

 周囲を見渡すと、槍を持った二足歩行の豚に、目が緑の大きな蜂みたいな虫、その他様々な魔物がキャンプ地点に集まってきた。

 「どうするもこうするも戦うしかなさそうですね。やらないと死にますよねこれ。(【観察眼】)うわぁ…オークにビーファイター、ゴブリンもこんなに、うわぁ…」

 野原くんも観察眼で魔物の情報を確認しながらすごくめんどくさそうに掌を前に出した。

 「ちょっとイメージの都合でスキル名声に出します。試したいので二人とも反対側をお願いします。」

 ミューラちゃんはこくこくと頷いている。

 「わかった!野原くん気をつけてね!」

 私もそう言って少し下がる。囲まれているので言われた通り反対側の対応をする。

 確か多数の魔物を同時に相手にするには範囲魔法だったよね。

 「やるしかないか〜(【トルネード】)」

 私も風の範囲魔法を発動する。魔法陣から竜巻状の風が敵を薙ぎ払う。

 「【創生・魔法の(マジックサークル)】」

 野原くんは詠唱して、光る輪っかを作り、囲んだ魔物を纏めて締め付けて纏めて消し飛ばした。

 「つっよ〜…。」

 ミューラちゃんが脚を小刻みに震わせながら目を白黒させていた。

 『今回の加護メンテナンスが終了致しました。順次反映に移ります。』

 加護メンテナンス終了のアナウンスが鳴り終わると。まだ生き残っていた魔物は残らず消滅し、魔石だけが残った。

 「・・・あ〜。」

 「原因、加護臭いですね。」

 「魔物が近寄らない加護なんて聞いたことないです…。」

 すると私の脳内にピコンと謎の通知音が鳴った。

 「え?なに?」

 「どうしたんですか?」

 「いや、今明らかにスマホの通知音みたいなのが頭の中に鳴ったんだけど、野原くんは?」

 「いや、鳴ってないです。」

 野原くんには来てないっぽい。

 なんだろう?そう思いながら目を閉じてメール来てるかな?と念じてみた。

 すると②とアイコンが付いたメールアイコンが表示された。

 (いやそういうのあるんかい!)

 メールアイコンを確認すると、一件目はこの世界に来たときに送られたっぽい内容で、要約すると「すまんよろしく」だった。

 (連絡してきたの神様じゃん!)

 そう思いながら二件目を確認すると、冒険のヒントと言う件名のメールだった。

 冒険のヒントその1

 加護は念じればオンオフ切り替えできるぞ☆

 (ご都合主義な神様ヒントですね!どうもありがとうございます!!)

 私はおい神様今見てんだろと思いながらタイミングがちょうど良すぎるヒントにムカッとしながらも感謝した。

 空の上で神様が寒気になじられたような反応をしている幻覚が見えたような気がした。

 「野原くん、頭の中で念じてメールが来てるか確認できる?」

 「え?あ、今やってみます。・・・なんかありますね。あー。はい。」

 野原くんも認識したみたいだ。

 「なんて内容来てた?」

 「一件だけ、すまんよろしくの内容が…。」

 あー…(察し)

 ということは冒険のヒントは来てないのか。

 「私の方はもう一件メール来てて、そこには『加護は念じればオンオフ切り替えられる。』って来てた。」

 そういうと、ミューラちゃんがポカンと口を開けた。

 「え?加護のオンオフって可能だけど意味がないからオフにする人がいないやつですよ?」

 知ってたんだね、ミューラちゃん、知ってたんだねっ!!ヒントって一体っ!!

 「あー、初耳でした。レオナさん、試しにやってみてもらってもいいですか?」

 「わかったよ。」

 私は頭の中でステータスを確認しながら、加護を確認する。

 絶神の加護(中)がなんかそれっぽい内容なので、オフにしてみる。

 「とりあえず絶神の加護をオフにしたよ。」

 「了解です。って言ってる間に来ましたね、(【観察眼】)あの群がってるデカくて赤いのはオーガで、後ろにいるより一層ゴツいボスみたいなのがオーガロードですね。」

 「オ、オオオオーガロード!?」

 ミューラちゃんが身をふるふるさせながらすごく怖がってる。声も上ずってるから相当だね。

 「ミューラちゃん、オーガロードって?」

 「・・・オーガロードはオーガのボスで、普段移動するようなことがない魔物です!なのにどうして移動してるのか・・・うちにもさっぱりで。」

 ミューラちゃんの反応込みで明らかにヤバそうな相手なんだけど・・・。

 「野原くん、ミューラちゃんをよろしく。」

 「レオナさんはどうするんですか?」

 「ちょっとあのオーガの群れ、倒してくる。」

 私は震えそうな身体を笑顔で奮い立たせる。彼から学んだ教訓だ。

 「・・・あ〜。了解です。」

 野原くんは一瞬驚きながらも、納得したような表情を見せてミューラちゃんに肩を貸して下がった。

 「限界な時ほど笑え。・・・まさかこの言葉を異世界で思い出すとは思わなかったよ。アスマくん、こんな時でも私のことをこの言葉で守ってね。」

 私は目の前のオーガの群れを見ながら、先生のメモの内容を思い出していた。

 (ちょっと応用だけど、やってみよう。)

 魔法は、イメージが明確であればあるほど強くなる。詠唱や魔法名はイメージを確実にする手段みたいなものである。

 つまり、関連する属性魔法を利用した物のイメージさえできれば、応用が効くということだ。

 ただ、先生曰くこの応用は基礎ができても辿り着ける人が極めて少ないらしい。なので一か八かだ。

 私は土魔法を利用してイメージを膨らませる。

 メモによると土魔法の概念は、この世の土や石などの硬いものを利用して攻撃する魔法らしい。そのメモを加味して、野原くんと考えた結果、元素の分子レベルで把握すればもしかしたらイメージ応用に使えるかも。という考えに至ったのだ。

 「つまり、大気中の炭素だけを集めて純粋な鉱物へとイメージする。形はとりあえず・・・」

 足元の石ころを見て、イメージが固まった。

 「【ダイヤモンド・グラヴェル!】」

 炭素を使い、土魔法で生成した無数のダイヤモンドの礫を激しい雨のようにオーガの群れへ降らせる。オーガたちは元々の皮膚が頑丈なのか、すぐには倒れないものの、こちらの礫は数が違う。時間が経つに連れ、オーガが一匹、また一匹と倒れていく。そして、最後に残ったオーガロードも既に傷だらけである。

 相当量の礫を作り動かしたことで、MP(魔力)の消費が著しく、力が入らず膝をついてしまう。

 しかしオーガロードもほぼ瀕死状態である。

 「二人とも、手伝ってくれない?私、ちょっと休む、ね。」

 私は動けないのでオーガロードの処理を二人に任せた。

 そして私は気を失うように眠った。


◆◇◆◇◆◇


ーーーーー


 ゆっくりと意識がはっきりしてくる。

 確かオーガの群れを一掃して、オーガロードだけ倒しそこねて、二人にお願いしちゃったのか、初めてとは言え、迷惑かけちゃったなぁ・・・

 「って!ここは!?」

 起きると簡易のテントと焚き火があり、野原くんが見張りの警戒をしていた。

 「あ、おはようございます。なるべく早く加護の方をオンにしていただけると助かります。」

 野原くんは何を責めるでもなく、一つお願いだけしてきた。確かに加護をオフにしたまま寝ちゃったんだもんね、やらかしてるね私。

 「ごめんね、オフのまま寝ちゃったよね、今オンにしたから大丈夫だよ。」

 そう言うと野原くんは火を確認しながら安心した様子で腰を下ろした。

 「いえ、大丈夫です。こちらも確認したいことは確認できたので。」

 「確認したいこと?」

 「あぁ、レオナさんが倒したオーガ達や、その後にちょいちょい来て倒した魔物たちの剥ぎ取りや加護の再起動による死体の消滅の有無とかです。」

 「ほんとしっかり調べてくれてるよね、毎度ありがとね、私がグダってばかりで。」

 正直しっかりしないとって思ってはいるものの、どこかしらでドジを踏んで足を引っ張ってる自覚はある。すごく申し訳ない。

 「いえ、別にこのぐらいのことは気にすることではありません。」

 「・・・そっか。ありがとね。」

 焚き火がパチパチと音を立て、静寂な空気を際立たせる。

 「まだ夜明けには時間があるので、テントで寝ることもできますよ。」

 彼の気遣いはとても有難い。けど

 「うーん、寝起きみたいになっちゃったし、寝れそうにないんだよね。」

 目は覚めちゃってるしなぁ…。

 「・・・そうですか。」

 「私、見張り代わろっか?」

 「レオナさんの加護が付いてるならぶっちゃけ見張り要らないと思いますし、僕は普段からこの時間は起きてるので問題ないですね。」

 「・・・そっか」

 普段からこの時間って、日中も起きてるのになぁ・・・。

 「ショートスリーパーなんで。」

 見透かしたように言われた。

 「ふーん、そしたらめんどくさいかもしれないけど、ちょっと私の思い出話に付き合ってくれない?」

 野原くんは依然表情も向きも変えない。

 「まぁ、今は特になにもやってないですし、聞くだけで良いなら。」

 火の世話と今日剥ぎ取ったであろう魔物の肉を丁寧に処理しながら、耳を傾けてくれた。

 「ありがとう、私が大好きなとある男の子の話なんだけどねーー」

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