第一章【旅の行方】決闘へ向けて
帰って直ぐに寝てしまった黒街彰。
(もう昼過ぎてるな······14時間も寝てしまった)
昨日は、何も食べなかった事に気付き、食事をする事にする。冷凍食品をレンジで温めながら、協会から借りたアイテムや教えて貰った事について考えていた。
昨日初めて知った事は、武器、防具、アクセサリーの種類別に、種類が違えば、同じ能力向上効果でも重複する事。重複しないのは、同じ指輪を2個付けても一個分の効果しか能力が上がらないらしい。それと、防具やアクセサリーのサイズは、宝箱を開けた人のサイズになる事だ。
(借りた指輪、4つで2億4000万って言ってたっけ······無くしたら弁償だよな)
借りた指輪は、攻撃力が上がる『炎の指輪』防御力が上がる『地の指輪』素早さが上がる『風の指輪』命力が上がる『光の指輪』の4つだ。
各種ステータスが50前後上がる、ランクCの性能であった。
(指輪はサイズが合って良かったけど、防具は良いサイズがなかったんだよな······なんか洋服を選んでるのと一緒だったな)
防具の代わりに選んだ物があった。円盾だ、前回の戦闘で役に立ったので選択をしたのだ。今回の円盾はランクB、前回より随分良い物を使う事が出来る。
(うん、冷凍食品も旨いな、さて、今日はどうやって過ごそうかな?)
明日は、朝から二ノ扉の前で時坂純也と待ち合わせをしていた。時坂純也からは、試練の一ヶ月になるから今日は好きな事をして過ごすように言われているのだった。
考えたが、やりたい事も見つからなかった。探索に行くわけにもいかないので、テレビやネットを見てダラダラ過ごす事にする。
(ネットは、まだ北が攻めて来た内容で持ちきりだな······5対5の決闘になった事は出回ってないんだな。日本政府が、正式に北の王へ回答してからかな?)
(恋愛ドラマか、う〜ん視る気にならないな、そう言えば円盾って腰に付けてても能力向上効果ってつくのかな?)
(あっ、外が暗くなってる、もう夜か、飯食って早めに寝ないと、寝れるかな?)
こうしてダラダラした一日は、大半が探索に関わる事を考えながら過ぎて行った。
✩✫✩✫✩
翌日、朝早く起きて準備をした黒街彰は、予定の時間より少し早く二ノ扉の前にやって来ていた。
(ちょっと早かったかな? まぁ待たせてしまうよりいいよな)
「彰君おはよう、待たせたか?」
時間ピッタリに時坂純也がやって来る。
「大丈夫です。おはようございます、今日は、宜しくお願いします」
揃った所で二ノ扉の中へ入り、少し雑談しながら歩いて行く。
「仇討ちが達成出来た後に、この騒ぎだったのか。そりゃ疲れたよな」
現在の戦闘経験を聞かれた際、仇討ち達成の話をする。すると······
「わっ」
すぐ後ろから、突然の大声で驚かされる。振り向くと其処には時坂翔太とダ・ビャヌの姿があった。
「うおっ、びっくりした······いつの間に居たんだよ? 久しぶりだなっ翔太」
「扉に入る前からずっと後ろに居たんだぜ、へへっ気付かなかっただろ」
時坂翔太とダ・ビャヌは、扉に出入りする時は必ず『インビジブルマント』という、姿を消す事が出来るアイテムを使っていた。
「全然気付かなかったよ、話しながらでも周りを警戒してたつもりだったんだけどな······」
「この『インビジブルマント』は、Sランクのアイテムだからな、気配も消せるから気付かなくて当たり前だよ」
時坂純也が、さらりと最高ランクのアイテムを紹介するのだった。
サプライズを成功させて上機嫌な時坂純也が、この後の予定を説明する。
北へ進み、一度ダ・ビャヌが住んでいた場所へ行く、その先にある沼地にてモンスターと戦闘するとの事だ。
戦闘するのは、リザードソルジャーと言われる武器を使う人形のモンスターらしい。
「彰君と闘う予定の陸斗ってやつは、大斧を持っていたからな、斧使いとの戦闘経験は積んどいて損はないだろう」
目的地までは、2日程は掛かるようで焦らず向かって行く。
「あっそうだ、ビャヌさん、魔物除けの魔導具凄く助かりました。これが無かったらまだ二ノ扉に入る事なんか出来てなかったと思います」
「気にする事ない、翔太の友、私の子、同じ」
そう言うと、ダ・ビャヌは黒街彰の頭を撫でる。
(恥ずかしいけど······何か嬉しいな)
「兄ちゃん顔が赤いぞっ、母様は俺の母様だからな」
「何言ってんだよ、当たり前だろっ」
和やかに目的地へ向う、目的地に着くまでに出たモンスターは、時坂純也が一瞬で倒して行く。
(時坂さんにとって、ここのモンスターじゃ相手にもならないんだな。こんな人に訓練してもらえるなんて本当に有り難いや)
ダ・ビャヌの住処は、一見普通の大木に見える。木の、中腹辺りに隠し扉が有り其処から中へ入って行く。
今日は、ダ・ビャヌと翔太は此処に残るらしく、黒街彰が特訓してる間に生活の準備をするそうだ。
「じゃ行ってくるよ、彰君、目的の湿地帯までは直ぐに着くから、今日は100体倒したら帰るとしようじゃないか」
「は、はい」
湿地帯に着くと、時坂純也から一言。
「実力を見せてみろ」
湿地帯に居たのは、槍を持ったリザードソルジャーだ。しかも3体で行動している。
(リザードソルジャー、危険度Cは有るよな······3体相手して大丈夫か?)
受け身で囲まれたら不味いと判断した黒街彰は、自分から近いて行く事にした。
一体のリザードソルジャーが、近づく黒街彰を槍で突き刺して来る。
小さな動きで躱すと、リザードソルジャーの腕を斬り落とす。その隙を狙われたが、別のリザードソルジャーの突きも上手く躱し、今度は首を刎ねる事に成功した。
(指輪の効果か、ブラックコングの時より動けるぞ)
次は、リザードソルジャーが放つ横薙ぎの攻撃を円盾で受ける。
(力負けもないっ、これなら)
黒街彰は、槍を妖剣で受け正面からの斬り合いを行う。槍を上手く下段に弾き、返す刀で首を刎ねる、先程の腕を落としたリザードソルジャーにもとどめを刺して戦闘は終わった。
「良い動きじゃないか、自分の能力を試していたが、どうだった?」
「そうですね、ブラックコングと闘った時よりも、自分の思った通りの動きが出来るって感じでした」
「指輪で能力全般を底上げしても、能力を使いこなせてるのは、戦闘に対しての思考が能力に負けていないって事だ。此れ迄、沢山の戦闘を経験した証拠だな」
時坂純也は、現状でアドバイスする事がないのには驚かされる。前に見た時にセンスが良いと思ったが、一年も立たない内に前よりも大分磨きがかかっていた。
「戦闘は合格だ、受けからのカウンターを得意にしているようだが、先手必勝って言う位、先に攻撃を当てれば有利になるんだぞ。この一ヶ月でやる事は、先手の種類を増やす事と相手との能力の差を少しでも埋める事だな」
時坂純也から見ても、陸斗と呼ばれた男の能力はかなり高い。中央と違い、北では小さい頃から異界へ行く事が出来る為、歳が近くても宝玉の取り込んだ数に差が出ると言う。
現在の黒街彰より、10倍はあると予想していた。
此処の沼地は広く、そして少し歩けばリザードソルジャーに出会うのだ。多く戦闘をすれば、それだけアイテムを手に入れる可能性が上がる。時坂純也が此処を選んだ理由がこれであった。
「良しっ100体目。今日のノルマ達成です」
黒街彰が振り返ると、ダ・ビャヌと時坂翔太の姿があり、ダ・ビャヌが時坂純也に大斧を渡している所であった。
「今日の仕上げと行くか、俺を決闘相手だと思って掛かって来い」
大斧を上段に構えて待つ時坂純也。黒街彰は、どうやって攻めようか考える。
(どうしよう?円盾で受け流して、その隙をつくか······)
徐々に間合いを詰めて行く。時坂純也の間合いに入った瞬間、大斧が振り下ろされた。
(ん、不味いっ)
円盾で受ける予定をかえて、何とか躱す。振り下ろされた瞬間、身体に鳥肌が立つような危険な感覚が襲ったからだ。
「いいねぇ、そうやって肌で感じていけよ、今位の威力を相手は出して来るぞ」
此の後は、幾ら斬りつけても大斧で弾かれる。それに大斧にばかり注意をしていると、蹴りが飛んで来た。
「良し、今日は此処までだ。毎日最後にやるからな、自分で大斧相手の立ち回りを考えてみろ」
「はい、有難う御座いました」
(本当に有難い······時坂さんが居なければ、決闘で始めて、今のような戦闘を強いられたって事だもんな、攻略法を見つけるぞ)
皆で住処へ戻ると、そこには美味しそうな料理が準備されていた。
「今日は、ビャヌ特製ビーフシチューか、彰君ビャヌはこう見えて料理が上手いから遠慮なく食べてくれ」
実は、ビャヌの趣味は料理作りだ。初めて地球へ来てから、様々な料理を食べては、自分で作る事をしている。
「はい、すっごく美味しそうな匂いです。頂きます」
一口食べる、煮込まれた肉が口の中でとろける程柔らかい。
「······こんな美味しいの、食べた事ないですよっ。ビャヌさん凄いです」
「やっぱり母様は最強だよな、強くて料理も上手いからなっ。オヤジは強いだけだからよ」
「此れから、毎日、作る、色々、一日、楽しむ」
ビャヌは、毎日の戦闘で疲れた後の料理を、楽しみにしてくれと黒街彰へ伝えたのだった。
✩✫✩✫✩
もう時期、一月が立とうとしている。
沼地に来て一日1000体のリザードソルジャーを狩った、今の合計は19000体。一日の最後には時坂純也と一対一の模擬戦を欠かさず行う。
「もう時間がないな、手に入れた宝玉は二つか······悪くはないが、足りてもない。防具が一つも出てないのは運がないとしか言えないな」
「でも時坂さんのお陰で、人との戦闘方法が判ってきた気がします」
「此処での訓練も残り3日だ、最後はボーナスステージだな、俺とビャヌ、翔太も含めて全員で倒して行く。それで出た宝箱を彰君が開けて良いぞ」
「えっ、いいんですか? 其処までしてもらうのは、なんだか悪い気が······」
「時間がないってのもあるが、俺達家族にとって初めて信用出来る人物が彰君だったんだ。翔太の友でもある彰君を助ける位、何てことないさ」
今迄、時坂純也としての友ならば何人かいたが、家族で付き合えるような関係は築いてこなかった。
それに、時坂翔太の友として、将来も関係が続いていくような期待も、父としては持っていたのだった。
「折角だからな、誰が一番狩れたか勝負しようじゃないか? 3時間したら此処に集合だ」
皆に通信用の魔導具を渡して、狩りがスタートする。
今回は、時坂純也もダ・ビャヌも本気のようで、スタートの合図で消えるようなスピードで向かって行く。
「は、速っ、あの二人には勝てる訳ないよな······じゃぁ、翔太と勝負だな」
「よっしゃ、兄ちゃんには負けないぜ」
狩りが始まると、数分に一度は黒街彰へ連絡が入る。
結局この勝負で黒街彰は、移動と宝箱を開けるので精一杯になるのであった。
「ビャヌに勝つために、久しぶりに本気出したぜ。俺は2800体だ、ビャヌは何体狩った?」
「私は、3026、私、勝ち」
沼地には、ダ・ビャヌから放たれた槍がそこら中に刺さっていた。遠距離から一撃で仕留められる分、数が稼げたのだ。
「クソっ、負けかよ」
時坂純也はがっかりしていた、息子、翔太からの評価が、またも母であるダ・ビャヌの方が上がってしまうと。
「流石母様だ。俺は243体だったかな、兄ちゃんは?」
「俺は······21体だよ、二人からの連絡が凄いスピードで来るから狩りどころじゃなかったんだって」
3時間に区切って、一日3回程狩りまくる。最初の3時間程では無いが相当な数を狩っていた。
そして最終日になると、何やら変化が起き始めていたのだった。
「最終日だってのにモンスターの数が少ねぇな、3時間で200体位しか狩れなかったぞ」
最初の3時間が終わって皆が集まる。
「あ、あの、魔力の流れが一定の方向に向かっている感じがするんですけど······」
黒街彰は感じていた、今迄感じたのと同じような、強力なモンスターが現れる予兆を。
「彰君は、そんなの判るのか?」
「言ってなかったでしたっけ?俺魔力感知ってスキルが有るんですけど、この感じだと、魔力が集まった先で強力なモンスターが現れると思います」
時坂純也は、面白がりながら黒街彰に案内するように言う。
「此処です······」
そして、魔力が集る中心部へたどり着いた四人が少し待っていると、強大な力を宿した何かが魔力溜りから現れるのだった。