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第一章【旅の行方】北から来る者達

電車に揺られながら、黒街彰は、アカデミーの授業を思い出していた。


歴史の授業、日本を分断した略奪者として教わった男、北の王を名乗る本城尊(ほんじょう たける)


北の地、青森県に現れた扉の調査に派遣された陸上自衛隊。当時、陸曹長であった本城尊は10年間は政府の指示通り行動していたと言う。


実際は、10年間に手に入れた宝玉は全て自分で取り込んでいた事が後から発覚する。

そして、金の宝箱から特殊スキルの宝玉を手にした時から変化が現れ始めたのだ。


10年間、昇格がなかった本城尊は、陸上幕僚長、陸上自衛隊のトップに昇格させるように要求する。


当然、陸曹長から陸上幕僚長への昇進など叶う訳もなく、近い未来に争う事となる。

この時、東京に居た本城尊は、暴れる事なく一度青森県へ戻って行った。


3ヶ月後、本城尊に不穏な感覚を覚えた日本政府は、別の部隊に扉を管理させるべく、青森県へ派遣する事にした。


2日後には、派遣部隊と連絡が取れなくなる、その後も派遣した部隊と連絡が取れない事態が続いたのだ。


本城尊が率いた部隊は、探索当初から本城尊の手下として行動していた。後から派遣された部隊も捕らえられ、本城尊に賛同した者だけが生かされていた。


日本政府の戦力は下がり、本城尊の戦力は増強される。

本城尊は、他の部隊は来ていないと話し、この作戦を継続させたという。


日本政府が、本腰を入れ調査した時にはもう手遅れであった。戦闘を録画することに成功したことにより、本城尊一人でも手に負えない実力が有ると知る。この後は、福島県、新潟県を境に防衛線を敷き本城尊へ警告をするだけに留める。


本城尊は、北の地は自分達の支配地である、自身が北の王だと全国に公表した。


地上の兵器では、倒す事が出来ない本城尊を止める手立てが無い日本政府は、どうすることも出来ず、打倒出来る探索者を育てるしかないのであった。


(はぁ、確かこんな感じだったよな。そして今でも北の王は、本城尊って人なんだよな)

200年の間、支配者として君臨している。一般人には、都市伝説として知られた話しだ。


それも理由がある。本城尊は、探索を第一として扉の中に居る事が殆どで、表舞台に登場する事があまり無かった。

出て来たとしても本人かは、一般人の知る所では無いため別人だと思われていた。


黒街彰は、時坂純也の話を聞いて探索者が永く生きられる事を知った。

永く生きた人間程、永く探索した人間程、宝玉を取り込んだ回数が多くなる。権力者なら尚更であった。


(時坂さんも強いけど、北の王様はきっと化け物なんだろうな······俺なんて一瞬だろう)

この時の黒街彰は、状況次第で後ろに下がる事を考える。こんな所で命を落とす訳にはいかないのだ。


考え事をしているうちに、福島県へ到着する。到着した時刻は夜の11時を超えていた。

携帯の位置情報から目的地までは、徒歩で向う。


夜も明け始め、朝日が昇り始めた頃であった。

黒街彰の耳に戦闘音が聞こえ始めた。


戦闘音が聞こえる方向へ走り始める。戦地へ到着すると、其処には血の匂いが漂っていた。


(何でっ、人同士でこんな事してるだよ······)

その時、戦地に到着した人物がもう一人居る。


「全員静まれっ、おいっ、陸斗。なぁにをやってやがるっ?」

現れた男は、大地を揺らす様な大声で、その場に居た全員の動きを止めてみせた。


「あれ、何で王が来たんで?」

陸斗と呼ばれた男が、大声を出した男を王と呼ぶ。

「何でじゃねぇよ、誰がこんな事始めろって言ったんだ。国をとる戦ってもんはな、時期ってもんがあんだろうが。勝手な事してんじゃねぇぞ。おい」

「ごめんよ······でもっ、日本は王の国じゃん。俺が奪っておけば、王も楽だろっ?」

「そんなに簡単ならな、とっくにやってるだろう、俺が来なければお前は死んでるか、捕われてるかのどっちかだったんだよ」


話を聞く限り、大声の男が北の王。叱られているのがこの惨事を起こした首謀者のようだ。

今回の件に、北の王は関わっておらず、配下の者が勝手に侵略を開始したようであった。


「中央の代表者は居るか? 俺は北の王、本城だ」

「私が、此方の部隊を仕切っています。防衛隊、隊長の木野治明(きの はるあき)です」

自衛隊に属する、防衛隊の隊長がこの場で名乗りを上げる。


「騒がせたな、俺はこの場で争う気はないんだが、中央はどうゆう意見だ?」

「あの······中央の意見、日本政府と一度連絡を取らせて頂いても宜しいですか?」

防衛隊の隊長が判断出来る事態ではない。相手は、北の王。本格的に戦争にでもなれば日本が滅びてしまうかもしれないのだ。


「俺は待つのが嫌いでね、じゃぁ全員連れて帰ってるからよ、決まったら連絡くれ」

「······判りました。後日、連絡させて頂きますので」

防衛隊の隊長は、この様に言うしかなかった。


北の王が後ろを向いた瞬間、背中に言葉が突き刺さる。

「一言ぐらい······謝ってから行くべき、でしょう? 命を、命を何だと思ってるんだっ」

黒街彰は、気が付けば叫んでいた。

命への価値観は、皆それぞれ違うだろう。毎日の様に、愛する者の命と向き合っている黒街彰にとっては、誰の命でも重く、この事態を見逃す事などできなかったのだ。


「この俺に、謝れと言うか······若造が、このまま全面戦争でもいいんだぞ」

「戦争したいなんか言ってない、此処で命を落した人達にだって、大事な人が居る筈だ······犯した誤ちを謝罪する事は、人として当たり前の事じゃないかっ」


「育ちの良さか、昔を思い出すな······いいだろう、お前に直接制裁を与えられるチャンスをやろう」

北の王は、少し考えると防衛隊の隊長、木野治明に提案を持ち掛ける。

「おいっ、日本政府へ伝えろ。一ヶ月後、北と中央で5対5の決闘を行う。此方の大将は、板垣陸斗(いたがき りくと)。この騒ぎを起こした主犯格だ。そちらの大将は、其処の若造に務めさせろ」

「返事は48時間、受けなければ全面戦争を開始する。勝負に賭けるのは······そうだな、県。此方は宮城県を、そちらは福島県を賭けてもらおう。領地を奪い合うのに随分平和な闘いになりそうだなっ」


「そんな、勝手な······」

木野治明は、言い返す言葉が見つからない。折角相手が、撤退を選択したのに、探索者の一言で急展開だ、これ以上悪化させたくはなかった。


「若造、お前は受けるよな?」

「······分かりました。でも、一つ条件です。俺が勝ったら、一つ質問に答えてくれませんか?」

黒街彰は、制裁などに興味はない。貰ったチャンスを、本城尊へ質問出来るチャンスに変える。

「テメェ、調子に乗んじゃねぇぞっ。俺に勝てると思うなよ、こらっ」

「おいっ、陸斗。お前は黙ってろ。若造、お前の名を聞いてなかったな」

「黒街彰、です」

「黒街彰、その条件、のんでやる。一ヶ月後を楽しみしてるぞ。だがな、今のままじゃ陸斗には手も足も出ねぇぞ、強くなって楽しませろよ」


北の王こと本城尊は、黒街彰に一言残すと、この場から立ち去って行く。

残された中央の人間、静寂を破ったのは木野治明であった。


「はぁ、ちょっとキミ······やってくれたなぁ」

黒街彰の発言で、北と中央の決闘になってしまった事に文句があるようだ。


「すみません、どうしても納得出来なくて······」

「謝る事はない、彰君が正しい。このまま済ます事は敗北と等しいからな」

後ろから、聞き覚えのある声が聞こえる。立って居たのは、時坂純也であった。黒街彰と本城尊の会話が始まった時、その時には万が一に備えて後ろに控えてくれていたのだ。


「あっ、時坂さんっ、御免なさい全然気付かなかったです」

「久しぶりだな、随分と強くなってるじゃないか」


「と、とりあえず、黒街彰君だったか······此れから政府へ報告を上げる。君も条件に含まれた以上直ぐに連絡を取れるようにしてくれ」


木野治明が日本政府に報告をすると、日本政府からは、探索者協会に招集を掛ける旨が伝えられた。

勿論、黒街彰も招集される。時坂純也も同様に招集されるのであった。


✩✫✩✫✩


探索者協会、最上階の会議室。

今ここに居る人物は、日本を動かす様な重役達であった。

日本の首相である、岡本博一(おかもと ひろかず)。防衛大臣の烏間高雄(からすま たかお)。探索者協会の会長、二見慎太郎(ふたみ しんたろう)


それと中央の高ランク探索者、時坂純也、佐久間仁(さくま じん)春日谷龍(かすがや りゅう)水元茜(みずもと あかね)。この四人はSランク探索者だ。


それと、木野治明、黒街彰。

(うわぁ、何で俺は······こんな所にいるんだろう? 頭がクラクラしてきたぞ)


先ず口を開いたのは、防衛大臣の烏丸高雄だ。

「皆様、お忙しい中お集まり頂き誠に有難うございます。それでは、時間もありませんので本題に入らせて頂きます」


会合のお題、北の王からの決闘の申し出は、全員一致で受ける事に決まった。

探索者達は、戦争回避というよりも、自分達の実力に自信を持っている為。面白いイベントを受けるような雰囲気であった。


次に決める内容は、出場者だ。勿論ここに集められた探索者に声が掛かる。

此処での問題は、報酬であった。


「妾を使うなら、本城が賭けた宮城県でも貰うとしようかの。それが嫌なら特殊スキルの宝玉で手を打っても良いぞ?」

水元茜、水元家の現当主であり、Sクラス探索者だ。

(20代に見えるけど、妾って······この人も見た目と年齢が違うんだろうな)


「俺は、なんかあった時に口を聞いてもらえりゃいいぜ。まぁ貸し一つってことだ」

時坂純也は貸し一つで出場が決まる。

(時坂さんは、家族が問題になったらって処かな)


「俺は、Sランクの武器か防具で手を打つぜ、水元家の当主様よりは安いだろ?」

佐久間仁、雑誌で良く特集される中央で一番有名と言っても良い探索者だ。炎を操る特殊スキルを持っている事でも有名で一般の評価では、最強と言われている。

(炎使いの佐久間仁だっ、生で見てもイケメンなんだな)


「10億、それと条件、3番手で先の二人が勝ったら、不戦敗で良い、それなら出ても良い」

春日谷龍、情報はあまり無く、手の内を明かさないタイプの探索者であった。

(この人は知らないけど、強いのは確かだよな)


話し合いの結果、水元茜を除く三人の出場が決まる。残りの一枠は後日決めるようだ。


「黒街彰君、成り行きは聞いている。民を代表して礼を言わせてくれ、有難う」

日本の首相、岡本博一から礼の言葉を貰う。

「大将として出場するには荷が重いと思うが、命を大事にする事を第一にね、全力でサポートさせて貰うので宜しく頼むよ」


「は、はいっ、宜しくお願いします」

この会合が終わったら、探索者協会の会長、二見慎太郎の元へ行くように言われる。協会のサポートを受けられるようだ。


こうして日本政府、高ランク探索者が集った会合は終了した。


(はぁ、厳しい事を言われるかと思ってたけど、皆さん俺の事は気にもしてなかったな······流石に今日は疲れたよ)

仇討ちが無事終わったかと思えば、夜通し移動して、日本のトップが集う会合に参加だ。肉体的にも精神的にも限界が近い。


「彰君、もう少し頑張ればゆっくり寝れるからな。俺も付き合うから会長の所へ行くぞ」

「はい、有難うございます」


探索者協会内にある、会長室へとやって来た黒街彰と時坂純也。

着いた頃には、会長が手配したのか色々な物が準備されていた。


「よく来た、余り良い物は準備出来なかったが役に立ちそうな物が合ったら選んでくれ」

準備された武器、防具は、ランクB。能力向上の効果が付いたアクセサリーはランクCであった。


「AもSも無いんだな、出来れば宝玉を貰いたいとこなんだが?」

時坂純也は出された物に不満気だ、ランクを見れば協会が黒街彰に対するサポートが本気かどうか判る。


「無茶を言わないでくれよ時坂さん、此処にある物でも全部で数億の価値だぞ。それにサポートはするが貸出しだからね、宝玉だと回収が出来ないじゃないですか」

やはり黒街彰へのサポートに、期待値は含まれていない。協会に属する人達への宣伝が目的のようだ。


「そうか······彰君、気になった物が合ったら選ぶといい、質問が有れば答えるから気軽にな」


黒街彰にとっては、宝の山であった。小一時間程悩んでも自分では決めきれない。結局、時坂純也のアドバイスで、何個か決める事が出来たのだった。


「二見会長、時坂さん、有難う御座いました。俺も全力で頑張りますので、宜しくお願いします」


長い一日がようやく終わる。

だが黒街彰には、一ヶ月後の決闘に向けて休まらない日々が待っているのであった。

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