第四章【託された希望】希望に手を
城外での戦闘は激しさを増していく、人間側が優勢に闘いを進めていたのは、本城尊と郷倉未知瑠のペアだ。
「2人で闘うのは、本当に久しぶりですね。やっぱり尊様との連携はやりやすいです」
「やりやすいのは俺の方だ、俺の隙を埋めてくれるから、未知瑠との共闘は楽過ぎる。それよりもよ、この1年で実力を大分上げただろ?」
1年間は主に、黒街彰や時坂翔太に稽古をつけていたが、ダ・ビャヌやクレイス・ファーナといった、北の人間とは違った実力者を相手に自身の稽古も怠らなかったのだ。
その結果が、魔の者との闘いで優勢を維持出来ている要因であった。
「お喋りして、随分と余裕ですのね。本番はこれからですわよ」
アルビアが自身の魔力を高めているのが、見た目でも判る。魔力が、黒いオーラとなってアルビアの纏わりつく。
距離を詰めるアルビアは、一段回能力が上がっていた。
移動速度も速くなり、攻撃の威力も高くなっている、本城尊の鉱物を使った防御を、先程までとは比べなれない程簡単に破壊してくる。
だが、鉱物を破壊しても、肉体までは届いていなかった。次から次へと鉱物を生成する本城尊に意識を割いていると、郷倉未知瑠が襲ってくるのだ。
「もう足元が凍ってますよ、アルビアさんは全体を見るのが苦手のようですね」
動きを阻害された状態で、郷倉未知瑠の双剣が連続して斬りつける。
それを全て、アルビアは自身の爪で弾き返す。
そこへ、本城尊の鉱物を纏った拳が襲う。この連携にアルビアは苦戦していたのだ。
「やっぱりズルいですわ······2対1」
「そう言われても、手加減は出来ませんよ。私達の関係は、侵略者とそれを防ぐ者。世界の命運が掛かっているんですから」
一方では、桜井小夜の回復魔法を頼りに、何とか互角の闘いを繰り広げている銅谷京之介。
「やっぱり世界は広いんだね。貴方は自分の世界で、どれぐらいの強さなのかな?」
「何だ急に、貴様の問に答える必要などないだろう」
一つ言葉を挟み、闘いが再開される。
速さは互角であったが、力はジュールの方が圧倒的に強く、銅谷京之介が斬りつけ、それを防ぐ余波だけでも小さな傷が出来る。
(ふぅ、深く踏み込めないな。どうしたものかね······)
ジュールが攻勢に入ると、銅谷京之介は一定の距離を離し電撃で牽制する。
決着がつかない、繰り返す同じ様な闘いにジュールも痺れを切らしていた。
「いい加減、ちょこまかと逃げるな。ちっ、仕方がない」
ジュールは、アルビア同様黒いオーラを身体から発していく。
この行動は、能力を格段に上げる変わりに、自身の魔力を大量に消耗する。故に、この後も戦闘を継続しなければいけないジュールは、使うのを躊躇っていたのであった。
銅谷京之介に危機が迫る頃、城を覆う結界が限界を迎えようとしていた。
闘いに参加していない、結界の外に居る人間には、それが良く判る。
「もう直き結界が破壊されるのう。妾の役目は、悪魔を外の世界へ放たぬ事か」
クレイス・ファーナは、自分の出番がようやく来ると、最初から力を解放するつもりであった。
だが、力を解放した所で全方位をカバーするのは不可能だという事は察している。
「あの、3箇所へ別れて、悪魔を殲滅しませんか?」
そこへ提案するのは舘浦喜助であった、クレイス・ファーナと残りの人間で別れ、もう1箇所はフォンス・カーリルに任せたい。そう提案する。
「此奴を信じるのか······おいっ、貴様を信じても良いと言うのか?」
「信じるかどうか何て、あんたの勝手だろ。だがな、俺が此処に来た目的は、悪魔へ仕返しする為にだって事は言っておくぜ」
まだ作戦も決まりきらない内に、結界が壊れ始めてしまった。ガラスが割れる様な音と共に、罅の入った箇所から崩れ全体へと広がっていく。
「仕方ない、フィオルお前達は無理をするでないぞ。カーリルよ、この場の活躍次第で過去を不問にしてやる······行けっ」
(ちっ、偉そうによ。俺も、悪魔と最初に出会ってなければ、人間と共闘していたのかな)
早速クレイス・ファーナは魔物化し、巨大な妖狐へ変身する。そして、魔の者へ最大限高めた炎を幾つも放つ。
裏手へと向いつつ、出会った魔の者と慎重に戦闘を行っていたのは、ダ・ビャヌ、時坂翔太、舘浦喜助、三日月愛、ディガルド・フィオルの5人だ。
そして、フォンス・カーリルも、自分の持てる力を最大限発揮して魔の者を仕留めていた。
結界が破壊され、一番の恩恵を受けたのは銅谷京之介であった。
魔の者は結界が破壊されても、何処かへ行く素振りは見せず、近くの敵へと攻撃していた。そして、桜井小夜や創真晴人、佐久間仁が闘っていた相手もクレイス・ファーナがまとめて攻撃したのだ、そのお陰で3人が銅谷京之介のフォローへ向う事が出来た。
(はぁはぁ、急所は外してるけど、このままじゃ不味いかな······)
銅谷京之介が弱気になった所へ、暖かい光が注がれ、欠損した傷までもが癒やされていく。
ジュールへは、触れた者を消し炭にする程に高まった炎が襲い掛かっていた。
「京ちゃん、ヤバかったんじゃない? あいつそんなに強いんだね」
「うん、1年間拘束されてたのが悔やまれるよ。でもね、僕達4人が揃ったら倒せる相手だ」
前衛を銅谷京之介が、後衛に創真晴人と佐久間仁が、そして傷を負った仲間には桜井小夜が、この後は、最高峰の連携をジュールは相手にしなければならない。
――城内で階段を駆け上がる4人、その間にも水元茜とベリアス・カルリアの闘いは再開されていた。
ベリアス・カルリアは、まさか自分が居ながら階段への通路を通してしまうなど考えもしていなかった為に焦っていた。目の前の敵を排除しようと、本気を出す。
「うっとおしい、退けっ」
「攻撃が荒くなったのう、妾を簡単に倒せるなど思うでないぞっ」
更井賢人の命を引き換えに奪った魔力、それが思った以上に効果を上げていたのだ。
魔の者が使う切り札を封じ、焦りから動きも精彩を欠く。
互角の闘いが出来る様になった水元茜は、密かに安堵していた。この分であれば、この強敵は黒街彰の元へ行かせないで済むと。
階段を登りきり、大きな扉が姿を現した。
「此処が王の間です、やっと着きました······」
ファリアンス・レミアノが王の間を見つめ、黒街彰を連れて戻って来れた事に、少しだけ安堵する。
だが、扉の先に魔の者が居ないなど、甘い考えは捨てなければならない。
「皆、下がって。彰くんもね、私が扉を開けるよ」
この中で、一番の実力を誇るのは海野結菜であった。黒街彰をザリヲン王へと会わせる、その最後の盾となる為に一歩前へと出る。
「ちょっと待って。結菜、犠牲になる様な事は駄目だから。絶対に一緒に帰る、誓ってくれるよな」
「大丈夫、私の中には朱菜も居るんだよ。朱菜も[当たり前じゃい、世界を救ってヒーローになるんだから]って言ってるんだから、心配しないでね」
ビグラウト・テラネウスがファリアンス・レミアノを背中へ隠し、黒街彰は妖剣を構える。そして、海野結菜が扉へと手を掛けた。
軋む様な音を立て、大きな扉が開かれていく。すると、中の様子が見えてきたのだった。
「ザリヲン様っ」
ザリヲン王は、玉座の前に立つ姿で固まっていた。腹部にはブラックホールの様な異世界へと繋がる扉が出来ており、意識はない。
その隣には、魔の者が1体。不吉な雰囲気を醸し出しながら佇んでいた。
「人間か、他の者は何をしているのだか。此処へ通す事がどれ程の失態だか、理解していないのでしょうかね」
黒く淀んだ気配を纏い、1人喋る魔の者。
外に居たアルビアやジュール、目の前に居る者は、それよりも凶悪な力を感じる。
目標まであと一歩の所で、足止めされる。そんな感情を皆が抱いていた。特に海野結菜は、自分の命を賭けてでも、目の前に居る魔の者は止めてみせると心に誓うのだった。
「退いてください、って言っても無理ですよね。それなら、貴方の相手は私ですから」
海野結菜は自分が相手だと宣言すると、小声で黒街彰へと話し掛ける。
(彰くん、私が闘っている内に、隙を見て王様に触れてみて。多分だけど、王様の魔力を彰くんが奪えばいいんだと思うから)
(解ったよ、でも相手は絶対に強い。自分の命を優先して欲しい)
黒街彰は、その願いが叶わないと判っていて言葉にする。海野結菜も、解っていると嘘をついた。
[結菜っ、最後の闘いってやつだね。絶対にやっつけるよ、魔法は私に任せてね]
(朱菜、頼りにしてるからね。それじゃ始めるよ)
海野結菜が動き出し、魔の者へと接近する。
最初の一手は、刀で斬り掛かる。その結果は、予想外の展開へと繋がっていく。
「レミアノ、良く連れて来てくれた。魔の者よ、私を甘く見た様だな」
魔の者の胸には海野結菜の刀が突き刺さっている、そして魔の者の肩を、ザリヲン王の手が掴んでいるのだった。
「くっ、動けない······どういう事だ」
「元々私はね、《解析術》の使い手として生を受けたんだよ。お前達が私にした事を、思い出すんだな」
ザリヲン王は、魔の者が人間の中に入り込み、記憶や能力を操る事を解析したのだ。
ザリヲン王の中にある魔力を利用して、此方の世界へ来る魔の者は、隙を見つける度にザリヲン王の中へ入り込み、何度も操ろうとしていたのだ。
それが仇となり、重要なこの時、逆に操られる事になっていた。
「自分の世界に帰るがいい······出来れば、二度と此方の世界へ来ない様、貴様の王へ伝えてくれ」
動く事が出来ない魔の者を、ザリヲン王が自身の腹部へと引きずり込む。
魔の者の姿が闇の向こうへ消えて行くと、黒街彰へと手を伸ばすのであった。
「キミが私の跡を継いでくれる者だろう、手を、私の手をとってくれるか?」
「え、あっ、はい······」
ザリヲン王の異様な姿や、理解出来ない状況に恐怖を感じながら、それでも黒街彰は手を伸ばす。
ザリヲン王と黒街彰の手が触れ、強く握られると、腹部に繋がった異世界への扉が徐々に小さくなり消えていく。
「有難う、最悪の事態は防げた様だ······だが、私の時間はもう少ない。伝えられる事は伝えたいのだ、聞いてくれるか」
ザリヲン王の中にあった膨大な魔力は、全て黒街彰の中へと移された。
すると、若々しく力強い肉体であったザリヲン王が、みるみる内に老け込んでいく。
「は、はい」
黒街彰も老け込むザリヲン王を見て、時間がないと言った意味を理解する。
「私は、魔力を自分の中に留める事が出来なかった。それを魔の者に気付かれ、利用されてしまったのだ。すまない、キミにもその心配がつきまとう」
黒街彰や他の者も、ただ世界を救う、そんな感覚で訪れていた。
世界の危機を1人で背負い、永い間防いでいたザリヲン王。その跡を継ぐなど考えもしていなかった。
「永い時をキミは過ごし、魔力を守る事になる。キミの命は、その膨大な魔力が勝手に繋ぎ止めるだろう」
ザリヲン王も、自身の術で不老不死になっていた訳ではなかった。
《解析術》でも肉体を活性化する事位しか判らない、望まなくとも膨大な魔力がザリヲン王を生かしたのだ。
「私には叶わなかった、し、真の解決に至る事が出来なかったのだ。問題をキミに押し付け、この世を去る······ほ、本当に、すまない。テ、テラネウスよ、レミアノに、し、幸せ、を」
「ザ、ザリヲン様っ」
ザリヲン王は、静かにこの世を去った。
それは、世界を救う為に自分の命を捧げ続けた、素晴らしい王の最後であった。
ファリアンス・レミアノの、泣きじゃくる声だけが王の間に響く。
目的を達成した余韻と、失った命の重さに、暫しの間、時が立つのを忘れ佇んでいた。
「水元さん達はまだ闘っているよな。結菜、一緒に向かおう」
冷静差を取り戻した黒街彰が声を掛けると、そこで海野結菜も我に返った。
海野結菜は、ザリヲン王が最後に言っていた内容について考え込んでいたのだ。
「そうだね。でも······彰くん、身体は何ともないの?」
「大丈夫。何ともないってゆうか、調子がいい位だよ」
ファリアンス・レミアノとビグラウト・テラネウスはこの場に残し、黒街彰と海野結菜は王の間を出る事にする。
海野結菜を先頭に階段を下りていると、黒街彰には聞き慣れた声がしているのに気が付いた。
「未知瑠さんっ」
「2人共無事だったのね、王様とは会えたの?」
郷倉未知瑠と本城尊も、少し前に此処に到着し、水元茜から、此処は任せて上へ行くように言われ、丁度上へと向う所であった。
黒街彰から、ザリヲン王に会い目的を達成出来た事を聞くと、本城尊が外の様子を話し出す。
「おお、良くやったな。俺達は、アルビアってのを倒して中へ入って来たんだ。外の雑魚共も、粗方片付いていたから心配はいらねぇぞ」
「そうですか、良かった······」
黒街彰と本城尊が話している間に、水元茜とベリアス・カルリアの闘いにも決着がつく。
外の闘いの方が先に終わっていた為、魔の者との闘いを最後まで行っていたのは水元茜だった。そして、水元茜の勝利で闘いは幕を閉じる。
外へ出て、皆の無事を確かめる。今回の闘いで命を失ってしまったのは更井賢人1人だけであった。
水元茜や戸倉芙美以外の皆が、世界を救う目的を成し遂げた事に歓喜していると、いつの間にか日が暮れ、夜が訪れようとしていた。
「あの、皆さんお疲れ様でした。直に日が暮れます、良かったら町へ戻って食事にしませんか? その間に宿もとっておきますので」
ファリアンス・レミアノが落ち着きを取り戻すと、ビグラウト・テラネウスと共に外へと出て来る。
そして、闘いが終わっている事を知り、地球人への礼にと食事に誘う。
異世界の食事に興味津々の地球人は、ファリアンス・レミアノの誘いを断る理由も見つからない。
町へと戻ると、本城尊や北の面々を中心に大騒ぎで食事を楽しんでいた。
食事を堪能し、お腹が膨れた頃、黒街彰と海野結菜が外へ出て行く姿があった。
「この世界でも、夜になると星が見えるんだな」
「そうだね、彰くんって夜空の星を見る様なロマンチストだった?」
「べ、別にそんな感じじゃなかったかな······それよりさ、俺此処の王様に聞きたい事があったんだけど、聞けなかったよ」
「ん? 何を聞きたかったの」
「結菜の身体を取り戻す方法。ずっとそれを探してたからさ」
「そうなんだ、ありがと。でもね、それはもう大丈夫だよ。私はこの身体になれて良かったって、今日ね凄く思ってるんだから」
「そう? 確かに、ま、前と同じ位かわいいけどさ」
「顔の問題じゃないよっ。私が彰くんを守ったのも、魂だけになったのも、今日の為だと思わない?」
「えっ? どうゆう事」
「もうっ、彰くんが世界を救うって役目を継いだんだよ。それで凄く永い時間を生きるんでしょ、それで、私が『オートマタ』の身体になったから······ずっと側に居られるんだよ。ずっと、側に居てもいいよね?」
「結菜······俺の方こそ、ずっと側に居たい」
黒街彰は顔を赤くして、海野結菜を強く抱きしめる。
「俺は、最初からやり直したい。また一緒に探索して、色々な物を2人で見たい」
「うん、色々な物を見られたら素敵だね。時間はたっぷりあるんだから、全部2人で見ちゃおうよ」
2人は誓い合う、探索者としてまた冒険に出る事を。
次の冒険は絶対に上手くいく。2人の心は希望で溢れていた。
あの絶望した日には、手のひらに収まってしまう小さな希望が、今は両腕の中に収まる事も出来ない程、大きな希望になって帰って来たのだから。




