第四章【託された希望】城内での遭遇
結界の中へと足を踏み入れると、一気に城の入口へと走り出す。
城内を目指したメンバーは、全員が入口まで到着出来たのだが、後ろからは魔の者が追いかけて来ていた。
「此処は儂が受け持とう。茜様を頼んだぞ」
菊本十三が入口で立ち止まると、後ろを向いてスキルを発動する。
「司も此処に残れ、十三だけじゃ抑えきれぬであろう」
魔の者を観察して、仲間に指示を出せる人間は黒街彰だけではない、勿論全員が相手の実力を測ってはいたが、采配に長けているのは、やはり長年に渡り組織を継続させてきた水元茜だ。
下っ端であっても複数を相手にするのは厳しいと、十傑の闘いを見て明らかであった。
「分かりました、此処はお任せください」
菊本十三が早くも交戦を開始し、清水司がサポートに動き出す。
銅谷京之介はジュールを引き付け、本城尊と郷倉未知瑠がアルビアを抑え込む。
他の人間も、城外に居る魔の者を中へと入らせないように注意を引きながら闘っていた。
「賢人と芙美に先頭は任せる、私は後ろを守ろう。レミアノ、案内は頼んだぞ」
城内へ入り慎重に進み始めるが、今の所魔の者は見当たらない。
最上階にある王の間は、建物の四階に当たる位置にある為、到着まで直ぐにとはいかなかった。
「お主と行動を共にするなど思ってもみなかったのう、時坂が健在であれば此処にも居たであろうに······」
水元茜が黒街彰へと話し掛けていた、共に居るのが予想外だと言うが、黒街彰の方が『魂の補完石』を奪った相手と共に、世界を救いに行くとは考えもしていなかった。
「そうですね、時坂さんが居ればもっと心強かったです。でも、城内が手薄で助かりましたね」
二階へと上がっても、魔の者と遭遇する事なく進んでいた。
悠長に話していても良い場所ではない事は分かっている、水元茜もふと思った事を口にしてしまっただけだ。
黒街彰の隣を歩く海野結菜が、時坂とは誰なのかと、小声で聞いた。
黒街彰は、「一番お世話になった、世界一尊敬している人。終わったら結菜に時坂さんの話しを聞いて貰いたいな」と返事を返すのだった。
何事も起こらずに二階を通過する、そして三階へと上がり、廊下を歩いている時であった。
「何か居ますよ。茜様、警戒してください」
戸倉芙美のスキル聴力強化で、何者かが歩いている音を拾う。
残念な事に、音がした先に四階への階段がある。水元茜は、どう判断するのが最適かと思案していた。
「芙美、数は判るか?」
「足音は1人だと思います。空中を移動していたら、他にも居るかもしれません」
(一つ階段を昇れば、もう王の間であろう。賢人と芙美に任せて先に進むのが賢明か)
「賢人、芙美、先に居る者を相手せよ。残りの者は王の間へ向うぞ」
水元茜が行動を決めている間に、足音の正体が姿を現した。
その者は、アルビアやジュールと等しく、危険な香りを放っている。
「ん? 人間か、ったく僕の配下は能無しなのかな」
「僕の配下」と言う単語を黒街彰は聞き逃さない。
目の前に居る、一回り小さい魔の者がやけに恐く感じられた。
「頼んだぞ······」
水元茜の合図で、更井賢人と戸倉芙美が動き出す。2人が攻撃を仕掛けた内に、横を通り過ぎる予定だ。
「何だ、人間も好戦的なんだね」
2人の打撃を受けても、余裕の表情は崩してはいないが、防御に徹している今ならと、黒街彰も走り出す。
だが、悪い予感は当たる物だ······
一瞬何が起きたのか分からなかった。
黒街彰に何かがぶつかり、そのまま壁へと激突する。
痛みと共に意識を戻すと、黒街彰と一緒に壁へと激突した、戸倉芙美の暗い顔が視界に入った。
「この先には行かせない方が良さそうだ、折角繋がった世界を閉じる奴が居るんだったかな」
外に居た魔の者とは、明らかに桁が違う。
更井賢人と戸倉芙美の2人でも、圧倒的な力の差を感じ、止めていられない事に気付かされる。
「お、お前が魔の者のリーダーなのか?」
「魔の者? リーダー? ふ〜ん、僕達を魔の者と呼んでいるんだ。リーダーってのは半分正解かな、此処に来ているのは僕の部隊だからね。僕は第六王子、ベリアス・カルリアだ」
(だ、第六王子。こんな奴が他にも沢山居るって言うのかよ、駄目だ、あ、甘かった、考えが甘すぎた。何年も、何百年もこいつらが来れない様にしていたんだ、なのにっ、地球の実力者が集まって何とかなるなんて簡単に考えてた)
黒街彰が外で見ていた闘いは、地球の実力者なら互角に渡り合えている光景だ。
だが、地球で最強と言える本城尊や銅谷京之介で互角。対して、魔の者の最強は目の前に居る者でもなく得体がしれないのだ。
考えれば考える程に、希望が削られる気がした。希望が削られ続けるとどうなるのか、絶望しか残らない······そんな風に黒街彰は考えると、顔に暗い影が落ちる。
だがこの時、一段と覇気を強める者が居る。
「第六王子ベリアス・カルリア。妾は日本国、初代女王の水元茜じゃ。お主の様な強者と会えた事を嬉しく思うぞ」
水元茜が、礼儀とばかりに名乗りを上げる。
戸倉芙美と更井賢人は、水元茜の言葉の中で、一人称が私から妾に変化している事に気付くと、目に力が宿っていく。
「茜様、何だか懐かしい気分です······」
思えば、一人称を私に変えた辺りから、水元茜は先陣を切って行動しなくなった様に思う。
元々智略に長けた部分もあったが、本来の水元茜は、自ら先頭に立って暴れる様な苛烈な性格なのだ。
「水元茜か、人間も良い面構をするもんだ。僕達の世界ではね、強き者が弱き者を支配する、強者の世界なんだ。僕とキミの何方が支配者なのか、結果が楽しみだよ」
「皆下がっておれ、妾の本気を見ておるが良い」
水元茜の闘い方は、基本風を纏っての打撃戦だ。
それに合わせたのか、ベリアス・カルリアも武器は使わず自身の身体のみで闘っていた。
激しい闘いが繰り広げられる、手数が多いのはベリアス・カルリアであったが、水元茜は攻撃が当たる前に風で反らしたり、威力を減らして防いでいる。
攻撃の面では、カウンターで少ないチャンスを活かしている水元茜であった。
(能力値は相手のが高そうだけど、水元さんは上手いな······俺も弱気になってる場合じゃなかった、何をすべきかちゃんと考えなきゃ)
黒街彰が2人の闘いを見つめながら、隙がないかと窺っていると、更井賢人が話し掛けてくる。
「この後、俺と芙美も闘いに参加する。俺がスキルを使ったらその隙に上へ行け」
更井賢人も特殊スキルを持っているのだが、そのスキルの内容を知る者は少ない。
何故ならば、水元茜にスキルの使用を禁止されていたからだ。
「賢人、使うのスキル······本気?」
「あぁ、今この時の為に、俺はスキルを手にしたんだよ······」
更井賢人と戸倉芙美、水元茜と長い時を2人は過ごしてきた。
その2人から見て、水元茜が全力を出しているのは明らかで、相手が本気ではない事も明らかであった。
だからこそ、禁止されているスキルを使う。2人共、今が使い所だと理解して。
「黒街、結菜、後は頼んだぞ。戦闘に参加したら、直ぐに使うからな」
「は、はい」
黒街彰は、どんなスキルなのかは判らないが、覚悟が必要な危険を孕んでいる事を感じ取る。
そして、海野結菜と視線を合わせ、その時が来るのを待つのだった。
更井賢人の脳裏に、水元茜と出会い、そして過ぎていった日々が思い浮かぶ。
最初に出会った水元茜は、暗く落ち込んだ表情をした少女であった事。
その少女は無理をしながら前へ進み、先頭を任された者特有の厳しい言葉を放つ。でも言葉とは裏腹に、仲間思いだと気付いた時、心が水元茜に惹かれていった。
それがいつしか、忠誠だけが残る。長すぎた時間の中、忠誠を尽くす時が今であると······
更井賢人が走り、ベリアス・カルリアへと接近すると、それに合わせて戸倉芙美が火魔法を放つ。
「賢人っ、何をする気じゃ」
(すいません茜様。今まで、有難うございました)
ベリアス・カルリアが迫りくる火魔法を、腕で簡単にはたき落とす。
だが、そのはたき落とす腕が握られる。更井賢人の手がしっかりと掴んでいた。
「俺の全てを使い、全てを呪えっ」
禁止されたスキル『呪』は、触れた相手を呪う事が出来る特殊スキルであった。
呪いの効果は段階的に上げる事が出来るのだが、今使ったのは最も高い呪いだ。
禁止されている理由だが、呪いは必ず自分にも返ってくるのだ。そして、最も高い呪いが返ってくるとゆう事は······
(ぐっ、どこまで通用した? 少しでも、茜様の力に······)
黒街彰と海野結菜、それとファリアンス・レミアノとビグラウト・テラネウスは、階段へ向かって走り出していた。
同時に、水元茜と戸倉芙美もベリアス・カルリアへ攻撃を仕掛けるのだ、更井賢人の命を無駄にしない為に。
今、この瞬間に動く者全てをベリアス・カルリアは把握していた。
だからこそ、階段へ向う者を優先で処理するのは当たり前であったのだ。
「ぐはっ」
水元茜の渾身の一撃が、ベリアス・カルリアの腹部へと突き刺さる。
(くっ、身体が、嫌っ、僕の魔力が急激に減ったのか······)
更井賢人の命を賭けた呪は、ベリアス・カルリアの肉体をどこも奪う事は出来なかったが、力の源となる魔力を大きく奪っていた。
それが、水元茜の闘いに貢献するだけでなく、階段へと消えて行った者を次の段階へと進めるのであった。
「妾も命を賭けようぞ······通りたければ掛かってくるが良い、ベリアス・カルリアよ」
先程までとは立ち位置が反転していた、王の間へ続く階段へは向かわせないと、水元茜が立ち塞がる。




