第四章【託された希望】最後の壁
睨み合う黒街彰と山岸徹、それを止める事なく見守るのは、海野結菜や黒街彰の仲間達。誰も止めに入らないのは、2人以外が口を出してはいけない雰囲気を感じての事であった。
それに必要以上に心配はしていない、此処に集まった者達は、何時でも割って入る事が出来る実力者ばかりなのだから。
「黒街彰、俺は山岸徹だ。お前の事は、牛鬼を倒した時から知っていてな、成長したお前と何時か闘いたいと思っていたんだよ、まぁこんな形でとは思ってなかったがな······俺も本気でやらせて貰うぞ」
山岸徹の言葉に対して、黒街彰は頷くだけに留めた。何者か気にならない訳ではなかったが、闘いに集中する。
「行くぞ」と山岸徹が呟き、戦闘が始まった。
山岸徹が距離を詰め、横薙ぎの一閃が黒街彰の妖剣に防がれる。続いて上段から斬りかかるが、妖剣に逸らされ、突きは紙一重で躱された。
(この人の方が、少し速いぐらいか。闘えない程の能力差じゃないな、でも······)
黒街彰は、相手の実力を見る余裕をみせていた。それが、今までに培った黒街彰の戦闘スタイルなのだ。
相手を観察して、動きを読む。黒街彰が現状で判った事は、まだ相手が本気じゃない事と、刀さばきが一流である事であった。
山岸徹が一歩下がり、黒街彰から攻撃してくる様に誘導している。
その誘いに、黒街彰も分かっていて乗っていく。
山岸徹は、黒街彰の連撃を簡単に捌いてみせる。最初に黒街彰を知ってから、どれだけ強くなったのかを確かめる様に攻撃を受け続ける。
黒街彰の剣術が、自分と打ち合えるだけ成長しているのを感じて、口角を上げていた。
(いいね、強くなってるじゃねぇか。だが、本番はこれからだぞ)
黒街彰の上段からの打ち下ろしに、山岸徹はそれを弾き飛ばそうと、先程までよりも強く踏み込む。
黒街彰の妖剣を弾いたと思った瞬間、顎に衝撃が走る、黒街彰に動作の変化を見せたのは油断であった。動きを読まれ、上手く拳で一撃を貰ってしまったのだ。
(ちっ、上手いな。そういや、前に決闘で見せていた相手の動きを先読みするってやつか)
一撃を受けたが、ダメージ事態は大した事はない。まだまだ、闘いは始まったばかりだ。
いつの間にか、この闘いを全員が見守っていた。
水元茜の場合は、黒街彰と海野結菜の恋の行方がどうなるのか、そこに一番の興味を惹かれている。
本城尊は、時坂純也の弟子として、黒街彰がどれだけ闘えるのか興味があった。
黒街彰の仲間達は、闘いが始まれば嫌でも心配してしまう。黒街彰は大切な仲間でありリーダーだ。状況は飲み込めなかったが、今は応援するしかなかった。
「彰兄、頑張れっ」
人一倍、力が入っているのは時坂翔太であった。双剣と妖剣、それと刀の違いがあっても、剣術での闘いはどうしても惹かれてしまう。
それにこの1年間で、黒街彰と時坂翔太も剣術を交え、お互いに実力を上げてきたのだ。
それでも、段々と小さな傷が増え始め、黒街彰が劣勢になっていった。
能力値と経験の差が見え始めている、誰もが認める戦闘センスを持つ山岸徹を相手に、単純な打ち合いだけで、黒街彰は良くやった方であった。
(この人とここまで打ち合いが出来たのは、未知瑠さんのお陰だな。出来れば剣術で勝ちたかったけど、負ける訳にはいかないから)
相手の動きも多く見る事が出来た、『衝撃反射の篭手』で受けた回数は3回、それと最近になって手にした能力、次は全力で攻撃を仕掛けようと黒街彰が動き出した。
先ずは再度接近して打ち合いを再開させる、黒街彰は心の中で、山岸徹の攻撃を3回数えていた。
癖なのか、3連撃で一度攻撃の手が止むのだ、そのタイミングが最初の起点になる。
(今だっ、これで決める)
『衝撃反射の篭手』のスキルを地面に向けて放ち、石礫と砂煙で山岸徹の動きを阻害した。
視界が見えづらくなっても、黒街彰には相手の位置を捉える方法がある。
魔力感知の性能が上がった事で、人の持つ魔力も正確に感じ取れる様になっていたのだ。
ここで黒街彰は、横薙ぎの一閃を力いっぱいに振るう、すると刀が妖剣を防いだ音が大きく響いた。
黒街彰は少し離れ、山岸徹の様子を覗う。
砂煙が収まってくると、辛うじて立つ山岸徹の姿が現れるのであった。
「ぐっ、何しやがった。攻撃はちゃんと受けた筈だったのによ」
「妖剣のスキルです。殺し合いじゃないので、急所はあえて外しました。なので、俺の勝ちでいいですよね」
『アリスフール』のモンスターと多く闘う事で、妖剣のランクがAまで上がり、スキルが使える様になっていたのだ。
ランクが上がると、妖剣の見た目の殆どが赤くなり、スキルで妖剣の赤い部分を操れる事が出来る様になっていたのだ。
そして山岸徹が受けたのが、妖剣から動き出した赤い部分、それが複数箇所を貫いたのであった。
「くっ、はぁ······俺の負けだ」
海野結菜が山岸徹へ近づき、朱菜によって回復魔法が唱えられた。
山岸徹に言葉をかける事なく、そのまま黒街彰の前まで近づいて行く。
「あの、間違ってたらごめん。結菜なのか?」
「うん。彰くん、私ね、記憶がないんだけど。でも自然とね、努力家の彰くんなら、絶対に強くなってて、勝ってくれるって信じてたよ」
黒街彰の瞳に涙が溜まっていく。やっと、やっと再会する事が出来たのだ。
今までの努力は、全てこの日の為にやってきた事で、それが報われると同時に、張り詰めた気持ちが一気に解放された。
「ごめん、涙が。ちょっと嬉しすぎてさ、だって、ずっと会いたかったんだ」
「うん。記憶がないからね、少し不安だったんだけど、私も会いたかったって、会ってはっきりと判ったよ。彰くん」
2人の再会が叶った事を見届けた水元茜が、一度地球へ戻る事を全員に向けて叫ぶ。
扉には清水司がおり、開けっ放しにして閉じられないように見張っていたのだ。
「地球へ戻ったら、好きなだけ話をすればよかろう。結菜お前は自由じゃ」
水元茜に声を掛けられ、扉へと歩き出す。
黒街彰は話したい事や、仲間を紹介したい事などを考えて歩いていた。そんな黒街彰の側には、海野結菜の姿があるのだった。
この時ばかりは、黒街彰も自分の事で頭がいっぱいになっていて、仲間の事まで気遣える余裕はない。
皆が地球へ戻る為に動き出した中で、代わりに舘浦喜助と三日月愛が忙しそうに動き出す。
「フィ、フィオル、ちょっと待っててよ。ねぇ愛ちゃん、未知瑠さんに地球へ戻った後の事を相談出来ないかな?」
舘浦喜助が心配しているのは、『アリスフール』の住人である、クレイス・ファーナとディガルド・フィオルの存在であった。
異世界人を地球へ連れて行く事で、何か問題が有るのか、疑問の答えが判らない以上、出来れば権力者の協力を得て安全を確保しておきたいのだ。
因みに、クレイス・ファーナとはダ・ビャヌと時坂翔太が再会した一ヶ月後位に合流する事が出来ていた。
フォンス・カーリルをこの世から消し去り、過去と現在にまたがった因縁に無事終止符を打った後の再会であった。
「未知瑠さんも忙しいと思うけど、彰さんよりは大丈夫な気がする······ちょっと呼んで来るね」
人混みを縫う様に走って行くと、一際騒がしい一団が見えてくる。
何とか扉を潜る前に、郷倉未知瑠を見つける事が出来ると、大声で呼び止めるのであった。
「未知瑠さん、ごめんなさい。折角の幸せな時間を邪魔しちゃって」
「愛、私の方こそ、悪かったわね。こんな時に舞い上がってしまって、もう恥ずかしい限りですよ」
「未知瑠は悪くねぇよ、悪いのは全部俺だろう。自分の事しか考えてなかったからな」
郷倉未知瑠だけでなく、本城尊も着いて来ていた。
異世界人を匿って貰う話に、本城尊が賛同してくれるなら、心強い限りだ。
「尊様に紹介します。此方がこの世界『アリスフール』で、生前女王として君臨されていたクレイス・ファーナ様です。で此方が、ファーナ様の配下であるディガルド・フィオルくん」
「俺は、本城尊だ。地球で未知瑠や、他にも多くの仲間と探索者として生活している。きっとこの世界で未知瑠が世話になったのだろうからな、地球では、出来るだけ協力する。遠慮なく言ってくれ」
本城尊は上機嫌で声を掛けていた、郷倉未知瑠との再会以外にも、未知の異世界人、また始まる新たな冒険、機嫌が悪くなる要素は何処にもないのだ。
「妾はクレイス・ファーナじゃ、未知瑠は女王と言ってくれたが、今は唯1人の生き物じゃからのう、宜しく頼むぞ」
「俺はディガルド・フィオルです、宜しくお願いします」
本城尊に異世界人が接触する所を、水元茜は観察していたのだが、其処で、クレイス・ファーナの一人称が『妾』である事に興味を示した。
「私も混ぜて貰えるか? 現在、地球で女王を名乗っている、水元茜じゃ。是非クレイス・ファーナは私の客人として迎えたい」
水元茜も、本城尊もクレイス・ファーナが恐ろしく強いであろう事は察していた。
特に水元茜は、単純に異世界人に興味があるだけでなく、自分達の陣営に加える事が今後の力バランスを優位に出来ると打算的に動いている。
「駄目だ、先ずは俺達が持て成す。未知瑠の恩を返す為に其れは譲れねぇぞ」
「何じゃ、先程大胆にプロポーズをしておきながら、他の女に執着するとは、お主は妻といちゃついてたらよかろう」
「てめぇ、ば、馬鹿な事を言うんじゃねぇよ。恩を返すって意味が判らねぇのか」
異世界人の取り合いにはなってしまったが、一先ずは、順番に持て成す事で合意する。
中央と北も関係が修復され、黒街彰も念願の再会を果たす事が出来た。
残る西との問題も、中央と北が手を結べば解決まで時間は掛からない、皆が良い方向に考えているのだが······
地球の人間に気付ける訳などない、大きな脅威が近づいていた。
その脅威を抑えておける時間が、もう僅かに迫っている。近い内に、黒街彰や多くの者を巻き込む闘いが、始まろうとしていた。




