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第四章【託された希望】それぞれの愛

 遂に五ノ扉の鍵を手に入れた海野結菜、直ぐにでも扉を開けて『愛しい人』に会ってみたいと強く想う。

 記憶のない自分は、黒街彰に会ったらどう思うのだろう、そんな不安と期待が混ざった心境で歩き出した。


「海野、とりあえず茜様に報告はしないとな。このまま五ノ扉に入るのはなしだぞ」


「わ、わかってますよ、山岸さんじゃないんですから······」


 海野結菜は内心、山岸徹に考えを見抜かれたかと思い、ドキっとする。


[結菜にしては珍しいよね、言葉を誤魔化したりしてさ。ふ〜ん、そんなに会いたいんだ]


 見抜かれる以前の問題で、思考を共有する朱菜には全て筒抜けなのだ。初めて思考を共有する事が恥ずかしいと思う。


(もう、内緒にしてくださいよ。私自身、この気持ちを理解してないんですから······)


 必死に守護者を探していた時間とは裏腹に、和やかな表情で地球へと戻っていく。

 そして向うのは、水元家の屋敷だ。


 現在水元家の屋敷には、水元茜の他に、更井賢人、戸倉芙美、清水司の4人が世界に起きている異変について話し合っていた。


「ドイツにある扉も、全て閉じたと情報が入りました。これでヨーロッパは全滅です」


「アメリカに始まって、中国、そしてヨーロッパ全域か、日本は北の五ノ扉だけだが、いつ全ての扉が閉じてしまうか分からないな」


 世界中が異世界からの宝に魅了された時代が、遂に終わってしまうのかと思うと不安が過ぎる。

 時代が変わるのならば、上手く対応しなければならないが、まだ気持ちの切り替えは出来ていないのであった。


 そこへ、海野結菜と山岸徹が訪ねて来たと報せがくる。


「良し、来たか。急いで此処へ通せ」


 水元茜は、情報を渡してから経過した時間を考る、海野結菜がなんの成果もあげず、短期間で自分の元に来る筈もない事から、良い報せだという事は判っていた。


「山岸です、失礼します。茜様に報告したい事がございます」


 無事に鍵の守護者を倒し、五ノ扉の鍵を手に入れた内容は、山岸徹の口から伝えられる。

 水元茜を含む4人が話を聞くと、遂に動き出す時が来たかと、口元を緩ませた。


「3人共、良くやった。この後は、これまで協力してくれた者達全員で五ノ扉を開くとしようか。まぁ皆が集まるまでは時間が掛かるであろう、結菜には悪いが、しばし身体を休めて待っておれ」


 水元茜が、現在探索に出ていない水元家の人間に四ノ扉へ向かわせ、攻略中の者達を呼び寄せる様に指示を出した。

 上尾泰士が海野結菜を見つけるのに時間がかかった様に、探索中の者達が集まるまでは、かなりの時間がかかるのであった。


 二週間の時が立つと、半数程の探索者が戻って来る事が出来ていた。

 そしてこの日は、誰よりも鍵を求めていた人間が地球へと戻ったのだ。


「おいっ、鍵を手に入れたってのは本当か?」


 水元家の屋敷へ殴り込む勢いでやって来たのは、本城尊とその仲間達であった。


「真実じゃが一度落ち着け、焦らなくとも鍵は逃げたりはせぬ」


「悪いが落ち着いて何かいられねぇぞ、俺は一刻も早く未知瑠の無事を確かめたいんだよ。ちゃんと自分の目でな」


 1年間の間に、何度か手紙とククノが近況や無事を報せにやって来ていたのだが、それだけでは安心出来ていなかった様子だ。

 郷倉未知瑠の大切さに気付いた事で、会いたい気持ちも大いにあるのだが、この場でそんな事は言える筈もない。


「しょうがないのう、誰かっ、山岸と結菜を呼んで参れ」


 水元茜は、全員を呼び寄せてからと思っていたのだが、本城尊の気迫と、大方主役は揃った現状に五ノ扉へ向う判断をするのだった。


 全員が集まっていなくとも、80名程の人間が五ノ扉へと押し掛ける。

 扉の付近に居るのは、水元茜と水元家の幹部、それと本城尊と十傑、そして鍵を手に入れた海野結菜と山岸徹であった。


「皆、開ける準備は良いか? 良し、結菜開けてよいぞ」


 水元茜の仕切りで、扉が開かれようとしていた。本城尊は、無理を言って今日扉を開けさせてしまった事もあり、黙って大人しくしているのだ。


(何だか息がし辛い感じがします、これが緊張ってやつですね。朱菜はどうですか?)


[私は全然っ平気だよ、むしろ楽しみでしかないかな。まぁ何があっても、結菜には私がついてるから安心してよ]


 朱菜に勇気づけられ、五ノ扉の鍵をポケットから取り出すと、皆の視線が集まる中で鍵を挿し込む。

 そして、二枚の扉が異世界側へと押され、『アリスフール』の景色が目に飛び込んでくる。


 その瞬間、横を大きな男の人が強引に入ってくる。


「未知瑠、何処に居る」


 本城尊が辺りを見渡しながら、鼓膜が破れるかと思う程の大声で叫び出す。


「返事しろっ、未知瑠。扉は開いたぞ、何処だっ」


 何度も叫び、郷倉未知瑠を呼ぶが、返事は聞こえない。

 そうしている内に、他の探索者も『アリスフール』の中へと入ってくる。


 全員が扉を潜り終え、この後はどうしようかと話を切り出そうとした瞬間、遠くから人の声が聞こえてくる。


「ははっ、居たか······良かった」


 先程までの叫び声とは、まるで別人の様な小さな声で囁くと、遠くの人影を見つめて動きを止める。

 数分で近くに寄れる距離が、とても長く感じていた。


「未知瑠、無事で良かった。すまないな、遅くなってしまって······」


「尊様······そうですよ、早く会いたかったんですからね」


「ん? もしかして、まだ怒ってるんじゃないだろうな?」


「何で私が怒るんですか、少し待ち時間が長かっただけで、ちゃんと来てくれたじゃないですか。本当に有難うございます」


 本城尊と最後に会った日、郷倉未知瑠は確かに怒っていたが、長い間会えなかった事を思うと、怒った事など記憶の片隅にあるかどうか位、小さい事だ。そんな事を気にしているのは、本城尊だけであった


「再会出来たら、言おうと思っていた事がある。聞いてくれ」


 本城尊が真剣な瞳で、郷倉未知瑠を見つめ、一瞬生唾を飲み込むと、話し出した。


「今までずっと側に居たからよ、危険な時なんかは守りたい時に守る事が出来たよな。でも別の場所に居るって事は、守りたくても守れない。それが一番悔しくて、凄く心配したぞ。だからよ、此れからは俺が守る事が出来る、俺の側にずっと居てくれないか?」


「は、はい。勿論今まで通り、側におります」


「嫌、今まで通りじゃなくてよ、俺の嫁として側に居て欲しいんだ。未知瑠、結婚しよう」


 真剣に郷倉未知瑠を心配して、休む時間も惜しんで探す姿から、大事に思っている事は皆にバレていたが、こんな大勢の前でプロポーズをするとは誰も考えていなかった。

 仲間達は驚きで言葉を失ったが、沈黙はほんの一瞬だ、大歓声で祝福の声が上がり始める。


「未知瑠さん、おめでとうございますぅ。尊様は待たせすぎですけどぉ、私はこんな日が来るって信じてましたよぉ」


「尊様、やっぱ男っすね。こんな大勢の前で愛する人にプロポーズ、俺も憧れるっす」


 郷倉未知瑠の返事を聞く間もなく、滝陽子や上里太陽が2人に声をかける。

 皆、悪気はなく喜んでいるのだ。やっと2人が結ばれる日が来て、感情を抑えられないのであった。


「お前ら、ちょっと黙ってろ。未知瑠の返事を聞けてないだろうがっ」


「尊様、私の返事は、出会った時から決まってましたよ、それは勿論······宜しくお願いします、です。とっても嬉しいです」


 郷倉未知瑠の返事で、更に歓声が大きくなり、周りの関係のない探索者も祝福してくれていた。


 そんな中、海野結菜は黒街彰へと近づき、念願の再会を遂げようとする。

 だが、黒街彰の側まで近づくと、一緒に居た山岸徹が歩く速度を上げ一歩前に出るのであった。


「黒街彰くんだったかな、こんな所でプロポーズをするなんて、北の王は大胆だよな」


「そ、そうですね。でも、未知瑠さんがとても嬉しそうで、俺も感動してます」


「そうか。因みにな、五ノ扉の鍵を開けたのは、俺の後ろに居る女性なんだよ」


 黒街彰は、突然話し掛けてきた男が誰なのか判らない。でも男が言う、後ろの綺麗な女性を見た瞬間、何だかとても懐かしい気がする。


[おっ、結菜と私の活躍を言ってくれるなんて、山岸のくせに気が利くんじゃない。自分から言うのは、ちょっとかっこ悪いって思ってたんだよね]


 朱菜は、山岸徹の発言を前向きに捉えているのだが、海野結菜はそんな性格じゃない山岸徹が、何か別の事をするのだと不安に思うのだった。


「あ、有難うございます。俺は黒街彰です、あの、名前、名前を聞いてもいいですか?」


「はい、私の名前は······」


「おいっ、ちょっと待て。黒街彰っ、俺と勝負してくれ。お互いの大事な人を賭けて」


 山岸徹は、ずっと考えていたのだ。海野結菜が黒街彰と再会した時に、自分の想いを断ち切る方法を。

 好きになった人が、元々別の人を想っているのを知っていた為、自分の想いを伝える事は考えもしなかったが、好きな人を託すとしたら、自分よりも強い男だと直ぐに結論は出ていた。


「勝負······解りました、受けますよ」


 男としてこの勝負からは逃れたくない、直感がそう告げている。それに、1年の間ずっと鍛えてきた事が自信にも繋がっていた。


 『アリスフール』に居た1年間は、毎日が修行の日々であったのだ、モンスターを狩っているか、郷倉未知瑠に剣の稽古をつけて貰う、それと仲間同士で模擬戦も良くやっていた。

 ファリアンス・レミアノを救出する時に、少しでも役に立つ為、全員が強さを求めたのであった。


「何も聞かずに勝負を受けるのか、それでこそ男って奴だよな」


 山岸徹は、能力向上効果のついた装備は全て外していた。素の能力は、黒街彰を圧倒しているので、黒街彰が万全の装備で丁度良いのだ。


 黒街彰と海野結菜が、再会を果たす為の最後の壁として、山岸徹が立ちはだかる。2人の願いは、後一歩の所で足止めをくらうのであった。

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