第四章【託された希望】届いた手紙
水元茜は、本城尊と約束した通りに、探索者へと通達を出した。
内容は、四ノ扉の完全攻略を促すものであり、情報の提供者には報酬を与える事も含まれていた。
更に、水元家の人間にも本格的に攻略するよう指示を出す。
その中には、海野結菜と山岸徹も含まれて居るのであった。
「北と合同で四ノ扉を攻略だってよ、詳しい情報が判らねぇから何とも言えねぇけど、日本が急激に変わっていってるんじゃねぇか? 俺達も置いて行かれないように頑張るしかねぇな」
「山岸さんは、流水って諜報活動をメインでやる部署に居たんですよね? 情報を教えて貰えない程、下っ端だったんですか······」
「おいっ、言い方が悪くねぇか。最近はお前と一緒に異界に潜ってばっかだったろうが、情報より優先する事があったんだよ」
「もう、冗談ですよ、いつもお世話になっております。それでは、私達で五ノ扉の鍵を手に入れて、山岸さんに出世して貰いましょうか」
(ん? どの辺が冗談だって話なんだよ······)
現在は、三ノ扉で活動している海野結菜であったが、山岸徹と連携して闘えば四ノ扉へ行く事も可能だと判断していた。
そうして、四ノ扉の中で闘う日々を一ヶ月程度続けていると、水元家から招集を受ける事となる。
「今日集まって貰ったのは、四ノ扉を攻略してくれている者全員と、協力体制を築きたいからだ。俺の持っている情報も全て公開する、何でも良いから気付いた事があったら話して欲しい」
水元家からの招集で集まった人間は、凡そ100人程。そこで最初に話しだしたのは本城尊であった。
「先ずは、俺が持っている情報を公開する。北ノ扉ではどんな守護者だったのか、それと、開いていない五ノ扉の中から届いた、手紙の内容だ」
此処に集まった人間は、北ノ扉に居た守護者の情報は既に知っている者が殆どであったが、五ノ扉の中から届いた手紙の話を知っている者は少ない。
本城尊が守護者の情報を話し終えると、懐から手紙を取り出し、読み上げ始める。
尊様、私達は今、中央の五ノ扉から入る事が出来る『アリスフール』と言う異世界におります。
この異世界では、元の住人が蘇るという現象が起きており、その住人の能力によって結界が破壊された結果、北ノ扉の先ではなく、中央ノ扉の先へ移動して来たのです。
現在五ノ扉の中は、北と中央、それと西ノ扉が繋がっていて、何処にでも行ける状態なのですが、北ノ扉は閉まっており、西ノ扉には危険な組織が居て向かえない状態になっています。
其処で私達は、中央ノ扉が開くのを待つ事にしました。
どうか、尊様の力で中央にある五ノ扉を開いてください。
追記、今は西に攻め込むのは止めてください、攻め込むとしたら、私達も同行します。
それと、私達が何故この様な状況になっているのか、それは他言しない約束になっていて話せませんが、私達が合流出来た後は、その約束した人物を助ける事になると思います。
そうしたら、尊様もこの扉が創られた真実を知る事が出来ると思います、楽しみですね。
尊様と再会出来る日を、楽しみに待っております。郷倉未知瑠。
最後の一行を読む事はなかったが、本城尊が読み上げた手紙の内容は、探索者の興味を惹くのには十分な効果があった。
「俺が何よりも優先させたいのは、仲間の救出だ。もしもそれが叶ったなら、貢献してくれた者の願いを聞くと約束する」
集められた者達がざわめく、話を聞いて、やる気の出ない探索者はいない様子であった。
この後は、四ノ扉の攻略者全員を登録して番号が振られる。更に、探索する範囲も指定した。
此れも守護者を探し出す対策の一つだ。以前、北陽公雄が考えた守護者の可能性、小さい
モンスターや逃げるモンスター、それ以外に圧倒的に強いモンスターで遭遇した者が情報を持ち帰れない可能性を潰したかったのだ。
本日招集された意味を皆に伝わったと判断すると、解散の流れになる。
その中で、本城尊が話していない情報を伝えるべく水元茜が声をかけていた。
「結菜、久しぶりじゃのう。少し話がある、着いて参れ」
[ん? ん? 今は私の意思で歩いてない? てゆーか、やっとマスターに会えたよね]
(そうですね、身体が勝手に動くって変な感じがします。朱菜は何時もこんな感じだったんですね······)
海野結菜は、朱菜と頭の中で会話をしながら水元茜に着いていく。
朱菜が何時もより緊張しているのが伝わってくるのが、なんだか新鮮だと思うのだった。
屋敷の中へ入り、客間へと到着すると、水元茜が襖を開ける様に海野結菜に言う。
そして、襖を開けると1人の女性が中に居るのであった。
「こんにちは、こちらに座ってください。私の事が誰だか判る?」
客間に居た女性が、声を掛けてくる。
そのなんだか懐かしい声が、海野結菜の心に呼び掛けている、そんな感覚がするのだ。
「もしかして、お、お母さんですか······」
「そうよ。ゆ、結菜なのね、本当に。もう、もう会えないと思っていたのよ」
海野真菜は強く、強く、帰って来た娘を抱きしめる。我慢しきれない思いが涙になり、海野結菜の肩へ落ち、濡らしていた。
「記憶がないって聞いてるわよ、よく私がお母さんって判ったわね?」
「思い入れが強い事ほど、魂に刻まれているんです、今もお母さんに抱きしめて貰って、魂が震えてます」
「そう、でも、喋り方がよそよそしいんじゃない? 昔の喋り方は、忘れちゃった?」
「えっと。この身体になって、ずっと敬語で喋ってたから······どんな喋り方が昔の私か、これから、教えてね」
親子の絆を確かめる様に、会話を続けている海野結菜と海野結菜。
邪魔をしない様に静かにしている者が、この場には他にも2人居るのだ。
[そろそろ私の事も紹介してよね、親友で相棒の私のことをっ]
(うん、それじゃ声を出して自己紹介してあげてくれる?)
「お母さん、びっくりしないで聞いてね。私の中にもう一つ人格があるんだけど、自己紹介したいって言うから、代わるよ」
「えっと、水元朱菜です。えっと、結菜とは何時も仲良くさせて貰ってます、宜しくお願いします」
「ご丁寧に有難うございます。朱菜ちゃん、私は海野真菜です、結菜を宜しくお願いしますね」
『成長型オートマタ』の能力が上がった事により、海野結菜が許可することで朱菜が喋る事が出来る様になっていたのだ。
山岸徹としか話した事はなかったが、何時もより丁寧に喋る朱菜は、親友の母親には気を使う事が出来ていたのだ。
それを、海野結菜も感じて嬉しく思う。
柔らかな空気が流れる中、海野真菜の肩へ、緑色の物体が飛び乗るのが見える、するとその緑色の物体が喋り出した。
「そろそろ我も会話に参加して良いかのっ? ククノじゃ、宜しく頼むぞ」
今回の手紙を届けるという話は、ククノの分体が手紙を持って来た事から始まったのだ。
黒街彰と郷倉未知瑠の考えで、本城尊へ手紙を送る事が決まり、先ずは海野真菜の元へククノの分体が行く。
そして、海野真菜とククノが本城尊に手紙を届ける方法を探していると、現在協力体制が出来ていた水元家と知り合えたのだ。
水元茜まで情報がいくと、海野真菜が海野結菜の母親である事に気付き、この再会の舞台が用意されたのであった。
「我も海野結菜に早く会ってみたかったのじゃが、彰よりも先に会う事になるとは思ってもみなかったぞ」
ククノが伝えたかった事は、五ノ扉の先に居るのは、郷倉未知瑠だけではなく、黒街彰も居るという事だ。
「えっ、彰とは、黒街彰さんですよね? 居場所をご存知なのですか?」
「彰も五ノ扉から戻れないで居るぞ、中央ノ扉から入れば近くに居る筈じゃ。そうじゃ、我の役目はこれで果たしたからの、戻ったら何か伝える事はあるかの?」
「そうですね、また私が必ず助けてあげます。素直に言ったらこんな気持ちです」
ククノの話を聞いて、海野結菜は『また助ける』こんな想いが自然と浮んでいた。
だが、想いを口にすると、待ったをかける意思が海野結菜を止める。
[ちょっと待ってよ、黒街彰って結菜の愛しい人だよね? ずっと会えなかった、お互いに探してる運命の人でしょ。だったら、ダメダメ。びっくりさせようよ、サプライズってやつだって]
(もう、興奮してどうしたんですか。伝言を頼んだらダメなんですか?)
[結菜は判ってないなぁ、此処で結菜の存在を報せるより、「助けてくれて有難う、誰が助けてくれたんですか?」ってなってさ、まさか結菜が、結菜に会える、って二重でびっくりさせた方が感動も2倍になるでしょ]
(まぁそうですかね、アニメの見すぎかとも思いますけど······それでいきましょうか)
渋々納得したような言い方だったが、海野結菜も本当は良い案だと思っていたのだった。
「ククノさん、ちょっと待ってください。やっぱり内緒にして貰えませんか? 私はこれから五ノ扉を開ける為に頑張ります、それで私が五ノ扉を開ける事が出来たら、黒街彰さんを2倍びっくりさせようと思います」
「おぉ、それは粋ってやつじゃな。我も賛成するぞ、その日が来るのが本当に楽しみじゃな」
話が一段落すると、海野結菜は水元茜に感謝を伝えようと探すが、この場にはもう居なかった。
ククノが先程言った粋って言葉を想いながら、母親へと想いを伝える。
「お母さん、今日は会えて嬉しかったです。また会いに行きますけど、今は五ノ扉を開く事を優先するので······」
「うん、うん。それでこそ結菜って感じがするよ、彰くんを早く助けてあげてね。彰くんが結菜にどんなに会いたがっていたか私は知ってるから」
海野真菜の連絡先や住所を聞いて、今日は別れる事にする。
(朱菜、力を貸してください。全力で鍵の守護者を見つけますよっ)
久しぶりに会う事が出来た母親。だが、ゆっくりと食事を楽しむ余裕など、今の海野結菜の頭にはなかった。
あるのは黒街彰を助け出し、再会を果たすという強い想いだけなのであった。




