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第四章【託された希望】気持ちの整理

見逃されたのか、興味がなかったのか、黒街彰には予想もつかない。命が助かった事だけが救いであった。


気を失った時坂翔太を抱え、その場に蹲って居ると、他の仲間達が側までやって来る。


「······彰さん、大丈夫ですか?」


皆が衝撃的な話に言葉を失っている中で、何とか言葉を発せられたのは、三日月愛だけであった。


「あ、うん······」


「あの、此処に留まっていたら危ないのかなって······どうしたらいいのかって、彰さんに聞いても、大丈夫ですか?」


誰かが指揮を取らなければならない。それを判っているからこそ、あえて言葉に出していた。


「そうだよな、ごめん。少し移動しよう、移動したらピグさんに幻術を掛けて貰って、一旦休もうか······」


激闘の後に衝撃の事実を聞いて、肉体も精神も限界なのだ、もう休みなく行動する事は不可能であった。


銅谷京之介が戻って行った方向から、真逆の方向へ進む。王都から出て少し歩くと、段々と木々が深くなり森へと続いていく。


「この辺にしますか、ピグさんお願いできますか?」


「うん。そこの木から、そっちの木まで円形に幻術掛けるからね。なるべく中央で固まった方が良いかな」


外から見たら大きな岩に見える様な幻術がかける。唯の幻術は、触れてしまえばすり抜ける為、絶対安全とゆう訳ではない······


「交代で眠ろうか、最初は俺と愛ちゃんが見張りでいいかな?」


もうすぐ日が暮れる。眠る事は大事なのだが、食事の話題がでないのは、食欲がないのと、頭が回らない事で誰も口に出さないのだった。


「う、うん。次は、僕とフィオルくんでやろうか」


「じゃぁその次は、俺とピグだな。俺には探索術があるから1人でもいいけどよ」


3つのグループに分けて見張りをする。落ち着いた場所へ来ても、余計な会話はせずに各々が自分の気持ちと向き合っていた。


(レミアノを助けられなかったな······犠牲者も増えて、テラさんも人質になって)


黒街彰が見張りをしながら、現状を頭の中で整理していると、何人かのすすり泣く声が聞こえてくる。


(······俺がしっかりしなくちゃ、でも、本当に上手くいかないよな)


強く願う事が叶わない、『魂の補完石』の時もそうだ。奪われて、取り返す事も出来なかった。叶える事が出来ないのは、何がいけなかったのか······


(いつもそうだ、いつも、もっと自分が強ければって思うんだよな。力を手に入れなきゃ何も出来ないから······)


力がないのに協力した事が間違いだったのか、別行動をとった事が間違いだったのか、後悔しても戻れない事が、頭の中を巡って精神を少しづつ削ってくる。


『力を手に入れる』答えは先に出ているのに、色々な思いが頭を巡って、自分を責めずにはいられないのであった。


「彰、そろそろ見張り、交代するよ」


舘浦喜助が声を掛ける、交代する程、時間が立ったのだろうか。黒街彰は考え事に夢中で、時間の経過が分かっていない。


「もうそんなに時間が立ったのか······」


「2時間は立ったかな、あの、交代する前に、少しだけ話せないかな?」


「うん、話そうか······」


本当は仲間と話せる程、考えが纏まっていなかった······最初は、もう少し時間が欲しいなんて思いながら会話を了承していた。


「僕なりに、色々考えたんだけどさ、聞いて貰ってもいいかな?」


「うん、聞かせて貰うよ······」


「あのさ、僕は、もっと強くなって、皆の力になりたいって思ったんだ。僕のスキルなら、こんな事も出来るかなって」


契約紋のスキルで、素速いモンスター、攻撃が強いモンスター、何でも防ぐモンスター、遠くから攻撃出来るモンスター、色々なモンスターを仲間に入れる。


「色んな敵に対応出来るかなって、まだまだ先の話になっちゃうけどさ、頑張って強くなりたいなって······うぅっ」


「そうだよな、強くなりたいよな······うん、有難う、喜助」


仲間も同じ想いなんだ、判ってはいたけど、話すと実感する。優しくて、仲間想いの舘浦喜助に感謝して抱きしめると、黒街彰の瞳にも涙が少し光っていた。


三日月愛の元には、ディガルド・フィオルが交代を告げに近寄っていく。


ディガルド・フィオルを笑顔で迎える三日月愛。その瞳は、薄っすらと赤く少し腫れているのだった。


「交代するよ、愛は大丈夫か?」


「うん、私は大丈夫だよ。レミアノを助けるチャンスがなくなった訳じゃないからね」


ディガルド・フィオルは、この数ヶ月で仲間との絆を深めている。三日月愛とは同い年だと判明してから、お互い気遣いの無い関係になれていたのだ。


「そっか、良かった······」


「フィオルは、大丈夫? 話したい事があったら聞くからね」


「あぁ、あれさ、ちょっと言っときたいのはさ。俺の母様は、多分もう居ないって分かるんだ······でもよ、俺達は一回死んだ身だから、大丈夫っていうかさ······感情がないのかなって。だから、俺の心配はしなくても平気なんだよ」


言葉とは裏腹に、ディガルド・フィオルはとても悲しげな表情をしている。三日月愛が、その悲しげな顔を抱きしめ、少しの間、声を殺して涙するのであった。


「感情がなかったら、そんな顔にならないよ。それに、人の心配だって出来ないし、心配しなくてもいいなんて、人に気遣えないから······」


「そうかな······」


「私達は仲間なんだからね。此れから先は、助け合って一緒に乗り越えるんだよ」


蘇った存在であっても、唯一の家族が居なくなってしまったら、天涯孤独の身になるのは変わらない。自分と同じ境遇に、自分にしてもらった事をしてあげたいと、三日月愛は強く想うのであった。


眠れた時間よりも、考える時間の方が長かったが、少しづつ気持ちの整理が出来てくる。日が昇り始めると、全員が朝日を見つめて顔をしかめていた。


「おっ、翔太。大丈夫か?」


気を失っていた時坂翔太も、やっと目を覚ました。まだ気持ちの整理が出来ていないであろう時坂翔太に、視線が集まる。


「ん······あ、あいつは?」


黒街彰が、時坂翔太が気を失った後に、銅谷京之介が立ち去った事を話し、今はどんな状況なのかも話していく。


「そっか、なぁ彰兄、親父が負けたなんて信じられねぇよ······親父は最強なんだぜ、親父より強い奴なんか見た事ねぇのに······」


いつも、母様、母様と言って、時坂純也に甘える素振りも見せなかった時坂翔太が、父親が最強だと気持ちを込めて言うのだ。その言葉に、三日月愛が感極まって、聞いている事が出来なくなる。


「俺も、時坂さんより強い人なんて見た事ないよ。最強だ、絶対に時坂さんが最強だよ」


黒街彰は、時坂純也を心から尊敬している。そして、何度もお世話になった事が頭を過ぎるのだ。


時坂純也の死を信じられない気持ちも大きいのだが、銅谷京之介があの場に来た事が、時坂純也がこの世に居ない事を証明してしまう。


黒街彰は、自分は一応受け入れたのだが、時坂翔太は受け入れられないと考えると。これ以上、掛ける言葉も見つからず、今は抱きしめてあげる事しか出来なかった。


(皆に気を遣わせちゃってるよな······そういえば、あいつ、母様の事は何も言ってなかったな)


少し時間が経過すると、時坂翔太も冷静になってくる。そこで、銅谷京之介が言っていた言葉を思い返すのだった。


「なぁ、彰兄。母様ってどうなったか判る?」


時坂翔太の顔つきを見て、少し落ち着いたと思った黒街彰が、食事をしながら今後について話していこうと、皆に持ち掛ける。


「俺の予測になるんだけど、レミアノと同じ異世界人じゃなければ生きてる可能性があると思うんだ」


思いついた理由は、銅谷京之介が「異世界人を皆殺しにした」と言った事を思い出したからだ。それに······


「ビャヌさん、郷倉さん、ファーナさん、グリザハルさんが簡単に負けるとは思えないし、あいつ4人の事は、話題に出してなかったよな?」


銅谷京之介が語ったのは、自身と時坂純也の闘いが、どんなに激しいものであったかだ。他の闘いがどうなったのかは、語られる事はなかった。


「それじゃ、母様はまだ生きてるかもしれないって事だよな。なら彰兄······」


「うん、行こう。皆と別れた場所に戻ってみよう。でも翔太、急いで向う事は出来ない。安全に向う事は我慢してほしい」


今後の行動が決まると、黒街彰が幾つか注意する。


先ずは『アリスフール』のモンスターが格上である事を、皆で再認識する。自分達がやられてしまえば、再会が叶わない事を特に時坂翔太に伝えたかった。


それと、「西の扉は止めたほうがいい」銅谷京之介が言った忠告だ。


「拠点が西に有るんだと思う、もっと沢山仲間がいて、俺達が見つからない様に止めたほうがいいって言った。それぐらいしか、思いつかないんだけど······」


忠告の意味は理解しきれなかったが、もしかしたら、西の扉から他にも敵が来る可能性は考えられた。それは、地球の人間であっても注意が必要だということだ。


「良しっ、ご飯を食べ終わったら出発しよう」


仲間で支え合い、気持ちの整理をつける。良い仲間に恵まれ、前に進む選択が出来た事に「心強いな」と思いながら目的地へと向かって行くのであった。


✩✫✩✫✩


一方、黒街彰に背を向けて歩き出した銅谷京之介は、次に待ち構える問題について考えていた。


(九部はやっぱり僕を裏切ったか、もう少し考えて行動すれば良かったよ。少女の能力を、父さんが欲しがらない訳ないんだよな······)


九部大吾は、唐代一心の兄弟弟子にあたる。元々の関係から見ても、自分の監視役の為に付けらていた可能性が思い浮かんだ。


(これは、小夜と晴人に相談してから地球に戻った方が良さそうだね。はぁ、次は一心さんが相手か······)


(そういえば、彼等はディグを倒せたんだ。其れは凄い事だよ、きっと素質があるんだろうね。何年かな、十年か、百年か······正面から正々堂々と闘いたいものだね、時坂翔太)


考え事をしながら向かっているのは、西に繋がる扉がある場所だ。其処へ、仲間は先に向かっていた。


地球に戻ると、父親である銅谷権兵衛が待ち受けている、そう思うと······気持ちの整理がつかない銅谷京之介であった。

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