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第三章【異世界からの願い】理解する意図

マクリーク・フルムを失い、結界内に居る人間は恐怖に震えていた。


銅谷京之介のあまりの速さに圧倒されたが、トレカール・ラズモアの結界術があれば、まだ対応は可能だと時坂純也は信じていた。


今後の守りについて、少しだけ話をする。銅谷京之介が他の闘いへと参加すれば、犠牲者が増える事は間違いない。だが、非戦闘員の守りが手薄になれば必ず狙ってくる。それでは、闘いどころではなくなってしまうのだ。


消耗は激しくなるが、結界を二重に張る事が出来る事は判った。結界内では、ビクサス・ガイが護りにつき、なるべく纏まって闘いに集中する事にする。


結界内でもゆっくりしてはいられない、それを先程証明されているのだ。


「俺は結界を出るけど、作戦通りに頼む。俺が銅谷京之介を止めて見るが、集中は切らさないでくれ」


銅谷京之介が向かった先には、ダ・ビャヌと郷倉未知瑠が居る。現在戦闘は行っていない様子だ、2人とは離れた位置で、仲間と会話している銅谷京之介の姿を確認出来た。


時坂純也は、そっと2人の側まで来ると、起きてしまった出来事を話した。


「悪い、フリム君が殺されてしまった。ここの状況はどうだ?」


「今の所は優勢ですかね。ですが、あの女性は回復魔法をかなり使える上に戦闘も強いので、長期戦は良くないですね」


郷倉未知瑠も回復魔法を使えるので、魔法を使った時の光り方や、治り方で大体の熟練度を見極める事が出来た。


桜井小夜が自身を癒やした時の光は、小さかったが傷の回復はあっという間であったのだ。


「もしかしたらですが、一昔前に噂になった回復の特殊スキル持った人間、という可能性があります······」


郷倉未知瑠から話を聞いて、時坂純也は気が付く事があった。


銅谷京之介という男は、見た目が少年の姿であり、狂気じみた行動をしている。だが、全ては計算した上で行っているのだと思い始めた。


闘っている間を思い返すと、実力は勿論の事、細かい強度などを段階的に測っていたのだ。極めつけは、回復役であるマクリーク・フルムをピンポイントで狙った事であった。


狡猾な人間である事に気付くと、少しの油断も出来ない。


「銅谷って奴は危険だな······2人も、あの男の存在を忘れないで闘ってくれ」


人の命を簡単に奪う様な人間が、誰よりも速いという事に、時坂純也は恐怖を抱く事になった。もうこれ以上、犠牲者を出さないと心に刻み、そして第2ラウンドが開始される。


✩✫✩✫✩


戦闘に参加した者で、一番苦戦を強いられていたのはディガルド・グリザハルであった。


創真晴人の多彩な魔法に、近づく事すら困難な状況、何とか接近出来たとしても、上手くカウンターで返されてしまった。


(こいつ、思った以上に強いぞ。勝てなくとも、他の決着がつくまでは私が······)


「諦めてくれたのかな? あなたじゃ僕には敵わないから降参してよ」


降参という言葉の真意は不明であったが、この男が戦闘を楽しむタイプでは無い事が伺える。それでも、正面からしか対峙出来ないのがディガルド・グリザハルであった。


「私に降参いう選択などない。決着は、命を奪うか奪われるかだ」


「仕方ないか······」


地面が揺れているかと思う程の振動が発生する。それは、創真晴人の土魔法が襲いかかる前触れであった。


ディガルド・グリザハルが踏む地面と、その周囲にまで振動が拡がると、準備は完了だ。


「覚悟はいいかな。それじゃぁ、行くよ」


足元から鋭く尖った地面が襲いかかる。ディガルド・グリザハルが避けると、避けた先から新たに発生する。


この攻撃が続く限り、立ち止まる事が出来ない。脱するには、術者を倒すしか思いつかない······


ディガルド・グリザハルが創真晴人が居る方向へと向う、地面から発生した攻撃を避けると、足元へ力を入れ、飛び跳ねようとした。


だが、顔を上げた時には、創真晴人が見えなくなるほどの、高い壁が生成されていたのだ。


(こんな土壁で、私を止められると思うんじゃないよ)


飛び跳ねると、魔物化した腕で壁を破壊しようとそのまま突っ込んでいく。だが、近づいた瞬間に無数の棘が壁から生える様に出て来るのであった。


(此れで、さよならかな······)


地面の振動は、土魔法で創り出した地面に変わった事を意味していた。そして、創真晴人の特殊スキル、性質変化が発動する。


すると、創真晴人が創り出した土が炎へと変化する。そして、躱す事が出来ない火の世界が出来上がった。


火の世界では、普通の人間は生きていけない。その認識で正しい筈だ、それが地球の常識なのだから······


炎の中から突然出て来たのは、大きく鋭い爪であった。油断していた創真晴人は、かろうじて腕でガードする。だが、ガードした腕には深い傷が出来てしまった。


(どうなってんた? モンスターが現れやがった······)


性質を炎に変えた事が失敗であった。ディガルド・グリザハルは、火炎蜥蜴と融合している事から炎に耐性がある。普通の炎では逆に回復する事も出来るのだ。


全身を魔物化させて現れたディガルド・グリザハルは、土の棘で負った傷も綺麗に治っていた。


初めて訪れたチャンスを手放すまいと、攻勢にでると、爪での斬撃を繰り返す。


創真晴人もメイスで応戦していた、油断さえしていなければ接近戦も負ける事はないのだ。


自分の限界まで速度と力を上げて攻撃する事で、魔法を使う暇を与えない。それも狙いだったが、本当の狙いは接近戦を嫌って下がった瞬間だ。


腕の痛みで、本来軽くあしらう筈の打ち合いが苦痛になる。すると、身体が自然と下がって行く。


ディガルド・グリザハルは、魔力を最大限使い自身の周りに炎を創り出す。それと同時に口を開け、炎のブレスを吐き出した。


(こんな手を隠してたのかよっ······)


創真晴人は一瞬焦ったが、土を盛り上がらせ自身の周りを覆う。そして氷へと性質を変え、炎を凌ぐ······


「はぁはぁ、ふぅ。侮った事は謝罪するよ······此れからは、僕も本気で闘うから」


水蒸気の中から姿を現すと、少なくない火傷を負った創真晴人が言葉を発する。此れからが本番だと、ディガルド・グリザハルを敵として認めていた。


✩✫✩✫✩


(やっぱり時坂さんは僕に着いてくるよな。小夜達が勝つには、仁がどれだけ闘えるかだけど······)


結界に向って動き出した銅谷京之介を、時坂純也が追う形で移動していた。


銅谷京之介が止まって待つ位置は、結界を破壊しても時間を作れるであろう絶妙な位置取りだ。


「僕を追いかけてないで他の戦闘に加勢すれば、最終的な勝率は上がるんじゃない?」


「お前が大人しくしてくれるならそうするけどな、大人しくなんかしないだろ?」


「勿論だね、僕は僕の目的の為に行動する。この状況じゃ、時坂さんとは闘う事から逃れられないみたいだね」


「そうだな、もう引き返す事なんか出来ないだろうな······本気でいくが、後悔するなよ」


時坂純也は、相手の命を奪う事への覚悟を決める。この男は、会話をしても、言葉に真実味が感じられないのだ······野放しにしてしまえば此方が後悔する。


2人の闘いが再会される。銅谷京之介は、最初から本気で闘う様子を見せていた。特殊スキルを発動させながら、距離を縮める。


(圧倒的な速さが武器だって事はもう判ってるぞ、自由に出来ると思うなよ······)


時坂純也は、行動を阻害する為に魔力の塊を所々に創り出す。


(何の対策もしないと思ってるのかな、僕を甘く見ないでほしいな)


銅谷京之介は、電撃を時折発しながら近づいていた。動き辛いのは変わらないが、魔力の塊に接触する事なく距離を詰める。


視認出来ない変わりに、魔力の塊を電撃で察知していたのだ。


時坂純也は後へ距離をとる。接近戦を得意としている時坂純也が、距離をとって闘おうとするのは始めてだ。


(あの電撃も厄介だな······)


痺れて動きが鈍るのを嫌っての行動であった。だが、得意としていない距離であっても、やりようは有る。


(ちっ、電撃で察知出来ても邪魔なのは変わらないか······それに距離を離してくるなんて、何を企んでいるのかな? まぁ最短で距離を縮めてあげるよ)


電撃の範囲を大きくして、魔力の塊が創られた場所を広範囲で把握する。電撃は時坂純也の居る位置にまで広がり、最短で到達出来る動線が露わになった。


(ほら、行くぞっ)


全力で動き出した銅谷京之介の速さは、目で捉える事が難しい程だ。薄っすらと残像を作りながら距離を縮める。


魔力の塊をぎりぎりの位置ですり抜け、密集した塊は、一刀で最多の塊を斬り裂く。時坂純也までは、あと少しだ。


(やはり、対策してるな······短時間で恐れ入ったよ)


互いに2メートルの距離で目が合うと、手札を切っていく。銅谷京之介は最大限の電撃を放ち、時坂純也は魔力で直接拘束する。


先に攻撃が到達したのは、銅谷京之介の電撃であった。


時坂純也も、電撃に対しての対策は考えてある。自身の周りに球体の魔力膜を張り、更に密着した形で自分を覆う。二重の魔力で凌ぐ算段であった。


(良し、電撃だけなら魔力膜を突破される事はないな)


銅谷京之介の身体には、分厚い魔力が絡み付いている。それ以外にも、周りは魔力の塊で溢れ返っていた。


(拘束出来る程、正確に創れるのか。魔力操作の特殊スキルって凄いな······でも、これぐらい)


力で拘束を振り解く、銅谷京之介は簡単ではないが出来ると信じていた。


だが、時坂純也の狙いは拘束ではないのだ。拘束に使った魔力と、周囲に密集した魔力を同時に爆発させる。これが、時坂純也が出来る遠距離攻撃であった。


大量の魔力が一斉に爆発すると、大爆発で空気に振動が走る。


時坂純也はどれだけの効果があったのかと、追撃せずに様子を窺う。煙が晴れた後に、銅谷京之介の姿が現れた······


「凄いや、闘う程予想を超えてくるんだもんな。間違いなく、今迄で最強の相手だよ」


無傷、嫌······少なくない傷があったのは、銅谷京之介の身体に付着している血が物語っている。だが、淡い光と共に癒やされていたのだ。


(こいつ、回復魔法も使えるのか······)


「今、回復魔法も使えるのかって思ったでしょ? これぐらいはネタばらししてあげようかな、僕には小夜の回復魔法が掛かってるんだよ」


桜井小夜、回復魔法の特殊スキルは色々な方法で回復する事が出来た。「おまけも付けておく」と言って付与されたのは、傷が出来る度に自動で回復していく魔法だったのだ。


「くそっ、そんな魔法があるのか······」


銅谷京之介に、少し心境の変化が見える。


それは、復讐に狂った心と、強い者に勝ちたいと願う、純水な心が見え隠れしていた······



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