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第三章【異世界からの願い】互いの相手

時坂純也と銅谷京之介の会話は終わりを迎え、他の者も、各々で動き始めた······


「郷倉さん、三度目のお相手をお願いします······」


佐久間仁が声を掛ける。一度目や二度目とは違う、状況は深刻さを増していたが、丁寧な言葉には尊敬が含まれていた。


「随分としおらしくなりましたね、この状況で闘うのなら、今度こそとどめを刺してあげましょう」


「そんなに上手くはいかないと思うよぉ、こっちだって仁君だけじゃ勝てないのは判ってるんだから。1人で闘わせる訳ないでしょ」


佐久間仁の隣に居た桜井小夜が、会話に割り込んでくる。今回の郷倉未知瑠の相手は、桜井小夜が本命になるのだから。


言葉も雰囲気も柔らかい女性だったが、郷倉未知瑠は警戒を強めた。桜井小夜の瞳に、闘志が漲っているのを感じとったのだ。


「2対2、早く、倒す」


其処へダ・ビャヌが参戦する。ここに来てから、よく連携をとっていた2人だ、ペアとしては申し分ない。


「2対2かぁ、まぁそっちのがいいよね。よっしゃ仁君、頑張りますか」


✩✫✩✫✩


4人が少し離れた位置へ移動していくと、残されたのは、ディガルド・グリザハルと創真晴人だ。創真晴人は、予定よりも相手の数が減った事に口元をニヤつかせる。


「貴様、何を笑っている。私を甘く見るんじゃないぞ」


「ごんなさい、そんなつもりじゃないんだよ。僕の相手はもっと多い予定だったから、ついね······」


ビクサス・ガイも、ビグラウト・テラネウスを治療する為に一緒に結界に入った事でこの場には居なかった。後で合流はするだろうが、人数が減った事に変わりはない。


各々が闘いを始めようと、殺気だっている。その時、結界の中では大半の者が闘いを見守るのだが、1人いち早く次の行動を決断している者が居た。


✩✫✩✫✩


「彰さん、今がチャンスじゃないですか? 私レミアノを捜しに行きたいです」


「う、ん。でも、ちょっとだけ考えさせて······」


三日月愛の提案に、直ぐに賛同出来なかったのは幾つか理由がある。一番は危険すぎる事だったが、囚われた場所も判らないのだ。


黒街彰が何かヒントがなかったか考えると、1つの疑問に辿り着く。その疑問を抱いたのは、銅谷京之介が言っていた『西の探索者』という言葉だった。


「愛ちゃん、直ぐに戻るからちょっと待ってて」


黒街彰が向かったのは、現在治療の為に結界に戻ったビクサス・ガイとビグラウト・テラネウスの所であった。


「テラさん大丈夫ですか? ちょっと聞きたい事があって······」


黒街彰が疑問に思ったのは、結界を越えた先がどうなっているのかであった。その問にビクサス・ガイが答えを話してくれる、そして黒街彰の行動が決まっていく。


(無策で行動するよりは可能性が上がったかな。うん、可能性があるなら······)


最初に居た場所は、北の扉から入った『アリスフール』であった。そして結界を抜けた先が、中央の扉から入った『アリスフール』だと聞いたのだ。


そして、西の探索者が現れた事を加味すると、西の扉から入った『アリスフール』にファリアンス・レミアノが囚われているのではないかと考える事が出来たのだ。


「どの位置で結界を抜けると、西の扉があるかは知ってますか?」


「俺も詳しくは判らないんだけどな、君達の世界と方角は同じに創られたって聞いているな」


(一度目の結界を抜けてから直線で進んだよな、北から中央へ入って真っ直ぐ進んだら、海だよな······)


(って事は、来た方角から右に移動していけば良いのかな。敵が来たのも、その方角だしな)


黒街彰は、ある程度の考えが纏まると、行動に移す前に作戦を話し合う時間を作る。


ファリアンス・レミアノの救出を提案した三日月愛と、館浦喜助、時坂翔太、最近一緒にモンスターを狩っていたディガルド・フィオル、それと治療を終えたビグラウト・テラネウス、ビクサス・ガイ、マクリーク・フルムで話し合いを始めた。


「時間がないと思うので簡単に話します。俺の予想では、もう一つ結界を抜けた先にレミアノが居ると考えてます。それと結界は、敵が来た方角に進むと抜け穴があるかと。皆で話したいのは、無事に向う方法と救出に向う人選です」


黒街彰のパーティーが向うのは決まった様な物だったが、他にも必要な人材がいる。


「無事に向う方法だが、ピグの幻術を使うはどうだ?」


ビクサス・ガイが提案したのは、仲間のミクレリア・ピグが使う幻術で姿を隠す事であった。

他にも「探索術も必要だな」と提案してくれる。


「俺も救出に参加させてくれ、ここに来た敵はかなりの実力者みたいだ。俺では足手まといになりそうだしよ······」


ビグラウト・テラネウスは、反応も出来ないで命を失いかけた事で自信を失っていた。だが、ファリアンス・レミアノの救出を諦めた訳ではない、自分に出来る事を精一杯やりたいのであった。


「俺も一緒に行くよ、彰のパーティーには火力が必要だろ?」


次に参加の意志を示したのは、ディガルド・フィオルだ。この数ヶ月で、皆と友情を深めていた事が決意の決めてであった。


黒街彰のパーティーと、ビグラウト・テラネウスとディガルド・フィオル、幻術を使えるミクレリア・ピグ、探索術を使えるプロテラス・ガディ、この8人で向う事になった。


黒街彰の提案で、闘いがもう少し激しくなってきたら出発する。それまでは、結界の中で緊張を深めていく······


✩✫✩✫✩


結界から大分離れた場所では、フォンス・カーリルとクレイス・ファーナが向き合った状態で戦闘を開始させようとしていた。


最初から全力で攻撃するつもりのクレイス・ファーナが、魔力を大きく使い強力な炎を創り出す。それを、フォンス・カーリルが言葉で静止させた。


「そんなに焦るんじゃねぇって。知りたくはないか、クレイス国がどうなったのかをよ?」


クレイス・ファーナにとって、自身の仇討ちと同等、天秤が揺らぐことがない程、迷う選択であった。情報を聞いてから戦闘を開始しても良いのだが、男の言う事を聞いてペースを握られれば、前回の二の舞いも考えられる。


「目的が何かを先に申せ、貴様が悪人だって事は揺るがない事実であろう······」


「悪人ってなんだろうな······まぁいいけどよ、正直に言うと目的は時間稼ぎだよ。あいつが此れから起こす事に興味が出たから協力してるってとこだ」


フォンス・カーリルは正直に話す。正面から本気で戦闘をして時間を稼ぐよりも、多く時間を稼げるからだ。それに、この戦闘には興味を惹かれていない······フォンス・カーリルにとって、何方が勝っても最高の結末になる事はないのだった。


「時間稼ぎか······ならば話せ。妾が居なくなった後の顛末をな」


フォンス・カーリルは、なるべく長くなる様に知っている事を細かく話し出した。


先ずは、クレイス・ファーナが命を失った大戦がどうなったのかを。


「その後は、クレイス国が撤退したんだよ。詳しくは判らねぇが、クレイス国の人間は散り散りになったと思うぜ」


ディガルド・グリザハルも同じ戦場で散った事を知っていたので、一応は納得する。だが、他にも実力者は居た。クレイス・ファーナの次に高い実力を持った将や、レーシアという将来を期待した少女が残っている事が気になっていく。


「その程度で、妾の国が滅ぶには程遠かろう。まだ抗える戦力は十分にあった筈じゃ」


「そうかもな、あんたが居なくなれば計画は成功だった。あの時は、直に滅ぶ国だとしか思ってなかったよ······」


クレイス国に対しては、言葉に含みを持たせて次の展開を話し始める。その大戦を契機に、他の国でも争いが始まった事を。


知っているだけの、国と国の争いを話した後は、自身の最期を迎えた話になる。


「この話は、やっぱ言いたくねぇな······」


話したくないのは、クレイス・ファーナが喜ぶ顔が目に浮かぶからであった。


「話さぬのなら、痛めつけてから聞くとしよう。何やら楽しそうな話が聞けそうで、力が湧いてくるわっ」


変にやる気を漲らせるクレイス・ファーナを見て、時間稼ぎが足りていないと心の中で嘆く。仕方なく、続きを話す事にする。


「ちょっと待て、話してやるよ」


深く思い出しながら、自身の最期を語り出した。


悪魔と協力して王にまで成り上がった存在、その王が裏切った状況。その王に代わり、新たな若き王が誕生する。


悪魔の王に脅威になり得る存在を始末するのが、生前のフォンス・カーリル役割であった。


若き王が脅威になり得ると判断され、始末する為に動き出した所から最期は始まった。


王を相手にするということは、国を相手にする事だ。若き王を始末するチャンスをつくる為に、悪魔に属した別の国を動かす。時間が掛かった事に嫌な想いが蘇ってきた。


(今思えば、この時間を与えた事が敗因だったかもな······)


時間を優位に使えるのが、若き者の特権だと気付いて、ため息を吐く。予想以上の早さで成長した者が2人居たのだ。


若き王が治める国と、悪魔に属した国が衝突する。悪魔も何体か参加していたにも関わらず、若き王が治める国が優勢のまま戦況は進んで行った。


戦況など関係ないと、若き王を始末する為に動いていたフォンス・カーリル。行方を捜していると、自身を捜していた別の人物に見つかってしまう。


「その見つかった人物が、言いたくなかった理由だよ······レーシアだ」


クレイス・ファーナに師事していたレーシアという少女は、大人の女性へと成長していた。変わったのは、見た目だけで無く実力もクレイス・ファーナに追いつく程まで成長していたのだ。


「レーシアが俺を見て言ったのを、鮮明に覚えてるよ。実の親の仇、そしてあんたの仇を討ちに来たってな」


見つかった時に、言葉と共に衝撃であったのは、真っ赤な髪を揺らして、色々な感情を含んだ瞳がフォンス・カーリルを射抜いていた事だ。


美しさと狂気を全身から発する姿に身震いした事を、身体が思い出していた。


「レーシアは強かった、心も能力も全てが俺の命を求めているのが判った。そして、その闘いが俺の最期だった······」


「ははっ、ふっはっはっ、その話しが真実ならば、愉快な話よのう。良い話が聞けたわ、お礼に跡形もなく燃やし尽くしてやろう」


クレイス・ファーナは満足していた、仇をとった者がレーシアである事に。そして、フォンス・カーリルの最期は、話が最後である事も示す。


そう判断すると、動き出していた。クレイス・ファーナは、気持ちの高ぶりが抑えられないまま襲いかかる。


「まだ話は終わりじゃねぇってのによっ」


フォンス・カーリルは、まだ話があると言いながら戦闘態勢を整え、戦闘が開始される。


レーシアとの戦闘を思い出して、自分の気持ちも高ぶっていた。それは、全力で闘いたいと、時間稼ぎを忘れる程に高揚しているのであった。



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