第三章【異世界からの願い】西への訪問
唐代一心の行方を掴む為に、水元茜が準備を進める。自ら西へ乗り込むのには、相当な覚悟と綿密な準備を必要としていた。
先ずは、水元家が治める地域で手掛かりがないのか、調査を再度実施していく。歴代の首相に関しての情報は、特に人員を割いて細かく探っていった。
そして、歴代の首相に焦点を当てた調査が功を奏した結果、重要な手掛かりを入手する事に成功しているのであった。
「ふむ、此れで西を探る手掛かりが出来たのう。次は、あの男と連絡をつける。司、お主が持っていた魔導具はまだ機能しておるのか?」
水元茜が問いかけた魔導具とは、北陽公雄と連絡を取っていた時に使った魔導具だ。
水元茜が次に行うのは、五ノ扉が閉まった事で困っているであろう本城尊に、交換条件を持ち掛ける事であった。
「はい、起動して相手が出るのかは定かではないのですが、魔導具自体は機能しています」
「今日中に、北と連絡をつけよ。明日に私から話が有ると伝え······そうじゃな、時間は夜の21時に本城尊と約束を取り付けておけ」
水元茜は、1日考える猶予を作る事にした。春日谷龍の件で、取引相手としては良く思われていない。それよりも、恨まれていると言った方が正しいのだ。
その事から、水元茜は言葉を慎重に考える必要があった。
相手の本城尊も、いきなりで感情的にさせるより、知識人である北陽公雄と話す時間を与えた方が、交換条件が上手くいくであろうという思惑もあるのだ。
(感情を逆なでせねば、取引には応じるとは思うがのう、もう一度考えをまとめておくとしようか······)
翌日、時刻は夜の21時に間もなくなろうとしていた。
「予定通り、此れから本城尊へ連絡を入れる。皆は静かにしておれ」
前日に魔導具を起動させると、無事に北陽公雄と繋がる事が出来た。
北の人間は何やら騒がしく、色々と問題が起きているのが予想出来たのであった。
「水元家当主、水元茜だ。今は女王とゆう肩書の方が威厳が合って良いかのう?」
本城尊が連絡用の魔導具に出ると、大層な名乗り方でマウントを取り始めた。
「うるせぇ、今の状況で連絡してきたって事は、てめぇが未知瑠の件に関わってんだろう」
本城尊が最初に発した言葉、その意味を理解出来ないで困惑する。予想外の展開に、昨夜考えた展開は無意味だったと溜息が漏れる。
「ちょっと待て、知らん話が混ざってる様じゃのう。一度落ち着け······互いの話を、すり合わす事から始めぬか?」
水元茜は、信用を得る為に自分の方から状況を話し出した。
水元茜は、先ず自分達が唐代一心とゆう男を本格的に調べ始めた事を説明する。その為に、水元家の総力を上げて西へ向かう予定である事も隠さずに話した。
そして、持ち掛けたい話は、中央の扉へ出入りする権利を大々的に許可する代りに、中央と北が停戦状態に入った事に賛同したと公表して貰う事なのであった。
「てめぇは、敵だろうが。龍の事を忘れてんじゃねぇぞ、ケジメが先だろうが」
時系列は、郷倉未知瑠が失踪して数日が立った頃だ。その頃の本城尊はかなり荒れていて、感情が表に出やすくなっているのであった。
「そのケジメであった佐久間仁の事にも、唐代一心が関わっていると見ておる。だからこそ中央を空けてまで西へ向うのじゃ、納得してくれぬか?」
「······未知瑠の事は知らねぇのか?」
北の地では、本城尊の事を周りが宥めていた。
腹心であり、長年の相棒でもあった郷倉未知瑠の行方が解らなくなった時に、十傑や北陽公雄が本城尊を責めた事を謝りながら、落ち着く様に説得しているのだ。
郷倉未知瑠が居なくなった時に、最初は冗談のつもりで言葉を発していた。本城尊が冷たくしたから、どこかに行ってしまったと······
本城尊も最初の内は、戻ったら謝る「誤ったら良いんだろう」と簡単に受け流していたのだが、数日が立つと心配する気持ちが大きくなっていった。
春日谷龍の件から、暗殺が頭を過ぎっていたのだ。それからは、感情の起伏が大きくなっていったのであった。
「郷倉未知瑠の事は、何も知らんぞ。此方も話たのじゃ、お主もちゃんと説明せよ」
郷倉未知瑠の行方が判らなくなった事、同時に黒街彰のパーティー、時坂純也の家族も見当たらない事を話す。説明をしたくとも、居なくなった事ぐらいしか判らないのだ。
五ノ扉が閉じた少し後に、原因不明の失踪が起きた。北の者達には、それが関係があるのかも不明であった。
「中央の五ノ扉を開き、関係があるのか確かめるのも1つの手じゃ。それと、我等が西で郷倉未知瑠の情報を手に入れたら直ぐに教える事も約束しよう」
郷倉未知瑠の行方について、手掛かりがないのを察した水元茜が、ここぞとばかりに好条件を提示する。
本城尊にとっても、良い話だと理解は出来た。だが、春日谷龍の件を考えると素直に受ける事が出来ないのだ。それを察したのは、近くに居た北陽公雄だ。冷静に対処すべく、後日解答する様に耳打ちしたのであった。
本城尊との話し合いは、大凡上手くいったと水元茜は考えると、次は西へ行く準備に取り掛かるだけだ。
西へ向かう人選は予め決めてあった。水元茜、更井賢人、戸倉芙美、菊本十三、清水司、大膳忠行、それと諜報員を数名。実力者は全員参加での構成だ。
実力者を失う事が戦局を大きく左右する、その事を一番に考えた結果、各個撃破されない為に幹部全員での行動にしたのだ。
更に安全策として、女王陛下の西への視察は大々的に放送する。一般市民の目も、手出しさせない1つの手段として活用するのであった。
2日後、日本全国に2つの大きなニュースが流れる事になった。女王陛下になり、始めて大きく行動する報せ。それと、北との和解の件。本城尊が、中央の扉へ来る事は伏せていた。
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「西へは久しぶりに来るが、中央よりも活気があるのかもしれんな」
水元家の一行が、大阪府、堺市の街並みを眺めながら歩いている。
時折すれ違う探索者には、厳しい視線を向け西の実力を測ろうとしていた。
扉がある地点へと辿り着くが、其処へは寄らずに通り過ぎる。目的地は、別に有るようであった。
「茜様、扉への入口を見てください······」
更井賢人が気が付いたのは、扉への入口に立って居た人物。それが、岡本邸に居た唐代一心の配下の者であったのだ。
緑色の髪は特徴的で、水元家一行に気付いてくれと言っている様な物であった。明らかな罠の気配に、動き出すか迷う······
「今は止めておけ、相手の挑発に乗ることもあるまい。此方の予定で行動するぞ」
堺市の中心を通り過ぎ、外れの方まで歩くと目的地が見えてくる。
目的地とは、銅谷権兵衛の屋敷であった。過去を調べる事で、銅谷権兵衛までは辿り着く事が出来ていたのだった。
今回は、襲撃者としてやって来た訳ではない。銅谷家には、予め訪問の許可を貰っている。
銅谷家の玄関へと戸倉芙美が向うと、水元茜が到着した旨を伝える。すると、中から案内の者が直ぐにやって来た。
銅谷家の屋敷は、水元家の屋敷程の大きさではないが、日本家屋の豪邸と言って良い大きさを誇っていた。その中へ案内されるままに着いて行くと、全員が入っても余りある部屋へと到着した。
「此方で銅谷様がお待ちしております。お客様を、連れて参りました」
部屋の中へ入ると、座敷に腰掛けて居る人物が目に入る。その初老の男が銅谷権兵衛、水元茜の計画を潰した黒幕である。すぐ後ろに立って居るのは、唐代一心であった。
唐代一心の他にも、4人護衛と思われる人間が立っていた。その人数は、水元家と合わせる形を取ったのであろう。
「女王陛下自ら足を運んで頂いて恐縮です。本来、此方から出向くのが筋でございます。次回からは、お呼び付け頂けたら此方が伺わせて頂きます」
「ふん、堅苦しい言葉を使いおって。心無い言葉は実に不快なものじゃのう······」
水元茜は、言葉に対して不満を露わにしているが、気になっているのは銅谷権兵衛の見た目であった。
「厳しいお言葉ですな、政治とは心無い言葉のやり取りでしょう? 陛下の様な正直なお方には、本物の政治家が必要かもしれませんね」
この言葉も又、心無いものであった。無駄なやり取りにうんざりとする水元茜は、本題を切り出す。
「直接出向いたのは、裏でコソコソと動く貴様等が目障りであったからじゃ。お主は何を狙っておる?」
「はぁ、探索者から成り上がった者は、全く持って直接過ぎる。私達が如何に政治の世界で苦労したかご存知無いらしい······」
銅谷権兵衛は、過去の体験を語り出す。今のような、個人の圧倒的な力で支配する事が出来なかった頃の話を。
水元茜にとっては退屈な話だ、日々権力者へ顔を売り、大物政治家の娘と出会う。自身の地盤を築く為に奔走して、毎日の様に権力者達に媚びを売る。
「世界に謎の扉が現れる前は、こんな毎日をおくっていたのだよ。私の目標は、日本を世界一の国にする事だ······」
いち早く対応したにも関わらず、障害は新たに現れる。その障害こそが、北の地を支配下に置いた本城尊であった。
「本気で扉を攻略しようとする者達が、私の妨げになってね。世界どころか、日本すら纏める事が難しい状況になってしまった······」
世界に対抗する為に、日本の戦力を削る選択肢は無いと、銅谷権兵衛が怒りを露わにする。
「それでもね、日本は纏まりのある方だ。私が平和へと導いたのだ。努力の賜物だと思って欲しい······」
水元茜は大人しく聞いていたが、中々本題に入ろうとしない話に痺れを切らしていた。
「いい加減にしろ、結局のところ私達を北へとぶつける算段であったのだろう? 戦力を削る選択肢が無いなど、戯言をほざくな」
「それは間違いだ、結果を見れば判るだろう? 大きな衝突は回避された、我々が姿を現す事でね」
水元茜は、銅谷権兵衛の言葉で何が真実なのか判断出来なくなっていた。信用に値する人物では無いと思いながらも、別の選択肢を植え付けられる。
この男との会話では、水元茜には勝ち目がないのだと皆が悟っていた。
「聞きたいのは、私の狙いでしたね。私の思いは最初から何も変わっていないのですよ、共に日本を世界で一番の国にしたい。協力してくれませんか?」
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「彼女は返事をしなかったな、全て計画通りなのか?」
水元家の面々が立ち去った部屋には、銅谷権兵衛と唐代一心の2人だけが残っていた。
「計画って言うほど考えてはいないが、日本の戦力は大事にする。今迄での計画は全て白紙だ」
「そうか、京之介が手に入れた情報を大層気に入った様だな」
「それはそうだろう、此れで世界に差をつける事が出来るのだぞ。必ず、九部には成功して貰わないと困るな······」
「それもそうだが、京之介が暴走してる件はどうする?」
「先ずは、あれの対応だな······考えはあるが、止まらない様であったら、その時は一心に頼る事になるな」
『アリスフール』で現在進行系で起きている事態は、九部大吾から銅谷権兵衛と唐代一心へ伝えられていた。
水元茜が知りたかった、銅谷権兵衛の狙い。その狙いに変化があった現在、異世界を扉で繋ぐ能力を持つファリアンス・レミアノ利用し、日本が世界を手に入れる······銅谷権兵衛にとって水元茜など、野望を叶える為の駒でしかないのであった。




