第三章【異世界からの願い】最悪の出会い
銅谷京之介の顔付きは変わっていたが、言葉は変わらず問を続けていく。
その言葉は、必要に真実を求めていた······
「その扉を創る能力で、地球にも扉を出現させたのかな?」
「えと、私の先祖が創ったと、聞いてます······」
「何の為に創ったんだ?」
「そ、それは······わかりませ、ん」
「じゃあ、君は何しに来たのかな?」
「ちょ、調査をしに。異常がないか······」
「調査は、何人で来たんだい?」
「20人程で······」
「ほう、20人か······其れで、異常はあったのかな?」
「は、はい。ひ、人が蘇っていて······」
「それは、この男の事か?」
「い、嫌、別の人で······」
「その別の人間に仲間が捕われたのか、そして助けに来たと?」
「はい」
「1人で来た訳がないよね、誰と来た?」
「ち、地球の人に力を借りて······」
「其れは、誰だ?」
「それは、言いたくないです」
「地球人は、まぁいいか······他に言っておく事はあるか?」
「と、とくには······」
「そうか、もう一度だけ聞くよ、何の為に地球に扉を創った?」
「······わ、わかりません」
ファリアンス・レミアノが言葉を発した瞬間、刀が空気を斬り裂いた音が耳に伝わってくる。
ファリアンス・レミアノの頭上には、刀が光り輝いている。その光に恐怖していると、徐々に痛みが襲いかかってきた。
「ぎゃぁぁっ、うっ、い、いた、い」
ファリアンス・レミアノが自分の右手を見ると、手首から綺麗に斬り落とされ、地面を赤く染め始めていた。
「ふっはっはっ、まさか、出会えるとは思わなかったよ。僕が憎んでいる物が実在しているなんて、存在しているなんてね。しかも、人だ。生きた人が対象なんて、わかり易くていいじゃないかっ」
銅谷京之介が豹変する。怒りと憎しみを露わにして叫んでいた。
家族を、人生を変えられてしまった扉の存在。なぜ扉が現れたのか、誰が創り出したのか、疑問と恨みを抱えて生きて来たのだ。
✩✫✩✫✩
銅谷京之介の心に、憎しみが宿ったのは10歳の時、地球に扉が出来て少し立った頃であった。
銅谷京之介は、銅谷権兵衛と銅谷桐葉の次男としてこの世に生を受けた。
当時、銅谷家は政治家の家系であり、多くの資産を持つ資産家でもあった。そして銅谷権兵衛は婿養子として銅谷の姓を受け継いだのだ。
2人の子をもうけ、政治家としての歩みも順調であった。その成功の裏には大きな野心が存在していたが、表に出る事はなく家族は幸せな生活をおくっていた。
それが変わり始めたのは、地球に扉が現れてからだ。銅谷家は、いち早く権利を手に入れようと動き出していた。
銅谷権兵衛は、扉の中で手に入る物の情報を聞くと、同家の政治家が考えるよりも、もっと先の事を考え始める。
過去に剣術を習っていた銅谷権兵衛は、現在は疎遠になっていた親友へと連絡をとった。それが唐代一心だ。
そして2人は、将来の夢を語り合い、其れを現実にする為、協力する関係になるのだった。
銅谷権兵衛の考えでは、近い将来、個人の力が支配する世の中になると予想していた。力とは文字通りの力である。
自分達で手に入れるだけでは、他に差をつける事は出来ないと考えると、宝玉を集める事に惜しみなく金を注ぎ込む。金の出処は、自身の貯金だけでなく、銅谷家の資産を勝手に使い込んでいたのだ。
ある日、義理の父である銅谷泰昌に資産の持ち出しがばれてしまう。すると金銭的にも厳しくなり、更には権力を使えない日々が計画を一層遅らせる事になった。
困った銅谷権兵衛は、妻である銅谷桐葉に協力を願い出た。この時までは、家族を巻き込む事を良しとしていなかったのだが、遂に家族よりも自分を優先したのだ。
だが、銅谷桐葉が協力する事はなかった。資金も底をつき何も出来ない状況を把握していた銅谷桐葉は、あえて協力を断った。家族想いの優しい旦那に戻って貰いたかったからだ。
そして銅谷京之介が、愛する母を失う日がやってくる······
銅谷権兵衛が唐代一心を連れ、銅谷家の人間へ説明会を開く事になった。義理の父である銅谷泰昌に頼み込み、進退を賭けて何とか実現までこぎつけたのだ。
この時、銅谷権兵衛は2つの選択肢を用意していた。
1つは、自分の考えを話した後、賛同して貰い今迄通りの立場に返り咲く事が出来れば、銅谷家の一員としてもり立てていく。
もう1つは、銅谷家を滅亡させ、全てを自分の物にするという悪鬼の様な計画であった。
計画の前日、下準備の為にとある組織へと連絡を入れていた。その組織へ持ち掛けたのは、銅谷家の人間が一堂に会する日取りを伝え、襲撃させるという内容であった。
成功の暁には、資産の半分を報酬として支払う契約になっていた。
実際は、犯人に仕立て上げ、更には、唐代一心に皆殺しにさせる計画だ。只の人間が相手ならば、計画を可能に出来るだけの力を既に唐代一心は手に入れていたのである。
そして、電話での話を盗み聞きしていた銅谷桐葉が、銅谷権兵衛へと問い詰める。
「ちょっと、今の話はどうゆうことですかっ?」
「聞いていたのか······しょうがないんだよ、今が行動すべき時なのだから」
お互いに納得など出来る訳がなく、言い争いが激しくなる。其処へ長男も駆けつけ、母の後ろで2人の話を聞いていた。
「そんな計画、辞めて貰えないのでしたら流石に父に言うしかありませんよ······」
この言葉が決定的であった。銅谷権兵衛は、棚に掛けてある刀へと手を伸ばす。
「と、父さんっ。何をするのですかっ」
長男が両手を広げ、母を守る為に立ち塞がる。子供には、大人の決意がとても恐ろしい物だとは、まだ理解出来ないのだから······
銅谷権兵衛は、何も言わずに動き出した。長男の心の臓を一突きすると、そのまま持ち上げる様にして自身の妻も同時に突き刺す。
「すまない、俺は止まらん······」
妻と子を亡き者にする。其れは悪鬼の所業であった。それでもまだ、人の血が少しは通っていたのだ、扉から覗く次男の姿は見て見ぬふりをしていたのだから。
この日、この時に恐怖と憎悪が心に刻まれる。その感情は、長い時の中でも消える事なく渦巻いていたのだ。銅谷京之介の見た目が少年の姿のまま変わらないのも、押し殺していた感情が原因なのかもしれない······
そして翌日になり、作戦は実行される。血の匂いが屋敷に充満して、常人には耐え難い環境に変わっている。
その中でも、銅谷権兵衛と唐代一心は平常心を保っていた。それだけ覚悟を決めていたのだろう。だが、銅谷京之介は違う、この場に連れて来られ一部始終を見ることになった······
昨夜の出来事だけでも、心が悲鳴をあげているのに、数時間後には、大勢の人間がこの世から消える瞬間を間近で見なければならなかった。
飛び散った血が、頬や身体に付着している。
「京之介、選びなさい。復讐するのか、共に生きるのか」
この状況で、銅谷権兵衛が選択を迫る。まだ10歳の子供にだ。これは、一種の精神操作であった。
自分が自分の意思で、共に生きる事を選択したと思わせる。そうせざる負えないのに······
「と、父様と生きます······」
家族への思いと引き換えに、銅谷権兵衛は強大な存在へと上り詰めて行く。生きる事を望んだ息子とも、心を交わす事はもうないのであった。
銅谷京之介は、唐代一心の元で鍛えられる事になり、肉体はどんどんと強くなっていく。精神を覆う物もより強靭になるのだが、その中身がどうなっているのかは、自分にも解らない。
✩✫✩✫✩
「ふぅ、ふぅ、ふぅ······小夜、この娘を生かしておいてくれ」
銅谷京之介は、ファリアンス・レミアノの治療を終えると、仲間に別の場所へ連れて行くように指示を出した。
残った銅谷京之介が、フォンス・カーリルとカブラル・ディグの2人に、選択肢を突きつける。
「君達2人はどうするのか教えて貰えるかな? 僕の味方になるのか、敵になるのかを······」
(何だか可愛くなったじゃねぇか、こんなに感情を表に出しやがってよ。それに復讐はいい、俺好みの展開だぜ)
「俺は、手を貸す事にするぜ。異世界での争いに参加するのも面白そうだからな」
フォンス・カーリルは、この男に着いて行けば昔を想起させる出来事が待っていると、争いに参加する事に意欲的であった。
「貴様に味方して、俺に何の得がある?」
カブラル・ディグは、意味なく争いに参加するタイプでない。過去の争いでも、世界を手に入れる為に動き出したのだ。
「そうだね、あの娘が産まれた世界を滅ぼしたら、君にあげるよ。それでどうだい?」
「そりゃいい報酬だ。まぁ一度敗れた身だしな、それに侵略者には最高の待遇だよ······」
プライドの高い男であったが、命を失って幾分丸くなっていた。それでも、1つの世界を滅ぼそうとする辺り、カブラル・ディグも危険な存在であるのだった。
「これで同盟成立だね。先ずは、娘の仲間を捕まえようか、強い奴もいるのかな?」
ファリアンス・レミアノと銅谷京之介が出会う事によって、最悪の同盟が成立してしまった。
ファリアンス・レミアノを救出する壁は更に高くなる。無事に救出する事は叶うのであろうか······




