第三章【異世界からの願い】結界
ファリアンス・レミアノの捜索は、進展の無いまま時間だけが経過していた。
4人での捜索から、機動力が高い時坂純也がプロテラス・ガディを背負い、2人で飛び回る事にしたが、手掛かりの1つも見つからなかった。
「あり得ませんが、結界を越えているのかもしれませんよ」
意見を述べたのは、トレカール・ラズモアだ。現在は、闇雲に捜索していても拉致が明かないと、全員で集まり意見を出し合っていた。
結界術の使い手であるトレカール・ラズモアが言うには、世界に施されている結界を抜けるのは不可能だと思っていたらしい。
その理由を詳しく説明してくれた。
この世界には、格子状に幾つもの結界が張られている。その結界には幻術と転移術、そして空間術も施されている為、気付かない内に結界に触れても、結界内を彷徨うだけで一切進む事が出来ないのだ。
世界に結界を張ったのは、自分達の祖先だと伝えられているが、同じだけの使い手など見た事もない。その為、結界を越える事が出来るのはファリアンス・レミアノの能力だけであった。
「それじゃ、レミアノが協力してたら見つけられないって事ですか······」
話の中から、何かヒントがないかと聞いていた黒街彰が、最後まで話を聞いて項垂れていた。
「もしかして、その結界を越えると別の扉があったりします?」
日本にも3箇所、異世界へ繋がる扉がある。中央の扉から入り、北の扉から出る。それが出来ない理由が結界にあるのではと、黒街彰が思いついたのだ。
「正解ですよ、彰君は頭の回転が速いね」
此処まで話せば、何人かは思いついていた。結界を越えて別の扉へ辿り着く。それがファリアンス・レミアノを見つける以外に地球へと帰れる唯一の手段だった。
「何もしない訳にはいかないだろ、とりあえず結界とやらを調べてみるってのはどうだ?」
中々良い案が出なかった事から、時坂純也の提案で話を進めていく。納得した捜索方法ではなかったが結界を調べる事にするのであった。
結界を見つける役は、プロテラス・ガディの探索術。見つけたあと調べるのは、トレカール・ラズモアの結界術になるのだが、2人共自信が無いと言う、そして先祖の強力な術が恨めしいと嘆いていた。
✩✫✩✫✩
一方、カブラル王国を目指していたフォンス・カーリルも、結界を見つけられずに彷徨う日々を過ごしていた。
「はぁ、方角はあってると思うんだけどな。この辺はそんなに来たことねぇから、前に見つけた時みたいな違和感が感じずれぇんだよ」
フォンス・カーリルが、愚痴りながら自身の能力を発動させる。黒い霧の様な物が、地面を伝って拡がっていく。
フォンス・カーリルの能力は、闇を操る事で色々な物を創り出せる。大きな鎌も、その能力で創った物だ。
今行っている事は、闇を粒子状にして広範囲に展開させる事で、能力を探索に適した形にして結界の在り処を探っているのだ。
「ねぇねぇ、何でカブラル王国って所に行こうと思ったの、友達が居るとか?」
ファリアンス・レミアノが、退屈からフォンス・カーリルへ話し掛ける。
「うるせぇな、集中してんだから話し掛けるんじゃねぇよ······ちっ、まぁちょっと休憩するか」
休憩するついでに、食事もする。フォンス・カーリルに食事は必要なかったが、別に食べて害がある訳でもなかった。味も感じられる為、楽しみの1つとして食事をする様になっていたのだ。
「さっきの質問だがよ、ただ単に俺より後まで生きた奴が居るからだ。会ってどうなるかは判らねぇから、それこそ殺し合いになるかもな······」
会っておきたい人物は、カブラル王国の国王、カブラル・ディグ。
カブラル・ディグとは、悪魔の王を捜していた時に二度程会っていた。
この当時、『アリスフール』では何体かの悪魔が人の身体を手に入れて幾つかの行動を起こしていたのだ。
行動の1つは、悪魔の王を探し出す事。そして、悪魔の王を見つけ出した後の土台を築くべく、悪意の高い者とは手を組み、聖者の力が高い者は暗殺するなど、長年に渡り暗躍を続けていたのであった。
フォンス・カーリルは、カブラル王国が治めている地域を捜索する際、許可を得る為にカブラル・ディグに会ったのだ。長く会話を交わした訳ではない為、互いに印象には残ったものの、知り合いと言える程の関係でもなかった。
「もう、仲良くしようよ······」
歩き回り、食事をする時に少しだけ会話をする。そんな日々が3ヶ月程続いていた。
「ん? 此処か······」
結界の張られた場所をようやく見つけ、フォンス・カーリルが一息つく。そして、ファリアンス・レミアノに声を掛けた。
「おい、結界を見つけたぞ。此れを破るのには時間が掛かるからよ、飯をたらふく食っとけよ」
限界まで食べる様に言われたファリアンス・レミアノが、お腹を押さえて苦しそうにしていると、フォンス・カーリルが拘束を施していく。
「ちょっ、苦しいってば。お腹は緩くしてよぉ」
「我儘言うんじゃねぇよ、水は口の届くとこに置いてやるから死ぬんじゃねぇぞ」
言う事が終わると、フォンス・カーリルは結界に向き合う様に座る。そして自身は微動だにせず、黒い霧を操作し始めた。
1日が経過する頃には、結界と黒い霧が混ざる様子を目でも確認出来るようになっていた。その後は段々と黒が濃くなっていき、黒いペンで人が通れる大きさの円を書いた様に印が出来た。
その円が完全に黒くなるまで、実に3日を要したのであった。
「はぁはぁ、よっしゃ出来たぞ」
ファリアンス・レミアノは静かに見守る事しか出来なかったが、その間に仲間の様子を確認して安堵していた。
仲間の無事が確認出来た事と、仲間達も結界を調べている様子を視る事が出来たからだ。結界を調べていれば、いつか自分達が居る所まで辿り着いてくれると信じられた。
「お疲れ様です。でも、遅いですよ。もう、お腹がペコペコで······」
ファリアンス・レミアノは、保存食を食べてお腹を満たすと、もっと温かい食事がしたいと文句を言う。今その願いは叶えられず、結界に空けた穴へと連れて行かれた。
「あたたた、長い時間動けなかったんだから、身体中痛んだよっ。ちょっとほぐしてから、ゆっくり進もうよ」
「お前の足じゃな、目的地まで1ヶ月以上掛かるんだよ、ただでさえ遅せぇんだから無理しろやっ」
「それは厳しすぎっ、無理なものは無理なんだからね」
仲間が追いつける様に、自分が出来る限りの時間稼ぎをしていた。この数ヶ月でフォンス・カーリルが余り怒らない事を知り、言いたいを言っても大丈夫だと判ったからだ。
(口は悪いけど、感情が薄いのかな······)
✩✫✩✫✩
時坂純也、プロテラス・ガディ、トレカール・ラズモアの3人が結界を調べている。
探索術で結界を見つける事は出来たが、問題はその後、結界術が使えても調べ方が解らなかったのだ。
自分で創った結界であれば、結界に触れるだけで結界全体を把握出来たが、この結界には触れる事が出来ない。先ずは触れる方法から模索しなければならなかった。
「駄目だっ、見ることも出来なきゃ結界に触れるなんて無理だよ無理っ」
数日間、試行錯誤を繰り返したが進展は見られなかった。結界の存在を感じられるのは、プロテラス・ガディの探索術だけだったからだ。
「ちょっと考え方を変えるとしよう。結界術とやらで結界を調べられないなら、ガディが結界を見て周ったらどうだ?」
時坂純也が別の案を思いついて、2人に話す。2人もその案で納得したようだ。
「それじゃ、ラズモアも何か出来ないか試しながら、結界沿いに歩いて行きましょうか?」
プロテラス・ガディの視界には、結界が薄っすらとだが確認出来ていた。だが幻術も掛けられた結界を視認するのには、かなりの集中を必要とした。なので、ゆっくりと歩きながら結界に異変がないか確認していく。
(このペースで全ての結界を見ていたら、何年掛かるか分からないな······)
焦る気持ちを抑えながら、結界を見ながら歩く日々が1ヶ月程経過していた。この日も辺りをぼんやりと見つめながら歩いていると、3人の目にはっきりと異様な光景が映し出される。
「おいおい、あの黒いのは何だよ。明らかに怪しいだろ?」
「そ、それですよ、結界を遮ってる感じですから。つ、遂に発見ですね」
本当に結界を抜ける事が出来るのか確認する。黒く円形に型どられた場所を潜り抜けると、結界を通るのとは別の景色が現れるのだった。
「本当に正解みたいだな、2人は此処で待機していてくれ。俺が皆に報せてくるよ」
時坂純也が1人で仲間の元へ戻る事にする。急いで次の手掛かりを探さなくてはならないのだ。
やっと最初の手掛かりを発見する事が出来たが、この時点で、既に4ヶ月以上の時間が経過している。
ファリアンス・レミアノの安否も判らないまま、無事を信じて進み続ける。今はそれしか方法が見当たらないのだ······
✩✫✩✫✩
「ほら、見えて来たぞ。あの崩れた街がカブラル王国の王都だ」
「やっと着いたんだね。折角来たんだから、会いたい人が居るといいけど······」
「俺の考えでは、想いの強い場所に蘇るんじゃねぇかと予想してんだけどな······奴が蘇るなら、この国の城跡だろうよ」
街へと入って行くと、瓦礫を踏みつけながら城跡へと向かって行く。すると、何者かが近付て来る気配を感じる。
「おい、後ろへ下がってろ。当たりかもしれねぇ、誰か居そうだぞ」
ファリアンス・レミアノに下がる様に伝えて、向かって来る者を足を止めて待つ事にする。
そして、聞こえてきた声は、この場所に相応しくない明るい声だ。おかしな雰囲気に違和感を感じる······
「おっ、他にも人型が現れたぞ。この人も喋れるのかな?」
刀を片手で持った少年が、フォンス・カーリルを見つけて近づいて来る。他にも仲間が数人後ろから着いてきているのが見える。
(誰だ? カブラル・ディグじゃねぇな)
「やあやあ、貴方も此処の住人かな? 折角の出会いだ、僕と楽しく闘おうじゃないか」
挨拶代わりに刀を振り回して来た少年。鎌を創り出し、刀を受け止めると、すかさず足元を蹴り飛ばされた。
バランスを崩した所を、もう一度蹴り上げて来るが、何とかガードして後ろへ下がる事に成功する。
「何なんだてめぇは?」
「僕かい? 僕は探索者かな······闘い好きのね」
一言だけ交わすと、少年が戦闘を再開させる。
何度か刀と鎌が火花を散らすと、隙を見てフォンス・カーリルが少年を能力で捕える事に成功した。
フォンス・カーリルの手の先から出た、黒い鞭が少年に巻き付いている。
(よっしゃ捕らえたぞ、なめたクソガキを真っ二つにしてやろうか)
フォンス・カーリルが近づいて行くと、少年はバックステップで離れて行く。
逃がすまいと鞭を引っ張った瞬間、少年が反動を利用して回転し、持っていた刀で鞭を斬り裂いた。
身体に巻き付いた部分も力で抜け出すと、先程よりも一段回速い斬撃でフォンス・カーリルを追い詰めていく。
少年の刀がフォンス・カーリルの足を捉えたと思った瞬間、フォンス・カーリルの足が霧状になりすり抜ける。
フォンス・カーリルは、普通には躱しきれない攻撃を精霊化で切り抜けたのだった。
「闇の特殊スキルって感じかな? ははっ強い強いよ、因みに炎の特徴スキルとどっちが強いんだろうね?」
少年が喋り終わると、少年の後ろの方から熱気が突如として現れる。その熱気の正体が炎だと気付いた頃には、、フォンス・カーリルへ雨の様に降り注いでいくのであった。
全身を精霊化して逃れようとしたが、闇を炎が燃やしていた。たまらず影に潜り、離れた瓦礫の上まで避難していく。
(くそっ、あちぃじゃねぇか······)
「あっ、いつの間にそんな所へ行ったんだよ? 中々に多彩な能力だな。まぁ悪ふざけはこの辺にして、話し合いでもしようかね」
さっき迄の戦闘が遊びであったと、少年が何をしに此処に来たのか問いかけて来る。
「······カブラル・ディグを捜しに来ただけだ」
「その捜し人は、この世界で唯一僕が案内出来る人物じゃないか。それはいい、案内するから着いてきなよ」
掴みどころのない、この少年に着いて行けばカブラル・ディグに会えると言う。言葉を信用して着いて行くか悩むフォンス・カーリル。
本当に目的の人物に会う事が出来るのかと、怪訝な目で、このおかしな少年を見つめていた······




