第三章【異世界からの願い】塞がれた世界
救出作戦が実行される。『アリスフール』へ移動してから、先ずやる事は襲撃者の気を引く事だ。
崩れた城下町、クレイス・ファーナの居場所は城の跡地だ。そして仲間が捕われているのは、そこの地下にある牢獄なのだ。
向かう合間に、もう一度作戦を見直す。襲撃者が1人の状況を考えると、時坂純也と郷倉未知瑠の2人で襲撃者を引き付ける事となった。
扉を潜ると、城の跡地から少し離れた城下町に足を踏み出した。先頭に時坂純也、郷倉未知瑠。他の皆は、少し離れて付いて行く。
「崩れていますが、街らしさが残ってるのは新鮮ですね」
郷倉未知瑠は、異世界の雰囲気を楽しみながら進んでいた。
「滅ぶ前は、活気があったんじゃねぇか? いつか、人類がいる異世界にも行ってみたいな」
探索を好んでいる者の会話が、静かな城下町で囁かれる。近くの瓦礫、その影が蠢いているのには気が付く者はいなかった。何気ない会話を、仲間以外に聞いている者がいるなど考えもしていないのであった······
「もうすぐで襲撃者の居る場所に着くよ、戦闘が始まったら牢獄へと扉を繋ぐから、皆っ作戦通りにお願いね」
ファリアンス・レミアノの言葉で、気を引き締める。少し進むと、襲撃者と対面する事になるのだ。
クレイス・ファーナは、近づいて来る者に気が付くと、立ち上がり出迎える様に歩き出す。
「随分と少人数じゃが、仲間を助けに来たか······」
「人、なんだよな。大人しく仲間を返して貰えないか?」
「敵か味方かも判らぬ上に、やっと出会えた情報源なんでな、そう簡単に手放すと思うておるか?」
会話の最中、最初に攻撃を仕掛たのは郷倉未知瑠であった。2本の双剣を持ち、側面から斬り掛かった。
郷倉未知瑠の斬撃は、鉄扇で簡単に弾かれてしまった。更に、クレイス・ファーナが息を吐くように炎を吹き出す。
直撃する前に、氷魔法で相殺する。だが、郷倉未知瑠の身体には、火傷の跡が出来、ひりひりと痛みを帯びている。
続いて、時坂純也が接近して行く。クレイス・ファーナが放つ火炎を魔力膜で防ぐと、火炎をすり抜けた拳が襲いかかる。
数度打ち合うと、クレイス・ファーナが鉄扇に力を込めて、魔力膜に狙いを定める。狙い通り魔力膜を斬り裂くと、中段への回し蹴りが時坂純也を吹き飛ばすのであった。
(今のうちに、行きますっ)
救出部隊が、扉から牢獄へと向かって行く。
扉へと順番に入っていくと、最後尾にはおかしな影が付いて来ているのであった。
(変な扉を出したのは、あの娘か······)
「あっ居た居た、ガイさんっ無事ですか?」
長い廊下には、左右何方を向いても牢獄がある。窓の能力で、空間を把握していたファリアンス・レミアノは、ビクサス・ガイの近くに扉を創り出したのだった。
「レミアノ、やっと来てくれたか。悪いが急いで鍵を手に入れてくれ、見つかったらお前らも捕まるぞ」
鍵の在処も把握済みだ。扉から出ると、既に黒街彰が取りに向かっていた。直ぐに鍵を手に入れて戻って来るだろう。
薄暗い地下の牢獄、黒街彰が鍵を持って皆の元を振り返る。すると、皆の姿を確認する事が出来ないのだ。仲間の周りだけ闇が濃く広がり、完全に視界を塞いでいたのであった。
闇の中で聞き慣れない声が囁かれる。「ブラックバインド」声が発せられた瞬間、ファリアンス・レミアノの身体に黒い靄が巻き付く。黒い靄は、動きと共に口も塞いでいた。
急激に視界を奪われた事で、異変が起こった事は察知出来たが、ファリアンス・レミアノが捕われた事には気付く事が出来なかった。そして、深い闇は地下全体へと拡がっていく。
拡がる闇と同時に、ファリアンス・レミアノを抱えて地下の出入り口へと歩を進めているのは、影の姿から人間の姿に変わった1人の男であった。
黒街彰の元へも、闇が到達する。闇に触れた瞬間、黒街彰が持つ光の加護が力を発揮すると、目の前には仲間を連れ去ろうとする敵の姿が視界に映るのであった。
「だ、誰だっ。レミアノを離せ」
「おっ? てめぇ見えてやがるのか。しょうがねぇ、一戦交えるとするか······」
ファリアンス・レミアノを地面に放り投げ、謎の男は薄っすらと笑みを浮かべる。
男が近づくと、黒街彰が後退る······それだけ、この男が不気味であったのだ。
黒街彰は、気を入れ直して妖剣を握り待ち構える。近づいて来る男の手には、いつの間にか黒く大きな鎌が握られていた。
黒く大きな鎌は、男の能力で創り出した物であった。それを黒街彰へと大振りで振るう、大振りであっても、躱すことの出来ない一撃が男の実力を示していた。
(ぐはっ、痛っ、この人、強い······)
狭い通路で吹き飛ばされ、鉄格子に身体を強打する。攻撃を受け止めても、少なくないダメージを貰ってしまった。
男は、鎌を演舞の様に振り回している。その速度が徐々に速くなるの見て、黒街彰の額から嫌な汗が吹き出していた。
(やばい、鎌の軌道が見えなくなってきたぞ······ん? ぐっうぅぅ)
鎌の動きに目を奪われいると、腹部が熱くなり、急激に視界が霞んでいく。
黒街彰が気が付いた時には、黒い槍の様な物が腹部を貫いているのであった。
「弱えぇなぁ、お前らって異世界人なんだろう? そんなもんかよ?」
黒街彰と男の元を、突風が駆け抜ける。すると、暗闇が薄まっていった。
「だ、誰か居ます」
三日月愛が風魔法で突風を放っていた。そして言葉を発すると、最初に動き出したのは、ビグラウト・テラネウスだ。
「ちっ、見つかったか。ブラックウォール」
謎の男が、黒い壁創り出す。ビグラウト・テラネウスも、あと一歩及ばず黒い壁に阻まれてしまった。
「くそっ、この壁は硬いぞ······誰か高火力の攻撃が出来るやつは居ないかっ?」
「退いて、いろ」
ダ・ビャヌが全力で投槍する。すると、槍は壁に突き刺さる。更に、館浦喜助が鎚矛のスキルを壁に発動させた。
崩れた壁の先に居るのは、息絶える寸前の黒街彰の姿だけであった。
「フリムっ、何処だっ」
ビグラウト・テラネウスが仲間の名前を叫ぶ。返事が聞こえると、傷を癒やす能力があると伝える。
「フリムに任せれば彰は大丈夫だ。レミアノが居ない······俺は敵を追うから、此処は頼んだぞ」
ビグラウト・テラネウスが瞬足術を使い、出口に向かって走り出す。そして、地下から出ると辺りを見渡す。
「くそっ、何処に行きやがった······」
周辺に敵の姿は見当たらなかった、崩れた城の中でも、高い位置へ移動して再度周辺を見渡してみる。
「くそっ、居ない。レミアノ······あの女に聞くしかないか」
クレイス・ファーナを相手に、時坂純也と郷倉未知瑠は激闘を繰り広げていた。そこへ乱入する者が現れる。
乱入者のビグラウト・テラネウスは、瞬足術で近づき、上段の斬撃を受け止められた状態で問い詰める。
「貴様っ、レミアノを何処へやったぁぁ」
「近くで叫ぶでない、煩いわっ」
クレイス・ファーナが受けた斬撃を弾き飛ばすと、3人が取り囲む構図となる。
「闇を操る者は貴様の仲間だろっ、レミアノを攫って何を企んでやがる?」
「闇を操るじゃと······そいつは、どんな姿であった?」
ビグラウト・テラネウスの言葉を聞いて、今度はクレイス・ファーナが激しく問うのであった。クレイス・ファーナが予想した人物であったのならば、それは因縁深い相手も復活した事になるのだ。
「くっ、黒い鎌を持った、長い黒髪の男だ。背は俺と同じぐらいだったか······」
「そうか、奴も蘇っておるのか······ならばお主ら、人質も解放するゆえ、一時休戦にしようではないか」
「もう仲間は助け出したんだけどな······」
ビグラウト・テラネウスは、襲撃者に対して納得しない様子を見せていたが、時坂純也に宥められて詳しい話しを聞く事にした。同時に何があったのかも話して聞かせる。
「闇を操る男、其奴は妾の命を奪った者であろう」
クレイス・ファーナにとって、悪い意味で一番再会を果たしたい相手であった。
闇の精霊と融合した男は、生前人側に有りながら闇の者に手を貸していた人類の裏切り者であった。
クレイス・ファーナの命を奪った経緯、それは、大戦の際、悪魔キマリスとの戦闘をしてい時であった。油断するのを息を潜めて待ち、奇襲にてクレイス・ファーナに大きな傷を負わせたのだ。
だが、男は決して弱い訳ではないのだ。クレイス・ファーナが悪魔との戦闘で消耗していて、尚且つ負傷していたとはいえ、最後には妖孤の力を解放した本気のクレイス・ファーナに勝ちきったのだから。
男との因縁を話すと、クレイス・ファーナが休戦を申し出た一番の理由も話し出した。
それは、大戦の結果や他の仲間達の事を知りたいからであった。自身が生きた後、未来の結果を知っているであろう男を捕まえるのは何より優先させる事柄であったのだ。
「互いに争っている場合ではなかろう? この広い世界で、奴を見つけるのは骨が折れる。ならば、力を合わせる事を提案しようではないか」
その時、救出部隊と牢獄に捕らわれていた者達が、この場に到着しようとしていた。
黒街彰も、マクリーク・フルムの回復術で一命を取り留めた様で自身の足で歩いている。
その場に全員が集まると、事の経緯を全員で共有する。そこで、クレイス・ファーナが1つ疑問を問いかけた······
「なぜ、そのレミアノとゆう者が攫われたのじゃ、何か心当たりがあろう?」
ビグラウト・テラネウスは、隠し事が良い結果をもたらさないと判断して、ファリアンス・レミアノの能力を簡単に説明する事にした。
「ほう、その能力で世界を行き来できるのじゃな。ならば、狙われるのも道理であろう」
「でもよ、レミアノの能力を知ってるのは、おかしくないか?」
牢獄で突然姿を現した事を踏まえると、ファリアンス・レミアノが創り出した扉から、一緒に入ったのではと、クレイス・ファーナが予想を立てる。
「妾の近くに奴が居れば、流石に気が付く。牢獄の入口には妾が居ったのでな、貴様らに着いて来た方がしっくりくるであろう。それに、頭の切れる奴でもあったからのう、貴様らを観察してから行動に移したのじゃろう」
その話が当たっているのであれば、ファリアンス・レミアノの命が目的ではなさそうだ。探す時間は残されている様に思える。
「ビャヌ、食料はどれくらい持ってきた?」
先が長くなる事を予測した時坂純也が、食料の問題を問いかける。
ダ・ビャヌは常に多くの食料を異空間に保存している。食料が探索に重要な事は勿論、料理が趣味であるのも大きかった。
「全員、普通、食べる、3日だ」
現在、捕らわれていた者を合わせると26人程の大人数になっていた。ダ・ビャヌは、1日3食を食べて、3日の食料を持っている事を話している。
捕らわれていた者は、既に飢えているのだ。食料を分けないとゆう選択肢を選ぶ事など出来なかった。
それと、クレイス・ファーナの情報では、草木や水源は見かけたと言う。それが口に出来たとしても、残された時間は長くはない······
急ぎファリアンス・レミアノを探し出さねば、全員の命が危険な状況になってしまったのであった。




