第三章【異世界からの願い】閉じた扉
福島県にて、水元家にケジメをつけさせる為に行った闘い。郷倉未知瑠と佐久間仁が闘った日から数ヶ月が経過していた。
黒街彰のパーティーは、三ノ扉に挑戦を開始しており、今迄よりも上位のモンスターとの戦闘を慣れさせる日々を送っている。
時坂純也や本城尊、それと十傑の面々も五ノ扉へ挑戦していた。
五ノ扉では、モンスターの危険度がAを超える強敵が出現する為、此方も長期の探索はせずに近場の探索で慣らしているのだった。
季節も冬となり、北の地では、あまりの寒さで過ごしづらくなっていた。本城尊も、異界の方が過ごしやすい事を話題にしながら五ノ扉へ向かって行く。
「ん? 何だ、開かねぇぞ」
五ノ扉に到着した本城尊が、扉に手を掛ける。押そうが引こうが扉はびくともしない、鍵が掛かった扉にでも間違えて来てしまったかと思った程に、扉は堅く閉ざされていた。
その後は大騒ぎだ、閉じた原因を究明しようと北の面々が調査に乗り出す。時間が経過しても進展はなく、一から四の扉が無事に開く事だけが救いであった。
五ノ扉が閉じてしまった事は、黒街彰にも耳に入った。だが、その件については自分達には出来る事は無いと他人事の様に感じていた。
そう考えると、自分達は自分達の目標に向かう事にする。三ノ扉の中で、モンスターとの戦闘を繰り広げていくのであった。
闘っているモンスターは、危険度A、鬼と呼ばれるモンスターだ。2メートルを超える身長に筋肉質な体格、動きが速く、力も強い。更に今迄のモンスターよりも知能が高い事に苦戦を強いられているのだ。
「やっぱり強いな、多いと5体位で出現するらしいからさ、慎重に闘っていこう」
三ノ扉では、未開の地に向かう予定であったが、進めない理由は、鬼に苦戦してしまうからだ。
万が一が起きるといけない。黒街彰の判断で、先ずは鬼との戦闘経験を積むことにしていた。
1体の鬼を倒し終えると、木々の陰から何かが新たに現れる、それは鬼よりも一回り小さい男性と、見知った顔の少女、三日月愛の目を治してくれた、ファリアンス・レミアノの姿であった。
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時間は少し遡り、五ノ扉が開かれて数ヶ月が立った頃であった。
ファリアンス・レミアノとその仲間達が、調査の為に五ノ扉から行ける異世界へと訪れていた。
彼女達の役目は、異世界の環境を安定させる事だ。それは、滅んだ世界に特殊な術式をかけ、魔力から生物を誕生させる。
魔力から生物を誕生させる事で、魔力が溜まらない仕組みを創り出しているのであった。
その仕組み、地球と異世界を繋ぐ扉を創り出したのは、ファリアンス・レミアノの先祖である、ファリアンス・カーラという人物であった。
ファリアンス・カーラが地球と異世界を繋いだ理由は、強い者を育てる事と、地球を救いたいという願いからである。其れをファリアンス・レミアノも引き継いでいるのだ。
「遂に地球の人達もここまで来たかって感じだよねっ、私達の代で大きな動きがあるかもしれないねっ」
ファリアンス・レミアノは、五ノ扉から行ける異世界へ来るのは初めてであった。産まれてから地球人が扉を更新するのも初めての経験だ。
今迄は、一ノ扉〜四ノ扉の異世界を中心にメンテナンスを行っていた。地球人の安全を最優先にする事が、自分達の計画を果たす為に必要であった為だ。それが、危機を招く事など、今は誰も予想していなかった······
「レミアノ、今日は勝手な事をするんじゃないぞ。一区画だが、久しぶりだから時間が掛かるかもしれない······大人しくしとけよ」
この集団のリーダーである、ビクサス・ガイに注意されるのは仕方がない事であった。少し前に地球人と接触するという、規律違反を仕出かしているのだから。
「わかってますよ〜だ。大人しく見張りでもしてますから」
見張りもしなくて良いと言われ、不貞腐れながら皆の作業を見ていると、張られた結界に衝撃が響いてくるのに気が付く。
他にも数人が気が付いた頃には、もう遅かった。結界を強化する間もなく、爆風がファリアンス・レミアノの髪を巻き上げる事になる。
襲って来た者達は3人、人の特徴とモンスターの特徴を合わせ持った姿をしている。
それらを護衛として来ていた者達が、迎え撃つ。だが、相手の方が一枚上手であった。
戦闘に関しては互角に渡り合えそうであったが、ファリアンス・レミアノと共に来ている者は、非戦闘員が多く、その者達が人質として捕らえられてしまうのであった。
それは、相手に知能がある事を示していた。
「動くでないっ、この世界を弄くり回しておるのは貴様等だな······」
九つの尾を生やした、女性と思われる者が言葉を発する。威厳のある風格、この女性が襲撃者のリーダーの様だ。
「何者だ? この世界に人は居ない筈だぞ」
ビクサス・ガイが、逆に問いかける······
お互いに情報を渡す気がない為、緊張と沈黙が場を支配する。最初に沈黙を破ったのは、襲撃者の方であった。
ビクサス・ガイがリーダーだと判断した襲撃者は、自分達の力を示す為に実力行使に出る。他の者に動きはなく、襲撃者のリーダーとビクサス・ガイの一騎打ちが始まる。
襲撃者は、火を操り攻撃を仕掛けて来る。多種多様の火魔法は、高度な魔法の使い手である証である。そう判断したビクサス・ガイは、多少の被弾は覚悟の上で接近戦に持ち込む為に、近づいて行くのだった。
ビクサス・ガイは大剣の使い手だ、大剣の腹で降り注ぐ火の玉を受けながら近づくと、回転を利用して横一閃に大剣を振り抜く。
そして金属音が鳴り響く、襲撃者の手には鉄扇が握られており、その音は大剣を受け止めた音であった。ビクサス・ガイの動きが止まると、長い脚がビクサス・ガイの顔面を打ち上げた。
更に、襲撃者の尾がビクサス・ガイの足首を掴むと地面へと叩きつける。
その時、ファリアンス・レミアノの側に居たのは、ビグラウト・テラネウスだ。
(レミアノ、扉を出して逃げる用意をしてくれ。ガイさんが勝てないのであれば、一度引くしかない······)
ビグラウト・テラネウスが話をしている間にも、襲撃者の攻撃が続いていた。火力が上げられた火魔法がビクサス・ガイの命を燃やしていく。
「大人しく投降せよ、情報を全て話せば命は助けてやるかもしれんぞ」
ビクサス・ガイが返事も出来ずに倒れ込む。それを見ていた護衛の者が武器を捨て、襲撃者の言葉に従う素振りを見せた。
その瞬間、扉から逃げる選択が出来たのは、ファリアンス・レミアノとビグラウト・テラネウスの2人だけであった。襲撃者の言葉が真実であると祈り、必ず救い出すと誓って扉へと入っていく。
扉の先は、2人が住む世界だ。この世界には強大な力を持った者が居るのだが、訳あって助けを求める事が出来ない。仲間にもビクサス・ガイより力を持った者が居ない為、途方に暮れてしまう······
「くそっ、どうする? 親父達に頼んでみるしかねぇか」
「それは無理、絶対勝てないよ······ガイさんが簡単にやられちゃったんだよ」
「でも他に手がねぇだろ、皆を助けなきゃ今迄やって来た事が、先祖たちの想いも無駄になっちまうんだぞ」
「じゃあ、王に頼んでみようよ。国の人間なら助けてくれる、助けて貰おうよ」
「バカ言うな、それこそ今迄の事が無駄になるじゃねぇか······」
「だったら······愛ちゃんに相談してみよう。地球の世界には強い人が居る。もうガイさんより強くなった人は居るんだから」
三日月愛や黒街彰、ファリアンス・レミアノが出会った中には、目当てとなる人物が居ないのは判っていた。だが、信用出来る人間の力を借りられれば、可能性が無いとは言えないのであった。
「秘密を守れて、実力が高い人間を探さないといけないのか······本当に居ると思うか?」
「居るよ、それは確実だけど······その人に辿り着いて、最終的には仲良くしなくちゃ駄目なんだよ、だったら今でも良いと思う」
先の未来の事も考え、三日月愛とコンタクトを取る事が決まったが、直ぐに動き出す事は出来なかった。五ノ扉に繋がる世界の情報を調べる事と、五ノ扉を封鎖しなければならないのだ。
焦る気持ちを押し殺して、2人は出来るだけの事をする。そして、三日月愛の元へ向かって行くのであった。
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「愛ちゃんっ」
「レミアノ、ちゃん?」
「あの、前は勝手に居なくなってごめんね······それと、また勝手なお願いなんだけど、助けになって貰えないかな?」
ファリアンス・レミアノの真剣な眼差しに、深刻な事態を予想した黒街彰達は、落ち着いて話を聞く為に場所を移動する事にする。
黒街彰が移動を提案すると、ファリアンス・レミアノが「良い場所があるよ」と言って扉を出現させた。
「この扉の先は安全だから、結界の中にはよっぽどじゃなきゃモンスターも入れないし、よっぽどじゃなきゃね······」
話しをしていて、結界が破られた事を思い出す。だが、扉の先は、前回出会った場所に近い結界の中だ。流石に安全は保たれているだろうと一人心の中で納得させていた。
黒街彰達は、恐る恐る扉へと入って行く。扉を出た先には、見たこともない紋様が大地に描かれていた。
あまり落ち着くとは言えない場所であったが、適当な場所へ腰掛けると、ファリアンス・レミアノの話を聞く為に声をかける。
「色々気になるんだけど、とりあえず話を聞かせてくれるかな?」
ファリアンス・レミアノとビグラウト・テラネウスは、事前に話して良い内容を決めていた。その内容は、祖先が扉を創った事、それと自分達がしている事。それと、五ノ扉から行ける世界の情報と起きてしまった事実だ。
扉を創った目的は、話さないと決めていた。
「扉の話しは此れでおしまいね、まだ全ては話せないから。次が本題なんだけど······」
五ノ扉から行ける世界で、メンテナンスをしている途中、襲われた事を説明する。そして仲間の生死も定かではないが、助けに行きたいと話を続けた。
「私達2人だけじゃ助けられないから、力を貸して貰いたいの、お願いします」
「······」
ファリアンス・レミアノの話を聞いても、直ぐに返事が出来ないのは、内容が突飛過ぎたからだ。少しの沈黙の後、最初に口を開いたのは三日月愛であった。
「彰さん、助けになってあげようよ。駄目かな?」
「うん、そうだよな。愛ちゃんの目を治して貰った借りもあるし······レミアノ、俺達に出来る事があれば力を貸すよ」
「あ、有難うっ。有難う······」
涙ぐむ姿は、気丈に振る舞っていても追い込まれていたのだと黒街彰に伝えていた。
黒街彰は、ファリアンス・レミアノが落ち着いてから、詳しい話しを促すと、助けになるにはどうするべきか考え込むのであった。




