第三章【異世界からの願い】成長型オートマタ
水元家の屋敷、当主の部屋に居るのは、現当主であり日本の女王を名乗った女傑、水元茜。それと、水元茜に古くから仕え、側近でもある戸倉芙美。そして海野結菜の魂を宿した『成長型オートマタ』の3人であった。
水元茜は、海野結菜の魂が宿った『成長型オートマタ』の反応に、良くない感触を抱いていた。
「う〜む、記憶が無いようじゃのう? 魂を移せても記憶は引き継がんのか······」
水元茜は、目覚めた瞬間に「此処はどこ?黒街くんは?」なんて言うものだと想像していたのだ。
想像通りにならないのは仕方がない『魂の補完石』から魂を移す行為など、人類で初めての試みなのだから。
「どうなのでしょうね、記憶とは脳が司るものですから、この魔導具に脳が無いのが原因かもしれませんよ?」
水元茜は、戸倉芙美の意見に一理あると頷くと、答えを求めて現在記憶している事があるのかと問うことにする。
「お主の名は海野結菜じゃ、現在の知識は何かあるのか? 知ってる事を何か言ってみよ」
「······水元茜、契約者。モンスターから魔力を奪う、自身の力になる? 更井賢人、戸倉芙美、スライム、斑熊、扉······」
海野結菜から出た言葉は、『成長型オートマタ』を水元茜が起動させた後の記憶だと思われる。それと、自身の性能は解っている様子であった。
「前の反応と大差ないのう。此れでは、魂が宿った意味などないではないか······」
水元茜の嘆きに、戸倉芙美が「流石にまだ早計ですよ」と言うと、今度は戸倉芙美が海野結菜に話しかけた。
「結菜さん、私とモンスターを倒しに行きましょう。どうです、行けますか?」
戸倉芙美は、オートマタの知識にあるモンスターとゆう単語を使って試してみる。戸倉芙美に付いて来れれば、それだけで以前とは変化が生じた事になるのだ。
「はい······」
戸惑う様な返事の後に、戸倉芙美の後ろを歩き出す海野結菜。
「茜様、海野結菜の意思で行動出来るみたいです。此れなら、他の者と能力を上げに行く事も可能ですね」
それを見ていた水元茜が、突然「止まれ」と声を張った。すると、海野結菜の動きが止まり、一瞬『成長型オートマタ』から淡い光が抜ける様に見えるのであった。
「契約者の命は聞くようじゃな。それに一瞬であったが、魂だけが動いていたのではないか?」
戸倉芙美が「動けますか?」と海野結菜に聞いて見るが、喋る事は出来ても身体は動かない。
「魂と身体は別物とゆうことかの? 色々気にはなるが、今は此奴にばかり時間を掛けてる暇はないか······」
まだまだ試したい事はあったが、水元茜にはやらなければならない事がある。唐代一心の企みを暴き、水元家が優位に立たなければならないのだ。
自身の計画を邪魔された時から、やる気を喪失していたが、佐久間仁が転移で逃れた事や、海野結菜の魂が身体を手に入れた事で水元茜の心境に変化が出る。
「良しっ、此奴は他の者に教育させる。唐代一心の調査は、私が指揮を取って行う事にする。芙美、休息は終わりじゃ、皆を集めよ」
急な発言であったが、戸倉芙美は動じずに理解する。水元茜が前を向いた事に安堵すると、直ぐ様行動に移るのであった。
「教育係は、十傑と渡り合ったとゆう山岸徹にやらせよ。能力値で劣っていながら闘いになったのじゃからセンスが良いのであろう」
戦闘に関しては、山岸徹を教育係にする事が決まった。それ以外にも、知識も身に付ける事にする、その任は大膳忠行の部下、純水の中から1人選ぶ事にするのであった。
「結菜よ、大事な記憶を1つ教えておこうかの。お主の愛おしい人の名は黒街彰じゃ、どうにかして自身の記憶を取り戻せ······」
水元茜は、黒街彰の名を伝えると別れる事にする。愛する想いが、魂や身体などを凌駕すると信じて······
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戸倉芙美は『成長型オートマタ』の教育係に関しては、大膳忠行に一任していた。自身は、水元茜の行動をサポートする事で忙しいのだ。
現在の海野結菜は、純水の拠点で大膳忠行の部下に勉強を教えられている。
新城静、『成長型オートマタ』である海野結菜に、勉強を教えている者の名前だ。
「凄いスピードで読んでるじゃないっ、ねぇねぇ言葉は理解出来てるの?」
新城静に読み上げて貰った、ひらがなやカナカナを聞いた後は、一冊の絵本を夢中で読んでいる。それは、幼稚園児が言葉を覚えるのに使う物であった。
「······」
「理解出来ないみたいね······絵本より、辞典の方が良いのかしら」
新城静は、海野結菜の読むスピードを見ていると、ふと思いついた。機械の頭脳ならば、分厚い辞典から情報を取り込む方が手っ取り早いのではないかと。辞典を探し出すと、試しに渡してみる事にした。
「どうかしら? 自己紹介とかしてみたら?」
周りが見たら、ただ捲っているだけだと思うスピードで辞典を読み終える。辞典を閉じるのを見て新城静が問いかけたのであった。
「名前、海野結菜······年齢、不明、性別、女性?」
「う〜ん、文法も学ばなきゃいけなわね。ちょっと待っていて」
新城静が、教材を探しに部屋を出て行くと、海野結菜は、辞典に載っていた中で、気になった言葉を思い返していた。
(愛しい······かわいく思うさま。恋しく慕わしい。慕わしい······心を惹かれ、好ましくまたは、懐かしく思うさま。恋しい。)
(記憶······過去に体験したことや覚えたことを、忘れずに心にとめておくこと。また、その内容。)
「愛しい人、黒街彰······」
海野結菜が知識を得ている時間、別室では大膳忠行と山岸徹が顔を合わせている。
「久しぶりだな、元気にしていたか?」
「元気過ぎて困っちゃいますよ、大膳さんも元気そうですね」
山岸徹も、アカデミー卒業後に、水元家にスカウトされた口であった。水元家に加わると、最初に属した純水で大膳忠行とは知り合いになっていた。
「そぉいやぁ、北の十傑と良い勝負をしたらしいじゃねぇか? どうだ、強かったか? まだ若いのに流石だなっ」
「思ったより強かったですね、それに、俺なんか全然ですよ······相手は、本気とは程遠い感じでしたし当てられたのは一撃だけですからね」
山岸徹は、滝陽子との戦闘で思う事があった。
自分が戦闘を好む性格であり、負けず嫌いなのにも関わらず、本気で強さを求めていなかった事を実感した。それを改めようと、今後の人生を真剣に考え直していたのだ。
そんな時に来た話が、『成長型オートマタ』海野結菜の教育係であった。
「そんな事より、俺に教育係なんか向いてないですよ。大膳さんも、そう思うでしょ?」
純水に所属していた頃から、戦闘のセンスはずば抜けていた。だが、感覚で闘うタイプなのは、大膳忠行も知る所なのだ。
「まぁ、確かに人に教えるタイプじゃなかったよな。でも教えるのは、人じゃないからよ」
「尚更でしょ、感覚を機械が理解出来るとは思えないですけどね······」
一通りの挨拶が終わると、海野結菜が居る部屋へと向かう事になる。山岸徹が部屋へと着くと、丁度文法が載った本を読み終えた所であった。
ノックをして、山岸徹が部屋の扉を開けると、正面には海野結菜の姿がある。
その姿を見た瞬間、山岸徹は扉のドアノブを持ったまま、動く事を忘れ立ち尽くしてしまう。
「て、天使かよ······」
山岸徹が見惚れてしまうのも当然であった。真っ直ぐ伸びた腰まである金色の髪、整った顔はとても小さく、大きな瞳が印象的であった。そして、窓から差す光を纏った姿は、天使と言って差し支えない程の美しさだ。
「どちら様ですか? 宜しければ此方に座ってください」
海野結菜は、文法を一通り読んだ事で、あっという間に人と会話が出来るまでの成長を見せていた。それを聞いていた、新城静もびっくりする程なめらかな言葉を発しているのだ。
「お、おう。あれだ、俺は戦闘を教える様に言われて来た、山岸徹ってもんだ······よ、宜しくな」
山岸徹は、久しく感じていなかった感情に動揺していた。同時に、優柔不断な自分が恥ずかしくなる。
「徹君、久しぶりじゃない。私のことは覚えてるわよね?」
「覚えてますよ、静さんでしょ。あの、この子が教育対象の機械? まるで人間と変わらないですね······」
機械という表現が正しいのかは不明だが、記憶する能力が人を超えている事は、今しがた確認済みであった。
「人の魂が入ってるんだから、機械なんて言わないでよね。徹君が見惚れちゃう程、可愛い女の子なんだから」
新城静は、部屋へと入った時のリアクションを見逃す事は出来なかった。純水に所属していた時には見せた事もない表情に、今後が楽しくなるだろうと、いやらしい笑みを浮かべるのであった。
「それ、まじで忘れてください······」
雑談が終わると、中庭へと出ていく。純水の拠点には、新人探索者を指導出来る広い庭がある、其処で現在の腕前を見る為に、先ずは剣を渡して自由に打ち込ませてみるのであった。
「好きな感じで斬り掛かって来ていいぜ」
海野結菜の攻撃をひたすら受け止める。スピードもパワーもまるで無い攻撃を······
知識を吸収した実績から、戦闘も期待していた新城静が溜息をついた。だが、山岸徹は違う感想を抱いた様だ。
「弱いのは、能力値が低いせいだな。剣術は上手いな、筋は良いんじゃねぇか?」
海野結菜は生前、弓術と剣術を得意としていた。アカデミーの中でも優秀な成績だったのだ、筋が悪い訳がなかった。
そして、生前の剣術が活かされているとゆう事は、動き方を魂が覚えているとゆう事になるのであった。
(剣術······身体の動かし方が分かるみたい? 何だか懐かしい)
海野結菜は、記憶を取り戻す様にと剣を振るい続けていく。それを受ける山岸徹は、強くするにはどうすれば良いのか考えていた。
山岸徹は『成長型オートマタ』の性能をまだ知らない為、どうやって能力を上げるのかを新城静へと聞いてみる。
それに答えたのは、海野結菜自身であった。『成長型オートマタ』の記憶にあった情報を二人に教える。
「モンスターを倒す度に強くなれるのかよ、宝玉を手に入れるより、そっちのが良いじゃねぇか······でもそれって、宝玉はいらないって事でいいんだよな?」
山岸徹が思いついたのは、宝玉を自分の物にする事であったが、別に悪い事ではない。
海野結菜を強くする事は勿論引き受ける。其れは、1人で強くなるよりも時間が掛かる行為に思える。
だが、長い目で見れば違う。進めば進む程、効率は良くなる筈だ。そう考え、2人で共に強くなる事を決意した。
「教育係としてやって来たが、俺は誰よりも強くなりたい。お互いに強くなる為に協力しようじゃねぇか」
「良いですね。私は、人間だった頃の記憶を取り戻す為に強くなりたいので、是非とも宜しくお願いします」
お互いの思いは違ったが、協力する事になった海野結菜と山岸徹。
今後の事を話し合うと、知識については、新城静が資料を用意するだけで事足りる。武器や防具は、純水の力を借りて手に入れる事にした。
後は、どれだけ多くモンスターを倒す事が出来るかで強くなって行くのだ。
こうして、海野結菜の探索者としての人生が新たに始る。そう、自身の記憶を探す旅が始まったのであった······




