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第二章【離れた地で】離れた地で

黒街彰が、三ノ扉へ行く事を宝田和彦へ相談してから1日が立った。


『繋ぐ未来園』から、郷倉未知瑠が居るであろう本部へと向かっているのは宝田和彦だ。本部へ入ると、出会えたのは郷倉未知瑠ではなく、北陽公雄であった。


「公雄君こんちはっ、郷倉さんを探してるんだけど、どこに居るか知ってる?」


「何かご用ですか? 郷倉様は、本城様と出掛けています。1日か、2日もあれば帰って来ますよ······」


「それじゃ、郷倉さんが帰ったら宝田が話したい事があるって伝えて貰える?」


「はい、分かりました、必ずお伝えします。あの、もしかして何か問題ですか?」


「いやいや、全然問題とかじゃないよ。家の探索者について相談があっただけさ」


言伝を頼み『繋ぐ未来園』へと帰って行く。帰り道に、宝田和彦は北陽公雄について少し考えていた。


(何か、ぎこちなかったか? 問題ですか何て、何時も聞いてこないのによ、怪しいな······)


北陽公雄が忙しい事を知っている宝田和彦が、違和感に気付いたのは、「問題ですか?」と聞いてきたからだ。


問題を聞くという事は、その問題に首を突っ込む事になるかもしれない。だから北陽公雄は、自分が関係している事か、よっぽどの事がない限り聞いたりしないのだ。


(まぁ、考えても解らねぇな。彰に2日ばかし待つよう伝えておくか)


黒街彰は、舘浦喜助、三日月愛と二ノ扉へやって来ていた。時坂翔太は、ダ・ビャヌと特訓する為、別行動である。


「先ずは喜助から、強くなるヒントがないか考えていこうか」


異界にやって来た理由は、先日の強くなりたいと言う悩みを、頭と身体を使って解決する為であった。


「ぼ、僕の攻撃って、一人で普通に攻撃したら殆ど当たらないんだよね······攻撃力も上がったし当てられたらなって」


「まぁ、喜助は素早さが低いからな。単独だと厳しいけど······喜助にはモンスターが居るし、使わない手はないだろ」


黒街彰は、モンスターの行動について詳しく聞いていった。館浦喜助の説明は、基本は自由に攻撃、又は防御をさせているとの事だ。その指示方法は、言葉に出す事が多いが頭で考えるだけでも伝わるらしい。


「それじゃぁ、敵の動きを阻害する様に指示してみようか。難しいかもしれないけど、細かい指示まで出来れば完璧なタイミングで合わせる事も可能になるんじゃないか?」


やる事が決まれば、次は実戦で試してみる。舘浦喜助は単独でモンスターを探しに歩き出した。


「次は愛ちゃんに質問するな、魔法ってどうやって使ってるの?」


「えっと、イメージしてから発動させる? って言えば良いのかな?」


何かヒントがないか、もう少し詳しく聞いていく。解った事は、強い攻撃をイメージしても、距離が離れたり、範囲が広くなると弱くなってしまう事。自分から直径3メートル程の位置が発動させる最大値の様であった。


「例えば、剣なら斬るとか刺すとか、まぁ叩くとかあると思うんだけど、風だと攻撃のイメージって刃で斬り裂くって感じだったかな?」


「そうですよ、強い一撃なら大きな刃で斬り裂く感じで、広範囲なら小さな刃を混ぜるイメージかな」


黒街彰が思いついたのは、斬り裂く以外にもイメージしてみる事であった。刺すイメージが上手くいけば最小限の範囲で攻撃出来る。それは、威力を上げる可能性も示唆していた。


黒街彰の考えを聞いて、三日月愛も試してみる。適度な岩を探して実験開始だ。


数時間して舘浦喜助から連絡が来ると、一度集合して試した成果を話し合うのであった。


舘浦喜助は、何時もと変わらない戦闘であったと言う。ただ、『爆砕の鎚矛』の威力が高くて上手く連携を試すのが難しかった様だ。


三日月愛は、結論だけを言うと威力を上げる事は出来なかった。だが、幾つか嬉しい発見もあったのだ。


1つ目は、魔力の消費が少ない事。2つ目は、仲間への被害を抑えられる事だ。2つ目は精度を上げる必要があるが、今後活躍していく魔法になる事が期待出来た。


此の後も、黒街彰はアドバイスをしていった。舘浦喜助には、スラ吉を攻撃に参加させる事でもっと多彩になるのではと、三日月愛には、魔力を多く籠める事が出来ないか等だ、思いついた事は、全て伝えて行くのであった。


「お疲れ様、今日は帰って休もうか。1日で強くなれたら苦労しないよ······」


三日月愛が、魔力の使い過ぎでふらふらになっているのを見て、黒街彰が帰る事を決断する。2人のやる気を見て、自分達はもっと強くなれると確信出来たのであった。


✩✫✩✫✩


その頃、大型のジープが2台福島県国見町に向かっていた。ジープに乗っているのは、本城尊、郷倉未知瑠、滝陽子、丸貝里帆、導光治貞、鹿尾弾の6名だ。


この精鋭6名なら、どんな事態になっても対応が可能だろう。そして、人選した郷倉未知瑠が如何に本気であるのかも示しているのだ。


半日程掛けて目的地へ到着すると、其処には、ヘリコプターが2機駐めてあるのが見える。水元家の人間は既に来ている様だ。


「既に来ているようですね、私が先頭で入ります。何かあった時は尊様、宜しくお願いしますね」


中に入ると、舞台の上に佐久間仁が立っていた。奥の方には、清水司を含めた水元家の人間が10名程居るのが分かる。


「郷倉未知瑠、俺ともう一度闘ってくれっ」


北の人間とは少し温度差が有る様子だ、佐久間仁の発言に、徐々に怒りを露わにする本城尊。


「てめぇに、そんな事を言う資格なんてねぇぞ。先ずは真相を話しやがれ」


本城尊の言葉に、佐久間仁が応えずに後ろを伺っていると、郷倉未知瑠が言葉を発する。


「真相を話すなら、私が楽にしてあげます。後ろの人達もそれで良いですね」


本城尊とは違い口調は丁寧であったが、郷倉未知瑠から感じる圧は本城尊の非ではなかった。この圧を感じれば、この場で一番怒っている人間が誰なのか、全員理解せざる負えないのであった。


清水司が頷くと、佐久間仁が話し出す。


水元家がスパイを始末する為に動いた事、それを任されたのが大膳忠行であった事、大膳忠行との一騎討ちで春日谷龍が勝つ寸前であった事を話し······自分が不意打ちで命を奪ったのだと最後に言うのであった。


「これが俺の知ってる全てだ。正直、俺は後悔してる······貴女のせいじゃないが、あの日負けてから、全て狂っちまったんだ」


「そうですか、可哀想に······本当の悪は貴方達の王ですのに。全ての責任を取る羽目になって気の毒ですが、恨むなら自分が間違った選択をしてしまった事を恨んでくださいね」


真相を聞くと、郷倉未知瑠が舞台に上がって行く。せめて最後位はと、佐久間仁の要望を叶え、春日谷龍の仇は自身がとらなければ気が済まない、そんな事を考えて近づいていた。


「それじゃ、行くぜっ」


佐久間仁が炎を操り、郷倉未知瑠へと攻撃を仕掛けようと動き出す。


だが、動き出した筈の身体が上手く動かない。一瞬の間に全身が凍りついていたのだ、佐久間仁は、気付く間もなく凍らされていた。


「うぉぉぉ」


炎の温度を上げ、凍った身体を溶かした佐久間仁。郷倉未知瑠の氷魔法より、佐久間仁の特殊スキルの方が、力は上であった。


それも、郷倉未知瑠は解った上での行動である。隙を作る為に行った氷魔法は、見事に佐久間仁に隙を作っていた。


甲高い音が響き渡る。それは、佐久間仁に遮断の能力を解放した双剣が斬りかかった音であった。


「今回は、良い防具をつけているのですね。終わらせて上げるつもりでしたのに······」


(ふぅ、魔法は予想外だったが、炎で対応出来ない双剣は防げたぞ。なら、次は······)


佐久間仁は、前回の反省から、攻撃、防御共に幾つか考えてきた。防御が上手くいき、次は攻撃の番であった。


佐久間仁の周囲に、小さい炎が次々と現れる。小さい炎だが、温度を最大値まで高め、一度でも当れば怪我で済まない火力を込めた危険な攻撃であった。


その小さい炎が、舞台を埋め尽くす勢いで創り出されると、郷倉未知瑠目掛けて襲いかかった。


斬り裂く事も、避ける事も封じた完璧な攻撃。対応は不可能だと思い、佐久間仁の顔に笑みが溢れた。


だが、その笑みも一瞬で消え去り、苦悶の表情へと変わり果てる。


郷倉未知瑠の操る風が、小さな炎を巻き上げ、そして回転させていく。すると、小さな炎は1つの巨大な炎へと変わっていった。


郷倉未知瑠が行ったのは、風を操る事だけではなく、土魔法も同時に操っていた。佐久間仁の苦悶の表情を作ったのは、土魔法で創り出した礫が佐久間仁の防具の隙間に突き刺さっていたからであった。


郷倉未知瑠の攻撃はまだこれからだ。接続の能力を解放した双剣が、巨大な炎を斬り裂くと、巨大な炎は佐久間仁へと向かっていく。


佐久間仁は、自分を裏切った巨大な炎を受け止める為、腕を炎へと変える。巨大な炎と佐久間仁の腕が接触した瞬間、嫌な感触が蘇った。


それは、遮断の能力で斬られた感触······受け止める腕が落ちていき、自身で創り出した炎で全身を焼かれる。


もう全身を炎に変えるしか危機を脱する事が出来なかった、郷倉未知瑠に斬られる覚悟で自身の炎と対峙し、それを乗り越える。


足元には、燃えなかった防具と、1つの魔導具。炎が消えた時にはもう、佐久間仁の全身は黒焦げの状態になっているのであった。


(はぁぁぁ、うぅぅ、此れが、はぁ、実力の差か······)


「終わりです。前は子供扱いしましたが、成長しましたよ」


(あぁ、そういえば······)


佐久間仁の霞んだ目に映るのは、1つの魔導具であった。名も知らぬ少年が、別れ際に記念だと言って渡してきた物。いざという時に使ってと言っていた事を思い出していた。


(また両腕を斬られちまった······くそっ、顔で起動出来るかな)


郷倉未知瑠が近づくと同時に倒れ込み、魔導具の起動を試みる。


すると、光が佐久間仁の身体を包み込む。そして、その場から佐久間仁は消えて行くのであった。


その場に居た全員が、呆気にとられていた。


「どう云うことですか?」


郷倉未知瑠が、水元家の面々に向かって問いかける。だが、清水司は何も解らず、返答を口に出来ないでいた。


「何も言わないのなら、そこに居る全員の命で償って貰います」


郷倉未知瑠の発言を聞いた本城尊が、止めに入った。普段の役回りとは反対であったが、郷倉未知瑠の言葉を思い出せる程、本城尊は冷静であった。


(何かあった時には、お願いします。そんな事を言っていたな······皆殺しにしそうになったらお願いしますって事かよ)


「未知瑠、落ち着け。おいっ、水元家。早く説明しろ」


清水司は困っていた。佐久間仁が何をしたのか解らないのも原因だが、郷倉未知瑠の実力も問題であった。


(郷倉未知瑠、1人で此処に居る人間全員消されるな、逃げる事も難しそうだ······)


「申し訳ない、此方も理解出来ないで混乱している······時間を貰えないだろうか?」


本城尊からの返答はないが、清水司が考える。佐久間仁が倒れ込んだ時に、落ちていた魔導具。そして消えた佐久間仁、何処かに転移したの事位しか思いつかない。


清水司は、少しだけの時間で頭をフル回転させると、北の人間に一言だけ返答を返す事が出来た。


「佐久間仁を全力で探し出します」


本城尊も結論を出せないでいた、切れた郷倉未知瑠と、平和に全力を注ぐ北陽公雄、どう転んでも納得がいかない終わりしか見えないからだ。


「くそっ、面倒くせぇな。コインで決めるか? 未知瑠それでいいか?」


結局、答えを出せず面倒になった本城尊がコインの表裏で決めると言い出す。表なら中央と戦争、裏なら佐久間仁が見つかるのを待つ。それが、本城尊が出した答えであった。


「ちょ、ちょっと待ってください。先に手を出したのは此方ですが、今争う事は唐代一心の思うつぼですから······私の命、それで手を打って貰えませんか?」


清水司は、郷倉未知瑠の実力を目の当たりして、中央が負ける未来を予想していた。そして、最後に笑うのは唐代一心なのだと······


水元茜から唯一言われた「唐代一心に得になる事はしない」とゆう言葉が頭を過る。それを遂行する為、命を賭けてでも止めるのが自分の役目だと言葉を発するのだった。


「そいつは誰だ? 公雄が言っていた第三勢力の人間だろ?」


清水司は賭けに出る。情報を公開して信用を得る事と、今の状況で中央と争う事の危険性を認識させる。その思惑で全てを話す事にした。


岡本博一を襲撃した日、その場に居た唐代一心とゆう男、それが日本を陰で操っている者を初めて認識出来た時であったと最初から説明する。


同じ組織の人間だと思われる者の情報も隠す事なく話し、今は情報を集めているが、尻尾を掴めない事も話した。


「西に拠点が有るのは確かだと、此方の諜報員が全て消されておりますので······知っている事は、此れで全てです」


「聞けば聞くほど面倒だな、未知瑠、俺達は公雄に世話を掛けてるよな。それを踏まえてどうしたいか言ってみろ?」


「そうですね、感情を抜きにしたら争わないのが妥当ですが······」


会話を挟んだ事で、冷静になった郷倉未知瑠も争う事を良しとしなかった。他の面々も、段々とどちらでも良くなり、佐久間仁を探し出す事で決着となる。


「お前等のボスに言っとけ、次は止まらねぇ、とことん叩き潰すってな」


最後に一言伝えると、北の地へと戻っていく。今は争う事はしなかったが、納得する事もない。火種の残る決着でしかないのであった。


✩✫✩✫✩


「芙美、探して来てくれる?」


水元茜が戸倉芙美に願い事をしていると、電話が鳴る。電話の相手は清水司だ、それは北の人間との結末を報告する連絡であった。


「魔導具で転移? ほう、その展開は面白いのう。それに、手掛かりになるかもしれんな」


電話を切った水元茜は、光る石を手のひらで転がしながら、流れが変わる予感に口元が緩んでいた。


(佐久間が出掛けた日はそう多くない筈じゃ、有名人の目撃情報なら、それなりにあろう)


水元茜が唐代一心の手掛かりについて考えていると、戸倉芙美が魔導具を抱えて戻って来る。


清水司から連絡が来る前、水元茜と戸倉芙美が二人で話していたのは『魂の補完石』の事であった。


話していた内容は、宿った魂をどう移すのか、そして空になった『魂の補完石』の使い道はどうするのが良いか等だ。


魂を移す器について話している時、水元茜が思いついたのが、人型の魔導具。Sランク『成長型オートマタ』であった。


『成長型オートマタ』は、所有者の指示に従い動く人形であり、モンスターを倒す度に能力値を上げていく性能である。


育成が好きな者は、夢中で育てる所であろうが、水元茜には向いていなかった。初期の状態では、一ノ扉でやっと闘える程度の性能であり、初心者の探索者と1から探索を始める様な物であったからだ。


「欲しい人は、喉から手が出る程のお宝なんですがね······茜様は勿体ない」


『成長型オートマタ』を椅子に座らせると、『魂の補完石』を近づけたり、握らせたりと色々試してみる。


「う〜む、何も起こらないのう······」


水元茜が『魂の補完石』に宿る光を見つめながら、何やら語り始めた。


「ほれ、お主も愛しい人に会いたいであろう? 私が、この人形を与えてやるぞ。これが海野結菜、お主の新しい身体じゃ」


そしてもう一度『魂の補完石』を近づけていく。すると、石の輝きが強くなり『魂の補完石』から『成長型オートマタ』へと光が移って行くのが解った。


「おぉ、成功じゃっ。ほれっ、何か言ってみよ、先ずは名前から言ったらどうじゃ」


「······な、ま、え、」


「そうじゃ、名前。判るなら言うてみよ」


「うっ、名前······成長型オートマタ······違う? 判らない······」


黒街彰とは離れた地で、海野結菜が身体を手にする事になる。


だが、名前も思い出せず記憶の無い状態の海野結菜。この先、記憶を取り戻し、黒街彰と再会する事が出来るのであろうか······

第二章を最後まで読んでくださった皆様、有難うございました。

感想やご意見がありましたら、是非コメントお待ちしてます。


明日から引き続き、第三章を投稿しますので読みに来てください。



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