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第二章【離れた地で】佐久間仁

水元家の屋敷に用意された一室で、暗い表情をしているのは佐久間仁であった。


春日谷龍を殺めた事が、佐久間仁の精神を蝕んでいたのだ。平和な日本で、順風満帆に探索者として過ごしていた佐久間仁は、初めて人を手にかけてしまったのだから仕方がなかった。


佐久間仁は考える。思えば、決闘で負けた事から人生が狂って行ったのだと。前向きに考えていたつもりであったが、決闘後は仲間との関係も溝のような物を感じる様になっていた。


そして、水元家から誘いを受ける。水元茜の雰囲気から嫌な予感を感じていた、もう真っ当には生きていけないのだと直感が告げていたのだ。だから、水元家に与する決意と共に、仲間と別れる事を決意したのだった。


(俺は、何で此処に居るんだろう······)


敗北を知らない人生で、今が一番の悩みを抱えている、この時に仲間がいない孤独は、佐久間仁を闇の中へと引きずり込んで行くのであった。


水元茜に報告しにやって来た清水司は、起こった出来事と対応した内容を説明し、指示を仰いでいた。


「佐久間仁で手を打つと言いましたが、どうするかは茜様にお任せしたいと······」


「ふん、今は気分が乗らぬ。それよりも、唐代一心とやらの情報はどうした?」


「今はまだ······」


新たに数名、諜報員を西へ送ったのだが、元から西に居た者も含め、連絡が取れなくなっただけで情報を入手出来ていないのが現状であった。


「忌々しい奴らよのぉ、本当ならば今頃は、人生を賭けた闘いに身を投じてる筈であったものを······」


水元茜の計画では、時坂純也と闘う舞台が北の地に出来上がり、永年の想いをぶつけている筈であったのだ。それを邪魔された事で、一気にやる気を失う事になっていた。


「この件は、私に任せて頂いてよろしいですか? 望まぬ事があれば先にお願いします」


「如何様にもせい、望まぬ事は1つだけじゃ、唐代一心に得となる事はせぬ」


水元茜が言った最後の言葉で、北との争いを避ける事が重要と判断した清水司。争いを治める為の犠牲は必要であると、割り切るのであった。


(予想通りの展開だな、大膳を失うより佐久間仁を犠牲に出来るのなら安い物だろう······)


佐久間仁が将来有望なのは、清水司も理解していたが、心が弱く鬱になりかけている現状も把握していた。自陣の戦力が削がれるのは問題であったが、元から居ない者だと思えば『神薬』1つの損失で済むのだ。頭を務める大膳忠行を失うよりは安い物であった。


清水司は、時を空けずに連絡を入れる事にする。水元茜の気が変われば、面倒な方策を考えねばならないのを防ぐ為であった。


「清水司です、北陽公雄さんでしょうか?」


連絡用の魔導具を起動させ、先日襲撃を行った北陽公雄へコンタクトを取っていた。


「はい、北陽公雄です。佐久間仁を差し出す許可が出ましたか?」


北陽公雄の相手を見通す様な言葉に、少し苛立ったが、清水司は話を続ける。


「そうですね、許可が降りましたよ。連れて行きますので、今はどちらに?」


「申し訳ない。そんなに早く話が進むとは考えもしなかったので、今は帰っている途中なんですよ。また後日、此方から連絡を入れたいのですが、どうでしょう?」


「······判りました、お待ちしてます。出来れば、此方の気が変わらない内に連絡してください」


(ちっ、上手くいかない時は、何もかも上手くいかないな······)


連絡を切った後に、1人愚痴をこぼす清水司。本人の知らない所で、佐久間仁は命を延ばしているのであった。


数日後、佐久間仁が息抜きの為に屋敷から出て行く姿があった。行き先は決めていない、ただ外の空気を吸うだけの為に出掛けたのであった。


(はぁ、すぅ、はぁ、やっぱり、あの屋敷に居ると気が滅入るんだよな。出入りしてる奴らが化け物ばかりだからか······)


部屋に籠もっていても、強者の気配がする。怯えながら生活しているのも、病んだ心を進行させていた。


(俺が最強とか思っていたのにな、もう遠い昔の話に思えるよ。此れから俺はどうすればいいんだ······)


いつの間にか目の前には、少年の姿があった。思考の渦にのまれていた佐久間仁は、気付かずにぶつかってしまう。


「あっ、わりぃ······」


「なんだか、顔が暗いねっ。絶対に気分転換が必要だと思うんだけど、仁はどう思う?」


突然の問いかけに、呆気に取られる佐久間仁。少しして冷静になると、恐怖が襲いかかってきた。


「誰、ですか?」


「僕の事は気にしないで、たまたまSクラス探索者を見かけた少年だよ。それより、気分転換に何をしたい?」


「え、別にしたい事なんて······」


佐久間仁は、この少年も、見た目通りの年齢では無いのだろうと、違う世界にでも紛れた様な感覚に目眩を起こしそうであった。


「それじゃ、探索者らしく、探索にでも向かおうか。僕も一緒に行くから安心しなよ」


向かう途中でも、お喋りな少年は佐久間仁にあれこれと聞いてくる。


「そんなに構えなくて大丈夫だよ、全てを話さないで自分の中に抱えていると、闇の中から抜け出す事なんて出来ないんだから。ほらっ、一番苦しいのは何なんだい?」


「······人を殺めてしまったんだ、俺は正義の味方に憧れていたというのに」


「そういう事か、動かない理由は、仁、キミだったんだね。やっぱり正確な情報って大切だよな」


「ん? 何の話だ」


「気にしないで良いよ、それより殺めた人間が悪であったなら、仁の正義はまだ続いているんじゃないかな?」


不思議な会話にも関わらず、佐久間仁は次々と聞かれた事に答えてしまう。少年には、何でも頼れる様な魅力があったのだ。


四ノ扉へ入って行くと、直ぐにモンスターと戦闘になる。佐久間仁は少年の闘いを見て、自分の感覚に間違いがなかったと悟る。数体で現れた危険度Aのモンスターを相手に、2人共に圧倒していくのであった。


「仁はやっぱり強いじゃないか、この調子でストレス発散と行こうよ」


数時間程モンスターを狩り続けた事で、佐久間仁の陰が落ちた表情に光が差し始める。


「仁は、どのような世界が良いと思う? どんな世界にしたい?」


「平和で、弱い者を守る······そんな世界に出来たら」


「良いじゃないか、それが仁の正義だ。その目標に向かって進みなよ、僕も応援する」


こうして、気分転換が出来た佐久間仁は地上に戻る事にしたのであった。


「この出会いを記念して、別れる前に何かしたいんだけどね······」


「もう大丈夫だ、最後まで誰だか判らねぇけど、有難うな。お陰で元気が出たぜ、また会う事があったら、その時は名前聞かせてくれよ」


少年と出会い、元気を取り戻す事が出来た佐久間仁。だが、不運は止まる訳ではない、この先に苦難が待ち受けている事など思いもせず、希望を胸に抱くのであった。


✩✫✩✫✩


中央へ向かった面々が、北の地へと戻って来た。北陽公雄は、帰り道で清水司からの連絡を保留にした事もあり、急いで本城尊に報告すべきと焦っていた。


「北陽公雄、ただいま戻りました。早速ですが、手にした情報と伺いたい案件がございます」


中央で手にした情報を、包み隠す事なく全て報告すると、春日谷龍の仇、佐久間仁をどうするのかが一番の焦点になる。


「大膳忠行ではなく、佐久間仁が犯人と言うのか。佐久間仁ごときに龍が遅れを取るとは思えねぇけどな、未知瑠はどう思う?」


「龍が佐久間と対面していたら、負ける事はないでしょう。龍が持つスキルの性質上、死角からの奇襲には弱く、佐久間仁は一撃で葬る火力を持ち合わせています。状況が整えば、佐久間仁が犯人であるという話は納得できますね」


「直接会って聞くのが手っ取り早いって事か、場所は、そうだな、決闘を行った福島県国見町でどうだ」


清水司へと連絡する内容が決まったが、北陽公雄が気になっているのは、佐久間仁の命だけで本城尊が止まるのか否かである。其処を聞いておかなければ、落ち着いて自分の仕事を真っ当する事など出来なかった。


「今は、佐久間仁の命で勘弁してやる。原初の者が裏に居るなら、俺だって迂闊に水元家と争えないのは判ってるよ」


本城尊から言質を貰い、ようやく安堵する北陽公雄。此れで心置きなく清水司へ連絡が出来る。後は、相手が此方の提案を素直に受けるかどうかだ。


本城尊と郷倉未知瑠が居るこの場所で、連絡用の魔導具を取り出すと、本城尊に一言断ってから起動させる。


「もしもし、北陽公雄です」


「はい、清水です。どうするのか決まりましたか?」


「お待たせして申し訳ない、佐久間仁の命で手打ちにする件、了承する事になりました······」


3日後、福島県国見町にある、決闘した舞台に連れてくる約束を取り付け、魔導具を切る。


「国見町には、俺と未知瑠も向かう事にする。人選は、未知瑠に任せたぞ」


本城尊が直々に動き出し、佐久間仁の命運が3日後に決まった。その日は、佐久間仁の胸に抱いた希望が、儚く散る日になってしまうのだろうか······


✩✫✩✫✩


佐久間仁が居る一室に、清水司が訪ねていた。勿論要件は、北に命を捧げる事であった。


「話があるんだが、時間は取れるか?」


「は、はい、いつも暇してますから······」


清水司が佐久間仁にする話は、単に犠牲になってくれなどと言うわけもなく、真実と嘘を織り交ぜた佐久間仁を利用する話であった。


まず事の成り行きは、春日谷龍の命を奪ったのが佐久間仁だと北に知られた事から始まる。勿論、清水司自身が伝えた事は伏せて話しをしていた。


「それで、身柄を引き渡す様に要求されている。此方としては、情勢が変わった今、北と争う事は避ける方針だ······言いたい事は判るな」


「それは、俺を犠牲にするって事ですか?」


「そう表向きはな、そこでお前から提案しろ、郷倉未知瑠との再戦を」


清水司は、佐久間仁を連れて行く場所についても補足して、解答を待つ。


「判りました、やってやりますよ。俺も、あの日の借りを返したいと思ってたんです」


佐久間仁の瞳に力が入る。その瞳に、清水司は不安を感じていた。最近の様子から、佐久間仁には生きる気力を感じない、心が壊れてしまっていると把握していたからだ。


「やる気じゃないか、郷倉未知瑠は北でも最強の一角だ。彼女を倒せればチャンスが巡って来る。頑張ってくれよ」


佐久間仁にやる気がある事は予想外だったが、連れて行く事が出来るなら問題解決であった。佐久間仁を無理矢理連れて行く事になるのが、一番苦労すると予想出来たからだ。


後は、郷倉未知瑠と刺し違えてくれれば儲け物だと、清水司は考えているのであった。


部屋に1人になった佐久間仁は、3日後に闘うであろう郷倉未知瑠の事を考えていた。


(あの日から人生が狂ったんだ、必ず借りは返してやる。だけど、本当に彼女は格上だった。勝つ為に、3日間で攻略法を見つけ出すんだ)


佐久間仁は、人生を取り戻す為に本気で勝つ事を望んでいた。


仕組まれたシナリオを自身の力で打ち破る事が、佐久間仁に残された最後のチャンスになる。残された時間で、その結末に辿り着く事が出来るのであろうか······




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