第二章【離れた地で】謎の少女
二通りの道、選択したのは下り坂になった道の方だ。谷の底が気になった事から、黒街彰は下る方を選択したのだった。
「さっきの中間に居たのがボスじゃなかったらさ、ボスはやべぇんじゃねぇの?」
少し興奮気味なのは、時坂翔太であった。『繋ぐ未来園』で黒街彰が調べ物をしている間、時間つぶしで読んでいた絵本。その内容は、勇者が冒険をする物語だ、魔王へ挑む途中には中ボスとなるモンスターが描かれていた。
「そうだな、魔王が居たら頼むぜ。勇者、翔太」
何気に黒街彰も、その絵本を読んだ事があるのだった。
数体のモンスターを倒しながら進んで行くと、道が徐々に曲がっていき、谷の方面へと向かって続いていった。
更に先へと進むと、外の光が差し込んでいる。どうやら外に出るようだ。
外に出ると、まだ谷底には少し距離がある。飛び降りるには戸惑う距離に、下を眺めていると、モンスターに人が追われているのが目に入った。
「ん? 喜助っジャンを出してくれっ」
黒街彰がジャンの足に捕まり、下へと向かって行く。
「うっぎゃぁぁぁ、や、やめてぇぇ」
モンスターに追われていたのは、まだ若い少女であった。
黒街彰は、モンスターの上まで来るとジャンの足から手を離す。そして百足に似たモンスターの頭へ妖剣を突き刺すのであった。
「大丈夫?」
「ふぅ〜、全然平気よ······それじゃ」
何事もなかったかの様に振る舞う少女。来た道を数歩引き返して立ち止まり、振り返る。
「あのぅ、またモンスター出るかな?」
「出ると思うけど······」
少女は、トコトコと小さな歩幅で近づくと、黒街彰に「一緒に行く?」と訪ねるのだった。
少女と行動を共にする事になり、黒街彰が皆を呼ぶと、ジャンに乗って一人ずつ谷底へと降りて来る。
なぜこんな危険な場所に一人で居るのか?一番の疑問はそこであったが、先ずは自己紹介をして少女の名前を聞く事にする。
「私は、レミアノ。ファリアンス・レミアノよ、宜しくねっ」
少女の名前は、日本名ではなかった。言われて見れば外国人にも見えるが、巫女の様な格好で、黒髪の少女を見れば誰でも日本人だと思うだろう。
「レミアノは、何でこんな所に居るの? 見た感じ闘いには向いてなさそうだけど······」
レミアノの説明では、数人と共に此処へ訪れたのだと言う。他の人間が何か作業をしており、暇つぶしに探検していたら、モンスターに襲われて、逃げている内に迷子になったという事であった。
「闘えないなら危険だし、仲間と合流出来るまでは、俺達と行動しよう。それでいい?」
「それいいねっ。何だか楽しくなりそう」
(後で、ガイさんにめちゃくちゃ怒られそうだな······でも、こうなったら楽しまなくちゃだよね)
先程レミアノが向かった方向へ、黒街彰が進もうとすると、待ったを掛ける声が響く。
「そっちじゃないと、思うんだ。こっちの方向に行こうよ」
レミアノが、モンスターから追われていた方向へ進むのに反対する。黒街彰は、何か腑に落ちない気分であったが、レミアノの進みたい方向へ向かう事にした。
(直ぐに皆と合流したら、つまらないしね。其れに、あの場所へ連れてったら絶対怒られるもん)
「ねぇねぇ、皆が楽しいって思う事を教えてほしいなっ」
日が所々届いているが、暗く妖しい雰囲気の谷底を歩き出す。黒街彰達は、岩陰や上空を警戒しながら進むのだが、能天気にずっと喋っているのはレミアノだ。
レミアノの問に応えているのは、三日月愛。女の子同士気が合ったのか、人懐っこい妹の様なレミアノを気に入ったのか、二人は楽しそうに話していた。
「私はね、彰さん、喜助さん、翔太と探索している今が一番楽しいんだ」
詳しくは話さなかったが、辛い過去のせいで塞ぎ込んでいた時に出会ったのが3人で、凄く良い人達に巡り会えたのは奇跡だったと、嬉しそうに話していた。
「へぇ~、素敵な仲間なんだね。ちなみに······」(この中に好きな人とかいるの?)
小声で話し出したのは、恋愛トークであった。
「なっ、何言ってるのよ、そうゆう関係じゃないんだから、もう······じゃぁ、レミアノちゃんは好きな人いるわけ」
「うん、居るよ。恐くて、優しくて、格好良くて、でも恐い人かな······」
レミアノが想い人を話す時、何だか思い詰めた表情をしているのが印象に残る。聞いてはいけない内容だったのかと、三日月愛は話題を変えた。
夜になるまで歩き続けると、行き止まりへと辿り着いてしまった。3箇所程、別の洞窟らしき穴を発見していたので、探索を継続するなら、入る予定だ。
とりあえず、今日は此処で休む事にする。魔物除けの魔導具を起動して、食事をとる。
食事の後は、風呂に入る。三日月愛は此れ迄の道中、男達が楽しそうに入っていたのが羨ましかった。レミアノに一緒に入ろうと誘って湯けむりの中へと入って行った。
「ん〜、気持ちいいっ。レミアノちゃんはどう?」
「最高っ、お湯って癒やされるね。愛ちゃん······もしかして片目、見えてない?」
間近で顔を見ると、三日月愛の片目が義眼である事が良く分かった。
「誰か欠損修復出来る人居ないの? 回復魔法使える人」
「回復魔法は、私が使えるけど······欠損修復なんて出来ないよ。出来る人なんて見た事もないよ」
「そうなんだ······長く使っていれば出来る様になるから、頑張ってね」
「う、うん。気長に頑張るよ······」
レミアノの常識とは、少し違うのかと感じられたが、三日月愛は、素直に言葉を受け取った。
その夜は、1つのテントで三日月愛とレミアノは眠りにつく。
皆が眠りにつくと、2つの影がレミアノが居るテントへと近づくのであった。
(おいっ、起きろ、レミアノ起きろ)
肩を揺さぶりながら声を掛けて居るのは、レミアノの仲間であった。昼間の内にレミアノを見つけたが、全員が寝静まってから迎えに来たのだ。
「ん、んぅ?」
(こら、寝ぼけてんじゃねぇ。テラネウスだ、静かに顔を見ろ)
仲間の名は、ビグラウト・テラネウス。もう一人は、マクリーク・フルムであった。
「テラ君だ、う〜ん、ぅん」
(静かにしろって言ってんだろうが······)
少しして、意識が覚醒し始めると、仲間が迎えに来たのだと状況を理解する。
(来たのは、テラ君だけ?)
(話は此処を出てからにしろよ、こっちの子が起きるだろ)
テントを出ると、マクリーク・フルムが待って居るのが目に入る。
(フルムっ、丁度いい所に居るじゃないのっ。お願いがあるんだけど)
(本当に、静かにしろって)
レミアノは黙って頷くと、静かな声で助けて貰った事を2人に伝える。願いとは、その恩返しをしたいとの事であった。
(だから、お願い。愛ちゃんの目を治してあげて、貰った恩は返さなくちゃ、ね)
マクリーク・フルムは渋々頷くと、音を殺しながらテントの中へ入って行く。すると、眩い光がテントの中を照らし始めた。
時間にして、2分程でテントから出て来る。短時間で、恩返しは終った様だ。
(見つかる前に行くぞ、ガイさんめちゃくちゃ心配してたんだからな。帰ったらめちゃくちゃ怒られるの覚悟しとけよ)
(······地球の皆さん、有難う御座いました。愛ちゃん、またいつか会えるといいね)
心の中で、別れの挨拶をして去る事にしたレミアノ。短い間だったが、友情を深められた三日月愛とは、また会いたいと願うのであった。
翌朝、三日月愛が目を覚ますとレミアノの姿が無い事に気が付いた。
外へ出て周囲を確認していると、何となく視界が広い様な気がする。まさかと思い片目を瞑ると、義眼であった左目に視力が、自分の目が治っている事に気付いた。
「えっ、嘘······彰さんっ、喜助さんっ、翔太起きて」
3人がテントが出て来ると、三日月愛はレミアノが居なくなった事と、目が見える様になっている事を話すのであった。
「仲間が迎えに来たのかな? 悪い子じゃなさそうだったけど、何か訳ありって感じだったしな。それより、失った目を治せるのは凄い事だよね······」
ふと、自分で言った言葉で固まってしまう黒街彰。もしかしたら、人を生き返らせる方法を知っていたかもしれない。
「皆、もう一度レミアノに会いたい、聞きたい事があるんだ。探しに行ってもいいかな?」
黒街彰が考えたのは、最初に出会った場所での会話。レミアノが向かおうとした方向を変えた出来事であった。
黒街彰と時坂翔太で先行する。急がないと会えない予感が黒街彰を急かしていた。
全速力で移動した事で、半日掛けた距離を2時間で戻る事が出来た。此処からは、初めて移動する道になる。
本来ならば、安全を確保しながら進まなければいけない所だが、黒街彰の心が安全より情報を優先する。
レミアノの仲間が、どれだけ凄い人物か解らなかったが、レミアノは普通の少女だったと思う。レミアノを連れていたら追いつける可能性は十分にあると、望みは捨てていない黒街彰。
進んで行くと、谷底の幅が段々と狭くなる。そして、左右の壁が1つになり、行き止まりになってしまった。
(はぁはぁ、一本道だったし、レミアノと出会った場所から先は、抜け穴もなかったのに······)
「はぁはぁ、彰兄、レミアノ居ねぇな、他にどこに行けるっていうんだよ······なぁ魔力感知とかで追えないの?」
時坂翔太の発言で、黒街彰が集中して魔力を探してみる。すると、行き止まりの壁から魔力が漂うのだった。
「この壁、怪しいぞ······」
舘浦喜助と三日月愛が来るまで、壁を叩いたり、斬りつけてみたが何も変化は起こらなかった。合流してからも出来る事は全てやったが結果は同じだ。
「駄目か······レミアノっっ。居たら返事が欲しいっ、聞きたい事が有るんだっ」
叫んでみても、応答は無い。流石に諦めるしかない黒街彰であった。
「ごめん、付き合わせちゃって······良しっ、昨日見つけた穴の中を探索しようか」
「うんっ、それと······気にしないでいいですからね、私もレミアノにお礼が言いたかったし、お別れもしたかったから」
気持ちを切替え、探索を再開した黒街彰。まだ行っていない洞窟へと向かう事にする。
3つの洞窟の中で、2体の岩で出来た馬型のモンスターと交戦する事になる。一度闘ったモンスターだけに、苦戦する事無く倒して宝箱を獲得する事が出来た。
一週間程掛けて、周辺を出来る限り探索する。すると、大物以外からも、幾つか宝箱を手に入れる。やはり、人の訪れた形跡がない場所は宝箱を獲得するチャンスが眠っていたのだった。
✩✫✩✫✩
「凄い呼んでたよ、話ぐらい聞いてあげても良いんじゃ······」
「駄目だ、これ以上掟を破るんじゃない。気付かなかった俺達にも責任があったから、今回は大目に見てるんだ。もう大人しくしててくれ」
黒街彰が怪しく思っていた壁は、結界と幻術の合せ技で出来上がった物であった。その結界の内側に20人の人間が集まっている。
「それに、レミアノが居なくなったら帰れないんだから、頼むぞっ」
「むぅ、ごめんなさい。でもね、良い人達だったんだよ······友達になりたかったなぁ」
何処にでも、良い人や悪い人は居るものだとレミアノを諭す。「現に日本でも争いが起こり、人が命を失っているだろう」どこだって同じだと言うのだ。
「後1日で術式の確認も終わりそうだ、レミアノも帰ったら数日はのんびり過ごせるだろう? そこで友達を作ったらどうだ」
(もう、物を創るのとは違うんだからね。気の合う人と出会って、本当の友達になれるのは、運命の人と出逢うのと同じ位、大切なんだから)
残り1日で此処を去ると言う、この集団は何者なのだろう?
ファリアンス・レミアノと三日月愛、短い時間しか共に過ごす事は出来なかったが、二人の心には同じ気持ち、友情が芽生えていた。
この出会いが、この先の運命に影響を及ぼす事を······今は誰も、考えもしていないのであった。




