第二章【離れた地で】高ランクの装備を求めて
水元茜が女王になった事実は衝撃であったが、北の地には関係がなく、攻めて来る予想は外れ、平穏な日々が戻っていた。
(あれから、一週間か。そろそろ探索を再開しても良い頃だよな)
黒街彰の予定では、二ノ扉の中、遠く未開の地を求めて探索している筈が、地上で待機を余儀なくされる。それも、時間が経過した事で、再開しても良い頃合いであった。
黒街彰は休んでいる間、遠出の準備は進めてあり、進む方角や期間も考えていた。
(水元茜が来たら、何か出来たのかな······)
『魂の補完石』を取り戻すのに、探索再開が一番の近道だと自分に言い聞かせても、内心は複雑であった。
水元茜にどうなっているのか聞く、それ以外にも色々な考えが頭を過る。奪えるなら奪いたい。水元家の屋敷に置いてきたのなら、乗り込んでやりたい。返して貰えるなら、水元家に入っても良いと······
(ふぅ、切り替えろ。動いていないと、変な事ばかり考えてしまう······)
家に居る時坂翔太と舘浦喜助に声を掛けて、三日月愛の家へと向かう。黒街彰は、探索の予定を話して、明日から出発出来る様にする為に行動を始めた。
皆も退屈していたからか、直ぐに賛成してくれる。明日から探索再開だ。
翌日になり、ニノ扉へ入ると方角を指差す黒街彰。向かうのは、北東方面であった。
目的地に徒歩で向かえば、ひと月は掛かる道のりであったが、鱗ボアが進化した事で移動が速くなった。
鱗ボアは、直線で進むのであれば以外と速い事が分かったのだ。2メートルの巨体になった事で人を一人乗せても問題なく速度が出せるので、移動手段としては助けになる。
「ウロボウ頼んだぞ」
舘浦喜助に鱗ボアを出現して貰うと、それぞれ名付けた名前で可愛がる。名前を付けた事で愛着も湧いていた。
順調に進んで行くが、途中で遭遇したモンスターは倒していた。実力的に大分安定しているので時間は掛からない。
1日目の探索は無事に終わり、夜は十分に睡眠をとる。
朝になり、2日目の探索が始まる。今日も鱗ボアに乗っての移動だ。
「喜助さん、イノッチ疲れてないかな? もし疲れてたら、回復魔法使う事も出来るから言ってね」
三日月愛が、一番鱗ボアを可愛がっていた。動物を飼った事がなかったが、飼っていら溺愛間違いなしだと皆が思う程であった。
「だ、大丈夫だと思うよ。ダメージを受けなきゃ、回復は必要ないみたい」
黒街彰が何かを思いついて、時坂翔太に声を掛ける。
「翔太、タオルいっぱいあったよな? それと袋も出してくれない」
鱗ボアの背中が硬く、尻が痛いのだけが問題だと思った黒街彰が、袋にタオルを入れて簡易座布団を用意してみたのだ。
「皆っ、座布団の代わりに使ってみてよ」
一度止まって座布団を尻に敷く。防御力が一番低い舘浦喜助が大変喜んでいた。
2日目も問題なく進む事が出来た。余りにも順調過ぎる旅である。
3日目も朝から移動する。
(本当に、ニノ扉は大丈夫そうだ。三ノ扉へ入る条件が厳しいのは、安全の為が大きいんだろうな······)
物足りなさを感じながら進んで行くが、その感覚は、今迄が一人でギリギリの状態を保ってきた弊害の様な物であった。
「なぁククノ、北からニノ扉に入ったけどさ、この異界ってククノが居た異界とは違うのかな?」
「ん〜、それが難しいんじゃ。同じ土地の感覚はあるんじゃが、我が居た山とは繋がれない様な、切り離されている様な······変な感覚になっておる」
異界がつながっていれば、北の扉から中央の扉へ移動も可能かと思いついたが、答えは分からない。時坂純也からも、そんな情報は聞いてないので、現状は繋がっていないと思う事にする。
3日目も何事もなく進み、夜が訪れる。
「今日は、とっておきを使おうかな。翔太、アレ出してくれる?」
「アレ? あぁ、あのドラム缶?」
黒街彰が、快適に長い間の探索を出来る様にと準備してきた物、其れはお風呂であった。
時折連絡をとっていた、海野真菜にお願いをしたのは、ホースを『時空繋ぎの双子鏡』の前にセットして貰う事であった。
黒街彰が鏡の中に手を入れ、ホースを引っ張り出す。ホースが伸びきった状態になると、更に鏡へと手を奥まで入れる。
すると、ホースからお湯が出始める。
「知り合いの方にお願いして、蛇口とホースの前に『時空繋ぎの双子鏡』ってアイテムをセットして貰ったんだ、温かいお風呂に入れるなんて最高だろ」
お風呂に入るのは、唯一の女性である三日月愛からだ。鱗ボアに周囲を隠して貰い、ゆっくりと入れる環境も整える。
(あ〜温かいっ。彰さんは、ほんっとに気が利く人だなぁ。今迄、ギスギスしながら探索してたのが嘘みたいだよ······有難うです)
夜空を見上げて、目にはうっすらと涙が溜まっていた。もう他の探索者とは、一緒に出来ないなと思う。それと同時に、今の仲間を大切すると強く誓うのだった。
「お風呂有難うございます。シャンプーに簀子まで用意してるなんて、彰さん気が利きすぎです」
「気に入ってくれた? 俺も用意したかいがあったよ」
男達は、3人一緒にお風呂へ入っていく。狭い風呂にワイワイ騒ぎながら、実に楽しそうに風呂を満喫していた。
3日に一回お風呂へ入り、目的地へ進む。もう時期1ヶ月が経過しようとしていた。
1ヶ月の間にも、魔力の流れから上位個体を発見し倒したり、予想外の群れに遭遇するなど、モンスターとの戦闘は沢山あった。だが、どれも苦戦する事なく倒すことが出来ていた。
温く思えた旅も終わりを告げる。目的地、其れは人が訪れてない、情報がない場所を目指したのだが、到着すると思ったよりも過酷な場所になっている。
「此処やばいんじゃねっ、うわっ、下、下見てよっ」
「こ、恐いね。お、落ちたら終わりだよ······ジャンっ出て来て」
訪れたのは、深い谷であった。
「一様此処が目的地何だけど、この下なんて誰も行ってないかと思ってさ······険しすぎたかな」
この谷については、『繋ぐ未来園』でも情報がない。情報がないって事は、未開の地である可能性が高いという事だと、黒街彰は思ったのであった。
現在地からでは、下へ降りる事が出来ない為、谷の淵を歩いて降りられる場所を探す。
反対側の断崖に、モンスターの姿が確認出来るので、モンスターが生息している事は直ぐに判明した。
1時間程歩くと、反対側に大きな穴が空いているのを発見する。ジャンに一人ずつ運んで貰えば其処に行く事は可能であった。
「ど、どうする?」
怪しい穴、洞窟になっているのかも分からないが、余りにも不気味な穴を見て黒街彰も動揺していた。
「行けるなら、行こうぜ。すげぇお宝がありそうじゃん」
唯一乗り気なのは、時坂翔太だ。恐いもの知らずな少年の意見で行く事に決まる。
ジャンに掴まり一人ずつ穴へ向かう。先ずは、リーダーの黒街彰が向かい、穴の周辺に危険がないかと確認する。
危険が無い事を確認出来ると、他のメンバーも順に穴へ入って来た。
「中は真っ暗だな······灯りになる物がないと厳しいか?」
穴の中を見て黒街彰が呟くと、時坂翔太が何かを取り出した。
「俺、いい物持ってるぞ。光の魔導具、これ結構明るくなんだよね」
都合よく持ち合わせた光の魔導具、時坂翔太は、探索に役立つ物は予め両親から渡されて異空間に保管していたのであった。
光の魔導具を起動すると、かなりの光度を放つ。使用時間は分からなかったが、小魔石で起動出来る事から、問題はなさそうだ。
「ま、眩しいぐらいだね、翔太は色んな物持ってて凄いな」
舘浦喜助が言う位、光の魔導具から発せられる光は凄い。
中に入る順番は、先頭にポチ、その次から黒街彰、時坂翔太、舘浦喜助、三日月愛、鱗ボアのウロボウの並びだ。光の魔導具は、中央の舘浦喜助が持つ事になった。
「以外と深くまで続いてそうだな、いつモンスターが現れるか分からないから、慎重に行こう」
歩いていると、蝙蝠の様なモンスターや、百足の様なモンスターが襲いかかってくる。どのモンスターも情報には無い。此処が本当に、未開の場所である事をモンスターが示してくれていた。
「こ、ここのモンスターって気持ち悪いのが多いね、まだ奥まで続いてる?」
中央に位置した舘浦喜助が、前を歩く黒街彰へと訪ねる。
「まだまだ奥が有りそう、っていうか穴が拡がっていってるような······」
先へと進むと、更に広い空間になっていく。間もなくボスが現れる、そんな雰囲気を醸し出していた。
また一回り空間が拡がる、其処にはモンスターが居るのが見える。暗くて良くは見えないが、遠目から確認出来るモンスターは大きい事が分かる。
「皆、止まって。あのモンスターたぶん強いぞ。今回の探索って苦戦してなかったけど、一回忘れた方がいい」
表面は岩で出来た馬······六本脚の馬の様なモンスター。大きさは4メートルの巨体であった。
近づくと、モンスターの目が赤く光る。此方を認識したと言わんばかりに、ゆっくりと動き出した。
「皆、来るぞ。左右に逃げろっ」
モンスターの動きが加速すると、黒街彰が叫んで皆を逃がす。自分は、モンスターの突進を『衝撃反射の篭手』で受け止める気であった。
モンスターの突進を受けた黒街彰が、衝撃で後ろへと吹き飛ぶ。だか、仲間達もただ横へ逃げただけではなかった。
黒街彰と衝突したモンスターの動きが止まると、右から時坂翔太が、左からポチが攻撃を仕掛ける。
時坂翔太の双剣と、ポチの爪がほぼ同時にモンスターの胴体を斬り裂くのだが、両方の攻撃が弾かれた音が洞窟内に響き渡った。
「かってぇ、こいつ硬すぎるぞっ。彰兄は大丈夫か?」
「大丈夫、ちゃんと篭手でガードしてる。こいつは、篭手の反射じゃなければ駄目だ。斬撃は相性が悪い」
このモンスターとは、攻撃を耐え続ける闘いに持ち込む事を選択した黒街彰。
次々と攻撃を受けていく。モンスターの攻撃は、突進と足での踏みつけが主だった手段の様だ。
黒街彰がダメージを受けると、三日月愛が回復をする。黒街彰は、モンスターの攻撃を耐えながら他のメンバーに指示を出す。
時坂翔太は、他にモンスターが現れないか周囲を警戒する役目を。
舘浦喜助は、鱗ボアを紋章に戻して黒街彰が反撃に出るタイミングで出現させ動きを止める役目になった。
(もう少し溜めたい······このモンスターは危険度Aだよな、危険度Aでも俺達パーティーなら何とかやれそうだぞ)
何度かモンスターの攻撃を受けると、黒街彰が合図を送る。
モンスターの左右に突如として出現するのは、鱗ボアのウロボウとマルゾウ、防御型にした2体が左右から突進して動きを止める。
そして、モンスターの首に黒街彰の掌が添えられると、溜め込んだ衝撃を解放した。
凄まじい衝撃で、首から上が吹き飛ぶ。少しの沈黙の後、鱗ボアがゆっくりと離れる。モンスターの胴体も倒れ、崩れていくのだった。
胴体が崩れた跡に、銀の宝箱が出現する。
「おっ、出たぞ喜助。良いのが出るといいな」
本当に僕で良いのかと、そんなやり取りをしてから宝箱を開ける。この探索での目的は、舘浦喜助の装備を手に入れる事なので問題などないのだ。
宝箱の中から出てきたのは、レザーパンツであった。腿の辺りに銀の刺繍がある、黒いレザーパンツだ。
「······ず、ズボンだよね。ど、どうなのかな?」
「上着も欲しいですよね······喜助さん、帰ったら服屋に皆で行きましょうよ」
今履くには不格好になってしまうレザーパンツ。微妙な雰囲気が漂うと、三日月愛が空気を読んで声を掛けるのであった。
「喜助兄、帰ったら鑑定もしようぜ。それと、この後はどうする? あっちに道が2つあるんだけど」
時坂翔太が、道を発見していた。2つの道は、登って行く道と、下って行く道であった。
「いいね、まだまだ宝箱を手に入れるチャンスなんじゃじゃないか。皆はまだやれそう?」
黒街彰の問に、もっと良い物を手に入れようと、皆やる気だ。
宝箱を求めて、洞窟を進んで行く事にした黒街彰と仲間達。この先には、何が待ち受けているのだろうか······




