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第二章【離れた地で】それぞれの願い

北陽公雄が決断した内容が、北の地へと拡がっていく。『繋ぐ未来園』にも話が伝えられ、黒街彰達も知る事になった。


休養日にしていた黒街彰だったが、この日は『繋ぐ未来園』で遅くまで調べ物をしていたのだった。其処へ、上級探索者である板垣陸斗が訪れ、皆に集まる様に声を掛ける。


「まじで大変な事が起きるかもしれねぇ、皆ちゃんと聞く様にな」

通達役としては、確実に人選を間違えていたが上級探索者になった板垣陸斗は、出来るだけ丁寧に説明をする。


「攻めて来たら降伏するって言いましたけど、攻めて来てる訳じゃないって事ですか?」

黒街彰にとっては、人類の中で水元家は最大の敵に当たる。水元茜が直接来るとしたら、行動する選択肢がいくつか思いついた。


「そうだ、北陽さんは予想だって言っていたからな。彰、お前は水元家と色々あったんだから勝手な行動するんじゃねぇぞ」


(うっ、この人に読まれるなんて、顔に出てたかな? でも、『魂の補完石』をどうしてるかだけでも聞いておきたい······)

結菜の魂がどうなっているのか?それだけでも知っておきたいと思うのが、黒街彰の願いであった。


この場に居る探索者に、仲間にも情報を伝える様に言うと、板垣陸斗は見張りの任務へと移って行った。


(皆にも知らせなきゃ、それと時坂さんにも連絡しておいた方が良いよな)


時坂純也が、四ノ扉へ行く前に渡しておいた高ランクの連絡用魔導具。黒街彰が起動させると、直ぐに相手の声が聞こえてくる。


「時坂だ、どうした?」

「あ、あの、起きた事を、簡単に説明します。水元茜が日本の女王を名乗ったみたいで、まだ北に攻めて来た訳じゃないんですけど、もし来たら、降伏して本城さんが戻るのを待つ様に指示が来ました」

「分かった、折り返すからちょっと待っててくれ」


要件だけ聞くと、直ぐに通話を切る。魔石の消費が激しいから節約しなければならなかった。


✩✫✩✫✩


時坂純也が連絡を受けたのは、もう1チームを待っている時であった。黒街彰から伝えられた情報を、直ぐに本城尊へ伝える。


「また厄介な時に動き出しやがったな······時坂、地球へ戻るのにどれぐらいかかる?」


本城尊は、戦闘を得意としていたが、移動に関して特別なスキルを持ち合わせていなかった。


「一人なら、一時間で戻れるよ」


「未知瑠、公雄の判断はどうだ?」

「私達が戻った時には、人質にされているでしょう。交戦しても、増岡だけでは結果は同じです。被害を最小限に出来るなら北陽さんの判断で間違いないかと」


「時坂だけでも戻ったらどうた?」

「俺が間に合ったとして、抑えられるのは茜だけだ。護りについても、全体をカバー出来る能力は無いぞ」


本城尊は、少しの間考え込む。最も願っていた鍵が目の前にあるのだ。決断は、鳳翔討伐を継続する事にしたのであった。


「俺達は、このまま鳳翔を倒す。時坂は、黒街彰に公雄と合流する様に伝えろ。戻った後に北の地は取り戻す。情報だけでも手に入れて相手の優位性を潰すぞ」


時坂純也が黒街彰へ連絡している内に、他のメンバーも合流する。


鳳翔討伐作戦は、最大戦力で挑む事が決まった。地上の問題は一度忘れ、五ノ扉の鍵を求めた闘いが、いよいよ始まる。


鳳翔を発見してからの作戦の内容、それは、本城尊を中心とした作戦である。


先ずは、鳳翔以外のモンスターを本城尊へ近づけない為に、他のメンバーは翅蛇を迎え撃つ事から始まった。


鳳翔への距離が50メートル程まで近づくと、相手も此方の存在に気付く。すると、50体程の翅蛇が鱗の隙間から飛び立ち、襲いかかって来る。


最初に近づいて来た翅蛇を迎え撃ったのは、導光治貞だ。自分達が居る地点を除いて、重力を最大限重くして動きを封じる。


其処へ攻撃を仕掛ける人間が3人いる。巨大な弓を持つのは、丸貝里帆だ。魔力矢を放つ巨大な弓、そのスキルは分裂であった。


空中に魔力矢を放つと、無数に分裂して翅蛇へと降り注ぐ。


続いて、鹿尾弾が魔法を生成していた。氷魔法で創り出される氷柱が翅蛇の真上に現れると、重力の効果で落ちて突き刺さる。


更に追撃するのは、ダ・ビャヌであった。時坂純也と共に上空へ上がると、重力の効果も相まって投槍の威力が格段に高くなっていた。槍は翅蛇を貫き1体ずつとどめを刺していくのであった。


半数以上を倒す事に成功し、残りも手負いとなると、接近戦へと移行する。重力の効果が解除されると同時に動き出したのは、郷倉未知瑠、滝陽子、上里太陽、棚谷城ノ介の4人だ。


各自、翅蛇にとどめを刺していく。その中でも、郷倉未知瑠の活躍は別格であった。決闘では見せなかった魔法を多彩に使い圧倒していった。


その隙に鳳翔への距離を詰めて行ったのは本城尊と導光治貞の二人であった。


本城尊の能力、長年に渡り最前線で探索者をしている本城尊は、各種ステータスが高い。それと特殊スキル鉱物生成が武器であった。


鳳翔への接近に成功すると、導光治貞が全力で重力を操作する。狙いは、鳳翔の動きを止める事と、鱗の隙間から翅蛇を出られない様にする事。


そして、鳳翔を倒す役目は本城尊に託される。スキル鉱物生成によって、本城尊の空へと突き上げる腕に鉱物が生成されていく。それは徐々に、太く、高く、鋭くなっていくのであった。


生成された鉱石の名はロンズデーライト、硬度はダイヤモンドを上回ると言われていた。20メートル程の大きさまで生成された鉱石の重さは凄まじく、鳳翔に当たる面は刃物の様に鋭い創りになっている。


「真っ二つにしてやんよっ、うぉりゃっ」


ロンズデーライトの塊が、本城尊の力で鳳翔へと傾いていく。重力が操作された空間まで傾くと、更に勢いを増して鳳翔へ襲いかかるのだった。


鳳翔の硬い鱗を砕き、身体へとめり込んでいく、その瞬間······鳳翔が暴れ出すと、重力を物ともせずに動き出し、腕付近からロンズデーライトを圧し折っていまった。


更に、巨大な鳳翔の尾。そう思われる部位が襲いかかって来る。巨大故に、遠目から見ればゆっくりと見えたその動きは、近くでは躱しきれない速度であったのだ。


森の大木を巻き込み、それでも速度を落とさずに襲いかかる尾に、何人かが吹き飛ばされていく。本城尊も直撃を免れないのであった。


直撃を免れたのは、空中に居た時坂純也とダ・ビャヌ、咄嗟に空へと飛んだ上里太陽だけであった。


「くそっ、体制を立て直すぞ。傷を負った者は回復を急げ」

本城尊が起き上がり皆へ激を飛ばす。直ぐに起き上がる事が出来たのは、全身に鉱石を纏い、ダメージを減らしていたからであった。


意識がある者は、癒やしの薬を使用する。意識の無い者へは、回復する為に他の者が向かって行く。


そんな回復の時間など与えないと言わんばかりに、鳳翔の鱗が動き出し、又も50体程の翅蛇が現れるのであった。


体制を崩されたままの戦闘は、激戦となり、人間達はどんどんと消耗していく。


その後も、翅蛇が何度でも出現する為、翅蛇との闘いが長く続くのであった。徐々に後ろへと下がり、前線位置を下げた事で全員が合流する。


「はぁはぁ、翅蛇を何体飼ってやがるっ?」

「本城、翅蛇ってのは鳳翔の身体で出来てるかもしれないぞ」


時坂純也が空中へと上がり、本体の鳳翔を確認すると、明らかにサイズが小さくなっている様に見える。刺さったままの鉱石と比較すると、それはよく分かった。


そして、気付いた事実を全員と共有して、作戦を改める。


「良し、翅蛇を徹底的に倒す。月が出ている時間も限られてるからよ、全力でやんぞっ」


魔力も回復して翅蛇を倒していく。戦闘を開始してから、既に3時間が経過してた。


最初の頃は、50体づつ出現していた翅蛇だったが、半数程度まで減っている事に気付く。


「月が無くなるまで後2時間位か、残り1時間になったら本体を叩く。未知瑠、時間の管理は任せたぞ」


続けて翅蛇を倒していく、数が減った事で殲滅させるまでの時間も早くなる。当然、鳳翔が翅蛇を出現させる頻度も早くなっていった。


1時間も立たない内に、新たな翅蛇の出現数が10体になる。それを見て、時坂純也が鳳翔を確認しに空へと上がって行った。


「おい本城、本体のサイズが3分の1程度まで小さくなってるぞ」

「尊様、1時間が経過しました」

時坂純也の報告と同時に、1時間が経過する。最終段階だと、気合いを入れて鳳翔本体へ向かって行くのであった。


「次こそ、真っ二つにしてやるぜ。治貞、動きを止るのは任せたぞ」


最初に見せた連携を、再現していく。そして、本城尊が創り出した鉱石の大剣は、最初に創り出した大きさを超えて限界まで高くなっていく。


鉱石の塊が鳳翔へ傾き、速度を増すと、鳳翔が動き出した。頭を鉱石に向け、噛み付いて止める気であった。


其処に、空から高速で降りて来る者が居た。時坂純也が鉱石よりも早く鳳翔へとたどり着くと、口を開けた鳳翔の頭を殴りつける。


口を閉じた鳳翔の頭に、鉱石がぶつかると、地面へと吸い寄せられたかの様に向かっていき、地面に到着した途端、頭を真っ二つにするのであった。


「良し、遂にやったぞ。黒い宝箱だ」

鳳翔を倒した跡には、黒い宝箱が出現していた。鍵が入った箱が出現するのを見るのは、皆久し振りなのであった。


全員が喜びで湧く中、時坂純也が黒街彰へ連絡を入れていた。


「そうか、動きはなしか。こっちは無事に討伐出来たよ。なるべく早く戻るが、何かあったら直ぐに連絡をくれ」


本城尊にも、黒街彰から聞いた内容を話す。


「動いてねぇのか、水元の狙いは北の地だと思ったんだがな······最高の気分に水を差しやがって、文句を言わねぇと気がすまねぇな」


鍵を手に入れると、直ぐに戻らなければならない。本当ならば、この後は五ノ扉の事で頭がいっぱいになる予定だったのに、水元家の事を考えなければならない事に憤りを感じていた。


時坂純也とダ・ビャヌは、一足先に地球へ戻る事にする。息子達の無事を願いながら移動して行く。


本城尊達も、全力で戻る予定であったが、時坂純也と同じ様にはいかなかった。だが、来た時よりも早く、1日で地球へと戻る事が出来たのであった。


2時間で地球へと戻って来た時坂純也。それでも、ダ・ビャヌを抱えていたので全力は出していなかった。


時坂純也が扉から出ると、上級探索者が入口に2人居る。その2人に案内され、本部で待機していた黒街彰の元へ向かう事にする。


「皆、ただいま。無事で良かった」

黒街彰と共に、時坂翔太、舘浦喜助、三日月愛の3人も本部へ来ていた。それと、北陽公雄と増岡大輝も同じ場所に居るのであった。


互いの情報を、北陽公雄と交換する。時坂純也からは、犠牲もなく、鳳翔を無事に討伐して鍵を手に入れた事と、本城尊も急いで戻っている情報だ。


北陽公雄からは、水元家が北の地へ向かっている情報が無い、という事であった。


「なんだか、拍子抜けだな······良い事だが、攻めてこない理由が判らない」


「僕も同じ意見です。タイミング的にもう来ない可能性が高いと予想していますが、見張りは継続させますので」


そして、何もないまま1日が経過すると本城尊達も戻って来た。


本城尊は、何もなかった事を聞くと、大食堂へ向かって宴会を始める事にした。


今回の宴会は、流石の大騒ぎであった。ある程度楽しんだ所で、北陽公雄が本城尊へ声を掛ける。


「今回は、どうでしたか?」

「激戦だったぞ、だが遂に鍵を手に入れた」


本城尊は興奮して話を始める、この後は五ノ扉を開くのだと息巻いていた。


本城尊の勢いに、本題を話せないでいる北陽公雄。この日は最後まで話せないのであった、手紙の事を······春日谷龍の事を。

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