表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/79

第二章【離れた地で】政府急襲

春日谷龍が命を失った同時刻、他にも命を散らす出来事が地上で起こっていた。


それは、日本の首相宅、岡本邸で起こった事件。大膳忠行が四ノ扉へ入った時間に水元茜は動き出した。


黒水、流水の頭を含め、厳選された実力者が凡そ30名。其れ等を引き連れ、岡本邸に訪ねに行く。


一方、岡本博一も日本政府に対し離叛する組織の情報を入手しているのであった。

「水元家が動き出したか······なぜ今になって平和を乱す必要がある?」


岡本博一の問に応えるのは、防衛大臣の烏間高雄だ。二人は共通の人物に師事した、言わば共犯者であった。


「私には、永く生きた者の考えなど理解りかねます······適当に言わせて貰えば、平和に飽きたのでは?」


もう一人、二人の護衛兼監視役の男がこの場には居る。

「唐代殿、貴方なら何か知っておりませんか? 水元茜と同年代の貴方なら······」


「彼女は、元々苛烈な人だったからな。私からしたら、大人しくしていた時期の方が、偽りとしか思えんのだよ」

唐代一心、彼も扉が現れる前から生きている。北の言葉で言うなれば原初の者であった。


200年前から、日本政府には一人の男が裏に潜んでいた。その男は、銅谷権兵衛(どうや ごんべい)


200年前に大阪府の政治家であった銅谷権兵衛は、権力を用いて異界の宝玉を集め、自身と唐代一心(とうだい いっしん)で取り込んでいった。


異界の存在で世界が変わる事を、誰もが考えていたが、いち早く力を手に入れる事で政治と探索者の両方に顔が利く存在へと昇り詰める。


そして、寿命を延ばせる事を知った日、1つの組織を創る。日本育成会と、表向きには健全な組織を名乗っていた。

実状は、首相となれる人物を育て、財と力で権力を維持する為の組織であった。数十年後、この組織が軌道に乗ると、表舞台から姿を消したのが銅谷権兵衛と唐代一心だ。


「直に水元家の精鋭が此処に現れる、銅谷様はどうするよう言っておられるのだ?」


「水元家の動きを察知出来たのが遅すぎたな、今居る1000人の配下でも止められないだろう。ある程度交戦したら、一度降伏しろ」


銅谷権兵衛からの指示は、交戦後に降伏するものであった。先の事も考えがあったが、岡本博一には報せる事はない······それは、次の首相候補から外れた事を示していた。


(俺達も此れで終わりって事ですか、くそっ、力を持った化け物共が······民の事など考えもしない奴らに、日本を任せるしかないのか)

岡本博一が首相を担って10年、争いの少ない10年間であった。自分の持てる全てを賭けて、平和の為に尽力した人物であったのだ。


岡本邸に仕える者が、部屋へとやって来る。岡本博一は、水元茜が来た事を察知すると、案内する様に指示を出した。


「どうぞお座りください。今日はどのようなご要件で来られたのでしょうか?」

岡本博一の部屋に通されたのは、水元茜、菊本十三、清水司、更井賢人、戸倉芙美の5名であった。


白々しく要件を聞く岡本博一を、怪訝な目で見つめる水元茜。実際は、部屋に入った瞬間肌を刺す様な圧を感じた水元茜は、圧の正体が後ろに控える男だと察知し、顔が強張っているのだった。


「要件はのう、そろそろ日本を貰い受ける時期かと思うてな。若者に任せるには限界であろう?」

少女の姿で発する言葉に、違和感を感じながらも岡本博一は冷静に対処していく。


「私は若輩者ですが、命を賭けて日本を守る意思が御座います。水元家と協力出来れば、其れは、より強固な物になるでしょうな」

それは、諦められない男の本心であった。


「良いぞ、後ろの者と縁を切るなら。私の配下に加えてやろう」


岡本博一は、争いが回避出来ない事を肌で感じてしまった。生き残る可能性は、唐代一心がここに来た5人を斬り捨ててくれる事だけになったと、心の中で溜息を吐く。


日本政府を影から操る存在、水元茜も噂で聞いた事がある程度で、都市伝説的な物と考えていたのだが、後ろに居る得体のしれない者を見た瞬間から実在している者として話を進める。


「そんな無理を言わないでください、引いて頂けないのなら、貴女を犯罪者として扱わなければなりません」


「もう、平和的な解決は決裂で良かろう。元よりそのつもりであった」


水元茜の言葉が合図となり、後ろの菊本十三と清水司が動き出す。

水元茜は、岡本博一の後ろに居る男、唐代一心の動きだけに集中していた。


それは、一瞬の出来事であった。菊本十三の拳が岡本博一に吸い込まれる。多少の宝玉を取り込んでいても、岡本博一の能力値は低く、高い能力値で攻撃されればひとたまりもない。


岡本博一が、水元家の人間を簡単に部屋へと通したのは、唐代一心が居るからであった。

(唐代一心が動かないって事は、自身が用済みである証拠だな······)最後に考えた事に不満を覚えながら意識が途切れていく。


水元茜の目の前に、亡骸が1つ出来上がる。注目していた男は、微動だにしなかったのだ。


「出て勝鬨を上げるが良い。これで、日本のトップは貴女だ」


唐代一心が、水元茜に対して初めて口を開いた。感情の見えない声で、水元茜を認める発言をするのだ······その言葉に水元茜は、罠に嵌められた気しかしないのであった。


「何を企んでいるのかは知らぬが、此方も計画通り進ませてもらうとしよう。最後に貴様の名を聞いておこうか?」


「唐代一心だ。また会おう女王陛下」


水元茜は、二人を連れて外へ向かう。最小限の命で、目的を達成出来た事に喜びは見られない。逆に、計画の変更が必要になる可能性が頭を過ぎっていた。


水元茜が部屋を出ると、唐代一心が外に居る者へ連絡を入れる。直属の部下を数人紛れ込ませていたのだ。

「岡本博一は命を散らした、水元家の実力を見て起きたい。派手に暴れてくれ」


水元茜が外へ出ると、喧騒が段々と拡がっていた。争いが起きた事に気が付いても、慌てる素振りを見せないのは、外に居た大勢の人々など恐れるに値しないと踏んでいたからだ。


「水元家の勢力を生かして返すな」そんな怒号が飛び交う様子を水元茜が見つめている。


弱い者から命を失っている状況、水元家は精鋭だけを連れてきている······少し闘えば誰でも実力差を理解する筈が、相手の戦意が失われていない事に違和感を覚える。


「何かしている? 芙美、判る?」


戸倉芙美が持つ、スキルの1つに聴力強化(大)がある。戸倉芙美は、耳を澄まして重要な音だけを拾っていった。


「全滅、させるなよ、乱戦に、加わったら、動き出すぞ」

戸倉芙美は、聞き取った内容を口に出す。明らかに怪しい言葉を発する者を発見していた。


「緑色の髪で、中央辺りに居る3人組です」

「十三、最初から本気を出してよいぞ。唐代一心とやらの仲間であろう、油断するな」


菊本十三は、巨大化すると地面を抉る程蹴り飛ばし、空から緑髪の男を急襲する。


菊本十三の拳が、男を捉えたと思ったが、男は腕でしっかりとガードしていた。

「悪さしとるのは、貴様かっ」


一撃では終わらず、何度も拳を繰り出したが、全て腕で受けられてしまった。

涼しい顔をした男に、激しい闘いを予感させられる。


「賢人と清水も行きなさい、十三でも3人相手は無理ね······」


更井賢人と清水司がその場から離れると、一人の少年が音もなく近づいて来る。

「僕と貴女は、とてもお似合いだと思うのだけれど、お付き合いして貰えますか?」


水元茜も戸倉芙美も接近に気づけなかった。不気味な少年の出現に、緑髪の男が囮であった事に気付き舌打ちをする。


「芙美下がっていなさい。この坊やに、少しだけ付き合ってあげるから」


水元茜は、先に仕掛ける事にする。一見ただの体術で襲いかかってる様に見えるが、拳や足には風が渦巻いていた。


最初の攻撃を少年は掌で受け、無数の傷を負っていた。

一度攻防から離れようと、後ろへ高くジャンプすると、そこに大きな竜巻が発生する。巻き込まれた少年は、全身風の刃で切り裂かれていくのであった。


「とても苛烈な人、聞いてた通りの人だ······僕好みの最高な人じゃないかっ」

少年は、直ぐ様癒やしの薬を飲むと、猛烈な勢いで水元茜に接近する。


少年は腰に刀を差していたが、抜かずに向うと、拳で打ち合う事を選んでいた。水元茜に合わせたのか、本気ではない事が伺える。


打ち合う度に、血だらけになる少年の拳。だが致命傷になる攻撃を貰う事もないのだ。


一方、菊本十三や更井賢人、清水司に至っても同じ様な戦闘が繰り広げられていた。

互いに手の内を隠して、まるで模擬戦でもしているのかと思ってしまう。


岡本博一に雇われた人間が、一人、又一人と数を減らしていくと、そこら中が血の海になっていき、ちらほらと逃げ出す者が出始める。


(俺のスキルも効かなくなってきたな······)

唐代一心の配下によって、岡本博一に雇われた者達は、無理矢理戦意を上げられていた。それも、あまりの惨状に効果が保てなくなっていくと、新たな指示が来るのであった。


「あぁ、もう撤退ですか。僕はもっと貴女を知りたいのに······絶対に、絶対にまた会いましょうね」


屋根の上から全てを見ていた唐代一心が、配下の者へ撤退の指示を送る。


「気色の悪い奴め、もう二度と会いたくないわっ」

水元茜は、まんまと手の内だけ見られた状況に怒りが込み上げるが、逃げ出した少年を深追いする事が出来なかった。


敵の居なくなった岡本邸、惨劇の後始末と権力者達への報告を指示して水元茜は屋敷へ帰る事にした。此処までは計画通りだが、一度考える時間が必要になってしまった。


春日谷龍の始末が、予定通り行われた報告を受けて、水元茜が深く思考の海に浸かっていた。


(奴ら、見た覚えがなかったのう。であれば北か西か······西が住処じゃろうな。一度日本を明け渡したのは······奴らも本城とは面と向かって争うのを嫌ったからか······ならば、潰し合わせる気であろうな)


水元茜の計画、本来この後は、岡本邸を出た足でそのまま北に乗り込み、制圧する予定であった。


水元家からも、スパイを北に潜入させて情報を得ていた水元茜は、本城尊が四ノ扉を攻略する為に、主要人物を引き連れて向かった情報も手にしていた。


北のスパイ、春日谷龍を始末して情報漏洩を防ぎ、日本を手中に納めたのも、次の一手、本城尊がいない北の地を手に入れる為にした事であったのだ。


(本城が異界から帰る前に、北を手に入れる事は問題ない。本城が戻った後は、戦力差と人質も利用して叩き潰す予定であったが、西の実力者が集まらないかもしれんな······我らだけで本城と時坂、それと残りの十傑か······悔しいが勝てんのう)


水元茜の思考が纏まり、結論を出す。春日谷龍の暗殺は、闇に葬り去る。そして、日本の新たな支配者となり、唐代一心の情報を得る事と、次に行動を起こす為の力を蓄える事に決めたのであった。


第三勢力の出現で、水元茜の計画は一度終結となる。


だが、立ち止まる事を選択しても、自身が起こした嵐が止むとは限らないのであった······

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ