第二章【離れた地で】計画は順調に
休憩をとっている間、黒街彰はダ・ビャヌに時坂翔太の相談をする事にしていた。
「翔太は、性格的に狩りを長い間続けるのは苦手かと思うんですけど······何か良い方法ってないですかね?」
「我慢、重要。無理言ったら、私、言え」
ダ・ビャヌは、苦手な事も我慢が重要なので、我慢させれば良い。我慢しないようなら私に言えば良いと言うが······根本的に、黒街彰が知りたい情報ではなかった。
「我慢も大事ですけど、俺が目指してるのは、最適な環境を整えた上で全力が出せると言いますか、う〜ん」
「彰、無理するな、皆と、いつも、話せ」
一人で考えないで仲間と相談する、何かあれば自分で抱えない。普段から話をして話しやすくすれば良い。
ダ・ビャヌのアドバイスで黒街彰も納得する部分があった。
(皆がしたい事だけなんか無理だよな、限界になる前に解決する。その為に普段から話すのが大事って事かな)
「ビャヌさん、有難うございます。重要なヒントが貰えた気がします」
(次も牙オグロを狩る予定だったけど、他のモンスターにするか? 変化も大事だし。それと、翔太とは毎回勝負しても良いな······)
『繋ぐ未来園』へ向かい、タブレットを見せて貰う。次のターゲットを変更する為に、モンスターの情報を確認する。
「彰、帰ってたのか? 愛ちゃんはどうだ、上手く馴染めそうか?」
宝田和彦が黒街彰を見かけ声をかけてくる。
「愛ちゃんは大丈夫そうです。皆と仲良くなれそうですよ。連携も上手くいきましたし、何より新しい事を楽しんでます」
三日月愛の事を報告すると、自分の事を相談に乗ってもらう。仲間が飽きないように、モンスターを変えながら狩りたい。その為の狩り場を紹介してもらえないかと。
「同じモンスターのが、楽に狩れて良いんだけどな······まぁ、俺が知ってる事ならいくらでも教えてやるからよ」
牙オグロ以外に、モンスターが多く出現する場所を2つ教えて貰う。2つ共、危険度Cのモンスターで距離も北、東、南と違うだけで2日で到着出来る場所であった。
(これならローテーションで周るのも良いな、当面は此れで行くか)
黒街彰が、今後の行動を決める事が出来て、満足していると『繋ぐ未来園』に誰か来たようで、騒がしい声が聞こえてくる。
(げっ、この声は······)
「おっ、居たな。やっと見つけたぜ黒街彰」
「どうも、ご無沙汰しております······」
やって来たのは、板垣陸斗。黒街彰は、いつか会う事になるとは分かっていても、絡まれるだけで良い事はないと思い、会いたくはない人物であった。
「かたっ苦しい事言ってんじゃねぇよ、どうだ調子は? 『繋ぐ未来園』はいい所だろ?」
板垣陸斗は、黒街彰が北の地に来る事になった経緯を聞かされていた。それと無駄に絡む事も禁止されたのだが、そこまで言う事を聞く板垣陸斗ではないのだ。
「本当に良い所ですよ。一人仲間も紹介して貰って、探索は順調に出来そうです」
「そりゃいいじゃねぇか。流石にまだ、闘う程能力が上がってねぇと思うからよ、早く上級探索者になって俺と勝負しろよ」
良い先輩と会話している雰囲気だったが、最後は、勝負と。前に言っていた事を覚えている事を知ってがっかりする。
沈黙した黒街彰に、板垣陸斗は一言だけ言うと去って行く。
「取り返しに行くときは声掛けろよ、力になってやるから。じゃぁ、またな」
(知ってるんだ······思ったより良い奴なのかもしれないな)
✩✫✩✫✩
あれから、2ヶ月程の時間が経過した。黒街彰の予定通り、7日探索をして2日休む。そして、違うモンスターをローテーションで狩って周ったのだった。
一回の探索で1つ〜3つの宝玉を手に入れる事に成功するなど、探索は順調だ。
それに嬉しい出来事が2つ起こった。
1つ目は、イベントで4位に入った事だ。4ヶ月に一度の結果発表、2ヶ月と少しで4位に入った事は凄いと褒められる。それに貰えたアイテムも凄い物であった。
ランクAの武器、『重発の杖』この武器は魔力向上効果と、1つの魔法が2つに増える重発というスキルが使える物であった。
2つ目は、鱗ボアが進化した事である。1メートル程だった体格が、倍の2メートル程まで大きくなる。そして変化は二通りあった。
黒街彰、時坂翔太と共にしていた鱗ボアは、鱗がより強靭になり、防御型になったが、舘浦喜助、三日月愛と共にしていた鱗ボアは、一本の鋭い角が生えて攻撃型になっていた。
進化の過程が1つだけではない、それを知れたのは大きい事であった。
因みに、鱗ボアの名前だが、黒街彰がウロボウ、時坂翔太がマルゾウ、舘浦喜助がゴンタ、三日月愛がイノッチと名付けていた。
それともう一つ、本城尊が四ノ扉攻略に動き出した。本城尊、時坂純也とダ・ビャヌ、それと十傑7人の計10人、守りを最小限にした、ほぼ最高戦力での攻略となるのだ。
探索から戻り休養1日目、珍しく黒街彰が集合をかけていた。
「2ヶ月間お疲れ。今日は皆のステータスを鑑定しに行こう」
三日月愛とパーティーを組んでから、宝玉も15個取り込み、指輪2つとランクAの武器も手に入れた事で能力値がどれだけ上がったか確認する。
ステータス鑑定の魔導具が置かれた部屋に到着すると、順番に鑑定していく。
【名 前】 黒街彰
【性 別】 男
【命 力】 122
【魔 力】 0
【攻撃力】 164 (100)
【防御力】 68 (200)
【素早さ】 241 (30)(200)
【幸 運】 17
【スキル】 魔力感知(大)
【魔 法】
【加 護】 光の守護
【名 前】 時坂翔太
【性 別】 男
【命 力】 158 (50)
【魔 力】 68 (50)
【攻撃力】 153 (50)
【防御力】 86 (50)(100)
【素早さ】 246 (50)(200)
【幸 運】 29
【スキル】
【魔 法】
【加 護】
【名 前】 館浦喜助
【性 別】 男
【命 力】 91
【魔 力】 75
【攻撃力】 102
【防御力】 67 (30)
【素早さ】 52 (30)
【幸 運】 19
【スキル】 契約紋(特)
【魔 法】
【加 護】
【名 前】 三日月愛
【性 別】 女
【命 力】 81
【魔 力】 225 (50)(200)
【攻撃力】 75
【防御力】 96 (100)
【素早さ】 124 (50)
【幸 運】 11
【スキル】
【魔 法】 風魔法(大)治癒魔法(中)
【加 護】
三ノ扉に入る資格、各々の平均値は、黒街彰334、時坂翔太311、舘浦喜助93、三日月愛281だ。黒街彰と時坂翔太は平均300を超えて三日月愛はもう少しだ。
「喜助が平均93か、高ランクの装備を手に入れたい所だよな······」
実は、黒街彰は北に来る前から平均300を超えていた。やはりその差は、高ランクの装備を手にしている事が大きいのだ。
「う、うん。ごめんね、やっぱり僕が足を引っ張っちゃって······」
「それは違うよ、喜助は能力値で測れない強さがあるだろ。特殊スキルを使ったら、この中じゃ喜助が一番強い可能性が高いんだから」
喜助のモンスターを使った探索は、危険を減らして、別行動が出来る。そのお陰で、大きな効果を出していた。他の探索者よりも、効率良く宝玉を集められている現状に、問題など無いはずだが······
「ちょっと探索の方法を変えようと思うんだけど、聞いてくれるかな」
今必要なのは、高ランクの装備を手に入れる事。黒街彰が思いついた方法は、強いモンスターを倒す事であった。
魔力の流れを見つける事は確定だが、魔力の流れがいつ起こるかは判らないのだ。
黒街彰は、強いモンスターに出会う方法を、今迄の経験から思い返す。
時坂純也に訓練してもらった時は、大量にモンスターを倒した事で強いモンスターが現れたように思える。
ククノと出会った山では、随分前から頂上に居座っていたと聞いていた。
大きな蜂の巣、あれの原因は思いつかない······
「う〜ん、遠出をして、人が行ってないような場所を探すか? それだけで強いモンスターに出会う確率は上がると思うんだ。どうかな?」
時間が経過している事で、上位個体や危険度の高いモンスターが居る確率が上がる。そう予測を立てて提案してみる。
「それ、いいと思います。未知瑠さん達も、探索に出たら未開の地を目指すって言ってましたし。何時も、色んなアイテムを手に入れて帰って来ますから」
「俺も、それがいいっ。本当の探索って感じするじゃん」
「僕も、賛成。未開の地なんて、なんだかワクワクするよね」
満場一致で、次回は遠くまで探索範囲を広げる事に決まった。入念に準備を整えてから出発する。目標である、高ランクの装備を手に入れる為に。
✩✫✩✫✩
一週間程前、中央では、水元茜に呼ばれ、水元家の屋敷にやって来た人物が居た。
(でっかい屋敷だな······)
屋敷へ到着して、インターホンを鳴らす。すると、黒服の男が二人現れ案内をしてくれる。
門をくぐり、庭に敷かれた石畳を歩いて行くと、建物がいくつか有るのが見える、その中でも、一番大きな建物の中へと案内された。
更に、長い廊下を歩いて行くと、豪華な襖が目に入った。
「中で当主がお待ちしております」
黒服の男が襖を開けると、中には水元茜の姿があるのだった。
「良く来てくれたのう。まぁ其処へ座ってくれ」
だだっ広い和室。時代劇でしか見ないような一面畳の部屋で腰を下ろす。
「さ、早速だが、要件を聞かせて貰っても?」
場の空気に飲まれ、普段の調子が出ないままに言葉を発するが、水元茜には軽く躱されてしまった。
「要件の前に、お主も色々知っておいた方がいいであろう。のう、佐久間仁」
水元茜に呼ばれた人物は、佐久間仁。決闘で両腕を失ったSランク探索者であった。
「して、お主の歳はいくつか?」
「38だが······見た目よりは、おじさんだろっ」
水元茜が歳を聞いたのは、佐久間仁に知識を与える為だ。
佐久間仁の探索者として過ごしてきた期間は凡そ20年、早くに特殊スキルを手に入れ順調に成長し、表舞台では、華々しい活躍を見せていた。
アカデミー卒業後、水元家からの誘いも断り、自身の力で進んで来た彼は、潔白な道を歩んで来た為に情報に疎いのであった。
「では聞くが、北の十傑、お主の腕を奪った郷倉未知瑠は何歳だと思っている?」
「ん? 俺と同じぐらいか、少し上か······」
情報に疎いとは言っても、命力が高くなれば全盛期を保てるなど、基本的な事は知っている。見た目ではなく、闘った時の印象から年上だと予想したのだ。
「少しとは、どこまでを言ってるのか。私も正確には知らないが、少なくとも220歳はいっておるぞ。北では、原初の者なんて呼び名もある」
中央では、治安維持の為、一般には情報が隠されている場合がよくあるのだ。100年200年と生き延びる事が出来る事も隠された1つであった。
「佐久間仁、私の元へ来い。偽りの中央に、荒れた北の地。そろそろ、誰かが纏めねばならないとは思わないか?」
「······」
知らない事実に驚き、言葉を返せない······嫌、まだ理解が追いついていないのだ。
「私はお主を評価している。私の元へ来るのであれば、用意出来る物は3つ。先ずは情報。更に『神薬』それと、郷倉未知瑠との再戦を約束しよう」
暫し沈黙が訪れる。
「俺で良いのか······貴女も、普通じゃないんだよな?」
水元茜も、見た目から考えられない程の時間を生きている。
元々、佐久間仁は水元茜を苦手としていたのだが、その理由を知った今、完全に自信を失っていたのだ。
「そう自分を卑下するでない。私は、評価していると言ったぞ。お主の能力は確実に強い、伸びるのは此れからであろう······まぁとりあえず、返事を貰おうか?」
「······そ、それでは、お願い、します」
悩みながらも、水元家に加わる選択をする。もう、あとには引けない空気だけが部屋の中を支配していた。
佐久間仁が帰った後、水元茜は更井賢人に指示を出す。次の段階に移ると······計画は順調に進んで行くのであった。




