第二章【離れた地で】全力の日々
朝を迎えた4人は、鱗ボアの生息地に向かって歩き出した。後1日程度で到着する予定だ。
モンスターに遭遇すると、黒街彰は二人の戦闘を見ていた。舘浦喜助と時坂翔太のペアが戦闘に勝利すると、倒れたモンスターから出た魔力の流れに異変を感じる。
「喜助、モンスターって強くなるんだよね?どうやって強くなってるか知ってる?」
舘浦喜助は、モンスターと闘うと強くなると思っていた。どんな原理なのかは、考えた事もなかったのだ。
「もしかしたらだけど、俺、解ったかも」
敵として倒したモンスター、消滅する際、黒い靄になり地面に吸い込まれる様に消えていく。その靄の一部がポチへと入っていく様に見えたのだ。
魔力感知を持つ、黒街彰にしか見えなかった事から、靄が魔力であった事は予想出来た。魔力が集まり、そこから出現するモンスターが倒されると、魔力として大地に戻る。その一部を吸収する事で強くなっていく。
「そうなんだ、じゃ闘って強くなるって、あってたんだね」
「喜助、まだはっきり決まった訳じゃないけど······正解は、倒したモンスターの近くにいれば強くなれる。なのかもしれないぞ」
靄が、スラ吉までは届いていないのを見る限りだが、近くに居ないと駄目だと仮定していた。もしかしたら、戦闘に参加したかも理由にあるのかもしれないが、次の戦闘ではっきりする筈だ。
当面、時坂翔太と舘浦喜助が戦闘をして欲しいと、お願いした黒街彰。試したい事を舘浦喜助に指示を出す。
最初は、スラ吉に一度攻撃して舘浦喜助の元に戻る事だ。その時にポチは、何もしないで敵モンスターのそばにいる事も追加する。
結果は、ポチだけに靄が入っていったのだった。
次は、距離で変化があるか試す。ポチが1メートル、スラ吉が2メートル離れた位置でどうなるかだ。次は、同じ位置。次は、3メートル。次は、敵モンスターにくっ付くまで近づいた。最後にジャンに空中に運ばせそこで倒す事。
「大体解ったかな······説明するから喜助は覚えておいてよ。この先、モンスターの強化は重要になるかもしれないからさ」
黒街彰が結果を伝える。靄を吸収出来るのは2メートルまで、近づいても変わらない。正確かどうか判らないが、1体で吸収出来る量は決まっている様で、空中でも殆どが大地に吸収されていた。後、2体だと少し減ったように見える。解った事は以上であった。
「喜助は、育てたいモンスターを2メートル以内に移動させれば良いんだ。逆に、今の闘い方だとスラ吉が育たないからな」
今後、重要になるかもしれない、契約したモンスターの育成。簡単にだが、その注意点を知れた事は良い事だ。
段々と木々が増えていき、森の中へと入って来たことが分かる。もうすぐ、鱗ボアの生息地にたどり着く筈だ。
地図を見ながら進んで行くと、川のせせらぎが聞こえてくる。黒街彰は、「川には近づかないで」と注意する、どんなモンスターが潜んでいるか分からない、それに引き込まれると危険だからだ。
「そうだ、喜助は契約ってどうやるか、しっかり分かってる?」
舘浦喜助は、弱らせると契約出来るかが、感覚で分かると言う。
「あっ、でも仲間にしたいって思った時の方が、その感覚がくる気がするかも······」
発見したら、倒さないで様子を見る。そう決めて鱗ボアを探す事にした。
一時間が経過した位で、鱗ボアを無事発見する事が出来た。
「やっと見つけたぞ、予定通りに行こう」
黒街彰の号令で、戦闘を開始する。先ずは、三日月愛の風魔法で牽制する。
その隙に、周りを囲むような陣形になる3人。次に動くのは、舘浦喜助であった。
今回は、黒街彰と出会う前の闘い方で行く事になっていた。
ゆっくりと近づくと、ハンマーを脳天に叩きつけるつもりだ。
ハンマーを振り上げた瞬間、後ろに現れたポチが後ろ足に噛みつく。すると、鱗ボアにハンマーが見事に直撃した。
だが、契約が出来る感覚が来ていない。流石に防御が高いモンスター、硬い鱗で覆われているだけはあった。
そのまま、攻撃を続けていると熱い感覚が舘浦喜助にやってきた。そして手をかざすと、鱗ボアが消えていくのであった。
「ハァハァ、契約、出来ました」
舘浦喜助が心配していた顔には、契約紋は現れなかった。今回は膝に契約紋が刻まれていたのだった。
その後も、3体の鱗ボアを見つけて契約していった。
「此れで4体だ、次は鱗ボアを強化しないとな」
危険度Bの鱗ボア、強化しないと他のモンスターにやられてしまう可能性があった。
元々強化する予定だったので、モンスターが多く出現する場所も調べていた黒街彰。
来た道を少し戻り、東に進むと砂地が続く。其処に生息しているモンスター、牙オグロ。1メートル位の大きさで、危険度C、牙による攻撃と強靭な脚力に注意が必要であった。
「危険度はCだけど、集団で現れるらしいから気おつけよう」
目的地に到着すると、鱗ボアを4体共出現させる。舘浦喜助は、黒街彰、時坂翔太、三日月愛、それと自分に1体ずつ共にするように命令した。
「最初は、様子見で離れないで闘おう。大丈夫そうなら、二人ずつ別れる感じで」
周辺を探していると、牙オグロを発見する。数は7体であった。
「愛ちゃん、風魔法は無しにしよう。皆っ背中合わせで迎え撃つぞ」
向かって来た牙オグロを倒していく、牙オグロは防御力が低く、素早さも黒街彰や時坂翔太の方が上だ。二人にとっては簡単な相手であった。一方、舘浦喜助は苦手な相手だ。ハンマーが決まり辛い······ポチなら簡単に倒せるが、鱗ボアを強化する為出現させていなかった。
「ふぅ〜、全部倒せたね。鱗ボアが1体ダメージが多そうだな」
1体だけ、牙をもろにくらった個体がいて血を流していた。
「じゃ一旦戻すよ。僕は、このモンスター苦手かもしれないな······」
「あ、喜助ちょっと待って。愛ちゃん、鱗ボアに回復魔法って効果あるのかやってみてくれない?」
舘浦喜助と契約したモンスターは、紋章に戻せば傷を回復する事が出来るのだが、舘浦喜助の魔力を使うのだ。余り魔力量が多くない舘浦喜助に、何度も回復させていたら倒れてしまう為、三日月愛の治癒が重要になってくる。
「うん、やってみるね。癒やしを」
まだ使い慣れていない回復魔法であったが、最初よりも強い光が手のひらから溢れ出ていた。
鱗ボアの傷口が塞がっていく。回復魔法が効いてる証であった。
「良しっ······ん〜どうしようかな、二手に別れたほうが効率は良いんだけど」
悩んだ結果、二手に別れる事にした。舘浦喜助には、ポチを出現させて守りを固める。
今回のペアは、黒街彰と舘浦喜助、時坂翔太と三日月愛にした。理由は、鱗ボアを回復する手段があるのが、舘浦喜助と三日月愛だけであったからだ。
「何かあったら魔導具で連絡な、それと無理はしないように、もし上位個体が出たら一度逃げる事にしよう。それと、夕方になったら此処に集合だ」
此処で、牙オグロを3日間狩る。それが黒街彰の予定であった。パーティー結成最初から、全力で力を手に入れる為に。
牙オグロを狩り始めて3日間立った。手に入れたアイテムは、宝石が5つ、指輪が1つ、槍が1つ、宝玉が2つであった。今は時坂翔太に全て預けていた。
「皆、3日間お疲れ様。一旦地上に戻ろうと思うんだけど、いいかな?」
正直、黒街彰は何時まででも狩りをしていられる。今の悩みは、他の仲間がどう思ってるか?どれだけ探索を優先して良いか?だ。それを少しずつ測っていた。
「疲れたっ、早く帰って母様の旨い飯食おうぜっ」
時坂翔太は、単純作業には向いていない性格だ。同じモンスターをひたすら狩るのは辛い日々だっただろうと黒街彰は考えていた。
「う、うん。帰りは何かやる事あるかな? あっ、そうだ、鱗ボアに名前付けたいんだけど······付けてくれないかな?」
舘浦喜助は、新たに仲間になった鱗ボアを気に掛けている。それを見て、(喜助は大丈夫そうだ)と黒街彰は思うのだった。
名前を付けるのは、一人一人とペアを組んた鱗ボア居るので、ペアの鱗ボアにそれぞれ名前を付けようと提案する。
「自分のペットみたいで愛着が湧くよね、どうしようかな? ねぇ喜助さん、男の子とか女の子ってあるのかな?」
「ど、どうなんだろう?ちょっと聞いてみるよ」
モンスターは言葉を喋れない為、「男の子だったらジャンプして」など身体で表現を求めてみる······何方も表現してくれない、答えは解らなかったが、性別がないと言う結論になった。
「なぁ、愛ちゃんは大丈夫? 今日で5日間地上に戻ってないけど、辛くない?」
黒街彰は、話が反れてきたので、直接気になった事を聞く事にする。
「全然辛くなかったですよ。元々地上では、寝に戻るだけでしたし······初めての事とか、皆と一緒に居られる事とか、最高の探索でした」
「それは良かった。一緒に、此れからも頑張ろうな」
一番心配していたは、三日月愛の事であった。異界で夜を過ごす事や、新たな仲間の存在。何より黒街彰は、試しでもいいと言ったのだ、嫌になってしまってないか不安であった。
(当面は、翔太の事を考えてあげなきゃいけないかもな······ビャヌさんに相談するか)
こうして、三日月愛を含めた探索は無事に成果を上げる事が出来た。
だが、黒街彰は帰り道も考え事をしていた。地上へ戻って鑑定する、その後、休息はどれくらい必要なのか?考える事が多い······それは黒街彰にとっても良い事なのだ。焦りを誤魔化す事が出来るのだから。
地上へ戻って来ると、その足でアイテムの鑑定をする。鑑定の結果が今回の成果だ。
先ずは、指輪。ランクDの『地の指輪』防御力が30程上がる効果がある。
次は、槍。ランクCの無名の槍であった。何も効果がない物は、基本無名である。
2つの宝玉は、ランクDの『魔力の宝玉』と『防御力の宝玉』であった。ランクDは取り込めばそれぞれ30前後能力値を上げて貰える。
(これは、全部喜助用かな?魔力は愛ちゃんでもいいか?翔太にも渡したいけど······)
「じゃ振り分けるんだけど、『魔力の宝玉』は愛ちゃんで、それ以外は喜助だ」
武器もアクセサリーも、黒街彰と時坂翔太には必要が無い事。能力値が低い喜助を優先したい事を説明してアイテムを渡す。
「ぼ、僕がこんなに貰って良いのかな?」
「喜助兄、そんなの気にすんなよ。俺はもっと良いの付けてんだから」
まだ子供で自由奔放だと思っていた時坂翔太が、気遣いが出来るとても良い子だと、黒街彰にとっては良い発見になった。余計に時坂翔太にとっても充実した探索にしたいと心に決める。
「早く帰って飯にしようぜ、愛姉も食べに来てよ。母様の飯マジで旨いからさ」
皆でダ・ビャヌの食事を食べる為に一軒家に向かう。
一軒家では、時坂純也とダ・ビャヌが帰りを待ってけれていた。美味しい食事と今回の探索の話、賑やかな夜はあっという間に過ぎていく。
次の日から2日間は、休息にした黒街彰。焦る気持ちを抑えて休憩をとる、それが全力で力を手に入れる近道だと自分に言い聞かせていた。




