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第二章【離れた地で】三日月愛

今より2年前、『繋ぐ未来園』で起きてしまった悲しい事件。


✩✫✩✫✩


時間は、更に4年前に遡る。三日月愛は、『繋ぐ未来園』に引き取られた。当時の年齢は10歳であった。


父親と2人で生活していた三日月愛は、父親に連れられ探索に出掛ける日々を過ごしていた。


7歳から荷物持ちとして、異界を彷徨っているので、実に3年の年月が立っていた。だが、宝玉を取り込ませては貰えない三日月愛は、足手まといにしかならないのであった。


父親が三日月愛を連れて行く理由は、荷物持ちとしてこき使う事なのか、一人にしておけなかったからなのか······


普段は、優しい一面を見せる事もあったが、探索の成果が悪い時や、酒を呑んだ夜などは暴力を奮うこともあるのだ。


それでも年月が立つと、父親の能力は上がっていき、ニノ扉へ入る様になって行く。そうなると三日月愛が付いて行くには無理が出始める。


死の恐怖に震えながら、父親に初めて願った事。「宝玉を取り込んで強くなりたい」と言ってみたのだ。


ニノ扉へ入り、まだ順調に行っていなかったからか、父親の機嫌は最悪であった。大事な宝玉を欲しいなどと言われた事で、頭に血が登った父親は、力いっぱい殴ってしまった。


攻撃力が上がった事で、娘を殴る時は加減が必要になり、面倒だったからか暴力の数は減っていた······だから願いを言えたのかもしれない。


それが災いして、三日月愛は片目を失ってしまう。一命を繋いだのも奇跡だったのだが、生きるほうが地獄の様に思えてならないのであった。


目が覚めると、目の前には女性が立って居る。郷倉未知瑠だ。


「目が覚めたのね、おはよう」

孤児院の若者から、噂として聞いていた内容。小さい少女を連れた親子探索者。虐待······片目は摘出されており、間に合わなかった事を後悔する。


「お、は、よう、ございます」

まだ朦朧とした意識の中で、挨拶を返すと、三日月愛は、残った片目から涙が流れているのに

気が付いた。

もしかしたら、天国のお母さんが迎えに来たのかとも、思っていたのだ。


「一つ答えてくれる? その怪我は、モンスターに、それとも······父親に?」


三日月愛の脳が覚醒していく。起こった事を思い出していた。

「お、お父さん、です」


「噂は、本当なのね······もう大丈夫だから、もう少しお休みなさい」

言葉とは裏腹に、郷倉未知瑠の拳が強く握られていた。


この後に三日月愛は、孤児院『繋ぐ未来園』へと入る事になる。

それと、北の地で父親の姿を見る事はなくなったのだった。


『繋ぐ未来園』で支援を受けると、三日月愛の実力はどんどんと上がっていった。

能力値の上昇、風魔法を取得し、使いこなす。


荷物持ちとして異界を彷徨った経験と、死に恐怖はしたが、モンスターを恐れていた訳じゃなかった三日月愛は、強くなりたかった思いからか積極的に戦闘をこなしていた。


だが、問題は別にあった。パーティーを組んでも長続きしないのだ、父親以外と関係を築いた経験がなかったことから、仲間と上手く接する事が出来なかった。


よく揉める原因になったのが、宝玉を手にした時であった。

三日月愛は、強くなりたいと願う意思からか、宝玉が出た時だけ積極的に欲しいと言う。それが仲間から気に入らないと思わせる原因なのであった。


実力的には、頼れる後衛なので仲間から必要にされる人材なのだが、上手く馴染めない。パーティーを転々としている時に事件が起こってしまった。


探索者に成り立ての3人組み、今度加わる事になったパーティーだ。実力的には格下になるが三日月愛を迎えてくれるパーティーが他に無いので仕方なかった。


宝玉を手にした際の取決めも、前もってちゃんと話し、探索に行く。流石に一ノ扉では物足りない三日月愛、他の3人が頑張っている姿を後ろから眺める日々が続くのであった。


退屈な日々だったが、一年が立つ。3人も少しつづだが力を付けてきた。

問題の起こる日、この日は上位個体と遭遇する事になる。


初めての上位個体に3人は、興奮していた。自分達の実力を試す良い機会だと張り切っているのが分かる。三日月愛は、危なくなったら手を貸そうと決め、後ろに控える事にする。


3人にとっては激闘となったが、何とか倒すと宝箱が出現するのだった。


宝箱の中には、宝玉が入っている。今回貰えるのは、三日月愛の番であった。


三日月愛が手を伸ばすと、それを止める少年が居た。

「ちょ、ちょっと待てよ、戦闘をしたのは俺達3人だけだろ。三日月さんは見てただけじゃねぇか」


激闘だったからか、少年も興奮していた。この一年間、3人の為に手を出さない日々だったのが、今になって仇となってしまった。


「最初に決めた、今回は私の番」

三日月愛も、譲る事はしなかった。


「ふざけんなよっ、お前、本当に強ぇのか? 調子乗るなら、ぶん殴ってやろうか」

少年も本気で殴るつもりではなかったのだか、三日月愛の目の前で拳を振り上げる······


三日月愛のトラウマが蘇り、反射的に風魔法を放ってしまう。

すると、目の前に居た少年には、もう、首が付いていないのであった。


✩✫✩✫✩


事件の内容は、残った2人の少年から園長である、宝田和彦に正確に伝えられる。

過去の出来事を知ってる事もあり、三日月愛に罰が下る事はなかったのだが······その日から、三日月愛はずっと一人だ。


現在、三日月愛は探索に出ている。後衛でソロの三日月愛は、二ノ扉を入った辺りでモンスターを狩る日々であり、今日も夕方に戻って来るであろう。


「俺が説得してみますが、愛ちゃんが了承しなければ、無理矢理パーティーに入れるのは無しですよ?」

宝田和彦は、三日月愛の意見を尊重すると郷倉未知瑠に言う。

「説得は貴方じゃなく、黒街さんにしてもらいましょうか? それと、過保護になりすぎるのは貴方の悪い所です。愛には、仲間が必要なんですから」


郷倉未知瑠は、黒街彰達が待つ大部屋へ行くと、「『繋ぐ未来園』に所属して最初のミッションです」と言って三日月愛の過去を話す。


「まだ16歳の少女を救ってください。愛は、自分の殻に閉じ籠もって居るので簡単にはいきません。心してミッションに挑んでくださいね」


郷倉未知瑠が黒街彰に託したのには理由があった。

以前、本城尊に突っかかった理由が人の命であったからだ。命を大事に出来る優しい心と、熱い意思を持った黒街彰が、愛の閉ざされた心を開いてくれると······


話しを聞いた黒街彰は考え込んでいた。ミッションなどと、冗談の様な言い回しであったが目は真剣であったのだ。


(夕方までか、三日月さんの心を開く方法なんて、俺に解るわけ······)

夕方になっても、正解なんて解らない。黒街彰が考えた事は、自分にとって三日月愛が必要かどうかであった。


「はぁ〜、もう飽きたっ。喜助兄、外でジャンと遊ぼうぜ」

大部屋でスラ吉と遊んでいた時坂翔太だったが、待っているのも飽きている様子だ。


「外で出すのは不味いよぉ、探索者にやられちゃうかもしれないからさ······」


そんな会話をしていると、『繋ぐ未来園』の扉が開く音がする。三日月愛が戻って来た。


宝田和彦と会話をしている三日月愛。時折、黒街彰達を見ている、宝田和彦から3人の話しを聞いている様だ。


「今晩は、三日月です」

黒街彰に近づくと、挨拶をした三日月愛。


「初めまして、黒街彰です。この後、お話大丈夫ですか?」

「あ······はい」

三日月愛は、探索帰りで疲れている事も断る理由になったのだが、宝田和彦から話すよう言われた事で黒街彰の話しを聞くしかなかった。


「えぇと、三日月さんの事は、郷倉さんに聞きました。大変な思いをした事も······それでも、俺は一緒にパーティーを組んで貰いたいと思っています。先ずは、俺の事を話しますね」


黒街彰は、自身の境遇を話し出した。海野結菜を失ってから歩んだ道のり、北の地に来た理由。


「だから、此処で俺は力をつけなきゃいけないんです。其処で、三日月さんを必要とした理由なんですが······」

最初は、ソロの方が良いと思っていた、宝玉を手にした時に多く取り込めるんじゃないかと思ったからだと話す。


「でも、未来の事を考えたら仲間が必要だと思いました。俺はまだ、二ノ扉を探索しているだけなんです。先に進む程、モンスターは強くなって行くし数も多くなるんです」


俺達3人は、前衛なので後衛の三日月愛との相性は良い筈だと話す。


「都合が良い話しですが、俺の目的である『魂の補完石』を取り返したら、また北の地に戻って来ます。その後は、結菜を生き返らせて、もっと先に進むんです。その時、女性が居たほうが結菜も喜ぶかなって······」


「半日位ですけど、これが俺が考えた三日月さんをパーティーに迎えたい理由です。先の事を考える程に仲間になって貰えたら助かる事が増えるんですよ、きっと本当の仲間ってそんな感じなのかなって······」


「だから、三日月さんも考えてみてください。ソロで探索する事と、パーティーで探索する事。自分の目的と、未来はどう有りたいのかを······その時に俺達が必要であったら、是非パーティーを組みましょう」


黒街彰の話が終わると、三日月愛は小さく頷く。今直ぐに断られる事はないようだ。


扉が開き、誰かが入ってくる。郷倉未知瑠が『繋ぐ未来園』に戻って来たのであった。


「愛、黒街さんと話は出来た? 終わったらご飯行きましょう」


二人で話す為に、個室で食事が出来る和食屋へ足を運ぶ。


「話してみてどうだった?」

「わからないです、良い人そうでしたけど」


郷倉未知瑠は、三日月愛の事を自分の子供のように可愛がっていた。だから、甘やかすだけじゃないのだ。


「厳しい事を言うけど、そろそろ将来の事を考えなさい。上級探索者になって『繋ぐ未来園』に恩を返す······恩を返さなくてもいいけど、今のままじゃ中級探索者から抜け出せないわよ」


「······やっぱり、一人じゃ無理ですか?」

「特別な力を手に入れるか、凄く永い間探索者を続けるか。絶対に無理って訳じゃないけれど······それで良いと思う?」


「······」

三日月愛は、2年立った事で逃げる事に慣れてしまっていた。一人が楽なのだ、だから余計に前へ進む勇気が必要であった。


「彼らの事をどこまで聞いたの? 未知の精霊と共にする者、異世界人、特殊スキル持ち。前向に捉えるなら、こんなパーティーと探索出来る機会はそうそうないわよ」

色々な言葉を使って説得する。郷倉未知瑠が気を遣って他の人に話すのは、本城尊か三日月愛ぐらいであった。


「それと、一番のおすすめポイントは、黒街さんは良い人。でも好きになっては駄目よ、もう想い人がいるからね」


「それは、言ってました。でも魂だけの存在だって······」


食事を終えて家に帰る。郷倉未知瑠に最後に言われた事は「ちゃんと考える事」であった。


郷倉未知瑠に言われた事、黒街彰に言われた事。三日月愛の頭に二人の言葉がぐるぐると回っていた。

(恩を返す······目的と未来)


『繋ぐ未来園』にも恩は感じていたが、一番恩を感じているのは、郷倉未知瑠であった。

(未知瑠さんには、恩を返したいな······)


恩を返すには、どうしたら良いのか考えても自分では思いつかなかった。

(仲間が居たら、相談出来る?)


黒街彰に言われた事、未来について。未来の自分を想像してみても、今と変わらない風景しか見えてこない······

(今日言われたのは、上級探索者になれって事だよね······このままじゃ良くないのは、分かってる、けど)


三日月愛は、答えが出ないまま、その日の夜が過ぎていくのであった。

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