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第二章【離れた地で】水元茜と水元家

水元家には、それぞれ役割を持った組織があり、組織に合った名前がつけられていた。


黒街彰を襲った組織の名は、黒水(こくすい)。暗殺など、主に裏の仕事を任される組織。


優秀な学生が勧誘され、先ず入るのが、純水(じゅんすい)。最初の内は、探索の支援を受けて、一部の魔石やアイテムを水元家に納める事が仕事だ。


研究員が所属するのは、真水(しんすい)。魔吸石の再利用を可能にしたのがこの組織だ。


諜報活動を主に担当するのが、流水(りゅうすい)。魔吸石の現場検証も流水が行っていた。


「先輩、時坂を北へ行かせてよかったんですかね? 黒水がやった事ってマイナスの方が多い気がするんですけど」

諜報員、流水の山岸徹(やまぎし とおる)が、流水幹部の上尾泰士(かみお たいし)へ声をかける。


「この事態は、予定通りなんだよ。黒水が黒街彰に手を出した事は、茜様に報告しただろう? それを止めなかったって事は、元々時坂純也と揉める事が目的だったって事だ」


「それじゃ、黒水は貧乏くじを引かされたんですね。ここ数年、組織のお荷物になってたから······解体ですか?」


黒水が最も活躍していたのは、150年前から100年前の50年間であった。

その当時は、中央も荒れに荒れており、いくつもの組織が争い潰し合っていたのだった。


「嫌、逆かもしれないな。茜様の動き次第で黒水が活躍する事になる」

「マジっすか? そしたら、俺黒水に移ろうかな。元々黒水志望だったんで······」


山岸徹は、何よりも戦闘を好む男であった。その戦闘能力を買われて上尾泰士から流水に誘われたのだ。

研究員にでもならない限り、戦闘能力が高いに越したことはない。当時、活躍の場が無い黒水に入れるよりも、流水に入る方が水元家にとって有用であった。


「お前は冷たい男だな。そこそこコンビでやって来ただろうが、強い奴と闘いたいのなら、何処に居てもチャンスはあるだろう」


「チャンスありますかね? 俺としては、北から戻った時の黒街彰に期待してるんですけど。あの成長速度なら、楽しませてくれそうだ」


上尾泰士が、他の可能性も山岸徹に示す。

現在の黒水は、人員不足であり、菊本十三の下が育っていない。

そうなると、組織の再編成や、暗殺、戦闘配備が流水にも回って来る事が考えられた。


(清水さんが今呼ばれてるからな。他の頭も呼ばれているなら、大きな動きがあるんだろう······まだコイツには教えないけどな)


✩✫✩✫✩


水元茜が住む総本家、その一室に集められた大幹部達。水元茜から、今後の計画が伝えられようとしていた。


「揃ったようだね、妾······嫌、私は日本を手に入れる事にした。意味は分かるな? 何か意見があるなら聞こうか?」

水元茜の言葉に、心境の変化が見て取れる。そして、目が本気で有る事を語っていた。


先ず口を開いたのは、黒水の頭、菊本十三だ。

「遂に動かれるのですね、姫様。先日の失態、儂の命を賭けて取り返してみせます」


黒街彰の件、行動に移したのは黒水の若手達。報告を聞いた菊本十三は、若手だけで失態を犯すよりはと、着いて行く事を決めたのだ。

結果は、情報を聞き出し、アイテムも奪う事が出来たが、菊本十三が納得出来る終わり方ではなかった。


「十三よ、失態などと思う必要はないぞ。時坂と決別するのが、私の計画だったのでな······」

水元茜は、黒水が黒街彰に接触している報告を受け、時坂純也が関わる未来を予測していた。


次に意見を言うのは、流水の頭、清水司(しみず つかさ)であった。

「我ら流水は、勿論、茜様の判断に従います」


話を聞き、直ぐ様忠誠を見せるような素振りだが、今回の情報を水元茜に報告をしたのは流水からだ。

黒街彰に接触した事の報告から、常に流水の人間が、黒水と黒街彰の監視を行っていた。黒街彰を取り囲んだ場所が、時坂純也の隠れ家付近である事も報告している。


「無駄な争いに私を巻き込まないでほしいのだがね、何故私まで呼んだのでしょう?」

文句を言うのは、真水の頭、木場多一郎(きば たいちろう)だ。この男は、研究に命を捧げたような人間である。


「おいっ、お前も組織を纏める一人なんだからな、今日ぐらい協調性を見せてみろよ」

木場多一郎に文句を言うのは、水元茜の側近、更井賢人(さらい けんと)

水元茜には、常に行動を共にする側近が2人居る。もう一人は、戸倉芙美(とくら ふみ)。二人共、高い能力を持っている強者だ。


「賢人、よい。その男には、聞かせているだけで奇跡みたいな物じゃからな」


此の後、水元茜が、「他に言いたい事がある者はいるか」と問うが、言葉を発する者は居ないようだ。

水元茜に促され、更井賢人が皆に計画を話し出した。


「随分前から、計画は動いていたのですが。先ずは、既に動いている事から説明します。中央で権力を持っている者への根回しは、ほぼ済んでいます。残るは、現首相の岡本博一です」

更井賢人の説明によると、岡本博一が抱える組織は強大で、戦闘は避けられないと言う。


「制圧には、黒水と流水の混合部隊で動いて貰います。それと、もう一人······」

近いうちに、実力者を一人、仲間に引き込む予定だ。


「それと大膳さん、貴方には別で動いて貰いたい事が有ります」

更井賢人が声をかけた人物。純水の頭、大膳忠行(だいぜん ただゆき)だ。大膳忠行には、北のスパイを始末するよう指示がでる。


「お話した制圧と暗殺は、同時に行う予定になります。黒水、流水の組織は、作戦の実行までに人選を済ませておいてください。大膳さん、ターゲットはかなりの実力者ですので、万全な状態でお願いします」


皆が了承して、今回は解散となる。


事が起これば、日本政府襲撃とゆう大事件になるであろう話。水元家を支える大幹部達は、皆、永く生きた強者揃いだけあり、誰一人動揺する者など居ないのであった。


解散した後に水元茜は、自室で一人、『魂の補完石』を見つめながら昔の事を思い出していた。


「愛する者の魂が、宿る石か······」


✩✫✩✫✩


今より196年前、水元茜の年齢がまだ12歳だった頃。


「妾が当主になって、世界一のお家にしてあげますわっ。だから、今日も皆で探索頑張るのよ」

当時、水元茜がハマっていたアニメ。それに出て来るキャラクターの言葉遣いを真似るのが、水元茜のブームとなっていた。


「お嬢、またそんな喋り方して。今時、妾なんか誰も言わないですって」

「え〜、エクストリア城の女王様は言ってるもん。私も将来は女王様になるんだからっ」


活発的で可愛らしい少女である水元茜の事を、お付きの者三人は、心から大事に思っていた。それに、お付きの者以外、家に仕える皆が、我が子の様に愛してやまないのが水元茜であった。


そして、今日も探索へ出掛ける準備をしている。家の力で、宝玉を幾つか取り込んでいた水元茜は、自ら精力的に一ノ扉や二ノ扉へ探索に向うのが日課になっていた。


「三ノ扉が開放されたって噂は、本当なのかしら?」

「······本当らしいですが、駄目ですぜ、そんじょそこらの探索者が行ける程、甘くないって話ですから」


お付きの者達は、情報を隠していた。ひと月前には、三ノ扉が開放されていたが、水元茜に知られれば必ず行くと言い出すのは目に見えているからだ。


「そんな逃げ腰でどうしますのっ? 妾にかかれば、どんなモンスターだってへっちゃらですわよ」

「冗談抜きで駄目です。こればっかりは譲れません、言う事聞いてくれないのでしたら、お母様に言いつけますからね」


一度言い出したら聞かないのが水元茜だ。

「もう少し情報を集めてからにしましょう」

「日本で最強と言われる位の探索者じゃなければ······」

「もう、お祖父様にも言いつけますから」

何を言っても、納得しない。


「いいわ、妾がお祖父様に直接いいますわよっ。水元家が最先端を行かないで、どうしますのっ」

言う事を聞かないお転婆な性格に、困り顔の付き人達······だが、将来水元家を支えて行くのはこの人だろうと皆が思っていた。


水元茜が、現当主のお祖父様に話した内容はこうだ。

水元家が日本一になる為に必要な事。常に先頭を進み地位を示す、妾がその先頭に立つのだと······そして、今必要なのは、最強と言われる探索者の存在であると言う。


可愛らしく、活発でお転婆だけじゃないのが、水元茜であった。12歳にして、曲げない信念も持ち合わせている。


そして、水元家の力を使い、手配したのが時坂純也であった。

何度も頼み込み事、3ヶ月。運が良かったのか、時坂純也ともう一人が、別の組織に襲撃される現場へと居合わせたのだ。


時坂純也に加勢し、仲裁する事に成功する。必要であったかは別として、恩を売る事に成功した水元家は、頼み込んだ時間だけ護衛を引き受けて貰う事が出来たのであった。


時坂純也は、水元家のお屋敷に招かれ、当主や水元茜を含めた複数人に紹介される。

「3ヶ月の期限付きで護衛を引き受ける事になった時坂だ」


ぶっきら棒な挨拶をする時坂純也。自由を好む時坂純也は、権力者と関わりを持つことが何より面倒に思っていた。


(ふ〜ん、この人が、日本の探索者で最強って言われてるのね)

水元茜は、時坂純也に少しだけ惹かれる。この屋敷に招かれた人間で、こんなにも堂々としている人を初めて見たからだ······


時坂純也は、当主や、水元茜の父から話しかけられても、終始つまらなそうな態度である。

周りが心配そうに見守っていると、時坂純也が口を開く。

「御託はいい、護衛対象はどいつだ?」


待ってましたと、水元茜が名乗りを上げる。

「退屈させてしまって申し訳ありませんわね。妾が、依頼主の水元茜ですわ」


時坂純也の心境を、堂々と口にしたのが小さな少女である事。その光景に気分を変えられてしまった。

「随分可愛らしい依頼主だな······それじゃ、早速だが、実力を見せてもらおうか?」


時坂純也は、中庭に出ると、水元茜とお付き3人を同時に相手取る。水元茜は、思っていた以上に圧倒されてしまった。


「最強は伊達じゃありませんのね、妾も毎日頑張っていましたのに······」

「落ち込む事はねぇ、小せえのに中々いい線してんじゃねぇか。それより、妾なんて言う奴初めて会ったぞ」

「うっ、そこですか? 皆、止めろって言いますの······やっぱり変ですかね?」

「嫌、俺は割と気に入ったな。どうしたいかなんて、一つだろ。自分を貫けばいいんだよ」


時坂純也は、護衛対象として。水元茜は、護衛してもらう人間として、お互い合格点を与えた。この日から、二人の関係が始まったのであった。


護衛が始まった当初から、水元茜は三ノ扉に行く事を臨んだが、時坂純也から許可は降りない。時坂純也から見て、護衛するにしても三ノ扉へ入るまでの実力が足りていないのだ。


3ヶ月の短い間、二ノ扉の中でモンスターを狩る事と、戦闘訓練を行う。時坂純也は、水元茜の希望もあり、厳しく指導をするが音を上げる者は出なかった。だが、結果としては、音を上げなかっただけだ。


何故、努力をしているのに、こんなにも力の差があるのだろう······と悩む日々も終わってしまう。


「時坂さん、どうしたら三ノ扉へ行って貰えますの?」

3ヶ月の間、努力を惜しまなかった水元茜の質問に、時坂純也は妥協してしまった。


「俺一人では、お前等4人は守りきれない······後二人でも強者が居ればな」


時坂純也の答えに、水元家の人間から強者を二人連れてくる。水元茜は、そう行動するしかなかった······もう時間がないのだ。


そして、時坂純也が護衛をする最後の日。水元家から二人の強者を迎い入れ、7人で三ノ扉へと入る。経験の為、少しだけ様子を見るだけだと言い聞かせて。


三ノ扉へ入ると、其処は山の上、頂上から始まる。景色だけ見て引き返す選択肢もあったが、山を降って行った。

時坂純也は、モンスター1体であれば、自分が相手をすれば良いと考えていたのだが······


現れたモンスターは、鬼。2メートルはあり、身体能力が高い。危険度はAだ。


「俺が相手をする、お前等はゆっくりと引き返せ」

モンスターも見れた事で、引き返す理由になると思った時坂純也が指示を出す。


扉までは、直ぐ近くだと油断していた。時坂純也が戦闘を開始したと同時に、後ろから悲鳴が響き渡る。

扉までの道に鬼が2体待ち受けていた。水元茜は、三ノ扉の中では狩られる側なのだ。


あっという間に、仲間の命が失われていく······水元茜も、鬼の一撃を受け腕が非ぬ方向へ曲がっていた。

鬼の追撃に、水元茜が目をつぶる。

「諦めるんじゃねぇ」


鬼の拳は、魔力の膜で辛うじて防がれる。そして、水元茜を襲っていた鬼の頭部に時坂純也の蹴りが炸裂した。


「茜、立て。扉へ急ぐぞ」

蹴りを喰らった鬼が立ち上がる。大したダメージは無いようだ。


当時、時坂純也の実力は、危険度A1体ならば勝てたが、3体は厳しかった。まして守りながらでは、勝ち目はないのだ。


撤退の判断をした時坂純也が、水元茜を抱えると、全速力で空へ翔る。

「あっ、み、皆が······」


仲間達は、殆どの者が事切れているように見える。救える命が限られた状況では、まだ少女である水元茜を優先したのだ。


なんとか扉へ到着し、地上へ戻る。そして水元家の屋敷へと帰るのだが、二人共に口を開く事が出来なかった。


屋敷へ入り、当主へと報告に行く。お祖父様を前にした途端、水元茜の瞳から涙が溢れる。

呼吸も乱れ、上手く喋る事が出来ない水元茜の代わりに、時坂純也が起きてしまった出来事を説明した。


「孫を守り抜いてくれた事に礼を言おう······本日で最後であったな? 報酬を受け取って出て行くといい」


時坂純也は、頷くと水元家から立ち去る事にした。その前に、水元茜に言葉を伝えて。


「皆を護ってやれなくて悪かったな。異界は、先に進む程に危険なる。今後の事は、ゆっくりと考えろよ」

「う、うん」

こんなに大きな失態は初めてであった。水元茜は、返事をする事で精一杯だ······時坂純也と共に探索するのは最後かもしれないのに。


✩✫✩✫✩


苦く嫌な思い出と、初めて恋をした記憶。


(自分で言うのも可笑しいが、永いこと想ってきたものよな······妾、私も一途じゃのう)


言葉遣いと共に、想いを断ち切り、動き出す事を決心する。


少女の時代から願っていた女王の座、日本を支配するのは、水元家当主、水元茜であると。

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