第二章【離れた地で】それぞれの思惑
今日は、朝から探索に向う。敷地へ入り、受付に声をかけると、昨日の無礼を謝られた。
時坂純也は、謝られるような事はされていない、そう言うと中へと進んで行った。
本部の中にはそれなりに人が居た、探索に向う人達だろう。異界へ続く階段の前には、昨日案内をしてくれた森山裕実の姿がある。
「おはようございます。早速探索に向うのですか?」
森山裕実と数人が、入口付近で見回りをしていた。全てが自由であった北の地、過去に探索帰りを狙う強盗が頻繁に現れる事態が起こってしまった。
それを防ぐ為、王の配下の者が警備を行う事になったのだ。此れも北陽公雄が行った政策の一部であった。
「おはよう、昨日は有難うな。探索に行かないと身体が鈍っちまうからよ、ここを通るのに何か必要か?」
北で探索に向うのは、今でも自由であった。「何も必要ありません、お通りください」と告げられ先に進む。今日は、ニノ扉の中へと入って行く。
二ノ扉の中へ入ると、中央とは少し違う事に気が付く。中央では、入って直ぐジャングル地帯となっていた。北では、腰位まで伸びた草が広がっていた。
最初に遭遇したモンスターは、大オガミと呼ばれる2メートル程の大きさで、カマキリの様なモンスターであった。攻撃力が高く、斬れ味のある鎌の攻撃に注意が必要な危険なモンスターである。
「喜助君、大オガミは危険度Bのモンスターだ。闘った事はあるかい?」
「た、闘った事ないですけど、危険度Bなら大丈夫だと思います」
時坂純也は、攻撃力が高いから気をつける様にアドバイスをする。
舘浦喜助は、いつも通りに向かって行った。無防備に近づくと大オガミが鎌で斬り裂いてくる。
金属音が響いた時には、舘浦喜助の振りかぶったハンマーが振り下ろされる所であった。
ハンマーが頭に直後するのと同時に、腹をポチに切り裂かれる。お決まりの連携で、大オガミを倒す事に成功した。
「おお、それが昨日話していた喜助君の闘い方か。ちょっとスラ吉を見せてくれるか?」
時坂純也が気になったのは、大オガミの攻撃を受けたスライムのスラ吉だ。
大オガミの攻撃は、危険度Bの中でもかなり高い一撃を持っている。それを受けて無傷で済むとは思えなかったからだ。
「スラ吉君、さっきみたいに硬質化してくれないかな?」
時坂純也は、スラ吉に直接話しかける。スラ吉からはなんの反応もない。
「やはり、喜助君しか命令できないのかな? 喜助君、硬質化するように言ってくれるか?」
舘浦喜助に言われると、直ぐに全身を硬質化させる。硬質化すると、斬られた箇所に大きな傷があるのが分かる。
「やっぱりか、喜助君もよく見てみな。2回は受けられない程のダメージだぞ」
時坂純也は、昨日の話でスラ吉が高い防御力を持っていると聞いていた。
だが、元が危険度Fであり、戦闘を経験した時間がまだ少ない筈のスライムが、何でも防ぐ事など出来ないと分かっていたのだ。
「喜助君の課題は、自身と仲間のモンスター、それと敵であるモンスターの能力を測れる様になる事だな」
他にも、どんなモンスターを仲間にするかや、モンスターとの連携など、やれる事が山程あると付け加える。
「は、はい。が、頑張ります」
舘浦喜助は、まだ駆け出しのようなものだ。特殊スキルを持っている事を合わせれば、ここに居る誰よりも伸び代があるだろう。
それぞれの課題を見つけながら、本城尊が戻るのを待つ日々になるのであった。
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黒街彰が北の地に来てから、一ヶ月が立とうと
していた。
「おかえりなさいませぇ、尊様。この後は、どうなさいますかぁ?」
滝陽子が本城尊を出迎えていた。
「先ずは、飯だな。食堂で食うから肉と魚の両方を用意してくれ」
「はい、伝えておきます。ふふっ、尊様にお伝えする事がありますので、食事の場に北陽さんを同席させますねぇ」
滝陽子は、時坂純也の件を、北陽公雄から伝えてもらう事にしていた。
本城尊達は、探索を終えた全員で食堂へ向う。総勢18名の大人数での移動だ、メンバーは十傑5名と孤児院を卒業した上級探索者12名であった。
本城尊達が食堂へ着くと、久し振りに食べられる地上の食事に仲間達も盛り上がり、食堂に居た人間も大騒ぎで、お祭り騒ぎになっていた。
「賑やかだなっ、おお、今日は祭りか? 良し酒も用意しろ、久し振りに呑むぞオメェ等」
出迎えに機嫌を良くした本城尊が、食堂を宴会場に変えていく。実は、長い探索が終えた後は、大概こうなるのであった。
ある程度、食事とお酒を堪能した後に、北陽公雄がやって来た。
「探索お疲れ様でした。今回の成果はどうでしたか?」
「公雄、先ずはお前の話からだ。陽子が楽しそうにしてたからな、碌でもない事があったんだろ、何があった?」
北陽公雄は、時坂純也と黒街彰がやって来た事を話す。
「何やら水元家と揉めたらしいのですが、詳しい内容は本城様に直接話すとの事でした······」
「ほう、中央が時坂を離したか。そりゃいい話じゃねぇか、公雄は何を心配してるんだ?」
「時坂純也は、本城様と同じ原初の者なんですよね? そんな人間が動いたらバランスが崩れるんです、そうなると、どうなるのか? 今は三竦みに近い状態だからこそ平和なんですよ」
原初の者、北の地では本城尊の様な、扉が現れる前から生きている者をそう呼んでいた。
「三竦みねぇ、それで言うと、力を手に入れたのは俺達だろ。北が日本を穫りに動くなら分かるが······俺は興味がないからな」
「日本で言えば北、中央、西の三竦みですが、私が言っているのは中央での三竦み。政府と水元家と探索者です······」
水元家が争いの元凶であるのなら、本格的に中央を制圧に動く可能性がある。
個人の探索者である時坂純也が居なくなり、個人の探索者という力が弱まる事で政府を制圧しやすくなると話す。
平和の維持を最も重要視している中央の人々は、個人の探索者も同じであり、水元家が政府を攻撃すれば個人の探索者は政府につく。だから大きな動きがなかったのではと、北陽公雄は自身の考えを本城尊に話した。
「それだけなら、中央で勝手に揉めてるだけだ。気にする必要はないだろう?」
本城尊は、自分には関係ない。勝手に揉めていろと思う。
「水元家の力は大きいと聞いていますが、本城様と十傑には敵わないでしょう。ですが、水元家が中央を奪ったら他の動き方が出来るのですよ······」
北の地を奪った北の王、大罪者の排除。そんな名目で西と探索者を動かす事が出来る。
「そうなると、日本全土で戦争になるのです······私が行ってきた事など、なかったかの様にです」
「そりゃ本当に起きたら、面倒くせぇな。だがな、公雄が有能なのは知ってるがよ、揉めた理由も聞いてねぇのに考え過ぎってもんだろ」
「私もそう思いますが······」
「王っ、なぁ聞いたかよ? あいつが来てるらしいぞ」
話に割って入って来たのは、板垣陸斗であった。他にも、八代凛、鈴原花が今回共に探索した上位探索者12名の中に入っていた。
3人の実力は、十傑に遠く及ばないが、決闘の後、郷倉未知瑠の試練を無事やり遂げ、上級探索者へと昇格していたのだ。
「俺も今聞いた所だ、明日にでも俺が話をするからよ、喧嘩するんじゃねぇぞ。陸斗、お前も上級になったんだから判るよな?」
「当たり前だ、俺も上級だからな。あいつが、ここの人間になるなら俺が指導して強くしてやんよ」
板垣陸斗の元へ小さな足音が近づいて来る。そして、肩に手が添えられると、恐怖が襲ってくるのであった。
「陸斗、先ずは、その口の聞き方からやり直しましょうか? その後は指導を一からやり直しても良いのですよ」
一瞬にして酔いが覚める板垣陸斗。「ごめんなさいっ」一言謝って八代凛と鈴原花の席へ戻って行った。
「公雄、時坂を明日連れて来てくれ。どうするかは、話を聞いてからだ」
その後は、食べて呑んで騒いで探索の疲れを癒やす本城尊であった。
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翌日になり、時坂純也一人が本城尊の部屋に招かれる。
「ようこそ北の地へ、まぁ座れよ」
「あぁ、早速だが本題に入っても?」
時坂純也は、黒街彰に起きた事態を、先ずは簡単に説明する。
「生き返らせるアイテムねぇ、それを奪われたのか、中央の外道は、よく真っ直ぐな目ぇした青年から奪う事が出来るよなぁ」
本城尊は、黒街彰が何か隠している事には気付いていた。
「黒街彰は、力をつけて取り返しに行くだろう。その時は、俺も協力する予定だ。話をしたのは、余計な争いが起きないよう北の人間に指示を出して貰いたいからだ」
願いを聞いた本城尊は、少し考える。昨日、北陽公雄から言われた話が頭を過っていた。
「この問題は、本当にお前等と水元家だけの話で終わるのかよ?」
「ん? 流石に水元家でも、八戸市までは襲って来ないだろ······」
「そうじゃねぇ、本当の狙いがお前を中央から追い出す事だったらって話だ」
今度は時坂純也が考える番であった。
(俺が狙い······中央で茜を止められるのが俺だけだからか?)
「おい? 時坂、お前が狙いだったら、水元家はどう動くと思う?」
「もし、それが真実なら、次に行うのは······政府の乗っ取りか?」
(何だか、公雄が言った事に近づいて行く気がしやがる······だったら俺様がやる事は一つだ)
「お前等に手出しをしないよう指示を出す、其れに最大限協力もしてやる。だが条件だ、お前とお前の嫁は、俺に協力しろ。五ノ扉の鍵を手に入れる」
本城尊は、ダ・ビャヌが持つ異空間能力を知っていた。探索には、大いに役立つ能力である。
「話が急だな······ちゃんと説明しろよ」
「公雄が懸念してたんだよ、水元家が中央を手にしたら、西と協力して北を奪いに来るってな。だったら俺は、力を手にするまでよ。それで、力を手にする為に五ノ扉を開くって話だ」
(また彼か、本当に有能なんだな······)
「分かった、その条件呑んでやる」
時坂純也が条件を呑んだ理由、其れは二つあった。黒街彰達の成長には、ここに住む人達の協力が必要である事。それと、時坂純也も五ノ扉を早く開きたかったからだ。
「ハッハッハ、必ず受けると思ったぞ。お前は俺と同じで、探索に人生を賭けた人間だからな。次の探索は万全の準備をして挑む、情報も渡すから楽しみに待っていろよ」
こうして、原初の者二人が、協力して四ノ扉を攻略する事になる。二人の目は、期待で輝いていた。
時坂純也は、拠点にしている一軒家へと戻って来た。
全員を集めると、本城尊と話した内容を説明する。
「俺とビャヌは、四ノ扉を攻略するから、お前達は見つけた課題をクリアしとけよ。何方がより強くなれるか勝負だな」
時坂純也は、前向な言葉で説明する。水元家が動く可能性、その話はしない事にした。
「よっしゃ、絶対にオヤジには負けねぇぞ。なっ、彰兄、喜助兄」
「うん、強くなるよ······絶対に」
「う、うん、僕も、強くなって、黒街さんに協力します」
時坂純也が想定した通り、皆やる気に満ち溢れた。
嫌でも強くならなければならない、この先、必ず力が必要になるのだから······




