第二章【離れた地で】北の地へ
結菜の魂を奪われてから、一日が経過していた。時間の経過で、何とか気持ちを切り替える事が出来た黒街彰、時坂純也が言っていた、北の地へ向う為に、準備をしなければならない。
「兄ちゃんに、ちゃんと話した事あったっけ?」
「ん? 何の話し?」
黒街彰の家に荷物を取りに向っている道中、時坂翔太が聞いた事。其れは、二人で向かっている理由そのものであった。
「俺と、母様のお腹が別の空間に繋がってるって話し。言ってたかなぁ? って思ってさ」
「嫌、聞いてなかったな。物を取り出すのを見て不思議には思ってたよ? 教えてくれるのか?」
二人は『インビジブルマント』の中、小さな声で会話をしていた。
ニノ扉で繋がった異界、その星で暮していた民の特徴は、お腹の部分に異空間を持っている事であった。
時坂翔太は、自分の知っている事を、出来るだけ説明してくれる。
異空間の中は、魔力量によって大きさが変わる事。入れられる物の大きさは、お腹よりも小さい事。取り出す時は、意識するだけで選んだ物を取り出せる事。時坂翔太の説明はこの3つであった。
「それって、凄いよな。地球人とは、身体の構造がかなり違うって事だろ? 不便な事とかないのか?」
「ん? 不便かぁ······全く無いぞ」
身体の構造が違えば、地球人とは治療方法が違うんじゃないかと、黒街彰は不便がないか聞いたつもりであった。
だが、癒やしの薬が有れば大抵治ってしまう時代だ······時坂翔太は病院に行った事もないのである。
「そうだ、先に言っとくけど。俺の魔力じゃそんなに多く入んないからな、大丈夫?」
「それなら大丈夫だと思う、大事な物は少ないからさ······」
黒街彰の家に近づくと、静かに周りを観察する。そして、異変が無い事を確認出来ると、家の中へ入って行った。
「こんな物かな、少なかっただろ?」
「本当に少ないじゃん······俺だってもっと荷物あるぞ」
黒街彰が持って行く物は、探索に役立つ本数冊。探索で手にした魔石。洋服が数着。
それと、危険を犯してでも家に来たかった理由。黒街彰が大切にしていた、海野結菜からの手紙を取りに来たのであった。
無事に、目的の物を回収出来た黒街彰。皆が待つ、隠れ家へ戻って行く。
黒街彰が戻った時には、皆も準備を終えていた。
「二人も戻ったか、それじゃ行くとしよう」
福島県までは、電車が通っている。昔は、目的地である青森県まで電車で行けたらしいが、北の王が支配してからは、管理が出来ずに止まってしまったという話しだ。
駅まで移動して、早速電車に乗り込む。電車の中では、個室を取っての移動だ。
「喜助君、少し質問させて貰っても良いかな?」
館浦喜助の事は、黒街彰に助太刀してくれた人物、という事しか解っていない時坂純也。
今後の為にも、素性を知っておきたかった。
「は、はい。何でも聞いて下さい」
最初にした質問は、なぜ黒街彰の助けに入ったのかであった。
舘浦喜助は、黒街彰に話したかった内容でもあったので、一から詳しく説明する。
「そんな事があったんだね、知らなかったよ。それは、結菜らしいかな、結菜は曲がった事とか嫌いだったからさ······」
舘浦喜助から、海野結菜に助けられた話しを聞いた黒街彰は、なんだか少し誇らしそうにするのであった。
「始めて会った日は、す、すいません、でした。その後も、ずっと声をかけようとしてたんです······そしたら」
黒街彰をつけている男達を発見して、自分も跡をつけたのだと話す。その後は、一度見失ったが、戦闘中の黒街彰を見つけて助けに入ったのだと話した。
「僕が勝手に思っただけなんですが、黒街さんを手助けする事が、それが、女神様が一番喜んでくれるかと、そう思って」
「う、うん、あのさ······め、女神様って? 結菜の事でいいんだよね?」
「あ、すいません。変な事言っちゃって、僕、海野先輩の事を女神様って、勝手に呼んでて、ごめんなさい」
黒街彰は、舘浦喜助と話して悪い人ではないかなと思う。助けられて、そんな事を思うのはおかしな話であったが、今は騙された直後なので疑心暗鬼になっていた。
「彰君を助けに入った理由は分かったよ。それじゃ、今の状況はどれぐらい理解してる?」
「え、え〜と、危険な組織に狙われてしまったから、き、北へ向かってる······それぐらいですかね」
「ちゃんと解ってるじゃないか」大凡の答えとしては、正解だと言う時坂純也。
危険な組織が水元家である事と、北ヘ向う理由が大事な物を取り戻す為に、力をつける事だと付け加える。
「喜助君はどうする? 俺達は、彰君の大事な物を取り戻す事に協力する。それは危険が伴う事だ。だから、喜助君もちゃんと考えて選択した方がいい」
「は、はい······」
「あの、俺も舘浦さんに質問して良いかな?」
「何で、しょうか?」
「戦闘の時、あ、あれは、特殊スキルだったんだよね? 凄かったからさ、良かったら教えてほしくて······」
「あれ? あれって、スラ吉達の事、ですか?」
「そうなんだけど、話していいの?」
「あっ······皆さん、一様なんですけど、内緒にして貰えますか?」
舘浦喜助は、恥ずかしそうに自身の特殊スキルを話しだした。
話を聞いていた時坂翔太が、契約したモンスターに興味を示す。
「えっ、それってすっげぇじゃん。モンスターを仲間に出来るとか、ずりぃよ。ねぇ今度探索行ったら、俺にも見してよ」
「え、そ、それじゃあ。お出で、スラ吉」
子供の熱い視線に気を良くした舘浦喜助が、電車の中でモンスターを出現させる。すると、小さなスライムが舘浦喜助の肩に現れた。
「おっ、地球でもモンスターを出せるのか? ん、もしかして西でのモンスター騒ぎって······喜助君か?」
「あ、そ、そうなんです。あ、でも悪い事をしてたわけじゃなくて······」
慌てて、その時の経緯を説明する。
「なんだろうな······彰君といい、最近の探索者は、人が良すぎるのかな」
時坂純也は、黒街彰に話したように自分の秘密を簡単に人に言わない様に注意する。
だが、注意された舘浦喜助は「は、初めて人に話せたんです」と嬉しそうに返すのだった。
「ハハッ、そうなると、俺が人望があるって事かな」
福島県に着くまで、お互いの話しで盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていった。
到着してからは、徒歩で目的地まで向うのだと時坂純也が説明した。
人混みは避け、山を自力で越えて行く。これは、探索者だから出来る事であった。
道中、舘浦喜助がポチを召喚して時坂翔太と楽しそうにはしゃいだり。夜には、キャンプをして、ダ・ビャヌの作る美味しい手料理に、舘浦喜助も感動する。
モンスターとの戦闘がない、平和な時間を時坂純也は作ってくれたのだった。
(はぁ、凄く綺麗な星空だな。東京から離れると、星が良く見えるって聞いた事あったけど、本当だったんだな)
皆がテントで休んだ後に、一人テントから抜け出した黒街彰。夜空を見上げながら感傷に浸っていた。
「寝れないのか? 良かったら、一緒に飲もうぜ」
後からやって来たのは、時坂純也であった。手に持っているビールを黒街彰へと渡す。
「頂きます。時坂さんは、どうしたんですか?」
「彰君がテントから出て行ったのに気付いたからよ、話でもしようかなと思ってな。彰君は、傍から見たら元気そうに振る舞ってるから······逆に心配でな」
「有難うございます······でも、大丈夫ですよ。今も、昔の事を思い出してたんですけど、話していいですか?」
「いいぜ、先輩が聞いてやるよ」
「俺って、一度、結菜に振られてるんですよ。それから2年間、結菜に相応しい男になる為に頑張ったんです」
時坂純也は、頷くと静かに黒街彰の話を聞く。
「2年後に、もう一度想いを伝えた時、言って貰った言葉があって。その言葉がとても嬉しかったんです」
話を切って、時坂純也から貰ったビールを一気に呑んだ黒街彰。
「い、言うの恥ずかしいんですけど······「真剣に頑張ってる姿が格好いい」って言ってくれて、その言葉を思い出したら、頑張ろうって元気が出るんですよ。前向に頑張れる事が、俺の取り柄なので」
「真面目で努力家の彰君らしいな。それに、思い出でも支えてくれる結菜ちゃんか、じゃあ、結菜ちゃんと再会したら俺にも紹介してくれよ」
「是非ですよ、こっちが紹介させて下さいってお願いしたいぐらいです」
時坂純也が、時間を掛けて北へ向かった理由は、黒街彰が精神的に大丈夫か心配だったからであった。
北へ到着してから何が起こるかは、着いてみないと判らない。今も、少しでも勇気づけられればと声を掛けたのだ。
(余計な心配だったかな? 無理してる所もあるだろうけど······彰君は、本当に強い子だ)
こうして、絆を深めながら北を目指す事、一ヶ月。ようやく目的地の青森県八戸市へとたどり着いた。
十の扉は、八戸市の中心にあると言う。
「皆、一応言っておくが、俺と彰君は、つい最近あった決闘出場者だ。だから此処の人間には、良く思われていない可能性がある······まずは、俺が話をするから後ろに控えててくれ」
時坂純也は、此処に100年以上前に来たことがあったが、当時とは様子が大分変わっていた。
中心部に近づくにつれ、大きな建物が目立つ様になってくる。
「こんにちは、ちょっと質問しても良いかな?」
通行人に声をかける、年は十代程の若者だ。
「なんすか?」
「北の王に挨拶がしたいんだけどね、場所が判らなくってさ。知ってたら教えて貰えないかな?」
「王になんの用? まぁ教えてもいいっすけど······あんたさ、もしかして時坂純也?」
「先ずは、名前を名乗らないといけなかったな。そう、俺は探索者の時坂純也だ」
「うわっ本物かよ、しゅ、襲撃じゃないっすよね?」
「違う、違う、本当に挨拶したい······とゆうか此処を拠点にする許可が欲しくて話をしたいんだ。本当に教えて貰えると助かるんだが」
若者は、「ちょっとごめんなさい」と言って走って行ってしまった。
(あれ、時坂さん、大丈夫かな······時坂さんは有名過ぎるからなぁ)
このまま、時坂純也に任せていたら、なんだか騒ぎになりそうだったので、黒街彰が一度代わると提案する。
「すいません、この辺りを管理している人って何処に居ますか?」
黒街彰は、散歩をしている老人に声を掛ける。
「ん、なんじゃ? 此処を管理してる人間は、王様じゃのう。会えるかは分からんが、この道を真っ直ぐ行って、二つじゃったかな? 先の信号を右に曲がれば、大きな建物が見えてくる。其処が王様が所有する建物じゃから、行ってみたらええ」
すんなりと情報を入手出来た。
「あ、有難うございます。ちょっと行ってみます」
「おっ流石、兄ちゃん。お手柄だぜ」
時坂翔太が父を横目に黒街彰を褒めるが、「時坂さんは有名過ぎるから」とフォローする黒街彰であった。
信号を越え、二つ目の信号を右へ曲がると、言われた通り大きな建物が見えてくる。
「おっ、あったぞ。お前ら、喧嘩する訳じゃないが、気を抜くなよ」
時坂純也を先頭に、北の王が所有する建物へ入って行く。
無事に北の地に辿り着いた黒街彰は、落ち着いて探索が出来る拠点を、築く事が出来るのだろうか······




