第一章【旅の行方】目的は······
黒街彰と坂本光が、共に探索を始めて3ヶ月。
前衛と後衛の二人は、元々相性は良い。戦闘は何も問題ないのだが······目的のアイテムが一向に出ていない状況であった。
「光君、アイテム出ないですね。もっと良い狩り場が有れば良いんですけどね」
「そうだなぁ、彰の実力なら連戦も問題ないし、もう少しモンスターの数が出るとこ探すか?」
この3ヶ月で、二人は名前で呼び合う様になっていた。探索者協会でパーティー登録はしていないが、黒街彰も相棒として信頼している事は確かだ。
「あっ、それならリザードソルジャーが多く出る場所知ってますよ。行きますか?」
坂本光が了承すると、以前に時坂純也達と訓練した湿地帯へと向う事にする。
(あ、時坂さんの隠れ家だ、ここを教える訳にはいかないよな······信頼してても全部は話せないし。結菜になら、直に紹介したいってなるんだろうけど)
黒街彰は、3ヶ月立っても海野真菜に言われた事が引っかかっていた。どこまで話すべきか?ククノの事もまだ話せていないのであった。
「もうすぐ着きますよ、リザードソルジャー闘った事有ります? 危険度Cなんで光君なら問題ないと思いますけど」
「大丈夫、闘った事あるよ。この辺も来たことあるな、確かにモンスターが沢山出た気がするよ」
昼頃に到着した二人は、3時間程リザードソルジャーを狩ると早めに眠れる場所を探す事にする。
「この辺は、湿地帯だから戻った所の草原を拠点にしないかい?」
坂本光の提案で、戻る事にする。元々、2日掛けて来た事もあり、何日かリザードソルジャーを狩る予定であった。
草原に着くと、魔物除けを起動する。火を起こしてお湯を沸かし、持ってきた食料である、カップ麺にお湯を注いだ。
坂本光に、魔物除けを持っている事は話したが、海野真菜に食事を貰っている事は話せていなかった。
「異界で食べるカップ麺って美味いよな。そういや、ずっと気にはなってたんだけどさ、ちょっと聞いても良いかな?」
「ん、何ですか?」
坂本光が何か聞きたい事があると、話を切り出す。
「北との決闘で、彰が北の王に聞いてただろ······人を生き返らせたいって」
「そうですよね、LIVE見てたって言ってましたよね······」
本格的にパーティーを組むには、自分の目的を伝えなければと思っていた所だった黒街彰。自分の目的を話す、良い機会だと思い、結菜の事を話す事にする。
「少し長くなるんですけど、聞いて貰えますか?」
「ああ、勿論だよ」
初めて二ノ扉へ入った事から話し出した黒街彰。結菜を失った事、そして光出した石、その謎の石を一年掛けて鑑定した結果、希望を現実にする為の、探索が始まったのだ。
「その謎の石が、『魂の補完石』ってアイテムだったんです。このアイテムがあったから、生き返らせる事が出来るって······」
「そうか、『魂の補完石』それじゃ結菜さんの魂は、その石の中にあるんだね。その石はどうしてるんだい?」
黒街彰は、『魂の補完石』を何時も持ち歩いている。頑丈な小箱に入れて、胸の内ポケットに
しまってあった。
「此れが『魂の補完石』です。箱から出しますね」
黒街彰が、箱から『魂の補完石』を取り出した瞬間、坂本光の手が素速く動く······
そして、坂本光が『魂の補完石』を手にした。
「目標確保です。一度距離を取ります」
黒街彰は、何が起きたのか解らなかった······坂本光が『魂の補完石』を持っているのだ。今何か言っていた、何て言ったのか直ぐに理解できないでいる。
離れて行った坂本光を見ながらゆっくりと立ち上がる。冷静に考えると、「目標確保」坂本光が言った言葉が、全てを物語っていた。
「返せっ」
黒街彰が叫び、動き出そうかと思った時であった。坂本光の元に二人駆け寄って来る、そして黒街彰の後ろにも、いつの間にか二人立っているのだった。
坂本光は、魔導具。異界で連絡が可能な通信用の魔導具をONにして黒街彰と会話をしていたのだ。
それを聞いていた仲間がタイミングよく姿を現した。
「な、何ですか、貴方達は。光君、それは本当に大事な物なんだ······」
黒街彰を囲んでいる人物は、坂本光と、女性一人に男三人だ。その中でも異様な雰囲気を醸し出している人物が居た。
背の高い老人、190センチはあるだろう老人は、鋭い目つきで黒街彰を見ている。黒街彰もこの人には敵わないと、人目で悟る······それ程の実力者であった。
「悪いな黒街彰、元々これが狙いだったんだ。まぁ、公の場での発言には気おつけた方がよかったな」
黒街彰が本城尊に聞いた、人を生き返らせる方法。それを見て居た者が、少し考えれば同じ考えに至るであろう。
黒街彰が何かを隠していると、人を生き返らせる方法、そのピースが欠けている······それを求めた質問であった事に。
逆に言えば、人を生き返らせる事の出来る何かを知っている、もしくは持っていると言う事に。
背の高い老人、名を菊本十三が低い声で他の者に指示を出す。
「予定通り、証人は残さん······やれ」
菊本十三の指示を受けて、菊本十三の隣に居た三上浩次と、坂本光の隣に居る浜岡美月が動き出した。黒街彰は、前後の二人に挟まれる形だ。
「直ぐ楽にしてやるから、抵抗しないで大人しくしとけよ」
三上浩次は、剣を構えて襲いかかる。
接近すると、二人の剣が音を立てて衝突する。何度か斬り合いを重ねると、お互い実力に差がない事を認識したのだった。
「辰の言う通りだな、決闘で見せた時よりも大分強くなってやがる」
「······」
「あぁ、あれだ、辰ってのは、そこの光君の事だ。偽名ってやつだよ」
杉野辰、坂本光の本当の名である。最初から偽名を使い騙す事を目的に近づいていたのだ。
(落ち着けっ、どんな状況だって諦めなければ勝機があるかもしれない······先ずは、結菜を取り戻して)
三上浩次と斬り合いながら、この絶望的な状況を、どう打開するか考えていた時であった。
足に激痛が走る、見るとナイフが刺さっているのであった。
「ぐっ」
「三上、話してないで早く始末しましょう」
黒街彰の足に刺さったのは、後ろに居た浜岡美月が投げたナイフであった。
足に刺さったナイフを引き抜く黒街彰、あまりにも絶望的な状況に早くも心が折れかけていた。
(周りまで気が回らないよ、この三上って人も強いのに······んっ)
三上浩次に視線を送ると、胸から尖った何かが生えてくるように現れた。よく見ると槍の先端に見えるそれは、三上浩次の胸を赤く染めていく。
そして引き抜かれた槍は、高速で三度も三上浩次を貫くのであった。
「誰じゃっ、全員戦闘体制をとらんかっ」
菊本十三が叫び、全員が武器を構えて突然現れた人物を警戒する。
その間に、黒街彰の手をとり、その場から距離をとる。その人物は······ダ・ビャヌであった。
「彰、助ける、傷、治せ」
「ビャ、ビャヌさんっ」
黒街彰は、癒やしの薬を飲む。
ダ・ビャヌは『インビジブルマント』を使い、姿を隠して近づいて来たのだった。
✩✫✩✫✩
時間は少し戻り、黒街彰が時坂純也の隠れ家の近くを通りかかった時間。その姿を、確認していた者が二人居た。
「母様っ、見てよ。兄ちゃんが歩いているぞっ」
「彰、元気」
時坂翔太とダ・ビャヌは、監視用の魔導具を使い黒街彰を発見する。
元々、ダ・ビャヌの住処であったこの場所。時坂純也が単独行動をする場合や、ゆったりと過ごす場合などは、よく訪れるのだ。
存在を知られたくない時坂ファミリーは、この場所にあらゆる仕掛けを備えていた。監視用の魔導具もその一つであった。
「ちょっと会いに行って来ていい?」
「他に、人、居る、今は辞める」
「え〜、兄ちゃんに会いたかったのに······」
時間が経過して、また黒街彰が監視出来る範囲に戻って来た事気付くが、何やら様子がおかしいのだ。
「か、母様っ、ちょっと来て。これ変だよね?」
監視用の魔導具に映っているのは、黒街彰を囲む様に人が配置された映像であった。
「翔太、父、連絡、直ぐ戻れ······それと、これを」
ダ・ビャヌは、時坂翔太に宝玉を5つ渡す。此れは、決闘の後に時坂純也と共に集めた物であった。
高ランクの宝玉、時坂翔太に与える予定ではあったが、楽して能力だけ上げても危険が増すだと、取っておいた物だ。
もう一つ、時坂翔太の為に手に入れた物。Aランクの双剣、『空域の双剣』を渡す。
素早さを上げる効果が付いた双剣、使いこなせれば空を駆ける事も出来る。始めてで使える物ではない為、今回は能力を向上させるのが目的である。
「力、試せ、後から、来い、先行く」
能力が上がった身体を、試してから来るように伝えると、ダ・ビャヌは『インビジブルマント』を纏い、隠れ家から出て行く。
「う、うん、母様気おつけて。えっと、先ずはオヤジに連絡しないと」
時坂翔太が使う連絡用の魔導具は、Sランクの物だ。地球と異界、違う扉の中に居ても連絡が繋がる特別な物であったが、問題は大魔石をセットしても、3分程しか使えない点である。
「あっ、オヤジっ、今何処だ? 直ぐに隠れ家に戻って来てよ」
「どうした?」
黒街彰が、隠れ家の近くで襲われている事を簡単に伝える。それと、ダ・ビャヌが直ぐ戻る様に言った事も。
ダ・ビャヌが時坂純也に連絡させる事態を、時坂純也は重く受け止める。どんな相手か分からないが、わざわざ連絡してくるのだ······危険な相手である事は確定した。
「直ぐに戻るが、全開でも2時間は掛かる······ビャヌに命を大事にする様に伝えてくれ」
2時間で戻る······それは、異常な時間であった。時坂純也が居るのは、四ノ扉の中である。仮に黒街彰が其処から隠れ家に向かった場合、早くて一週間は掛かる程の距離なのだ。
✩✫✩✫✩
「貴様、時坂の女房じゃな······」
菊本十三は、ダ・ビャヌの姿を知っていた。
「儂等は、時坂と揉める気はない······嫌、姫様から禁止されておるんじゃがな、引いてくれぬかの?」
菊本十三達は、何か大きな組織の人間であるようだ。時坂純也の秘密を知る事からも想像が出来た。
「返せ、彰、大事な物」
ダ・ビャヌは、引いて欲しければ『魂の補完石』を返す様に要求する。
「禁止されてるおるが、相手が引かんのじゃ仕方なかろうて······この石は、姫様に献上する大切なもんじゃからのう」
ダ・ビャヌが引かない現実を、嬉しそうに話す菊本十三。
「時坂純也、貴女の旦那様は来られないのかの?」
「時期、来る······戦闘狂、掛かって、来い」
ダ・ビャヌが挑発すると、菊本十三の身体が膨れ上がり、早々に襲いかかる。
(時坂純也の到着までが、タイムリミットじゃな。念の為に、手にした石だけでも逃しておくかの)
杉本十三がダ・ビャヌの側まで来る頃には、最初に見た姿が見る影もなく、3メートルの筋肉質な姿に変わっていた。
ダ・ビャヌが槍で応戦するが、素手で弾く程の力を見せたのだ。
(やはり、この男、強い······一人、仕留められて、良かった)
菊本十三は、ダ・ビャヌと闘いながら、杉野辰へこの場から離れる様に指示を出す。
「他の者は、黒街彰を始末せよ。儂が此奴と闘っている間にのう」
「彰、追う、此処、任せろ」
ダ・ビャヌは、黒街彰に追う様に言うと腹の中から数本の槍を取り出す。
黒街彰が走り出した瞬間、牽制の為に放たれた槍が襲いかかる。
菊本十三以外の者が、直撃をくらえば致命傷になりかねない威力が込められている······足止めの効果は十分であった。
黒街彰は、追う。坂本光、嫌······大事な物を奪った男、杉野辰を。




