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第一章【旅の行方】清算、新たな冒険へ

希望を手にした日より数日、黒街彰は冷静さを取り戻す事により、考え事に時間を強いられる事となっていた。


(結菜の家······知らないんだよな、どうやって調べればいいんだろう?)


一年振りに深い眠りにつけたかと思ったが、やらなければいけない事が山程ある事に気づいた黒街彰。優先的に動かなければならない事は、やはり結菜の状況を親御さんへ報告することだろう。


探索者協会、国が運営する組織へ確認する事にした黒街彰。パートナー登録もしていたので、情報を聞く事が可能かもと考えたのだった。


(『魂の補完石』の存在は言わない方が良いよな······動けない状況を親御さんに報告したいって言おう。必ず生き返すんだ、死んだなんて報告したら後で面倒だし、嘘って訳でもないんだ······)

少しの罪悪感を抱きながら、探索者協会を訪ねた。


受付で考えて来た通りの質問をすると、少しの間待つだけで海野結菜の家、実家の住所を教えてもらえた。

(個人情報の保護ってやつは······良いのかよ)


一つの問題は簡単に解決出来たが、心配の種は次の問題であった。

探索者アカデミーの入学費用。探索者に成るために通うこの学校は、高額の授業料をほぼ借金で賄える、それは探索者が金を稼ぐ事ができるからだ。結菜は借金を精算する前に魂だけの存在になってしまった、借金の取り立てが結菜の母を苦しめているのではないかと思っていたのだ。


(母子家庭だったはず······大丈夫かな)

海野結菜の借金を、代わりに支払っていく事に戸惑いはない。後は、結菜の母が無事でいる事を願うばかりだ。

黒街彰は、探索者協会を出た足でそのまま向う事にした。


電車に揺られる事2時間、最寄り駅で降りると、海岸方面に向かって歩き出す。

海野結菜の実家は、食事処を営んでいるらしい『海の宝食』とゆう看板が目印だった。


「あっ、『海の宝食』あそこかな······」

息を呑み、深呼吸をする。震えた手を強く握りしめて入口を二度叩くと、中へ入って行く。

今の時間は15時、他に客の姿は見当たらなかった。


「いらっしゃいませ」

カウンターの中に居た一人の女性が声を出す。

黒街彰の雰囲気を察したのだろうか······場の空気が一気に重くなっていった。


「報告を、するのが遅くなって······すいませんでした」

一声は謝罪からであった。


「結菜の事、かしら? 少し落ち着きなさい、私は、結菜の母、海野真菜(うみの まな)です。先ず貴方は誰なのかしら?」

結菜の母は、出来るだけ落ち着いて黒街彰へ声をかける。


「すいません、俺は黒街彰っていいます。結菜さんと······お付き合いさせてもらっています」

海野真菜の言葉で少し落ち着く事が出来たのだが、なぜだか異界のモンスターよりも、重いプレッシャーを海野真菜から感じる。


「うん、結菜に彼氏が居たなんて初耳だわ。もう一年······ちゃんと覚悟はしてるから、全て話して貰える?」

探索者が一年も音信不通、誰でも覚悟をする時間の経過だ。まして真面目な結菜の事、答えは一つしかなかった。


黒街彰は、出会いから始まって全てを海野真菜へ話す。

「自分の事に必死で······報告がこんなに遅くなってしまって、本当にすいませんでした」


涙を堪えて、なんとか話す事が出来た。でも海野真菜の顔を見ることは出来なかった。

少しの沈黙の後······海野真菜は黒街彰の肩に触れた、その手は、とても優しく、暖かなものであった。


「苦しかったわね、話してくれて有難う」

「は、はい······はっ、ぅゔ」

優しい言葉に、もう我慢しきれない。涙が溢れ出して、止まらなくなってしまった。

海野真菜も静かに涙を流す、二人は落ち着くまで悲しみを共有するのだった。


「『魂の補完石』? 聞いたこともないわね、彰君は此の後は? 予定とかあるかしら?」

黒街彰が予定は無いと答えると、今日は店を休みにすると海野真菜は言う。

「じゃぁ此れから呑みに行くからね、今日はとことん付き合ってもらうわよ」


海野真菜に着いて行き、一軒の居酒屋へ入って行く。

初めて飲むお酒の味を楽しみながら色々な話をする。俺の知らない結菜、小さい頃の結菜の話を聞いて、愛おしくて······会いたくなる。


真菜さんが、元探索者だったと言う話を聞いた時は納得した。しかも三ノ扉を攻略する程の凄腕だったのだ「道理でモンスター以上のプレッシャーを感じたわけですね」俺はあまり考えもせずに、モンスター以上などと言ったので、頭に拳骨を貰う事になってしまった。


結菜の言葉も伝える。片親である母を、楽させてあげる為に探索者になったと、聞いた事を話すと、真菜さんは目に涙を溜めながら「有難う」と言った。俺もまた感情が溢れて、二人で泣きながら食事を口にする。


学費の話をすると、結菜の学費は支払い済みであった。

「そんな事まで心配してんじゃ無いわよ」

「これから先、彰君は······結菜を生き返らせる為に、異界を探索し続けるんでしょ? でもね、探索者の命は探索者自身の責任なんだよ、焦らずゆっくり考えなさい、無理しないようにね」


海野真菜さんは······結菜のお母さんは、とても優しい人だった。

朝日が出始める時間。この日の最後に、人を生き返らせる情報を見つけたら、お互い報せると約束をして店を出た。初めて会った人と、朝まで話すなんて考えもしなかったけれど·······あっという間に時間が過ぎた気がする。


✩✫✩✫✩


黒街彰は家へ帰ると、少しの仮眠で目を覚ます。

「良し、此れからの計画をちゃんと考えよう」

一人呟くと、薄っすらと考えていた内容を纏めていく。


この一年のように無茶は出来ない······命を大事に先へ進む事にする。

信頼出来る仲間を見つけたいと思ったが、目的が個人的な事と、自由に行動出来なくなる可能性を考えると優先度は低くなった。


人を生き返らせる情報を手に入れる。今迄見た雑誌にも、アカデミーの授業でも聞いた事が無い。高ランクの探索者に聞いたり、探索者協会に聞いたりするぐらいしか思いつかなかった。(伝手もないし、簡単に教えてくれる訳ないよな······)


黒街彰が結果的に選んだのは、探索者としての経験を積む事。

元々の性格が、真面目で努力家な黒街彰。この選択は、自分を取り戻せた証拠でもあった。


一年間行っていた探索は、一日十五時間程、扉周辺のモンスターを狩り続けてから帰る。日帰りの探索方法であった。

今度は、今迄より一ノ扉の奥地まで行く事を目標にする。モンスターの情報など、アカデミーで勉強した事のおさらいから始め、更に安全の為に癒しの薬を入手して、万全の体制で挑むことにする。


癒しの薬は、一ノ扉の中で手に入る事はまず無いと言われ、効果の低い物でも三百万円程する高価な物だ。


ひと月程、一ノ扉で探索した黒街彰。

(良しっ、三百万貯まったぞ)

買い取り専門の店。其処で、手に入れた魔石や宝石を売り、ひと月で三百万もの大金を稼ぐ。

更に探索者は物の売却でランクが上がっていくシステムだ、黒街彰のランクは、探索者に成り立てのFだ、今回の売却で1000万円を超え、Eランクに上がる事が出来た。


現金を手に入れて、探索者協会が運営するアイテムショップに買いに行く事にする。

ショップに置かれた商品は様々で、驚く程の高価な物も売っていた。目移りして時間が掛かったが、その中から目当ての癒しの薬を見つける事が出来た。

「すいません、この癒しの薬を貰えますか?」

店員の女性に声をかける。

「はい、では探索者カードを掲示ください」

探索者協会のアイテムショップで買物をするには、探索者カードが必要で、ランクに応じたサービスが受けられる。Eランクでは、5%の割引を受けられた。


更に、得した十五万円で一ノ扉の地図を購入する。一ノ扉の中は、ある程度攻略が進んでいるので安値で地図も売りに出ていた。


(ランクが上がっててラッキーだったなぁ、十五万安くなるとか、大金だし······でも探索者って金銭感覚おかしくなるよな)

黒街彰は、なんとなく不安を覚えるが、もっと上にいくんだ······と、気持ちを切り替えた。


翌日。何時もより丈夫な服装に腰には妖剣、丈夫なリュックには、ロープと携帯食、水が二週間分詰め込まれている、ポケットに癒しの薬と地図、胸の内ポケットには『魂の補完石』を入れて準備は整った。

(行こう結菜、新たな冒険に)


地図を見て目的地を確認する、予め行く場所は決めていた。

一週間程で行ける距離に遺跡がある。今回の目的地は、一ノ扉の先にある古びた遺跡だ。


扉の周辺は、平原になっている。北に向かって歩いて行くと森が見えてくるはずだ。

時折他の探索者を見かけるが、問題になる事を嫌って避けて行く。


後は、モンスターと戦闘しながら進む、液体のようなモンスターのスライム、兎のような妖兎、この二体のモンスターは危険度F。

斑熊は危険度E。ここ一年でよく遭遇したモンスターと戦闘をしていった。


(おっ、三体目で宝箱だ、幸先いいじゃん)

宝箱から出たのは、刀であった。

(刀だ···俺は二刀流ってやつになるのか、はは、かっこいいかな?)

斬れ味の良い普通の刀であったが、テンションが上がった黒街彰は、二刀流を試しながら先へ進む。


「クソっ駄目だっ、二刀流って難しいんだな、練習なしじゃ弱くなってるだろ」

一人で文句を言いながらも、モンスターに二刀流で挑んでいく。

そんな事をしていると、一日が終ろうとしていた。


「一人での野営は危険なんだよな、もう日が暮れる······急いで森に到着しなきゃ」

黒街彰の計画では、一日目に森に到着したら木の上で仮眠をとる予定であった。

調べた結果では、この辺りのモンスターは地面に居る事が殆どだと情報にあったからだ。


日が暮れてからも走っていると、ようやく森が姿を現してきた。

手頃な大木を見つけて登っていく。


「ふぅ、何とか予定通りの行動に出来たな。良しっ飯にするか」

携帯食を食べると、ロープで木と自身を固定する。これは、アカデミーで習った木の上での睡眠方法であった。


「······痛いし、寝心地最悪だ。長い探索になればなるほど睡眠は大事だし、こりゃ次からしっかり改善しなくちゃだよな」

浅い眠りを繰り返す内に朝日が昇り出す。未だ解明されていないが一ノ扉の中は地球と同じサイクルで太陽が昇ってくるのだ。


此処からは、三日程森の中を進む予定だ。

(森の中は歩き辛いよな······森での戦闘も慣れていかないと)

黒街彰は、常に経験を積む事を意識している。アカデミー時代の経験がそうさせていた。


初めての戦闘になる、猪のようなモンスターのビッグボア。巨体での突進を、直接くらってしまうと大きなダメージを受けてしまうだろう······黒街彰は、ビッグボアをギリギリまで引き寄せてから避ける事で、大木に突進させる。其処で、動きが止まった所に攻撃を仕掛けていく。


(森での戦闘は、向いてるかもしれないな······まぁ相手が、単純ってだけかもしれないけど)

森での行動や、戦闘に慣れてきた頃、やっと森の切れ目が見えてきた。


(森を抜けると、砂漠まではいかないけど、砂地が続くんだったよな、闘った事ないモンスターが多数生息してるって話だったから、気おつけないと)

周囲を警戒しながら進んでいくと、遠目に戦闘している姿が見える。


(っ? モンスターに囲まれてるじゃないか、大丈夫かな?)

他の探索者とは関わらない予定であったが、状況次第で行動は変わってくる。


もう人が命を失う所を見たく無い黒街彰は、他の探索者と関わりを持つ気はなかったが、状況を確認する為に近づいて行くのであった。


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