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第一章【旅の行方】一人旅

海野真菜に食事を提供してもらってから、一週間が立つ。


お試しの一週間で、思いついた事を海野真菜に伝え、協力してもらう事になっていた。


協力してもらう事の一つは、旅の間に手に入れた魔石や小さなアイテムを預かって貰う事だ。


海野真菜からも、提案してもらった事がある。

メモ帳を持参して、必要な物があったら書いて伝えてくれれば用意してくれるとの事であった。更に食事のリクエストも有りだと。


(真菜さんには、沢山お世話になっちゃうな。良しっ、明日から遠くまで探索に行って成果を出すぞっ)

今日は探索を休み、準備に時間を使う予定だ。


最近手にした、宝石類を売って癒やしの薬を買う。

(買えるのは、3個までか。やっぱり高いな······)


必要な物を揃えると家に帰り、残りの時間はゆっくり過ごす事にした。

家でゴロゴロしていた黒街彰は、ふと思いついて坂本光に電話をかける事にした。


「もしもし、坂本です」

「あっ、こんにちは黒街です。今電話大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、もしかして探索の誘いかな?」

「あ、いや、今回は違うんですけど、ちょっと長めに探索する事にしたので、その間に連絡貰ったら電話出れないと思って······その連絡です」


「そっか、わざわざ有り難うな。でも一人であんまり無理しないようにね」

「有り難うございます。戻ったら、又一緒に探索してくれますか?」

「勿論、探索頑張ってな。強くなって帰って来るのを楽しみにしてるよ」


電話を切ると息を吐く、黒街彰。

(ふぅ〜、なんとなく緊張しちゃった)


黒街彰は、坂本光を只者ではないと思っている。一緒にした戦闘では実力を全て出していないだろう事。弓の腕も凄いが、魔力で作り出していると思われる光の矢、いくら放っても魔力を切らす感じを見せなかったからだ。


(前に一緒に闘った、えっと······吉井さんだ。あの人は2、3回放っただけでもキツそうだったもんな。坂本さんは、どれだけ魔力があるんだろう?)


翌日、二ノ扉へ入って行く。目的は『神薬』を手に入れる事だが、簡単じゃないことなど分かっている。

こうした探索の積み重ねで強くなれる、その先に目的の物が見つかると信じていた。


(今回は、南に向うぞ。コンパスが指すのは、こっちか)

行ったことのない、南へ行くと決めていた。二ノ扉を探索していて判った事が黒街彰には、いくつかある。


向う先で出現するモンスターが違うのだ。強くなる為に、様々なモンスターとの戦闘を行いたかった。


南に行くと、草原にちらほら水源が伺える。此処には、リトルフロッグと呼ばれるモンスターがよく出現した。

リトルフロッグは、30センチ程の蛙の様なモンスターだ。素早く、貫通力のある攻撃を仕掛けてくる。


(ハァハァ、最初は苦戦したけど、大分倒し方が判ってきたぞ)

黒街彰は、リトルフロッグの出現地帯で戦闘を繰り返す。

モンスターの動きを読むこと、攻撃の回避や受け流し方、訓練に丁度良かったからだ。


(防御力の低いモンスターは、妖剣が使いやすいよな。キラースコーピオンみたいなのはハンマーとかのが良いのかな?)

色々な武器を使いこなした方が良いか?そんな事も、思案していく。


3日程、リトルフロッグを狩り続けた黒街彰。そろそろ先に進む事にした。


進んで行くと、木々が多く見えてくる。今度は、森へと入って行く事になる。

(森か、入口付近はジャングルみたいだったけど、遠目からは普通の森みたいだな)


(見られてる? こっちからは見えないけど、何かいるぞ)

森の中を進んで行くと、見られている気配が段々と多くなっている気がする。


(一度走るか、大群に遭遇しちゃったかもしれないな)

黒街彰が走り出すと、遂にモンスターが姿を現した。


現れたのは、猿の様なモンスター。痺れ猿であった。

50センチ程でモンスターとしては小柄だが、手に微量だが電気を帯びている。


(くはっ、ハァハァ······走りながら闘うのはキツい。森での戦闘も不利だ、早く森を抜けたいぞ)

一度足を止めて戦闘を行ったが、籠手での戦闘は相性が悪い。電気で痺れる事も厄介だが、多い数だと衝撃が溜められたのかも分からなくなる。


(ハァハァ、このままじゃ先に体力が尽きちゃうな)

妖剣を構えて、戦闘体制に入る。

(集中しろ、触られなければ勝てない事はないはずだ)


何時間闘っていただろうか、やっとモンスターの出現が少なくなってくる。

(や、やっと、やっと終わりがきたか······)


数百体は倒した筈だ、周辺に宝箱がいくつか現れているのが見える。

(宝箱の回収の前に、魔物除けを起動させよう、効果を発揮してくれよ)


宝箱から一つ宝玉が手に入った。

(宝玉、取り込もうかな······こないだのもまだ取り込んでないから、一緒に取り込んでおこう。)


直ぐに効果は判らないが、とっておくなど贅沢は言ってられない。後悔する前に取り込んでおく事にしたのだった。


(こんな危険な場所があるなら情報を公開してくれれば良いのに······)

一休みしながら、そんな事を考える。

黒街彰の情報源は、モンスターの図鑑や、一般人向けの雑誌、それと初心者用の案内紙。


実は、探索者協会内に情報を売り買い出来る場所があるのだが黒街彰は知らなかった。

二ノ扉からは、情報も探索者にとってお金に変えられる大切な物だ、ソロである黒街彰は、探索者にとって基本的な事が欠けている場合があった。


森を抜けるまでに、何度か痺れ猿と戦闘を行った。最初の戦闘では、逃げた事で幾つもの群れを引き寄せ自分から難易度を上げてしまった事に気付く。

(一つの群れなら30体もいないな、やっぱり何も知らないって怖いよ)


森を抜けると、大きな川が見えてきた。

(川だ、水中の戦闘なんかした事ないからな······気おつけないと)


川付近は拓けており、今のところモンスターの姿はない。

少し近づいて川の中を見てみると、赤い瞳が此方を狙っている事に気付いた。

(危なっ、川の周りにモンスターが居ないのは、きっとこのモンスターの縄張りなんだな。どうやって川から引きずり出すか?)


黒街彰が思いついた方法は、釣りであった。海野真菜に拳位の肉を貰いたいと手紙を送る。

(川は渡れなそうだし、肉が貰えるまで上流の方へ向かってみるか)


川からは一定の距離をおいて歩いて行くと、遠目に山が見えてくる。

(山だっ、結構高いよな······頂上とか何かお宝が有りそうだし行ってみるか)


山を登りきるまででも何日もかかりそうな大きさだ、帰りの事も考えると、黒街彰は、山の頂上を最終目的地にするのだった。


(鏡から手紙が出てる)

手紙は、相手が気付いた事が判るように、半分だけ鏡へ入れる方法も事前に話し合っていた。

手紙には、準備が出来た事と、夕食は秋刀魚の塩焼だと書かれていた。


(真菜さん、有り難う。俺、秋刀魚の塩焼好きなんだよな)

鏡へ手を入れ肉を取り出す。


(ロープに繋いで川の近くに投げてみるか)

川に近づいて、赤い瞳が居る場所を見つけるとロープを投げてみる。


すると、出てきたのは巨大な山椒魚の様なモンスターであった。

(あっ、肉だけ取られた···あれは、ヌメリハンザキだったかな)


ヌメリハンザキ、1.5メートル程の大きさで名前の通り身体中がヌメヌメとしており、攻撃が通じにくくなっている。攻撃は、鋭い歯での噛みつきだ、今もロープの先端ごと噛み千切っていた。


(直に水中に戻っちゃうな······まぁモンスターの正体が判っただけで良しとするか)


一日中歩いて、やっと山の麓までたどり着く。

(近くに見えたけど、遠かったな。今日はこの辺で休むか)


魔物除けを起動させて、夕食の秋刀魚の塩焼を頬張る。ゆっくり休息をとると明日からは山登りだ。


朝から山登りを開始させる。山は斜面に草木が生い茂っていて、かなり歩き辛い。此処にも痺れ猿が生息していた。


山を登り出して3日が経過する。

(進み辛いなぁ、斜面での戦闘も大変だし全然頂上が見えて来ないぞ)

山登りへの不満を抱きながら登っていると、微かに魔力の流れが出来ているのに気付く。


(なんだか今迄と違って、凄く微弱だ······草むらの中に続いていってるけど、進めるかな)

魔力の流れを見つけてから、道なき道を進み一日が経過した。


(ハァハァ、この魔力、何処まで続いてるんだよ。もう、どっちから来たか判らないぞ······帰れるかな?)

草木を掻き分けると、小さな泉が現れる。

(泉だ、この泉の中に魔力が集まってるっぽいな。なんだか神聖な雰囲気が有るかも······)


モンスターの気配もなく、疲れきっていた黒街彰は、魔物除けも起動せずに泉の近くで眠ってしまった。

(んっ······うわっ)

目を覚ますと、顔の前にマリモの様な生き物が乗っかっている。


(モンスターか? 何もしてきてないよな······この状況は、何なんだ? どうしよう?)

混乱する黒街彰、どうしたら良いかわからずに固まっていた。


「人間よ、目が覚めたようだな。何用で此処までやって来た?」

いつの間にか、泉の上にマリモの親玉の様な奴が現れる。

(人の言葉を話せるのか? モンスター、なのか?)

「あの、魔力の流れを辿ったら、此処に着きました。用事があった訳ではないのですが、宜しければ質問させて貰えますか?」


「偶然に此処へ来たのか······まぁよかろう。聞きたい事はなんだ」

「色々あるんですが、先ず、貴方はなんですか?」


「我は、この山の精かの······今は、魔力の塊に知性が宿った者だと思えばよかろう」

魔力の塊に知性?それこそ何だか判らない黒街彰であったが、どんな存在でも良いのだこの質問が出来るなら。


「これが一番聞きたい事なんですが、人を生き返らせる方法を知らないでしょうか?」

「瀕死であれば回復する手段はあろう。全てを消滅させた者を生き返らせる事が出来るのは、神のみであろうな」


(神様、やっぱり居るのかな?)

「あの、それじゃ神様に会う事は?」

「神に会う? 見た事もないから判らんな······」


何を言っているのか最初分からなかったが、「神のみ」は、人が言う処の「神の御業」って事だったと思われる。


この後も黒街彰は、山の精に色々聞いた。

山の精は、この星が滅んだ時に一度消滅したらしいが、星に魔力が満ち溢れた事で、形を取り戻す事が出来たと言う。

元々魔力の塊であった事が復活に関係しているので、人は同じ様に復活する事は出来ないらしい。


星が滅ぶ前は、永く生きていたらしく、この星の人間とも繋がりがあった。黒街彰を見た時に昔が戻ったかの様な感覚があり、嬉しかったと話す。

他には、山の精は山を守る存在であったが、今は生物が魔物しか居なくなった事が寂しく、つまらないようだった。


「我は、何故この地に蘇ったと思う?」

「俺には分かりません······でも、難しく考えるよりは、理由なんてなくて、好きな事して楽しむのも一つだと思いますけど」


今度は、山の精が黒街彰に色々聞く番のようだ。黒街彰は、自分や、自分の世界の事、扉からこの星に来た事などを話す。そして結菜を生き返らせるのが旅の目的である事も話した。

少しの沈黙の後、山の精が黒街彰に願う事にする。

「我を、共に連れて行ってくれぬか? 我は、お主の目的に協力しよう。主は、我に新たな世界を見せてくれ。どうだ?」


「俺にとっては、有り難い事しかないので······」

黒街彰は、此れからも探索を続ける。新たな世界を見せるのは、山の精が探索に付いてくるだけだ。黒街彰にとっては、メリットしかなかった。


「ちなみに、そのままついて来る感じですか?」

異界でなら大丈夫かもしれないが、地球に戻った時は騒ぎにならないか心配であった。


「我は物に住み着く事が出来るのでな、彰の持ち物を一つ我の住処にさせてくれんか?」

今は、小さな泉が山の精の住処なのだと言う。


「いいですけど、どれが良いですか?」

妖剣と籠手と鏡は、此れからも持ち歩く予定だと伝える。


「う〜む、どれも住心地が悪そうだ······とりあえず鏡を住処とさせて貰うぞ。出来れば自然の素材で出来た物を所望する」


泉には、最初に黒街彰に乗っかっていた、チビマリモが住み着く事になった。分裂した存在らしく、此処で魔力を溜め込めば立派な山の精になれるそうだ。


この山での目的地を頂上だと、山の精に伝える。この山の事なら、山の精は自然と分かるらしく、頂上にはこの辺りでは相当強力なモンスターが居ると教えて貰った。


最初に、山の精に力を借りる事は、頂上の強力なモンスターを倒しに行く事になるのであった。

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