第一章【旅の行方】相性の良い仲間?
二ノ扉の中、変わらない日々を過ごす黒街彰。今日も、モンスターとの戦闘を繰り返していた。
(ブラックコング、今日も闘い方は変わらないな······)
ブラックコングの攻撃を、全て『衝撃反射の籠手』で受ける。
素早さで上回った黒街彰には、簡単な作業であった。後は、蓄積された衝撃を返すだけで決着がつく。
(良しっ、そろそろ探索範囲を広げてみるか? 長い距離を探索出来れば、二ノ扉でも未発見な物が有るかもしれない)
長い時間、旅をする為に必要な物、その一つに食料がある。その問題を解決する方法を黒街彰は思いついていた。
(電話でのお願いじゃ失礼だよね······直ぐに受け取りに行くって約束も果たしてないし、受けて貰えるかな?)
地上に戻り、電車へ乗って向う先は、海野真菜の元であった。
「こんにちはっ」
海の宝食にたどり着くと、元気良く中へ入って行く。
「いらっしゃい。あら······2ヶ月とちょっとかな? 彰君やっと来てくれたね、まぁ元気そうで安心したよ」
直ぐに取りに行くと約束してから、あっとゆう間に時間が立ってしまっていた。
「直ぐに来ないで、ごめんなさい」
刺身定食を注文し、またお願いしたい事があると伝える。
他のお客さんがいなくなってから、店を閉めると、この2ヶ月で起こった事を先ずは話した。
「大変だったね。まさか彰君が大将で出て来るなんて思ってもみなかったから、びっくりだったよ」
「本当ですよね、生きていられたから言える事ですが、良い経験になりました。それに、次の目標も出来たので」
具体的に探す物として『神薬』の存在を知れた事。思いついた使い方を試したいと伝える。
「あぁ、『神薬』ね、本当に存在してたんだ、それは試す為だけで大変だ······うん、何でも協力するからね、お願いってなんだい?」
探索者を経験している海野真菜には、『神薬』を手にする事が、どれだけ大変な事か想像出来てしまう······自分では、諦めてしまうんじゃないかと思う程に。
だか、目の前に居る青年は、目を輝かせながら『神薬』を手にする事が出来ると疑ってないのだ······無謀とは思わない、それが嬉しかった。
「今は二ノ扉の中を探索しているんですが、遠くまで探索したくて······その、食料をお願いしたいんです」
『時空繋ぎの双子鏡』で、扉の中から地上のおにぎりを取り出せた事を伝える。
「時間を決めて、食料を鏡の前に置いてほしいんです······」
「なんだ、そんな事お安い御用だよ。うちは海の宝食、食事処だよ。とびっきり美味しい物を用意するからね」
黒街彰は、簡単なおにぎりで良いと言うが、海野真菜は、毎食美味しい料理を作るつもりだ。
「あの、お金と魔石を置いていきます。これで足りますか?」
二百万円と小魔石を20個をテーブルに置く。
「お金はいらない。私の娘を生き返らせてくれるんでしょ、私が協力しないで誰が協力するのさ?」
少しの問答があったが、海野真菜はお金を受け取る事はなかった。代わりに「魔石は、貰っとくからね」と、起動用に必要な魔石だけ受け取る。
それと、細かい打ち合わせを行う。内容は、時間や、困った時に手紙で要件を伝えるなどだ。後は、長い探索の前に一週間、試してみる事などを話し合うと、海の宝食を跡にするのだった。
「今日のご飯は、なにかな〜?」
海野真菜に、食事を提供して貰う事になってから3日。黒街彰は、食事の時間が楽しみになっていた。
「今日は、焼き魚か。こんな細い皿、よくあったなぁ」
異界で温かい食事を堪能している探索者など、なかなか居ないだろう。
これは、充実した探索者ライフが始まった、と言っても過言ではないのだ。
(良し、もう少し探索しよう。此処から西にはまだ行った事ないからな)
進んで行くと初遭遇のモンスターを発見する。
(蠍の様なモンスターか、たしか······キラースコーピオンだったかな?)
危険度Bのモンスターである、キラースコーピオン。1.5メートル程で、鋭い鋏と尾に針を持った、攻撃力の高いモンスターであった。
(初見だと、動き方が分からないからな。慎重に行かなきゃ)
慎重に近づいて行くと、キラースコーピオンが鋏の部分で殴りかかってくる。それを籠手で受け、妖剣で斬り掛かった。
(硬ったいな、見た目通りの防御力だぞ)
攻撃力も高いが、キラースコーピオンの外皮は甲羅のようになっており、斬撃での攻撃は相性が悪い。
少し距離をとって闘い方を考えていると、視界の外側から攻撃が襲って来ていたのだった。
自分の頭の上で大きな衝撃音がする。
(うわっ、な、何が起きたっ)
キラースコーピオンと大きく距離をとって、辺りを見回すと、一人の男が近づいてくる。
「大丈夫? 上からの攻撃に気づいてなさそうだったから、手出しちゃったけと······良かったかな?」
「え、上からの攻撃? あ、有り難うございます、全然気付いてなかったです」
「それは良かった、とりあえず話の前にキラースコーピオンを倒そうか」
黒街彰は、男と一緒に闘う事になった。男は簡易的に説明する。弓を主に使う事を伝え、サポートは任せてと言う。前衛は、黒街彰の仕事だ。
黒街彰は、同じように近づく。キラースコーピオンは、今度は鋏で掴み掛かってきた。
(これに鋏まれるのは、不味いかっ)
後ろにジャンプをして鋏を避けると、光の矢がキラースコーピオンに襲いかかった。
キラースコーピオンの顔面を捉えた光の矢は、硬い外皮の一部を剥がす事に成功している。
(魔法の矢かな? 結構高い攻撃力があるんだな)
又も近づいて行くと、上から尾での攻撃がくる、気付いていれば何てことはない。籠手で受け止める黒街彰。
(ラッキー2回分になったぞ、これならっ)
そこから、走り込んでキラースコーピオンの下へ入ると、籠手に溜めた衝撃を放つ。
(浮かべっ)
黒街彰の作戦は、キラースコーピオンを浮かせて、弓矢で狙い易くする事であった。
少し浮いた位であったが、男が放った光の矢がキラースコーピオンを貫く。先程と同じ箇所、外皮が剥がれた場所を的確に当てている。
「お疲れ様、やっぱり二人だと楽だよね」
男が黒街彰に話しかける。
「いや、それより弓凄いですよね。こんな的確に当てる人、初めて見ました」
黒街彰は、自分が思った行動に合わせて矢を放ってくれた事に感動していた。
「俺は坂本光、探索者歴は5年でソロで活動してるんだ。君は黒街彰君で合ってるかな?」
「はいっ、俺の事、知ってるんですね······」
「そりゃぁね、北との決闘は皆見てたでしょ。それに、有名人に混ざっての出場で、有名人よりも目立ってたからね、黒街君も今じゃ有名人だよ」
「そうなんですね、有名人になりたくはなかったんですけど······全国放送されてればしょうがないですよね」
本城尊に質問するなど、戦闘以外にもテレビに多く映ってしまった事は、もう、どうしようもないのだ。
「そんな事よりさ、黒街君は基本ソロなんだよね? 二ノ扉で活動しててどう?」
「どう? です、か······う〜ん、最近は何とか探索出来るかなって感じです。坂本さんはどうですか?」
「俺は、探索出来ると言えば出来るんだけどね、近接戦闘よりも遠距離からの弓が得意だからさ。進みが遅いみたいに感じるんだよね······余り無茶するのは、危険だしね」
「あぁ、進みが遅いとか、無茶出来ないって、何か分かります。やっぱりソロだと同じ悩みが出来るもんですね」
同じソロ通し意気投合した二人は、この後二人で探索を行ってみる事にする。
西へ進んで行くと、キラースコーピオンと何度か遭遇する。この辺りはキラースコーピオンが多く生息するエリアのようであった。
一度目は、坂本光が先制で外皮を壊し、黒街彰が妖剣でとどめを刺す。
二度目は、黒街彰とキラースコーピオンの近接戦闘中、坂本光が行ったのは、キラースコーピオンの攻撃を矢で弾く事であった。
三度目は、坂本光が囮となって引き寄せると黒街彰が関節部を斬り落とした。
「本当に、二人だと色々出来ていいね。なんだか、楽してるみたいだけどさ」
「楽してるのは、こっちですよ。しっかり狙えれば関節部も簡単ですし」
もう少し進んだら引き返そうかと話していると、黒街彰が久しぶりに魔力の流れを発見する。
「坂本さん、この先に強いモンスターが居るかもしれません······行きますか、どうします?」
二ノ扉で遭遇したのは、時坂純也達と一緒に居た時のキングリザードだけだ。同じ位のモンスターが現れたら勝ち目はないと思った方が良いと考えていた。
「ん? 何で分かるの?」
黒街彰は、魔力感知のスキルがある事を伝え、今迄の経験から魔力が集まった先には上位個体が発生し易いのだと言う。
「二ノ扉では、更に強力なモンスターになるので危険かもしれないです······」
「へぇ、そうなんだ······初耳だね。俺的には行ってみたいかな」
坂本光は、初めて聞く話に興味を持つ。一人でも確認しに行きそうな雰囲気であった。
「そうですか······じゃぁ行きますか? でも、近づけばもっと危険かどうかわかるんで、余りにも危険なら引き返しましょうね」
坂本光は、黒街彰の話に頷くと、魔力の流れに沿って歩き出した黒街彰について行く。
(二十分位歩いたけど、周りにもモンスターの姿が見えないな······)
坂本光は、黒街彰の後ろを歩きながら、普段との違いを感じていた。
「坂本さん、あそこです······」
黒街彰が指差す先を確認する。
「あれは、キラースコーピオンだよね? 一回り大きいのか」
今回は、魔力溜りから既にモンスターが発生しており、キラースコーピオンの上位個体だと思われた。
「そうみたいですね、あれだったら二人で闘えば勝ち目は有るかと······」
黒街彰は、前回のキングリザードが特殊だったのだと思う事にする。あの時は、周りのリザードソルジャーを倒した数が異常だったのだから。
「良し、それなら戦闘開始と行きますか。先ず俺の攻撃で実力を測るな」
坂本光の弓から放たれた光の矢は、キラースコーピオンの上位個体に直撃する。
「······効いてないな、流石上位個体」
「それなら、俺の籠手で倒しましょう」
「分かった、危険な時は援護するからお願いするよ。それと攻撃に移る時は合図してくれれば、隙をつくるからね」
黒街彰が接近すると、鋏で殴りつけてくる。動きは、キラースコーピオンと同じかもしれない。
(ぐっ通常の奴より、一撃が重たい······)
左右から殴られ続けるが、上手く受ける黒街彰。更に上からの尾を使った攻撃も籠手で受け止める。
(動きが分かっていれば、何とかなるな。あと数回溜めたら放つか)
先程と同じように攻撃を受け続ける。そろそろ攻撃に移る為に、右腕を上げ合図を送ってみる。
(何をしてくれるのかな? なんだか、すごく楽しみなんだけど)
三本の光の矢が放たれる、一本目が真上から尾に直撃する。すると、頭の部分が起き上がった。更に二本目と三本目はキラースコーピオンの両腕を下からつきあげるように向かっていく。
(此処かっ)
黒街彰の両サイドを光の矢が抜けた瞬間、黒街彰も突っ込んで行く。
両腕に光の矢が直撃すると、起き上がった身体が更に仰け反る。両腕も弾かれて完全に無防備な状態だ。
キラースコーピオンの腹に黒街彰の手が添えられると、凄まじい衝撃が起こりキラースコーピオンはバラバラになっていった。
黒街彰は、振り返ると坂本光に手を振るのであった。
宝箱も手に入り、最高の展開を終えると帰る事にする。
「宝玉、本当に俺が貰っちゃって良かったんですか?」
「いいよ、黒街君からは良い情報を貰ったからさ。魔力の流れから上位個体が発生するのが判る何て、初めて知ったからね」
その後は、今迄闘ったモンスターの情報や、今後闘うであろう、三ノ扉で出現するモンスターの話題で盛り上がる。
「もうすぐ扉だ、今日は充実した探索が出来たよ。黒街君、有り難うな」
「いや、こちらこそですよ。有り難うございます」
「そうだ、良かったら電話番号でも交換して、お互いに気が向いたら一緒に探索しないかい?」
二人は二ノ扉から出ると、お互いの電話番号を交換してから別れるのだった。
(結菜も弓上手かったからな······一緒に探索を続けていたら、こんな感じだったのかもな)
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黒街彰と別れた坂本光は、一人考え事をしている。
(黒街彰、一般でソロ。普通では有り得ない急成長の理由は、これか······他には何を隠しているんだい?)