第一章【旅の行方】結菜への想い
中央と北の決闘から一ヶ月。
黒街彰に、決闘の前にはなかった悩みが出来ていた。
「こんにちはっ、あの、黒街さんですよね? 決闘見させて貰いました。僕達、今年から探索者になったんですけど、一緒にパーティー組んで貰えませんか?」
「えっと、声掛けてくれて有り難う。でも今はソロでやって来うと思ってるので、ごめんなさい」
LIVE放送で黒街彰は、ソロの新人探索者として紹介されていた。
更に決闘に勝利した事や、高ランク探索者との繋がり、北の王とのやり取りなどで注目を集めてしまった結果······毎日のようにパーティーに入らないかと、勧誘される事になってしまっているのだ。
(はぁ、誘って貰えるのは嬉しいし、パーティーも組んだ方が良いと思うんだけどな······)
個人的な理由で探索している事が、前からパーティーを組めない理由にあったが、少し考え方に変化が出ていた。
良い相手が見つかれば組んで行きたい。探索の難易度が上がれば一人では厳しく、仲間が必要だと思うようになったからであった。
「あ、あの、あの······黒街さん、ですよね?」
勧誘を躱して、人気のない場所に立ち入った瞬間、人見知りそうな男が、声を掛けてくる。
「はい、そうです」
「あの、海野さんは、ど、どうされたんで、すか?」
(えっ、誰だろう? 結菜の事知ってるのか?)
「結菜の知り合いですか? どちら様で······」
「ぼ、僕は舘浦喜助、っていいます。海野さんに、前に、助けて貰った、事があるんで······二人の関係を知ってて、LIVE見て、もしかしてって」
舘浦喜助は、LIVEで黒街彰が人を生き返らせる方法を聞いた時に、生き返らせたい人間は海野結菜なのだと思い、それを確かめに来たのだった。
「······ごめん、それは言いたくないんだ。想像した通りだと思っていいから」
黒街彰は、『魂の補完石』に結菜の魂がある限り結菜が死んだなんて思えなかった。この説明が出来ない以上、話せる事はない。
黒街彰は、決して結菜が死んだなんて人に言いたくなかったのだ。
「想像、通り······なんでだよ、なんで、なんで守ってやれなかったんだよっ」
急に声を荒らげたかと思ったら、走り去って行ってしまった。
(なんだよ、勝手な事言ってよ······館浦さんか、聞いた事ないな、この人も結菜を大事に思ってくれてたのかな)
走っているうちに、段々と涙が溢れてくる。
(僕の女神様がもういないなんて、なんでだよ、いつか御礼をしたかったのに。助けてくれた、あの日の御礼を······)
✩✫✩✫✩
舘浦喜助が海野結菜を知っているのは、探索者アカデミーへ通っていたからであった。
海野結菜が探索者アカデミー二年目の時に、入学したのが館浦喜助である。
運動も勉強も得意ではなく、苦手と言っていいぐらいであった。探索者になろうと思ったのは、そんな自分を変える為であり、強くなりたかったからだ。
探索者アカデミーに通ったからといって、直ぐに強くなれるわけもなく、今迄通った中学校と同じ結末が待っている······そんな事を考えるようになる原因が実技と学科のテストが終わった頃である。
「おいっ、ぼうっとしてんじゃねぇ邪魔だよ」
「お前と組むの嫌なんだよな、足引っ張るなよ」
「貴方って、バカだよね······」
テストで最下位を取ると、同じクラスの人達から邪険に扱われ始める。
極めつけだったのが、クラス対抗で行われた団体戦での探索訓練であった。
「くそっ、なんでA組との差がこんなについたか分かってんのかよっ?」
館浦喜助は、B組であった。探索訓練の内容は、隠された宝を多く見つける、とゆうシンプルな内容だ。
「館浦っ、お前は訓練の間何やってたんだよ?」
「僕も、宝を探してた、よ」
「お前だけだぞ、一つも見つけられてねぇのはよっ」
頭に血が登ったクラスメイトが館浦喜助の胸ぐらを掴む。
「お前口ごたえしてんじゃねぇよ、ぶん殴るぞ」
たまたま、そこに通りかかったのが海野結菜であった。
「ちょっと、貴方達なにをやってるの?」
「······」
「イジメなんて最低だよ、離しなさい」
「イジメじゃないですよ、こいつのせいで、対抗戦に負けたから······」
「人のせいにするの? それってカッコ悪いと思わない?」
海野結菜の言葉を受けて俯くクラスメイト、ゆっくりと館浦喜助から手を離して······
「······ごめんなさい」
「分かってくれて有り難う、次は頑張ってね」
一つ先輩の海野結菜は、容姿だけでなく成績も優秀な事から、後輩達の間で人気があった。
「海野先輩に頑張ってって言われちゃったよ」
注意された事などなかったかのように、「頑張って」だけがクラスメイト達の心に残っていた。皆、次は頑張ると言いながらこの場を立ち去って行く。
(海野結菜先輩、凄い皆の気持ちを一斉に変えちゃったよ······女神様って本当に居たんだ)
館浦喜助もクラスメイトと同じ······いや、それ以上に心を奪われていた。
この日から、舘浦喜助へ文句を言う人間が減っていく。全く無い訳ではないが、アカデミーで過ごすのに支障がない程度であった。
探索者アカデミーで学び始めて一年半が過ぎた頃、海野結菜と黒街彰が結ばれる。
海野結菜に想いを寄せていたクラスメイト達は、口々に文句ばかり言っていたが、舘浦喜助の想いは少し違っていた。
(女神様、とっても楽しそうだ。あんまり笑顔を見たことがなかったけど、あんなに素敵な顔するんだなぁ)
純粋に女神様、海野結菜の事を祝福する。
そして3年の時が経ち、どうにか探索者アカデミーを卒業する事が出来た舘浦喜助。自身では、卒業まで頑張れたのは、海野結菜のお陰だと思い感謝していた。
卒業後、探索者としての活動を中央ではなく、西へと選択した館浦喜助。
理由は、卒業までクラスメイトと仲の良い関係が築けなかった事だ。
西に住む親戚の元、自分を知る人のいない新天地で探索者としてスタートする事を選んだのだった。
探索者アカデミーでの成績は悪かったが、一ノ扉であれば、時間をかけてモンスターを倒す事が出来た。
(今日も、一体倒せたぞ。僕はゆっくりでいいんだ、いつか強くなって中央で活動してる女神様に······)
目標がある人間は、頑張れる。舘浦喜助の目標は、強くなって海野結菜へ、あの日の恩返しをする事だ。
2ヶ月程立った日の事であった。何時ものように時間をかけて倒したモンスターから、初めて宝箱が現れる。
(えっ、これって······金色だよねっ?)
出現した宝箱は、金の宝箱であった。しかも中に入っていたのは宝玉、スキルの宝玉だ。
探索者の運命を変える程に価値のある物。そう言われている物の一つが金の宝箱から出るスキルの宝玉だ。金の宝箱から出るスキルの宝玉は、特殊スキルの獲得が濃厚だと言われているからだ。
(宝玉、え、どうしよう、えっと、取り込むには、胸に押し当てて、だったよね)
方法を確認するだけのつもりが、取り込んでしまった舘浦喜助。
(あっ、取り込んじゃったよ······えっ、なんか変わったのかな?)
宝玉の効果は、取り込んだからといって直ぐに理解出来る物ではない。色々と試して理解を深めるか、ステータスを鑑定するかの二択になる。
館浦喜助は、魔石もお金も余裕がなかった······
(しょうがない、色々試してみよう)
数日が立ち、モンスターを討伐している時に異変に気付く。
(良しっ、もうすぐ倒せるぞ)
最弱のモンスター、スライムにダメージを重ねていると、なんだか身体の中に熱いものを感じるのだった。
(やっぱおかしい、もうすぐ倒せるって時に身体の中が変な感じするんだよな······)
今迄、棍棒を使って倒しきる事しかしていなかったが、思いのままに手でモンスターに触れてみる事にする。
すると、強い光と共にモンスターがその場から消えていく。そして舘浦喜助の身体に紋章の様な印が刻まれるのであった。
(うわぁっ、びっくりした······手の甲に変な印が出来た? えっなんだろう?)
その後も、何体かのモンスターと闘い印に変えていった。
舘浦喜助は気付いていなかったが、4体目のモンスターを光と共に消した印は、顔に浮き出ている。
(解らない、力が強くなった感じもしないんだよな······吸収して力に変えるわけじゃないのか?)
答えが出ないまま、地上へ戻って来た舘浦喜助。すれ違う人達から異様な支線を感じる。
親切の家に着くと、叔父さんから「おいっ、それは、どうしたんだ」と驚かれる。
鏡を見ると顔にも印が浮き出している······変に目立つのは嫌かもしれない。
「でも、ちょっと格好いいんじゃない? もしかして······格好良くなれるスキルかっ」
格好良くなれるスキル、の訳はなく、数日後に判明するスキルの内容。
「出て来い、スラ吉っ」
スキルの内容は、モンスターを紋章に変え、配下として使う事が出来る。契約紋とゆうスキルであった。
モンスターと共に闘う日々は、何時も一人であった館浦喜助にとって、とても充実した日々であった。是迄より多く長い時間を探索で過ごすようになり実力をつけていく。
探索を始めて一年が立ち、探索一年の新人では、特殊スキルを合わせれば上位の実力になる館浦喜助。理由は、宝玉を取り込み、能力が上がった事。それ以上に強くなったのは契約したモンスターが進化した事だ。
(な、なんだっ、ポチが光出したぞっ)
館浦喜助が、ポチと呼ぶモンスターは影狼だ。素速い動きに攻撃力もある事から、契約して半年、よく使うモンスターであった。
光が収まると、一回り大きくなったポチの姿が現れる。
「ポチっ、成長したのかっ?」
館浦喜助は、嬉しくてポチをなで回す。
影狼とは、1メートル程の全身が黒い、狼の様なモンスターである。素速い動きが、黒い影の様な事から影狼と名付けられていた。
進化したポチは、1.5メートル程になり、大きな爪が金色に輝いている。他の探索者が見たらもう影狼とは思われないであろう。
数日後、始めて契約したスライムが進化する事になる。
スライムとは、30センチ程の水の様な液体型モンスターだ、攻撃方法も無く纏わりつく事ぐらいからしか出来ない狩られるだけの悲しいモンスターである。
「おおっ、ついにスラ吉も強くなる時が来たかっ」
光が収まった跡に現れたスラ吉。姿が一回り小さく20センチ程になっていた。
「あれ? 縮んだ?」
舘浦喜助は、スラ吉に動くように指示を出す。すると、進化前より少し速く動けるようだ。他にも一部を硬く出来る様になっている事がわかった。
「凄いぞっ、硬く尖らせれば攻撃に使えるじゃないかっ。ナイス進化だスラ吉っ」
褒められたスラ吉もなんだか嬉しそうであった。
順調に成長している舘浦喜助だが、特殊スキルを手にした事で一つ大きな悩みが出来ていた。一ノ扉の中、人目を避けながら異界を探索する舘浦喜助。
現在は、10体程のモンスターと契約をしていて、異界の中ではモンスターと探索をしていれば楽しかったが、地上へ出ると一変して孤独が襲う事になる。
原因は、身体に浮き出る紋章だ。街中での視線が、怖い人を見るような目で見られるようになり、只でさえ人見知りの舘浦喜助が人に避けられれば、人と繋がる事は絶望的になるのであった。
(はぁ、地上でも楽しく過ごせたら文句ないんだけどな······何かいい方法はないかな?)
この時に思いついた方法、人類にとって新たな大発見になるのだが、舘浦喜助にとっては、これが良くなかったのかもしれない······