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第一章【旅の行方】北の実力······勝負の行方

ステージに上がった二人、佐久間仁と郷倉未知瑠。先ず口を開いたのは佐久間仁だ。


「北の出場者は女性が多い、貴方のような奇麗な方と闘いたくはなかったですよ」

軽口を叩く佐久間仁。対して郷倉未知瑠から出た言葉は、佐久間仁が受け入れられない程、辛辣な評価であった。


「お子様が馬鹿な事を言う物じゃありません。直ぐに判りますよ、闘いたくない理由が間違っていた事に」


「俺を知らないのか······そんな事を言う余裕が続くと思うなよ」

佐久間仁が有名になった理由、其れは魔法とは違う、炎の特殊スキルを手にしたからだ。

佐久間仁の腕が炎に変わると、郷倉未知瑠に向かって伸びて行く。佐久間仁は、早速スキルを使い郷倉未知瑠を捕える事を選択する。


郷倉未知瑠は、両手に短めの剣を持つ。近づく炎を見えない程の速さで斬り裂いていく。


「炎を斬り裂けると思うなよっ、俺の炎に捕まったら火傷では済まないからな」

実際、佐久間仁の炎は、斬り裂かれても勢いを失ってはいない。


郷倉未知瑠は、ステージの端まで追い込まれて行く。

(私の魔力を使い、剣に宿る真の力を解放しなさい)

郷倉未知瑠が持っていた片方の剣が輝き出すと、先程と同じように炎を斬り裂いていく。


今度は、斬り裂かれた場所より先の炎が地面へと落ちていった。

「Sランクの剣です、お子様は想像出来ますか? 本体の部分を斬り裂かれたらどうなるか」


斬撃、打撃は否してしまう筈の炎が通じない事を悟った佐久間仁は、腰に挿した刀を抜く。

「俺は炎だけじゃねぇぞ、それにお子様なんかじゃねぇ馬鹿にするなっ」


接近する佐久間仁が刀で斬りつける、それを受ける事はしない郷倉未知瑠。高ランクの武器は、効果が解らない以上打ち合う事も避けるべきなのだ。


そしてすれ違いざま、強烈な蹴りが佐久間仁の背中を襲った。

ふわりと空を蹴ったように感触がない、変わりに郷倉未知瑠の足へ高熱が襲いかかる。

(癒やしなさい。炎の特殊スキル、火力は凄いですね······治癒が使えなければ、あの一瞬だけで足が使い物にならない程ですか)


速さで翻弄されている佐久間仁は、表情には出さないが、内心では大分焦っていた。

輝く剣で斬り裂かれれば終わる。炎のスキルを手にしてから、命の危機に合う事が殆ど無く、久しぶりに体感する生死を掛けた闘いなのであった。

(動きについて行けねぇ······あの蹴りも何とか炎で対応出来たが、足が光ってたからな。治癒が使えるって事だろ)


「反応は良いようですね、もう少し本気を出すとしましょう」

郷倉未知瑠は、もう一本の剣にも魔力を注ぐ。


郷倉未知瑠がゆっくり近づいて行く、接近戦を嫌った佐久間仁が、炎で牽制する。

(ふふっ、思い通りに動いてくれるのね)


迫る炎を、又も剣で切り裂く郷倉未知瑠。だが使った剣は、新たに魔力を注いだSクラスの剣だ。


切り裂かれた炎、今度は崩れ落ちる事はなく、剣に纏わりつく。その炎は、佐久間仁に向かって広がって行くのであった。


郷倉未知瑠が使う剣は、遮断と接続。二つの効果を持つ双剣であった。遮断の剣で斬られれば力の元から切り離され崩れ落ち、接続の剣で斬られれば斬られた部分を操られる事になる。

接続の剣で斬り裂かれた炎が佐久間仁へと襲いかかったのだ。


郷倉未知瑠は、炎を薄く伸ばして攻撃に使用していた。佐久間仁の炎と衝突した部分は、消し炭のようになって消えていったが、範囲で勝った部分が佐久間仁の皮膚を焦がしていく。


(熱っ、でも俺に炎は効かねぇよ)

全身を炎に変え、皮膚を焦がす炎を無力化する。

その瞬間に距離を詰める郷倉未知瑠。

「刀を落としてますわよ、どうやって私の剣を受けるのですか?」

佐久間仁は、全身を炎に変えた瞬間、刀を持つ事が出来ず、ステージへ落としていた。


声を掛ける余裕まで見せて、斬撃を無数に放つ、人の身体に戻った佐久間仁。身体にはいくつもの切傷が有り······肩より下、両腕が無くなっているのであった。


「ぐぅぁぁぁ、くっ、うぅぅ」


「自分の手の内を簡単に見せる、相手の思うように動かされる、敗因は幾つもありますね······お勉強の代償に両腕は高かったかしら?」

最後までお子様扱いのまま、佐久間仁の顔面へ強烈な蹴りを入れる。

佐久間仁は、意識を失い勝者が確定した。


(佐久間さんっ、だ、大丈夫なのか?)

黒街彰が心配する佐久間仁には、治療魔法の使い手が駆け寄っている。一命を取り留めても両腕を再生するには、治癒の特殊スキル持ちが必要であろう。


「次は彰君だな、相手の動きを見て冷静にな」

佐久間仁が敗れた事で、黒街彰の勝敗に中央と北の勝敗まで掛かってしまった。

余計な事を意識させないように、訓練で得た事をするようにアドバイスする時坂純也。


「はい、全て出し切って来ます」


(良し、気負い過ぎては無いみたいだな。それにしても北の十傑、本城尊の右腕、郷倉未知瑠か)

自身が闘ってみたかったと思う時坂純也。それと同時に北の高い実力を不安に思う······板垣陸斗、時坂純也の想定よりも強いような予感がしていた。


「では、最終試合。中央からは黒街彰。北からは板垣陸斗。ステージへ上がってください」


ステージへ上がった黒街彰と板垣陸斗。先ず口を開いたのは、板垣陸斗であった。

「よく逃げなかったな、中央じゃ18ぐらいからしか異界に行けないんだろ? 経験も実力も差があるのが判らないのか?」


「判ってるよ、お前の方が圧倒的に強いのは。それでも闘う価値が俺にはあるんだ。自分の為に······」

黒街彰は、時坂純也から中央と北での争いが何度か起こっている事を、この一ヶ月の間に教えて貰っていた。話を聞いてからは、中央で平和に暮らしていた自分には、戦争を理解出来ていなかったと思っていたのだ。


ただ、大事な人を失った時に復讐したいと思う気持ちは理解出来てしまう······簡単に命を奪う行為を認める事は出来なくても、起こった理由も知らないまま否定する事は出来なくなっていたのだ。

だったら自分の為、結菜を生き返らせる情報を手にするために勝つ。そう決心して此処に立っているのであった。


「やる気は十分って事かよ、命を失くしても知らねぇからな······かかって来いよ」

板垣陸斗は、大斧を肩に乗せた体制で待ち構える。


(ふぅ、行くぞ。相手の些細な動きも見逃すなよ······見逃したら、それだけで終わりだと思うんだ)

黒街彰は、自分に言い聞かすと板垣陸斗へ向かって行く。


近づいた瞬間、大斧を上へ振り上げる動作を見た黒街彰は、振り下ろされる大斧の軌道を予測する。

(篭手で受ける。大丈夫、予測通りの動きだっ)


一瞬の出来事だ。黒街彰が、気付いた時には空中に弾き飛ばされているのだった。


大斧の攻撃は、篭手で受け止めきる事が出来ず、身体ごと地面に叩きつけられてしまっていた。更に地面をバウンドした瞬間に板垣陸斗の蹴りが襲ったが、運良く顔の前に腕があった為、完全には意識を失わずにすんでいた。


(ぐっ、何て威力だ。まともに受けちゃ駄目だったか······それより意識が無くなったのが一瞬で助かった)


「良く受けたじゃねぇか。だかよ、この能力差は埋められねぞ。直ぐに終わらせてやるよ」

今度は、板垣陸斗が近づいて来る。横薙ぎの一撃を繰り出すのであった。


(大斧使いだけあって、モーションは大きい。それでも大斧なのに速さは凄いけど、次は)

黒街彰は、衝撃を逃がす為に、当たる瞬間思いきり後ろへ飛ぶ。


5メートル位吹き飛んだだろうか、それでも今度は無傷で受けられていた。


(出来たぞ、これで2回······後3回は貯めたいな)

一撃で倒す為に黒街彰が課した回数は5回。生きて受けきれれば勝機はあった。


「なぁ、その防具、随分と硬てぇな。ランクいくつだよ?俺の斧はAランクあるんだぜ」


「この篭手もAランクだ、防御力は高いから、壊す事は難しいと思うよ」

(急に、篭手に興味が出たみたいだなぁ。上手く誘導すればチャンスかもしれない)


「自信ありってか? それじゃぁぶっ壊してやるよ」

板垣陸斗は、異界での闘いは全て力でねじ伏せてきた。だが、本来の能力は力だけではない。単に小細工しない戦闘方法を好んでいるだけであった。

今回の戦闘も、黒街彰の篭手を力で破壊することで、自身が扱う大斧が上だと証明してから勝利を得ろうと考えてしまった。


「行くぞっ、上手く受けろよ」

突進した勢いのまま、上段から大斧を振り下ろす。


黒街彰は、大斧が振り下ろされる軌道に籠手だけ置き去りにすると、接触する一点に全力で集中する。

(今だっ)

籠手に当たった瞬間、腕を引き身体ごと回転させる、そして時坂純也に教わった格闘術で蹴りを放った。


板垣陸斗は、片手で蹴りを受け止める。

「これが狙いか?こんな蹴りじゃ、牛も仕留められねぇぞ」


(かなり上手く出来たのに······回転を利用しても簡単に受け止められてしまった)

能力の差を改めて実感する。やはり篭手のスキルに賭けるしかないか······


(能力に差がありすぎだろ、これじゃ俺がズルしてるみてぇじゃねぇかよ。ちょっと熱くなっちまったけど、終わりにするか······)


「籠手を壊すのは辞めだ、こんなに能力差があったらつまらねぇだろ······能力を上げたら再戦してやるから、大人しく寝とけ」


板垣陸斗は、決闘を終わらせる気で近づくと大斧を振り上げる。今回はフェイントを混ぜ、横薙ぎへと変化させる。

だが、黒街彰も反応していた。

(腰の回転······左からくるっ)

時坂純也との訓練でフェイントの見分け方も教わっていた。

黒街彰が籠手で受けるが、それが板垣陸斗の狙い通りの動きであった。黒街彰の腕が上へと弾かれる。

(もう籠手での防御は間に合わねぇぞ、顎に一撃で終わりだ)

大斧を反転させ、刃の裏で顎を打ち抜こうと振り抜く。

反応が出来ても、黒街彰に出来た動きは一つしかなかった。歯を食いしばり頭突きで大斧と張り合ったのだ。


又も吹き飛んだ黒街彰、頭から大量の血を流して立ち上がる。

(ふぅ、ふぅ、後1回だ······)


「だから、大人しく寝とけって、おらっ」

間を空けずに追撃する板垣陸斗。その手には大斧を握っていない、殴り倒す事にしたのであった。

何度か籠手で受けるも、全てのステータスで劣る黒街彰が受けきれる訳もなく殴られ続ける。

「終わりだっ」

胸ぐらを掴み、最後の一撃を出そうとする板垣陸斗。その時、黒街彰の右手も相手の心臓へそっと添えられていた。


(か、解放)

板垣陸斗の拳が届くより、少しだけ速く解放された衝撃で、互いに吹き飛ぶ。

板垣陸斗は、本城尊達の元まで吹き飛んでいた。


白目を剥く板垣陸斗の脈を本城尊が確認していた。

「陸斗の負けだ、おいっ急いで蘇生処置をしろ、心臓が止まってやがる」


審判から勝利が告げられる。意識を保つので精一杯だが、黒街彰の勝利が決まった。


中央の勝利が決まり、黒街彰が質問を出来る時がやって来る。

だが、互いに治療を必要とする闘いの後だ。最後のやり取りは、少し休憩を挟んでからになるのであった。

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