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第一章【旅の行方】手にする物

魔力溜りから現れたのは、一見リザードソルジャーのように見える何かだった。

だが四人共感じている、リザードソルジャーに似ているだけで、比べ物にならない強力なモンスターで有ることを。


「翔太と彰君は、下がってな······この気配、危険度Aは有りそうだぞ」

「狩り、甲斐、ある」


ダ・ビャヌが飛び出した、大斧を持ったリザードソルジャーの最上位種、キングリザードへ向かって。


ダ・ビャヌは接近すると一度止まり、3メートルの距離から槍を放つ。

キングリザードが槍を弾くと、足元にはすでに時坂純也の姿があった。時坂純也は、飛び跳ねるようにジャンプすると、手に纏う強大な魔力ごとキングリザードの顎を殴り飛ばすのだった。


「どうよっ、効いただろ」

吹き飛んだキングリザードが立ち上がると、外れた顎をもとに戻した。


「タフなタイプだな······」

今度は、正面から時坂純也が向かって行く。キングリザードの大斧が襲いかかるが、躱しては殴るを繰り返していた。

次は、大斧を魔力で受けると思い切り上へ弾き後ろへ距離をとった。

そこへ、ダ・ビャヌの放った槍が接近して太腿を貫く。


「······凄い、本気の二人は動きが速過ぎるよ。しかも、連携も完璧じゃないか。俺も、いつかこの二人みたいになりたい」

黒街彰は、二人の姿に感動していた。将来、海野結菜とこんな連携が出来たらと、思わずにはいられない程に。


いつの間にか、キングリザードはボロボロになっていた。

「本当にタフだな、俺の攻撃をこれだけ受けて倒れないか······危険度Aでも上位だな、彰君これが訓練の最終試練だ。後はキミが倒せ」


かなり弱らせた状態であったが、黒街彰が闘うモンスターでは、間違いなく最強であった。

黒街彰は、意を決して返事を返すとキングリザードの前へと立つ。


(時坂さんとの訓練で手にした物を全て出すんだ······)

ゆっくりと近づき、急激に速度を上げる。フェイントを交ぜて足を斬撃で切り裂く。


(かすり傷程度しかダメージを与えられてないぞ)

訓練で習得した事の一つは、先手で相手の機動力を奪う事であった。


キングリザードの攻撃が来る、格上のキングリザードの方が攻撃も速い。だがモーションから攻撃に移る瞬間を見抜く黒街彰は、上手く大斧を躱す事が出来た。


その隙で、今度はキングリザードが負っている傷を狙う。


黒街彰と闘う前から大きなダメージを負っていたキングリザードは、戦闘が進むにつれて弱っていく。

最後は、黒街彰の妖剣が胸を貫いた事で命を散らす事になった。


「彰君、良くやったな。訓練の成果が出てたぞ······おっ、おい、出たぞ、後ろを見てみろ」

時坂純也が発見したのは金の宝箱だ。200年探索者をしていても、時坂純也が驚くのは、金の宝箱は数回しか見ていない······それだけレアなのだ。


「あっ、本当だ······此れは、ど、どうします?」

「勿論、彰君が開けて良い。中に何が入ってるか楽しみだな、それに中身次第で、決闘の結果が変わるぞ」


皆が見守る中、黒街彰が宝箱を開ける。


宝箱の中に入っていたのは、篭手。黒光りした篭手が入っていた。

「此処で防具が出るか······彰君は、何か持ってるのかもしれないな。金から出た防具だから、AランクかSランクだ、特殊効果も有るはずだから戻って鑑定するぞ。決闘前日は休息日にする予定だったが、使いこなす為の時間にしなきゃならないかもな」


これで、二ノ扉での訓練は最後にする。あっという間の一ヶ月だったが、黒街彰は多くの物を得る事が出来た。


残りの時間を使い最終準備をする為、急いで地上へ戻って行くのであった。


✩✫✩✫✩


時間は少し遡り、福島県から撤退する帰り道。

「全く、勝手な事をしやがって······復讐か? 理由はなんだ?」

「ごめん······でもよ、もうすぐ王の誕生日だろ。皆で話したんだよ、中央を奪ってプレゼントしようって」

板垣陸斗が事件を起こした本当の理由、其れは王の為であった。その話を聞いて本城尊は、俺が全て悪いんだと納得する。


(学がねぇのは、学ばせてねぇ俺達大人が悪いよな······はぁ自由も楽じゃねぇな)

本城尊は、北を力でねじ伏せた後は、殆ど探索に時間を使っている。15年前、北と中央で大きな争いが起こった後に、本城尊が一人の男に政治を任せた事で、北は変わる事となったのだが······一般教養が行き届くまでにはなっていなかった。


「俺の欲しい物や、中央と争う事が良くない理由を話してやるから······凛と花もちゃんと聞けよ」

板垣陸斗とパーティーを組むのが、八代凛(やしろ りん)鈴原花(すずはら はな)だ。その三人に本城尊は、自身の考えを話す。


本城尊が欲しい物とは、異界へ続く扉の鍵。全ての扉を制覇する事である。そう、本城尊は誰よりも異界に魅了された人間であった。


中央と争わない理由も、探索の為であった。

世界中の国、一国につき3つの異界へ続く階段が現れた事。それぞれの国が探索を行い、人を超えた怪物が誕生している事を話す。

探索者が育たなければ、他の国からの侵略を許す事に繋がり。そんな戦争が起きれば探索に集中出来なくなるのだ、そして争いが起きた時は中央に対応させれば良いと本城尊が言う。


「分かったか? 日本なんて欲しくはねぇんだよ、俺が欲しいのはな、最後の扉、その鍵だ」

「あー、王は、探索が好きだもんな? 俺も強くなる為に探索してるぜ、いつか一緒に行く時の為によ」


「······良い心掛けだけどよ、本当に判ったのか? お前は変わらねぇな。初めて合った時からよ」


✩✫✩✫✩


板垣陸斗と本城尊が出会ったのは、扉に繋がる階段であった。

当時6歳の板垣陸斗が、一ノ扉へ向う為に階段を降りていた。本城尊は、四ノ扉から探索を終えて階段を昇る。


(小せぇのが、降りてくるな······随分ギラギラした目をしてやがる)

「おい、ガキ。テメェに此れをやるよ」

すれ違う間に、本城尊が渡したのは、今回の探索で手にした戦利品。ランクAはあるであろう大斧であった。


「サンキュー、おっさん」

背丈程ある大斧を渡された板垣陸斗は、大斧を引きずりながら扉へ向かって行く。


「クソガキが、なぁ最近ガキの姿を見る事が増えたんじゃねぇか?」

本城尊が問いかけたのは、郷倉未知瑠(こうくら みちる)。昔から王を支えてきた一人だ。


「少し前に、中央と大きな争いがあったんですよ。此方から攻めた結果、報復で大勢が犠牲になったようです。それで孤児になった者が、生きる為に探索者になったんでしょう」

「何処の馬鹿がそんな事やりやがったんだ? お前よ······その話は、流石に俺に報告するべき情報だろ」

「そんな事はありません。探索に関係ありませんから」


そして3ヶ月後、郷倉未知瑠と再会した板垣陸斗。


「あら、貴方は······生き延びたのね。私が誰だか判るかしら?」

「ん? 知らねぇ」

「それもそうね、その大斧を貴方に渡した御方に仕える者です。大斧は役に立ちまして?」

「おうっ、この斧はすげぇよ。おっさんに礼を言っといてくれよ」


「······おっさんは止めましょうか、あの方は、この国の王様ですから。次に、おっさんって言ったら後悔させますからね」

「う、うん······」

(この人、怖ぇかも······)


「孤児の探索者向けに、最近出来た施設を知ってますか?」

「知りません」

「そう、時間はありますわね? では私に着いて来てください」


郷倉未知瑠の反論を許さない雰囲気に、素直について行くしかなかった板垣陸斗。

連れて行かれた場所は、表向きはただの孤児院だが、探索者を目指す孤児をサポートする為に作られた施設であった。


この3ヶ月の間に出来たのはこの施設以外にもいくつかあるのだが、郷倉未知瑠が紹介したいのは孤児院と、大食堂だ。

「この孤児院に登録された人間は、大食堂も使い放題になります。探索帰りでお腹が空いてると思いますが、先ずは孤児院に行きましょう」


「はい······」

(なんか、登録させられる? でも、まぁ飯が食べ放題ならいいか)


孤児院に到着した二人、郷倉未知瑠が受付を済ませて中へと案内する。中からは何やら賑やかな声が響き渡っていた。


「あら尊様、来てらしたのですね? 尊様が大斧を授けた孤児に偶然会ったので、此処に連れて来たんですよ」

中に入ると本城尊が子供達と戯れていた。


「おお、生きてたか。大斧は使いこなせてるかよ?」

「ああ、この大斧は最強だぜ。俺様にかかればどんなモンスターも一撃で倒せちまうからな。今更、返せって言われても駄目だからな、おっさん」


「言いましたね······」

板垣陸斗の最後の一言「おっさん」は言って良い言葉ではなかった。


「あっ······」

殺気の籠もる目で近づく郷倉未知瑠。

(こ、殺される)

板垣陸斗は、無意識に大斧を構えて戦闘体制に入っていた。


板垣陸斗には見えない速さで腕を叩かれ、気付いた時には大斧を落とす。更に拳が板垣陸斗の顔面を捉えようとしていた。


「おいおいっ、何が起きたんだ。こんなガキに未知瑠の拳が入ったら顔が無くなっちまうぞ」

本城尊は、郷倉未知瑠の拳を掴みながら、何をしてるのか問う。


「次におっさんと言ったら、後悔させる約束をしたんです。約束は大切ですから······それに怪我をしても私が治すので問題ありません」


「約束を守るのは大事だけどよ、俺は何て呼ばれようが気にしねぇから、そうだな、此処に居るガキ共は、此れから俺が言うことをよく聞くんだぞ」

「俺は此処の王だ、だが俺の呼び方なんかどうでもいい。求めるものは一つ、俺と未知なる場所を冒険するぞ、その為に······強くなれ」


本城尊は、満足したのかその場を後にする。子供達全員に伝わったかは、定かではないが······少なくとも一人、心を動かされた者が居た。

(おっさん······王様、この怖いお姉さんより強いんだろ、かっけぇよ。強くなって、一緒に冒険行きてぇな)


板垣陸斗は、この日から孤児院を拠点としての探索が始まった。

孤児院の方針で探索は三人以上のパーティーを組まされた。そして心を許せる仲間にも巡り合う。

時が経ち、孤児院では誰よりも強くなった。


王と共に冒険に出る、その目標の為にずっと頑張ってきたのだった。


✩✫✩✫✩


「陸斗、さっきの若造、大将戦で闘う相手はどう思った?」

「楽勝すぎ、流石に実力差があり過ぎで可哀想だけどよ、舐めた事言った報いは受けてもらうぜ」

(勝てば、福島県をプレゼントできるしな)


「あの場では、確かに楽勝って言って良い程の実力差があったな。だけどよ、いい目してたぜ、負けんなよ」

(それに、あの若造を気にしてるのは俺だけじゃなかった······時坂まで気になる存在か)


この後、八代凛と鈴原花も決闘に出す事に決め、残りの二枠には実力者を出場させる。


本城尊は、若手には経験を積ませ、勝負には確実に勝つ為の手を打つのであった。

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