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第一章【旅の行方】希望は手のひらの中に

「あぁぁっうぁぁぁっ結菜ぁぁ」


ニノ扉の中、数分での出来事であった。木々の間から飛び出して来た魔物、二メートルはある巨大な魔物の一撃で海野結菜の身体に大きな穴が空いていた。


✩✫✩✫✩


俺は黒街彰(くろまち あき)、今より三年前に探索者アカデミーに入学をしたんだ。


一年生の頃に一目惚れした女性が海野結菜(うみの ゆうな)だ。


アカデミーで初めての学科と実技のテスト、上位にいたのが海野結菜だった。俺は······真ん中より少し下ぐらいの順位だった。


テストの結果発表があった日の放課後、俺は勇気を出して告白した。結果は······「探索者として頑張りたいの、ごめんなさい」振られてしまった。


中途半端な浮ついた気持ちでは、想いは伝わらないんだと思った。探索者になる事を、此時に真剣に考えたのだろう。それと少しでも近づきたくて夢中で頑張ったんだ。


三年になる頃には、俺の成績も上位に近づくまで頑張ったんだ。


三年で最初のテストの結果は、なんと······十位。上位十人に俺の名前が入っていた。海野結菜は二位、まだ追いつく事は出来ていない、でもここまで本気で頑張って来た······もう一度告白しようと勇気を振り絞った。


俺の言葉は「探索者として、真剣に頑張って来ました。一年の頃から結菜さんへの気持ちは変わらず大好きです······付き合ってください」

だった。


海野結菜は一年の告白以来、俺の事を気にしていたと言う。成績が毎回少しずつ上がっていたのも知ってくれていて、今回十位に名前があることも知っていた。


「いつも真剣に頑張ってる姿がかっこいいと思ってました······まだ好きでいてくれて有難う、宜しくお願いします」


想いが叶った瞬間だった。此れから俺達は色々な話もしたし、実戦訓練などもパートナーとして協力したんだ。


勉強も訓練も一人より効率的に出来た。お互い真剣に探索者になる為に頑張っている者同士だったからだろう。


卒業する前には、海野結菜は学年一位になる。俺だって六位になれた。


卒業してからは、勿論探索者になった。一ノ扉では何も問題なく探索が出来た。


一月程立った日の事だった。一ノ扉では有り得ない金の宝箱を手に入れたんだ。


宝箱の中身は宝石?見たこともない石が入っていた。俺はかっこいい武器が出たらいいなと思っていたので、用途も解らない石なんて売ったらどうか?と思ったが、結菜は「二人で初めて見つけたレアなアイテムだよ、一生の宝物にする」と言ってくれた。


此の後の······俺が言った言葉がいけなかった。金の宝箱まで出て、何もかも上手く行く気がしていたんだ。「ニノ扉へ入ってみよう」こんな事を言った事が。


結菜は絶対に止めたほうが良いと言ったのに······少し見るだけだからと、自分の意見を通してしまったんだ、ニノ扉からは人を超えた者達しか生き残れないと聞いていたのに。


✩✫✩✫✩


結菜が即死だった事は、すぐに理解していた。だって、体にあんな大きな穴が空いたんだから······


俺は叫んだあと、扉へと走り出していた、逃げていいのか?逃げれるのか?結菜を置いて行くのか?

何を考えていたのか解らない、時間にして数秒だと思う。


魔物は追って来なかったようだ、扉を出ると俺はしゃがみ込む。


「俺のせいだ······くそっ、ち、畜生っ、うわぁっっ」

泣きながら叫んでいた、自分のせいで一番大事な人を失ってしまった。

何でこんな所に来たんだと自問自答する、たどり着いた答えは······昨日手に入れてしまった石のせい?調子に乗った原因は、出るはずのない金の宝箱。俺は何かのせいにしたかったのだ。


大事に包んだ布をポケットから取り出す、「こんなものを手に入れなけれりゃあっ」包んだ布を解き、石を取り出した。


石に、なにやら変化が見える······石には暖かな光が宿っていた。光に目を奪われて、俺は時間が立つのも忘れて見つめていた。


時間が立ったおかげか、少し冷静になれた。この石が何なのか?二人の宝物だ、先ずは此れを鑑定してみようと心に決める。それと······あの魔物を倒して仇をとると心に誓った。


此の後、外に出ると日が暮れていた、俺は一度家に帰って眠りにつく。明日は鑑定所に行って鑑定にいくら必要か?具体的に調べてみる事にしよう。


翌日、朝から家を出ると探索者施設の一角にある鑑定所へ足を運ぶ。


「料金は一律十万円か、それと鑑定機を作動させる魔石が必要なんだな」

鑑定所の入口に貼り出された案内板には、大凡だが魔石の必要数も記載されている。


小魔石で換算された数は、木の箱は十個、銅の箱は三十個、銀の箱は百個、金の箱は二百個。

宝箱の形状で出てくるレアリティが変わる事から、大凡の必要数を計算しているのだろう。


「小魔石二百個かぁ、手に入れるだけで凄い時間が必要になる······まぁ時間はいくらでもあるけどな」

小魔石の販売も行っていたが、一個十五万円で売られていた。二百個買ったら三千万円だ、そんな大金も持っていない。


鑑定所の前で難しい顔をしていたのが悪かったのか、探索者と思われる三人組に声をかけられた。

「なんだ、お前新人だろっ? 良いもんでも手に入れたのか? 俺達に見せてみろよ」


「もし特別な物を手に入れられたら、どうすれば良いか下見していただけですよ。いやぁ鑑定って高いんですね······」

十万が高いなんか言ってたら探索者なんか出来ないと馬鹿にして、三人組は去って行く。


「ふぅ、行ってくれたか、あんな奴らに奪われたりでもしたら、最悪だ」

復讐する相手が増えなかった事に安堵した黒街彰は、今後の行動を考える。


一ノ扉で探索する事は勿論。小魔石を二百個集める事。

探索者がニノ扉を攻略する為に必要とされる宝玉、身体強化の宝玉を出来るだけ沢山体に取り込んで、早く人を超える事を目標にしたのだった。


✩✫✩✫✩


希望に満ちた日々が終わりを迎えてから、一年の月日が流れた。

目に隈をつくり取り憑かれたように一ノ扉へ毎日通う青年、黒街彰の姿があった。


「あぁ······あと少し、あと少しで二百個集まるんだ」

魔物を探して一ノ扉の中を彷徨う、どちらが本当のモンスターなのか······


黒街彰は、この一年で五個の宝玉を体に取り込んでいた。

宝玉とは、複数の種類がある。力の宝玉、素速さの宝玉、知の宝玉、運の宝玉、魔力の宝玉、魔法の宝玉、スキルの宝玉、確認された宝玉だけでも種類は豊富。更に種類が同じでも効果は異なるのだ。


宝玉は売ることが出来る。数百万〜数千万円の価値がある、中には億を超えるものも······黒街彰は二つ目の願いを叶える為に売ることはしない。一つ目の願いの為に宝玉の鑑定にお金は使えない、効果も解らず取り込んでいた。


「いたぞ」

魔物を発見した黒街彰は、見つからないように背後へ回る。

発見した魔物は、一ノ扉では強敵と言われる斑熊。斑模様の二メートル程の熊のような魔物だ。


黒街彰は、復習の相手と見立ててか好んでこの魔物を狩っていた。


背後をとった黒街彰の一撃。剣が斑熊の背中を切り裂く、一撃で仕留める事は出来なかったが硬い斑熊に大きな傷を与える。


反転した斑熊が爪で黒街彰を狙う、黒街彰は軽々と躱して剣撃を与えていく。


普通の人間には斑熊を簡単に切り裂く事は出来ない。斑熊の攻撃を躱す速さも普通の人間を超えていた。


黒街彰は、きっと力の宝玉と速さの宝玉を取り込んだのだろう。探索者になりたての初心者に必要な宝玉であったことは運が良かった。


それとこの一年で一度だけ出た銅の宝箱。その箱から出た錆びた剣。魔物の血を吸う度に切れ味を増す妖剣が黒街彰の武器だ。


数回の攻防で斑熊は倒れ、一つの木の箱へと変わっていった。


「ちっ、宝箱のほうかよ···」

魔物を倒すとどうなるのか?何も無い、魔石になる、宝箱になるかの三択だ。宝箱の確率が最も低く有り難い物なのだが······今は、魔石を望んでいた。


木の宝箱を開けるとエメラルドと思われる宝石が入っていた。

此れを売った金で魔石を買えば魔石は集まるのだが、黒街彰は自分で手に入れた魔石で鑑定する事にこだわっていた。

これも魔物への復讐なのかもしれない。


次の魔物で、無事に魔石を手に入れる事が出来た黒街彰。

「やっとだ、鑑定所へ行くぞ······」

やっと石が何なのか解る。だが、心は晴れることはない、心にわずかに残る希望と引き換えに答えを得る様な心境であった。


大量の魔石が入った袋を持って、鑑定所へ到着した黒街彰へ声をかけてくる者がいる。


「いつかの新人じゃねぇか、何だか良い物持ってそうだな。その袋の中をちょっと見せてみろよ?」

一年前に出会った先輩方にまた同じ場所で出会う。黒街彰に喜びなど微塵もないが······自然と笑みが溢れた。


「また会えて嬉しく思いますよ、自分が少しでも強くなれた事が実感出来たんだから」

先輩方に一言。腰の剣に手をかけ、殺気を放つ。邪魔をするなら人相手でも容赦なく剣を抜く気だった。


「うっ、まぁいい。鑑定の結果が良い物だといいなっ」

怖気づいた先輩達は、足早に立ち去って行った。


鑑定所に入ると、受付で予約を入れる。今は調度空いていて、使用出来るようだ。


十万円を払い、鑑定機がある部屋へと向かった。鑑定機の部屋は機密保持の為、使用者しか入れない仕組みだ。


受付で受け取った鑑定機の使用方法が書かれた説明書を見ながら準備をする。

「台座に鑑定したいものを置く······っと」

今も暖かな光を宿す石を、台座に置く。

「後ろに魔石を入れるタンクがあるんだな? んっ、これか」

タンクへ二百個の魔石を入れた。後は起動スイッチを押すだけだ。


「ふぅ······結菜、俺達の宝物が何なのか知ろう」

決意を固めて機動スイッチを押した。


鑑定機が起動すると大きな音が部屋中に響き渡る。光の線が石へ何本も突き刺さっているみたいだ。


鑑定機が静かになる、鑑定が終了した。

鑑定機の下側入口から一枚のプレートが出てくる、此れが鑑定された証になるのだ。


プレートを手に取る事がなかなか出来ない······待ち望んでいたのに。黒街彰は思う、告白した時のように勇気を出そう、と。


プレートを見る、書かれていた内容は、ランクS『魂の補完石』であった。


説明の部分へと読み進める、肉体を失った者の魂を大地へ還す事なく石へ補完する。

説明はとても簡易的なものであった。


「この光は、結菜なんだな、結菜······」

黒街彰の瞳からは涙が流れていた。海野結菜を失った日に、枯れてしまったかのように流れなくなった涙が。


「結菜にもう一度会えるのか? いや、必ず生き返してみせるよ」

黒街彰に新たな目標が出来る。今迄の闇へ向うような目標では無く、出口には光が強く輝いた目標が。


また幸せな日々を取り戻す、暖かく光る石『魂の補完石』を握りしめて······誓う。


希望は手のひらの中にあるのだから······と。


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