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後編 コガネ姉様



 コガネ姉様。黄金に輝く太陽の髪に恥じない、人を引き付ける魅力に溢れた私たち四姉妹の長女。

 日々のトレーニングに裏付けられた引き締まった肉体と明晰な頭脳を持ち、家計を支える一家の大黒柱を担ってくれている素晴らしいお人だ。


「お、お帰りなさいです。姉様」


「出迎えてくれなくて寂しかったぞ。あぁ、とても傷ついた」


「ご、ごめんなさ―― ひぅっ!?」


 ススーッと、私の太腿を指でなぞるコガネ姉様。敬愛する姉様方に触れられているというだけで至上の喜びだというのに、クロエ姉様以上に大きい胸部が背中を圧迫し、鍛え抜かれた腕で体を抱きとめられている。相変わらずのさわやかな香りが鼻腔を満たし、頬が張り付きそうになるほど姉様のお顔が近くにある。


 意識を持っていかれていないのが奇跡だ。


「アオイがお姉ちゃんの帰宅を出迎えてくれなかったから、私は今、物凄く傷ついている。ぽっかりと心に穴が開いた気分だ」


「ご、ごめっ! も、申し訳っ!!!!」


「この穴は、しっかりと埋めてもらわないとな? ”アオイのすべてで、一晩をかけて”」


「♡♡っっっっ!!!!????」


 全身を強烈な快感が駆け巡り、自分でも制御できない脱力に襲われる。まるで感電したかのように体は小刻みに震え、足腰に至ってはもはや立つことすら叶わない。それでも私がこうして立っていられるのは、ひとえに姉様の支えのおかげ。言い換えれば、今の私は完全に無防備であるということ。


 ど、どうしよう!? このままでは姉様に、日が昇るまで好き放題にされてしまうっ!


(ななな何をされるのでしょう!? 私は姉様に、ひ、一晩中っっ♡)


 行けないことだと分かっているのに、私の頭はこの後に起こる出来事に思いをはせる。今も私のうなじに顔をうずめ鼻をスンスンと動かし私の匂いを堪能されているコガネ姉様。このまま姉様のおもちゃとして楽しまれるのか。はしたないことだと分かってはいても、その先も――


「なんてな」


「……へ?」


「フフ、アオイが料理していることなら気づいていたさ。ただ少しイタズラがしたくなっただけだ」


「へぁっ!?///」


 一人悶々と盛り上がる私をよそに、姉様はこの一連の流れが悪戯であったことを明かす。先ほどまで燃え上がっていた私の体温が、今度はとてつもない羞恥心により温度を引き上げる。


「ん、なんだ。腰が抜けているぞ? それに心なしか頬も熱いような……」


「い、いいいえ!? わわ、わ、私は何も考えておりませんっ!」


「――もしや」


 強引に姿勢を変えられ、至近距離から姉様のお顔と対面するような形となる。ハクア姉様やクロエ姉様に負けず劣らず素晴らしく整ったご尊顔が今、私の目の前にあるっ!!


 図らずも先ほど妄想した光景と、とても近い状況が形作られてしまった。


「”期待”していたのか?」


「っ!?!?///」


 内心を言い当てられ、私の脳は体だけでなくその思考そのものを放棄した。もはや隠し切れないほどに私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。この体の反応が、なによりも姉様の言葉が真実であることを物語った。


「……」


「///」


 軽蔑、されただろうか。このような思いを抱いてしまった卑しい愚妹を。


 ……このような形で、冷静さを取り戻したくはなかった。あれほど恋焦がれていた姉様の瞳も、今となっては針の筵。視線が鋭い棘となって、無防備にさらされた私の心に突き刺さる。

 コガネ姉様は無言で、目を見開き硬直されたままとなる。


 一分か、二分ほどしたころだろうか。


「っ!」


 間隔の短くなった煮沸音が耳に届き、シチューの火をつけっぱなしにしていたことを思い出す。失敗しないように姉様の元へ行くことを控えていたというのにこれでは、姉様方に申し訳が立たない。


 内心で深く詫びを入れつつ、姉様の腕の中から離れ私はキッチンの鍋の前へと立った。そして、火を弱めるためにコンロの栓に手を伸ばし――


「 !! 」


 パシッと小気味よい音がして、栓に伸びた私の手がコガネ姉様のものと繋がってしまう。


「……姉様?」


「――アオイ。今日は、一緒にお風呂に入ろうか」


「お、お風呂、ですかっ!?」


 嬉しい。そう思う反面、私の脳は危険信号を発している。

 このざわついた心境のまま肌を晒してしまったら、私はっ


「行こう」


「ちょっ!? ね、姉様!?」


 渋る私を手を引っ張り、コガネ姉様は強引に浴室へと走り始める。いつの間にか、シチューの火は消えていた。



 



「ふぅ。外出の後の入浴は心が洗われるな」


 シャワーの滴るコガネ姉様のお美しい肉体を視界に捉えながら、身に巻いたタオルが万が一にも落ちないよう、布端を固く握り占める。

 それにしてもコガネ姉様の体。ますます美しさに磨きがかかっているように思える。薄っすらと形の見える腹筋といい、腕の二頭筋といい……


「コガネ姉さま、また一段とお美しくなられましたわね」


「私もトレーニングはしているけれど、あそこまでのスタイルは無理ね」


 私たちと同じタイミングで浴室に入ってこられた、ハクア姉様とクロエ姉様も同じ意見らしい。コガネ姉様が私をお連れになる間に、姉様方もお誘いしたのだ。


 キッチンでは変な空気になってしまったが、やはり姉様にはそんな気はなかった。むしろ悪くなってしまった雰囲気を打開するために、多少強引な方法を取らせてしまったことを申し訳なく思う。巻き込まれてしまった姉様方も。


(あぁ……勝手に一人で盛り上がって、私は一体何を期待していたのか)


 広々とした浴室の隅っこに陣取り、プチ反省会で気をそらす。この場で体にタオルを巻いているのは私一人だけ。


(……変、だよね)


 姉様方にしてみれば、いまさら姉妹を相手に何を恥じることがあるのか理解に苦しむだろう。

 でも、姉様方は私なんかとは違って、人に見られて恥ずかしいスタイルはしていない。


「アオイー。そこで何をしていますのー? 早くこちらにいらっしゃい」


「はい、姉様」


 姉様らが一か所に集まり神々しい光景を広げる中、ただ一人隅っこで景色を堪能している私を、ハクア姉様がお呼びになる。その動きから何を求められるかを理解した私は、そこでようやくタオルを手放す選択をする。


「アオイ。今日は貴女がクロエ姉様を洗って差し上げて。私はコガネ姉様の方をやりますから」


「わかりました。ではクロエ姉様、失礼いたします」


「ん、お願い」


 姉妹全員でお風呂に入るときは、二人ずつ互いに体を洗うのが我が家の恒例。日によって組み合わせはばらばらで、コガネ姉様の日もあればハクア姉様をお洗いしたこともある。


 泡をたて、優しく、しかし汚れを残さないよう。クロエ姉様の好みの力加減を維持しつつ体の方を洗っていく。帰ってきてからはあまり話していなかったので、軽い雑談をはさみながら。


「痒いところはありませんか?」


「平気よ。凄く気持ちいい」


 リラックスした声。どうやら洗体は上手くいっているようだ。初めに背中を擦り終えてから、次は自身の体で姉様を支えるように密着し腕などを洗う。姉様が脱力し私に体を預けてくれるのも、逆に姉様の温もりを背中で感じるのも大好きだ。


「で、では、そ、そちらの方も失礼しますね」


「うん」


 ――だ、大丈夫。変な気を起こすな私! 何年一緒に入浴してると思ってるんだ! いい加減に慣れろ私!!!!――


「んっ」


「っ……ふぅ」



 ・・・・・・・・・・・・。



「終わりました。クロエ姉様」


「はぁっ、はぁっ。……ありがとう、とても気持ちよかったわ」


「喜んでいただけて何よりです」


 なんとも艶めかしいクロエ姉様のお声に耐え続けること数分。どうにか理性を手放すことなく洗い終えた。よく頑張ったよ、私。


「――さて、次は私の番ね。ほら、はやく前に座りなさい」


「お願いします。クロエ姉様」


 ゴシゴシ ゴシゴシ


「痛かったりはしない?」


「いえ、気持ちいいです」


 ほぁ……これは、気持ちよすぎる。

 肌の弱い私を気遣って、撫でるに等しい力で背中を洗ってくださるクロエ姉様。人一倍スキンシップを大事にするだけあって個人個人のことをよく見ていらっしゃる。


 昔から口数と表情の少なさに反比例して、学校などでは人気者だったクロエ姉様。その社交的なスキルは、私も欲しかったです。


「背中はこれで良し、次は前ね。アオイ、私に背中を預けて?」


「……はい」


 ぴったりと張り付くように、クロエ姉様の大きなお胸が私の背中に張り付いてくる。柔らかなお山は、背中に触れるといともたやすくその形を崩す。僅かに残った隙間は泡が埋め、これで完全に姉様と一つになった。


 やはりこの体勢は、何度味わっても素晴らしいものだ。大好きな姉様にすべてを預け、温もりと手先から伝わってくる愛情に身も心も溶かされていく感覚。幸せぇ、、、


「アオイ」


「はい、姉様ぁ」


「貴女は今、幸せ?」


「はいぃ、とてもぉ」


「そう。……ふふっ、そんなに蕩けた声を出して。”襲っちゃうわよ?”」


「あ♡」


(卑怯だ。不意打ちだ。わざと大事なところで手の動きを止めて、耳元で甘く囁くなんて♡)


「姉様っ♡」


「そんな可愛い声を出して、私を誘ってるのかしら? ……私ね? 貴女に触れられただけで、どうしようもなく幸せになっちゃうの。こうやって、胸のあたりを洗われた時なんて特に、ね?」


「んんっ♡」


 そう言って姉様は、洗体用のタオルから手を放し両手で私の胸を包み込む。動きはなくとも、姉様に触れられている部分が、甘い痺れと幸福感をもたらす。


「アオイ、アオイっ。大事な、大事な私の妹。絶対に離さない。貴女の全部は、私たちのものよ。わかったわね?」


「♡ はい♡」


 ――あぁ。もうこのまま、泡となって消えてもいい。姉様と溶け込み合って、一つになっても構わない。私のすべては姉様のもの。この身も、心も、そのすべてがお姉さまの――





 ――カコンッ――


 小気味よい風呂桶の音が、浴室内に響き渡る。姉様の手で全身隈なく洗浄された私は、姉様方より先に僭越ながら一番風呂を頂く。理由は簡単で、姉様方はここから、さらに髪と肌のお手入れをされるのだ。


「はふぁ~」


 癖の付いた長い髪を持つコガネ姉様とクロエ姉様に、ストレートであるものの痛みやすい白い髪のハクア姉様。それと比べて私は、肩にすらつかない青いショートヘア―。おまけに肌の弱さから使用できる美容液にも限りがあって、手入れの工程がかなり少ない。


「・・・・・・。」


 私だって、姉様のように長く伸ばしたいです。胸だって大きくして、もっと姉様方にふさわしい妹に……。こんな風になったのも、全部っ!!


「――そこまでだ、アオイ」


「!? コガネ姉様、いつの間にこちらに!?」


 湯船の中で自身の腕を強く引き絞る私を、背後から優しく制止したのはコガネ姉様だった。よく見れば私の視界の右側にはハクア姉様が、左にはクロエ姉様がいる。そんなに長時間考え込んでしまっていたのか。


「貴女がなにやら思い悩んでいる間にですわ。……また、あのことですの?」


「っ! ごめんなさい」


「はぁ、まったくお前は。ほら、こっちにこいっ」


「あ、え?」


(こ、コガネ姉様!?)


「アオイ♪」


「アオイ……」


(ハクア姉様に、クロエ姉様までっ!!)


 壁に背を預けたコガネ姉様は、私の貧相なお腹に手を回しぎゅうぎゅうと自身の体に抱き込み、固定されてしまった私の両腕に今度はお二人が抱き着いてきた。両手両足で腕を抱き込み、肩には頭を乗せて。


「私達が愛し、ずっと一緒に居たいと思うのはお前だけだ。髪や体質がどうだろうと、この世界でたった一人の大切な妹なんだ」


「私たちは四人で一つ。いついかなる時も互いを尊重し、愛するのです。例えどれだけ、世間や国が非難しようともね」


「貴女が私たちを捨てない限り、私たちが貴女の側を離れることは絶対にない」


「姉様……――あ♡」


 ――突然、私の胸部を襲う強烈な快楽。みれば両脇から伸びた腕が、私の大事な部分を掴んでいる。


「そこ、はぁ♡」


「ここまで言ってまだわからない宝物には、実力行使しかあるまい? それに、私ももう我慢の限界だ♡」


「んんっ! ね、姉様っ。まさか!」


 私を入浴にお誘いしたのは、まさか、私の勘違いなどではなく!!


「だ、駄目ですっ! それに、ここにはお二人が!!」


「んっ♡」


「く、クロエ姉様っ!?」


 な、なぜ、クロエ姉様は私にキスを?


「私は一向にかまわない。むしろさっきの洗いっこで、気持ちは姉さんと同じ。――アオイが悪いんだからね♡」


「そ、そんなぁ♡」


 クロエ姉様の指が、腕から太腿へと降りてくる。そして、割れ物を触るような優しい手つきでススっと体表を這い、より深いところを目指して進行を開始する。


「れろっ♡」


「ひゃぁあ!?」


 は、ハクア姉様!? い、今!


「ふふっ、思わぬ幸運が回って来ましたわ。せっかくですから、お預けとなっていた”おかわり”の方を、今、いただきますわ♡」


「んむぅっ!」


 本能を直接刺激する甘い”ナニカ”が口内を、ひいては脳内を完全に支配する。

 ハクア姉様の甘く刺激的な深いキスを味わい尽くし、互いの口が離れるころにはとうに冷静な思考などなくなっていた。


 けれど、それでも


「はぁっ はぁっ はぁっ ね、姉様♡ や、優しく――」



 顔を上に向け、頭上から瞳を覗き込むコガネ姉様に。せめてもの慈悲を舌足らずの強者に媚びるような声で希う。



「 無理だ♡ 」




 ―― そこから先のことは、自分でもよく覚えていない。三人の姉様から次々と送られてくる甘い快楽に身を任せ、反撃はおろか意識を保つだけで精いっぱいだったように思う。事を終えた後、私のお作りしたビーフシチューで夕食を済ませて、その後は寝室でも沢山愛し合った。 ――


 深夜、四人で一つのベッドと布団を共有する中で。


「コガネ姉様」


「なんだ?」


「クロエ姉様」


「なに?」


「ハクア姉様」


「なんですの?」





「大好きです♡」




 後悔なんかしない。後戻りなんてできなくていい。


 私の幸せは、敬愛を捧げる姉様たちが幸せに生きること。その幸せに私が必要だというのなら、この身も、心も、そのすべてを姉様にお捧げします。わが愛しの、お姉様。

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