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何ノ為の王達ヴェアリアス  作者: 三ツ三
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【プロローグ】少年ダークエルフのインジュ


昔々、まだこの世界に竜と呼ばれるファンタジーの代表が存在していた、昔の話。人と竜は共存していた。

竜は小さき人の知恵を尊び、人は竜の力を敬う。お互いの存在を無下にせず、互いが意思疎通の出来る生命の友である事に誇りを思わせる程に。


生命としての進化を共に歩む。


それが切磋琢磨する二つの種族の悲願であり・・・そして、火種になってしまった事は言うまでもなかった。


『降臨戦争』

全大陸を巻き込んだ人と竜の争い。己の力を存分に振るい人を蹂躙できる竜に対して人はあまりにも無力。ただの殺戮を待つだけのはずだったが、人の知恵は竜の力に均衡を見せた。


「これもまた人と竜、互いの進化に必要な事」


長寿である竜には時間があったが為にその意思の強さは計り知れなかった。それに対して人はあまりにも短命でその移り変わる時代と環境に変化を投じられずにはいられなかった。その二つの違いが生まれのは必然。

そして長い争いの中、それは生まれた。人でも竜でも無い存在。


『王』


対立してしまった両者を治めるのが困難だと誰もが感じていた時に王はその動きを見せた。人の見た目をしていても決して人のみの味方はせず竜だけの味方もしない王が双方から弓引かれる立場であったのは当然だった。

それでも王の発する声、王の行う行動、王が立つ戦場、全てが王を王とたらしめた。


王の存在により、人と竜の間で一つの”契りを交わし”争いは幕を引いたのであった。


そして、人でも竜でも無い存在である王が降臨した事から『降臨戦争』そう呼ばれて数十年・・・。



それはまだ少年が笑顔を絶やさず、大地を走り掛けていた戦争とは無縁の平和な時間。 山の中、それも人という人が寄り付く事の無い山奥。

そこには二人の親子がひっそりと暮らしていた。


「母様! 今日はリザードを討伐してきたー!」

「まぁ! インジュ一人で戦ったの!? 全くあなたはまた一人で無茶して!」


褐色の肌に長い耳を持つ母親が息子へお叱りの言葉と共にポコンっと頭に軽いゲンコツをする。まるで様式美の如く息子のインジュもゲンコツを受けた頭を抑えるもお互い笑顔を浮かべて合っていた。インジュは少しだけ反省の色を見せつつも今日のリザードの討伐方法、こんな攻撃をして来た、その道中で色んな薬草を見たと、インジュは母親に今日あった出来事を余す事なく報告し母もまたそれを笑みを浮かべながら楽しく聞いていた。


「今日のご飯は何ー!?」


インジュの話の締めくくりはいつも同じだった。食欲が旺盛というわけでは無い。ただただ母親の作る物が大好きであり。


母様が大好きというだけの何処にでもいる少年。それがインジュという少年なのだった・・・。










「・・・っ!」


目が見開いた。視界に映るのは真っ暗な世界。真っ先に感じた感触がインジュに今を知らせた。

体が重い。動かない。痛みが全身に隈無く行き届いているのがわかる。


「ぅ・・・ぁ・・ぐ・・」


夢を見ていた。それに気が付くに数秒掛かった。現実に戻されてしまったのだと今一度目を閉じたインジュ。

過ぎた時間を戻せないのは誰もみな同じである。今という現実を直視し歩けば歩くほどに過去という思い出は輝きを増していく。


インジュは母の言葉を思い出していた。「未来は明るく、そして尊い物」であると


暗く、異臭が漂う場所で身動きの取れないインジュにとってはあまりにも残酷な言葉だったのは言うまでも無い。

それでも、インジュはその言葉に偽りがあるとは思っていない。当然だ。この世で最初で最後の最愛の人物。そんな人の言葉を偽りだと言い切る事はインジュには出来なかった。


それでも・・・。


「助け・・・て、かあ・・様・・・!」


目尻が熱い。溢れる涙が顔から流れ落ちていく。拭たくともその為の腕が動かない。泣き叫びたいのに喉が機能を失っているかのように上手く言葉を発する事が出来なかった。


これが今という現実。インジュは見せられた夢の光景とは真逆の空間にその身を投じている。

抗った結果なのか、抗いが足りなかったからのか。

インジュは呟いた、そのどちらでも無い。ただ単純な事の結果であると。


(何も考えず、ただ流されてしまった結果・・・)


衰弱しきっている体の力を抜いていく。自分がただの屍の一つになる為の段取りだった。抗うにはあまりにも遅かった。だからインジュは今もなお流れに身を任せるだけだったのだった・・・。







「褐色銀髪少年!!!!」

「ッ!!?」


響き渡った大声にインジュの体はビクつき起き上がってしまった。これから死ぬであろう体に鞭が打たれたかのように上半身が起き上がった。

そんなインジュは咄嗟に声が聞こえた方向へ首を動かした。


「シュコォォォー。この魔力、シュコォォォー。いや違う、シュコォォォォォー。ダークエルフかなー?」


インジュの目の前には人型であろう二足歩行の生物?が立っていた。全身真っ白の完全防備、頭部全てを覆う黒いマスクからインジュは凝視されていると察した。


「シュコォォォォォー・・・!」

「・・・・・・ッ!」


一歩ずつ完全防備の男がインジュ接近していく。男は手をワキワキしながらインジュに近付く。

だがインジュはその場から離れる事も、抗おうとする事も何も出来ないでいた。そんな中で一つの変化がインジュには起きていた。


(に、逃げないと・・・!!)


本能が拒んでいた。今までような流されても良いなんてものじゃない。ここで受け入れてしまったらマズイ。何が何でも抵抗しなくてはいけないと全身全霊が叫んでいる。

そしてワキワキした手がインジュに触れられそうになった瞬間。


(うわぁぁああぁあああああぁー!!!!)



衰弱しきった全身に力を入れてしまったからか、インジュは白い目を向いて気絶してしまったのだった・・・。が、完全防備の男はお構いなく気絶しているインジュの首元を触れた。


「あらら、死んではいないが・・・ふむ、まさか"綻び"か。なるほどね」


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