第1章 第2話 恋愛禁止!
「いいかい? 生徒会は1000人以上の学生がいる我が校の最大派閥。50人を超える学生が在籍する組織だ。上手く潜入し、校則を厳格化しようとする深宮真子に近づき恋仲になるんだ! それができなければ我々から自由が失われてしまうっ!」
耳につけたワイヤレスイヤホンから月野さんの大声が耳に響く。その度にこんなスパイなんてやめてやろうかなと思うが、校則が厳しくなるのはやはり嫌だ。
「今現在生徒会は会議中! 終わり次第接触を図るんだっ!」
生徒会が会議しているという視聴覚室。その扉は固く閉じられており、中からはマイクを通した話し声が聞こえる。この中に入り込むのは得策ではないだろう。普通の人には。
「じゃあさっそく潜入しますね」
「ちょっ……ちょっと待て……!」
月野さんの制止を聞かず、俺は視聴覚室に入り込む。ホワイトボードの前では深宮さんが立ちながら何やら話しているが、気にせず空いている最後尾に座る。それから少し遅れ、別の生徒が視聴覚室に入ってきた。
「すいません遅れましたっ!」
「遅刻は厳禁です。即刻退出してください」
「は、はい……」
深宮さんに注意され、その生徒は視聴覚室から退出を余儀なくされた。だが俺は何のお咎めもなし。
「す、すごいぞソラっ! 君の影の薄さだと遅刻したことにも気づかれないのかぁっ!」
ちなみにこれは悪口だ。おかげで出席してるのに欠席になった授業がいくつもあるのだから。
「まったく。わかっているのですか、私たちの使命を!」
遅刻した生徒を追い出した深宮さんが、ため息をついて大声を出す。
「我らが大海学園高等学校は、かつては名門校として君臨していました。それが現校長が赴任し掲げた『自由』などという学生の規範から逸脱したスローガンを掲げたことにより大幅に学力は低下、素行は悪化。地域の方々にも疎まれるような存在になってしまったのですっ! それを改善しようと集まったのが我々生徒会! その一員が遅刻など言語道断っ! この活動はおじいちゃま……ごほん。理事長も認めています。早急に校則の厳格化を進めましょう。特に恋愛禁止! これは絶対ですっ!」
……なるほど。深宮さんの言っていることも理解できる。確かにうちの学校結構馬鹿な奴ら多いからな……。その分自由に様々な取り組みを行っている人も多いが。にしても恋愛禁止……ってのは少し行き過ぎている気がする。
「恋愛禁止だとぉっ!? 許せんっ! 恋愛は学生の本分みたいなものだろうっ! 私はしたことないがっ!」
「落ち着いてください、先輩。私もしたことありませんが」
どうやら月野さんたちも同意見のようだ。よし、ここは一丁意見を出すか。
「すいません、少しいいですか」
「ではさっそく議題に移りましょう」
無視された……。いや気づかれていないだけか。
「すいません! 少しいいですか!」
「……? はい、どうぞ」
立ち上がって大声を張り上げると、少し戸惑いながらも俺に発言の許可を出した。
「確かに学力向上に打ち出すのは素晴らしいことだと思います。しかし恋愛禁止はいかがなものかと。今は出生率の低下などが問題になってますよね。それとは正反対の恋愛禁止は時代に逆行しているような気がするんですけど」
「なるほど、そうですね。……書記、どうして意見をホワイトボードに書かないのですか」
「すいません、聞き逃していて……」
「素晴らしいぞソラっ! 問題点を明らかにしながらも絶妙に記憶に残らないような表面的なことしか言わないとはっ!」
……なんかもう、嫌になってきた。どうして俺が発言するといつもそうなるんだ……。
「回答させていただきます。えーと……出生率の低下の話ですね。確かにその通りではあるのですが、国力の低下も同等以上に深刻な問題です。それを解決するには学力の上昇は必須。高校生の内に恋愛しても結婚まで結びつく可能性は低いですし、それならば大学受験に結び付く勉強に集中した方がいいと私は考えます」
「そうですか……ありがとうございます」
深宮さんの言っていることも一理ある……というか、言われるとその通りだと思い始めてしまう。
でも少し気になることがある。それは普段の深宮さんと、今の深宮さん。様子がかなり異なることだ。
教室で見る彼女の姿は、厳しいというよりかは清楚な印象の方が強い。誰とでも真摯に向き合い、和やかな雰囲気を纏っている。俺も何度か話したことがある。「深宮さん、消しゴム忘れちゃったんだけどちょっと貸してくれないかな?」「はい、どうぞ。ところであなたはどこのクラスの方ですか?」。とてもじゃないが遅刻した生徒を追い出すようなことをするような人ではない。……少し確かめてみるか。
「それでは会議を終了します。各々活動を続けてください」
会議が終わり、深宮さんが視聴覚室から出る。
「ちょっと話いいかな?」
「うひゃぁっ!? おばけぇっ!?」
そこを追いかけ、俺はさっそく接触を図った。
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