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白い姫は黒い皇子の番  作者: お嬢
第一章
8/18

8

 

 少しまったりとした時間を過ごすと、清夏はおもむろに立ち上がった。


「?」


 頭の上に?を浮かべるグラスの目の前で膝を折り、こちらに手を差し出してくる。


「グラス嬢、僕と踊ってくださいませんか?」


 そんな急に。いや、踊ってみたいと思っていたけれど。


「でも、私上手く踊れないかもしれません……」

「大丈夫、君が転けそうになっても僕が受け止めてあげる。それにゆったりとした曲調だし、踊りやすいと思うよ。せっかく夜会に来たんだから、踊って楽しもう?」

「……」


 少しウロウロと視線をさまよわせたあと、グラスは清夏の手を取った。断るのも失礼だし、せっかく来たのだから。それに清夏がいてくれる。


 清夏は立ち上がってそのまま、椅子から立とうとするグラスを支える。


「じゃあ行こう」


 手を取られホールの中心部まで行くと、向かい合ってホールドを組む。

 曲合わせて足を踏み出すと、ふわりとドレスの裾が揺れた。


 清夏様のリードが思ったよりもずっと踊りやすい……!


 いくらゆっくりした曲調で踊りやすいと言っても、やはり不安なものは不安だ。けれど間違えそうになれば、清夏が上手くフォローしリードしてくれる。


「楽しいです!清夏様」

「ふふっ、良かった。その顔が見たかったんだ」

「どんな顔ですか?」

「楽しそうで、嬉しそうな満面の笑み」

「!」


 恥ずかしい。そんなに顔に出ていたのか。

 顔が熱い。赤くなっているのが嫌でもわかる。


 ……なんだか今日は疑問と恐怖と羞恥をよく味わう。


 心中でそんなことを考えていて、油断していた。


「ほら、ラストだよ」

「ぇ?」


 くるり。まるで大きな花のようだった。

 回された。それもごく自然に。


「びっくりした?」


 清夏はイタズラが成功した子どもみたいにはにかむ。

 グラスは思わずムッとした顔をしてしまった。


 悔しい……。


 そう思って、自分にびっくりする。悔しいと思ったのは初めてだ。


 踊り終わって自分の胸の当たりを押さえる。なんだか不思議な気分だ。


「どうかした?」

「なんでもありません」


 少しつっけんどんな言い方になってしまった。

 けれどもグラスはまだ拗ねてるのだ。


 清夏は少し困った顔をして、何かをこちらに差し出してくる。


「ほら、取ってきてもらったお菓子だよ。食べよ」


 皿にココアとプレーンのクッキーが乗っている。その中から一つとって口に入れると、サクリといい音がした。


「ねえ、美味しいでしょ?」

「美味しいですよ」

「こっち向いてくれないの?」

「……」


 何とか機嫌を直してもらおうとする清夏に、燕尾服の男性が近づく。


「お楽しみのところ、失礼致します。陛下がお呼びでございます。そちらのご令嬢もぜひご一緒にとの事でした」

「わかった。すぐに行く」


 すっと笑顔を消し、いつもより少し低い声で応える。

 燕尾服の男性は恭しく頭を下げると、どこかへ去っていった。多分、国王陛下の所へ戻ったのだろう。


「ごめんね、付き合ってくれる?」

「はい、勿論です」


 陛下が呼んでいると聞いた時点で、グラスの足はガクガクだ。それでも呼ばれてしまったのだし、これで行かないのはとても失礼だ。

 震える足を何とか前に出し、よたよたと歩く。

 清夏はさりげなく歩幅を合わせてくれる。こういうところがグラスの心をきゅんと締め付ける。


 国王は会場全体を見渡せる位置に座っている。

 国王の名は、ヴェルナート・ジーク・アカイア。威厳のある姿が印象的だ。


 グラスは最上級の礼をする。清夏に手を取られたままなので、彼に迷惑がかからないように。

 頭をあげよ、と声がかかる。低く、腹に響くような声だった。


「急に呼びつけてしまってすまないな。セイカ殿とそちらのご令嬢」

「いえ、あとで挨拶に伺おうと思っていましたので、ちょうど良かったです」

「そうか。ならば良い。貴殿が令嬢と長い時間共にいるのが珍しくて、つい呼びつけてしまった。令嬢、名はなんと申す?」

「! 申し遅れました。私は、アデライン公爵の次女、グラスと申します。陛下にお目にかかれたこと、恐悦至極に存じます」

「あやつの娘であったか。なるほど、グラス嬢は母親似なのだな。とても可愛らしい顔立ちだ。その特異な体質で大変なことも多かろうが、頑張りなさい」

「ありがとう存じます」


 それだけ言うと王は清夏に視線を戻した。


「貴殿はそろそろ帰国されるのだろう?」

「そうですね、する事をしたら帰国します」

「帰国される際は知らせてくれ。土産を用意しているし見送りたいからの」

「わかりました。では僕達はこれで失礼致します」

「長く引き止めてしまってすまんな。残りの時間を楽しまれよ」


 清夏が礼をするのに合わせて、グラスも頭を下げる。くるりと踵を返して、王の御前から去った。


「そろそろ帰ろうか。疲れたでしょう?」

「……はい。でも楽しかったです」


 外に向かいながら雑談する。


「良かった。そうだ、言い忘れていたけれどそのドレスよく似合ってるよ。頑張って選んだかいがあるというものだね」


 これは清夏が贈ってきたものなのか。


 サイズぴったりなんだけど、何故?


「君の侍女に協力してもらったんだ。快く聞き入れてくれたよ」


 そう言えば、半日お休みを取っていた時があった。その時か。 


 私に内緒にするなんて……。


 なんだか胸の当たりがモヤッとする。

 昔からそばにいたのに、内緒にされたことが寂しかった。


「っ……!」


 突然清夏が胸の当たりを抑えてうずくまる。

 グラスは急いで駆け寄り、「どうしたんですか?!」と声をかける。


「もう少し持つと思ったんだけどな……。ごめん、グラス嬢。術を解くよ」

「謝る必要はありません。私のことは構わず、どうぞ」


 清夏が苦しげな息を吐くと同時に、グラスの視界は術をかけられる前のものに戻った。





 

ついったーはじめました

多分更新の予告ぐらいしかしないと思います

https://twitter.com/@eWfhAj9rYHz2JUJ

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