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白い姫は黒い皇子の番  作者: お嬢
第一章
6/18

6

いよいよ、卒業記念パーティーの日がやってきた。

 

 パーティーは昼から開催される。昼はお茶会のようなもので、メインは夜。夜にはダンスパーティーもあり、国王が来賓として参加する。

 

 ここで国王に挨拶をして初めて、社交界デビューしたとされる。

 

 グラスはいつものように、部屋の中で過ごしていた。今日はキーキー叫ぶ人たちがいなくて、とても過ごしやすい一日になりそうだ、とどこか他人事だった。

 グラスは、やっぱりパーティーには連れて行ってもらえない。

 

 そんなに人目に晒すのが嫌か。まあ、別に関係ないけれど。

 

 今日は誰もいないのだから、外に出てみようか。ココが部屋にやってきたら、連れ出してもらおうと考えていたら、丁度ドアがノックされてココが入ってきた。

 

 「ちょうど良かった。ねぇ、今日は外に出て一緒にお茶しない?」

 「すみません、グラス様。今日は出かける用事があるので、それはできません」

 「そう……」

 

 そうだよね、ココにも休暇はあるんだから。あまり無茶を言ってはいけない……。

 

 そうわかっていても、やはりガッカリしてしまう。なのにココは、グラスにはさっぱり解らない言葉を発した。

 

 「さ、準備しましょう」

 「え?」

 

 ココの声のする方向を向くと、なんだか不穏な気配がするのは自分の気のせいだろうか。

 

 「大丈夫、グラス様は何もなさらずリラックスしててくださいね」

 「え?え?」

 

 一抹の不安を抱えながらも、グラスはココの好きなようにさせることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらりといつもとは違う肌触りの服。髪も高く結い上げられ、いつもはしない化粧もされた。

 

 ここまでの道のりは長かったわ……。

 

 グラスはこうやって外向きの格好をするのには、体力や耐力が必要なことを知った。

 

 準備をし始めたのが、お昼前。

 今はもう日が暮れかけていた。

 

 お昼ご飯は片手でつまめる小さいサンドイッチぐらい。普通ならお腹が空いてるはずなのに、コルセットを絞められたいま、何も食べたくないとさえ思う。

 

 かたりと何かを置く音がし、ココが一息つく。

 

 「ふう。まだまだ磨き上げたかったですけど、時間が足りませんでした。グラス様は素の素材がとてもいいので、磨きあげるのが楽しくて楽しくて!」

 「……そう」

 

 これ以上何をやるというのだろうか。

 

 「さっ、行きますよ」

 「?」

 

 ぐったりしているグラスは、ココに手を引かれて廊下を歩く。これは多分玄関へ続く廊下だ。

 

 なんで玄関?

 

 少し歩いて立ち止まる。扉が開く音がすると、気持ちいい風が吹いた。 やっぱり行先は玄関だったようだ。

 外に出て真っ直ぐ歩きキィィという金属の音がする。ココが門を開けたのだ。

 

 「さっ、足元気をつけてくださいね。階段がありますよ」

 「?」

 

 外に階段とはなんだ。それでもグラスはココの言う通りに階段に足をかける。躓かないよう、細心の注意を払った。

 

 「あ、頭気ををつけて。当たっちゃいます、もう少し低く」

 「こう?」

 

 グラスは何かをくぐる。ココに誘導されてどこかに座らされた。

 すぐに馬の嘶きが聞こえ、かたんと動き出す。

 どうやらここは馬車の中のようだ。

 

 初めて馬車に乗った……。

 

 こういう時、目が不自由なのが恨めしい。外の景色、見てみたかった。

 

 グラスは部屋の外に出ることはあったが、庭を散策する程度だった。外に出たことはなく、まして馬車に乗るなどありえなかった。

 

 この馬車はどこに行くのだろう。

 

 ぼんやりと考える。こんな上等な服を着たのは初めてだ。何故、一体誰がこれをグラスに送ったのだろう。イサナ……は絶対にありえないな。

 

 数十分ほど走ると、馬車は停止した。馬車に乗る時と同様に、ココに誘導してもらい車内から出る。

 

 「さ、グラス様。お迎えです」

 「え?」

 

 なんのことかさっぱりなんですけど。

 もうさっきから「え?」しか言ってないよ。

 

 「楽しんできてくださいね〜」

 「えぇ……」

 

 グラスにヒラヒラと手を振ってくる。お迎えって何。説明が欲しい。状況が理解できないんですけど。

 こんなところに放置されても困る。

 

 「どうしたらいいの……」

 

 はあ、とため息を着く。どうしよう、どうしたらいいんだ。

 困り果てていた時に、何処からかコツコツと靴の音がした。男性の足音だな。

 

 「!」

 

 ふわりと風が吹き、反射的に髪を抑える。

 すると爽やかな、気持ちのいい香りがした。嗅いだことのある、グラスの好きな匂いだ。

 

 「グラス嬢」

 「……清夏、様?」

 「そうです。こんばんは。さていきなりですがグラス嬢、僕は非常に困っています。助けてくれませんか?」

 「え?えっ、と私にできることですか?」

 「もちろん。簡単ですよ。僕につかまって歩けばそれだけでいいです」

 「???」

 

 そんなことでいいの?本当に?

 今日はよく分からないことがよく起こる日だな。

 

 そういえばなんでここに放置されたの。それをまず教えて欲しい。

 そう思っても誰も説明してくれる訳もなく。

 グラスは諦めることにした。そう、割り切ればよかった。あー、スッキリ。

 

 清夏に手を取られ、丁寧にエスコートされる。 こんなに上等で踵が高い靴を履いたのは初めてで、正直歩きにくい。気を抜けば、かくんと折れて足を捻ってしまいそうだ。

 でも清夏がサポートしてくれるおかげで、安定して歩けた。

 

 カツンと少し高い音がして、歩が止まる。

 清夏はグラスの前に立ち、手を優しく握った。

 

 「グラス嬢。僕からあなたへのプレゼントです。今から十秒後、あなたは新しい世界を知る」

 「え……?」

 「さあ、目を閉じて。怖がらなくて大丈夫。僕がいる」

 

 グラスは恐々としながらも、言われた通りに目を閉じる。

 少し前髪を払われると、目の上に温かい何かがあたった。すぐに、じんわりと目の周りが温かくなる。

 

 「さあ、目を開けて!」

 

 扉が開く音と共に、グラスはゆっくりと目を開ける。

 

 「ぅわぁ……」

 

 思わず令嬢としてはしたない声が出てしまった。それほどまでにグラスは驚いていた。

 

 眩しい。綺麗だ。在り来りな言葉しか出てこない。もっとほかに無いものだろうか。

 しかし、未知の世界にグラスは語彙力を失っていた。呆然と前を見つめるのみ。

 

 「行こう」

 「……は、い」

 

 返事をするので精一杯。清夏に手を引かれなければ、多分グラスはここでずっと固まっていただろう。

 

 部屋の中には沢山の人、人、人。皆綺麗に着飾って、楽しそうに中心で踊っている。

 

 なんだか顔の作りが自分と似ている人がいるぞ。あ、イサナ達か。

 

 ここでグラスは、自分が卒業記念パーティーに連れてこられたのだと理解した。

 

 グラス達が入場すると、皆こちらに注目する。曲は流れ続けているが、皆会話やダンスをやめてグラス達を見つめている。

 すると、ザワザワといっせいに話し始めた。

 

 「セイカ様だわ!やっとこられたのね」

 「やっぱり素敵よね〜!」

 「ねえ、隣にいるの誰か分かる?」

 「嫌だわ白髪よ!あの噂の魔力無しだわ」

 「何故あんなのをセイカ様がエスコートしてるのよ」

 

 ジロジロと頭から足の先まで令嬢達の見定める視線が、グラスを突き刺す。

 

 「やっぱり、私……変ですよね」

 「そんな事ない。皆君に見惚れてるだけだよ」

 「……ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」

 

 自分が変なことぐらい知ってる。わかってる。

 

 少し困った顔をして、下を向きながらグラスは微笑んだ。

 

 「……なぁ、あれが噂の魔力無し?」

 「めっちゃ美人じゃん!魔力無しだけど、俺めっちゃ好みなんだけど」

 「でも、魔力がないんじゃ……なぁ」

 「愛妾ぐらいならいいんじゃないか?」

 「ハハハッ」

 

 嘲笑が聞こえる。目が悪いグラスは耳がとてもいい。数十メートル以上離れたところでも、小声で話している声が聞こえるくらいに。

 

 聴きたくない。聴きたくない。こんなこと再認識したくない。

  

 やっぱり来なければよかった。

 もう、帰りたい。

 

 心が潰されそう。せっかく綺麗な世界を見たのに、足を踏み入れればドロドロとした感情で汚れている。自分の世界からでなければ、このことを知らずに済んだのだろうか。

 

 心を閉じようとした時、不意に声が降ってきた。


 「グラス嬢。顔を上げて、僕を見て」

創作意欲がふつふつメラメラ

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