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白い姫は黒い皇子の番  作者: お嬢
第一章
4/18

4

清夏の言葉通り五日後の昼、グラスの部屋の窓に手紙を銜えた白い鳥がやって来た。

 窓は夜や雨の時以外開けているので、鳥は部屋の中に入ってきてグラスの手元に手紙を落とした。

 

 グラスは手の上に何かが当たった感触がし、ぺたぺたと触ってなんなのか確認する。

 手紙であることに気づくと、テーブルの上に一旦置いてペーパーナイフをとる。

 

 封を切り中の紙を開くと、彼の声が聞こえてきた。


 『やあ、こんにちは。グラス嬢』

 「え?え?」

 

 辺りを見渡してみるけれど、誰の気配もしない。気のせいかと思った時、また声がした。

 

 『ビックリしただろうけど、これは帝国の術だよ。この術は一方通行で、そちら側の声は聞こえない。

 早速、用件を言うよ。明後日、そちらに伺いたい。都合が良ければ、もう一枚の紙に触れてそう念じてくれ』

 

 一枚目の紙を一旦テーブルの上に置く。

 カサリと下にある紙に触れ、目を閉じて言われた通り念じる。

 

 (……お待ちしております)

 

 目を開け手元の紙を見る。

 

 「これでいいのかな……」

 

 帝国の術なんて、初めて見たし聞いたし触れた。

 グラスは言われた通りにしたが、これでいいのか不安になってくる。

 するとまた声がした。

 

 『出来たらふたつに折って』

 

 言われた通りにふたつに折る。

 すると紙はグラスの手から抜け出し、勝手にしゅるるると丸まる。そして手紙を運んできた鳥の足についている筒の中に入った。

 

 急に手紙が無くなったのでグラスは飛ばされたのかと一瞬思った。けれど部屋の中だし、強い風は吹き入れていない。

 

 困惑しているとまた声がする。

 

 『勝手に鳥の足の筒に入っただけだから、心配しないでね。じゃあ、返事がOKだったら次は僕が鳥になって君の元に行くよ』

 

 それから声はしなくなった。

 

 手紙を持った白鳥は、パタパタと飛び立っていった。

 

 グラスは帝国の術とは面白いのだなと思い、初めての手紙をそっと胸に抱き寄せた。

 

 ふわりと心地よい香りが鼻をくすぐる。爽やかな香りで気分が晴れる。

 

 この手紙を誰かに見つかる前に急いでしまおう。無くさないように。盗られないように。消えてしまわないように。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 その頃、王城の客室内。

 

 「なあ清夏……」

 「何……今疲れてんだけど……」

 「そりゃあんなことすれば当たり前だろ」

 

 清夏は新しく術式を作ったのだ。

 

 もともと、通信のため手紙を飛ばす術はあった。

 だが、それを改良して霊力がない人間でも手紙に思いを込めると、ある特定の位置に収まるというのを作ったのだ。

 

 グラスと初めてであった日。

 

 彼女は侍女に手を取られて歩いていた。

 それに、清夏のことが見えていないようだった。

 

 それでは手紙は自身で書けないだろう。あの侍女に代筆をしてもらわないと、手紙は出せないだろうと思ったのだ。

 

 そこであの術だ。

 

 案の定、飛ばした白鳥が戻ってきた。足には筒が取り付けられていて、中には手紙が入っている。どうやら上手くいったようだ。

 

 「よしよし。ほらおやつだよ」

 「チュッチュッ」

 

 白鳥は嬉しそうにおやつを啄む。その間に足の筒から素早く手紙を抜きとる。

 

 手紙には念じた思いが文字に起こるように術を施している。

 

 『……お待ちしております』

 

 その一言だけだったけれど、なんだか嬉しくて勝手に頬が緩む。

 

 「おい、気持ち悪いぞ。へにゃへにゃしやがって」

 「へにゃへにゃなんてしてない」

 「してる」

 「してない」

 


 

 

 

 

 

 

 「して「ウザいぞ」

 

 

 付き人の颯は清夏と気が置けない仲だ。幼なじみで、小さい時からよく遊んでいた。

 時々ウザいと感じるけれど、颯は清夏にとって大切な親友だった。

 

 「んで?返事は?まあ、聞かなくてもわかるけど」

 「なら聞くなよ。……OKだよ。当日は公爵たちに知らせずに逢いに行くから、何かお菓子でも持っていってあげよう」

 「んー。じゃ、準備しとくわ。……お前は少しでも休め。無理すんな」

 「……ありがと」

 

 颯は素早く仕事をみつけ、それに取り掛かる。

 

 清夏はお言葉に甘えて、寝室へと入っていった。

 

 ぱたりとベッドに倒れ込むと、それまで堪えてきたものが一気に溢れ出た。

 

 「……はぁ……っ」

 

 ビリッとした感覚が四肢に表れ始める。

 動くことも億劫で、目も開けていられない。じわりと嫌な汗が吹きでてくる。

 

 息をするのも辛くて、苦しい吐息が漏れる。

 

 (ああ、早く会いたい。君に逢いたい……)

 

 体のあちこちが痛い。

 

 唯一求めるのはグラスに逢いたいということだけ。

 本能が彼女に助けを求めてしまう。

 

 もう清夏の体は限界を迎えようとしていた。

 

 グラスに会いたいと思うのは、それが原因のひとつだ。

 

 グラスのあの漏れ出ている力は、そばにいるだけで清夏の体調を少しばかり回復したのだ。

 もう少し触れ合えることが出来たら、もう少し回復できるだろう。

 

 ただ、グラスはあんな部屋に押し込められていたけれど公爵令嬢だし、2度しか会ったことのない男と触れ合おうなど思うはずがないと思ったのだ。

 

 「くっ……はあ、っ!」

 

 痛みから開放されたい。

 苦しさから開放されたい。

 辛い。

 助けて欲しい。

 

 でも誰にも言えないその感情は、吐き出した息とともに虚空に消えていった。

 

 それから、清夏は気絶した。

お待たせ致しました。高校生になって約1週間。もう辛いっす……

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