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白い姫は黒い皇子の番  作者: お嬢
第一章
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1

 うっすらと目を開ければ、見慣れた木の天井。硬いベッドから起き上がると、梳いてもいないのに綺麗な真っ白な髪がサラリと落ちてくる。

 顔を洗い、鏡の前に立つ。


 そこには異常に白い少女がいた。


 肌は陶器のように白くシミひとつない。白い髪は腰よりも長く絹のよう。その白い肌と髪で強調される真っ赤で大きな眼。


 グラス・ヤグル・アデライン。

 アカイア王国、アデライン公爵家の次女である。


 それが、鏡に映っている少女の名だ。


「おはよう……」


 自分に向かって挨拶をする。それは、小さくボロボロの部屋に響いた。


 一様あるクローゼットを開けてボロボロになった服を出す。成長が止まってから着続け、繕うために何度も針を通したのでもう布が薄くなっている。

 でもグラスはこれを着るしかない。クローゼットの中にあるほかのドレスも同じような状態だからだ。


 自分で何度も繕った。新しい服なんて本当にたまにしか貰えない。


 そもそも、なんで公爵令嬢なのにこんな生活なのかというのは、彼女の容姿に関係する。


 西の国は魔法を使い、東の国は異能を使う。そしてアカイア王国は西に位置する。


 魔法にはそれぞれ属性があり、主要な火、水、風、土。そして希少な光と闇。魔法を使うにはいずれかの属性に適性があり、魔力があれば使える。たまに複数、属性を持つ者がいたりする。


 そして、魔力の量や質は髪の色の鮮やかさで決まる。


 例えば、青色でも鮮やかければあるほど水属性の魔力量は多く、質も良くなる。


 風は緑。土は橙。光は金。闇は紫。

 ちなみに複数属性を持つ者は、一番その中で適性がある属性の色になったり、多少交じったりする。


 そして6歳の時に試しに魔法を使い、ランク分けされる。これは貴族にとって重要なステータスになる。最上級、上級、中級、下級、最下級と分けられ、グラスの姉であるエリザベートは最上級だ。真っ赤な燃えるような髪を持つ。

 最上級は貴族の中でも希少で、かなり優遇される。下級は主に平民だが、中には上級になる者もいる。中級は下級貴族、上級には上級貴族、最上級には公爵家の人間などの身分の高い貴族や王家の人間が多い。


 一方グラスのランクは最下級。

 髪の色は白色で、どの属性に適性があるのか分からず、質も量もどんなものなのか見当がつかない。


 6歳の時、例に漏れずグラスも魔法を使おうとした。


 けれど、グラスは使えなかった。それどころか魔力さえ無かったのだ。魔力がないなんて、西の人間ではありえない。東の人間には魔力はないが霊力が存在する。


 それが分かった途端、父親のイサナはグラスをこの部屋に押し込んだ。以来、十年間グラスはこの部屋で過ごしてきた。


 令嬢としての教育は小さい頃に習っているため、その辺は問題ない。


 コンコンとドアがノックされ、返事を返すとバートンオレンジの髪を肩で揃えたメイドが入ってきた。


「おはようございます、グラス様。朝食です」

「ありがとう、ココ」


 グラスの専属メイドだった。


 ココはグラスが5歳の時に拾ってきた子どもだ。

 その時はまだ外に自由に出かけられていた時期だった。


 テーブルに朝食を並べながらココが今日の家族の予定を話す。


「今日は皆様お出かけになられるので、お昼は外で摂りませんか?」

「そうね……久しぶりに外に出たい……」

「では、そのように手配しますね」


 ココには他の仕事もあるので、朝食を机の上に並べたあと部屋を出ていった。


 朝食はパンとスープのみだ。酷い時は朝食、昼食、晩食のいずれかがなかったりするので、こっそりと部屋を抜け出し厨房で自ら作っていた。ココともう一人この屋敷で雇われている人以外は、グラスに無関心だ。


 関わって、自分に火の粉がかからぬようにと。


 かつてグラスに優しくしてくれた人物がいた。でもその人はもう居ない。彼女の母親が辞めさせてしまったのだ。


 彼女を孤立させるために。頼る者を周りに作らせないように。


「……かたい」


 ググッとパンをちぎる。本当はもっと柔らかいはずなのだ。柔らかくてほんのり甘くて、美味しかったはずなのに。でも、もうその味は忘れてしまった。


 朝食を食べ終わると、ワゴンの上に皿を戻すため立ち上がり部屋の中を移動する。


 ツンと足元に何かが当たる。足を少しずつずらして障害物を避け前に進む。


 グラスは弱視で、目がほとんど見えない。部屋の中なら、ほとんど問題なく動けるが、部屋の外に出るとなると誰かの助けが必要だ。


 厨房の中は足元にほとんど何も無いし、ものが置いてある場所も変わらないので、あそこは結構動き回れる。


 何もすることが無くなった。グラスは一日ずっと椅子に座って過ごしている。目が見えないので、何も出来ないからだ。本を読みたくても、刺繍をしたくても。ただ椅子に座り、窓を開け外を見るだけ。


 どれくらいそうしていただろう。


 またドアが叩かれる。そっと入ってきたのはココだった。


「グラス様、皆様お出かけになりました。庭の準備も出来ました。支度しましょう」

「うん」


 クローゼットから一番マシな服をとる。まあ、それでも令嬢が着るようなものでは無いが。


 軽く髪をまとめ、ココに補助してもらい外に出る。


 庭は季節の花が咲き誇り、噴水から水が上がっている。美しい庭をよく見渡せる位置に、白いガゼボが建っている。

 中にはベンチとテーブルがあり、紅茶とちょっとした茶菓子が置かれている。


 ココがそっとベンチに座らせてくれる。


「ありがとう」


 お礼を言って、ココに座るように促す。


「じゃあ失礼します」

「うん。……最近何かあった?」


 グラスはこうやって外の情報をココから仕入れている。外のことを知ることはとても大切だ。


「そうですね……最近、五大公爵家のシルフィードがきな臭い動きをしているという噂があります。年々、武器などの物資が増えているんですって」

「それじゃまるで……」


 戦の用意だ。


 でもどことするのか。


 確か現シルフィード公爵は王弟殿下だ。派手好きの女好き、しかも現王と王位争いをして負けたのだ。


 五大公爵家は火のアデライン家、水のマキュアーナ家、風のシルフィード家、土のドラクリアル家、闇のグランデンド家のことを指す。


 王弟殿下は風属性だったため、シルフィード家に婿養子に出されたと聞く。王家には光属性が多いが、他家から妃を娶るためかその他の属性の子どももよく生まれる。




「でも、領地が隣国に面しているので備えだと言われればそうですねって言うしかなくなるんですけど」


 シルフィード家は領地を多く持ち、一部の地域が隣国に面しているのだ。しかもその隣国とは、戦好きのマハドティーン国だ。血の気が多く、よく戦争を吹っ掛けてくる。


 今は和平を結んでいるが、ほんの三十年ほど前までは彼の国と戦争していた。

 今は両国とも復興の真っ最中である。


「そうだね……」

「ああ、あと一ヶ月後に卒業記念パーティーが開かれるって聞きました。卒業生の親戚なら参加できるらしいです」

「もうそんな時期なんだね……」


 グラスは学園に通っていないが、エリザベートは今年卒業する。つまり、行こうと思えばグラスもパーティーに参加することが出来るわけだ。


 王立魔法学園。貴族の子息令嬢や王族、魔力量が多い平民が通う、魔法を学びより知識を増やすための学園。王立だが学費は高く、平民はだいたい特待生で入学するのだ。


「グラス様は素材がいいですから、磨けば絶対に光ります!グラス様の良さがわからないなんて、世も末ですよ」

「大袈裟……ふふっ」


 グラスはかちゃりとソーサーにカップを置くと、軽く笑った。


 そこでチリンチリンと門の鈴がなった。


 貴族の屋敷の門には呼び鈴となる鈴がついており、それを引くと連動して屋敷の中に鈴の音が響くのである。

 けれどそれは決してうるさくはなく、とても心地よい澄んだ音だった。


「お客様かな……」

「変ですね、今日誰かいらっしゃるなんて聞いていませんが……」

「見に行きましょう」


 ガタリと椅子を引き、ココに手を取ってもらう。すっと立ち上がり、門の前まで行く。


 誰かがいる気配がした。ピシッとしていて、隙がない。ふわりと微かに香る嗅いだことの無い爽やかな香り。


「この家のものに、御用でしょうか」


 門の前に立っているであろう人物に声をかける。


「すみません。先触れの手紙も出さず、急にお伺いしてしまって。たまたま近くと通り掛かったので、前にアデライン嬢に借りた本を返しに来たのです」

「そうでしたか。ココ」

「お預かり致します」


 門を少し開けココが本を受け取る。


「あなたもこの家のご令嬢ですか?」

「!申し訳ございません。私は、アデライン公爵の次女、グラスと申します」

「こちらこそ申し訳ない。僕は清夏と申します。以後お見知り置きを」

「良ければ休憩されますか?」

「お気遣いありがとうございます。そうさせて頂いても宜しいですか?」

「はい。こちらへどうぞ」


 グラスは清夏を中に引き入れた。

 ココは既に本を片付けて来ていてすっとグラスの手を取り、補助をしてくれる。

 清夏とさっきまでお茶をしていたところまで戻る。


 サッと新しい茶菓子と紅茶が淹れられる。

 一口のみ喉を潤す。


「あの清夏様は帝国の方なのですか?」

「ええ、そうですよ。交換留学で、こちらに。あなたの姉君と同じ学年です」

「そうなのですね。では、もうすぐご卒業なのですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます。グラス嬢はパーティーに参加されますよね?」

「いえ、まだ決めかねていて……」

「……」


 パーティーに着ていく綺麗なドレスも、装飾品もない。パーティーに行ってみたい気持ちはあるけれど、イサナに止められるだろう。


 イサナ達はグラスを外に出したがらない。家の恥でもある魔力なしを人の目に触れさせたくないのだろう。


 清夏は少し心配そうな視線をグラスに向けたあと、ちらりと自分の腕時計を見る。


「申し訳ない、時間が来てしまったようです」

「こちらこそ。長くお引き留めしてしまって……申し訳ございません。お土産にこれをどうぞ」


 小さいカゴをココから受け取り、清夏に渡す。中身はマカロンとクッキーだ。


「ありがとうございます。また、あなたに会いに来てもいいですか?」


 優しい目でグラスを見つめる。

 相手も目は見えないけれど、優しい視線を感じて、グラスは自然と頷いていた。


「では、また。次はきちんと前触れのお手紙を出しますから」


 チュッと手の甲にキスを落とし、清夏は帰って行った。 

ここまで読んでくださってありがとうございます。

初心者なので、変なところがあっても勘弁してくださいね(¯―¯٥)

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