三話
『ちょっとついてこい』
なっ……
その隊員の目線の先には、紛れもない、俺がいる。
俺以外のやつを指しているとは思えない。
ばっちり目が合っているし、何より周りの奴らがみんな俺を見ている。
「俺……ですか……?」
『そうだ。ちょっと来い。』
「嫌です」
なんて、言いたくても言えないことは重々承知している。
「……分かりました。」
仕方なく俺は、その隊員へ歩いて近寄る。
『じゃあ、我々はこれで。お前も我々についてこい。』
「は、はぁ……」
そういうと隊員たちは外へ出て、向かいに止めてあった車に乗った。
男性隊員が助手席、モイエンターの遺骸を詰めた袋を持った女性隊員が後ろへ座り、流れで助手席に座った。
間も無く車は前進し、街へと走っていった。
ーーーー
「ここだ。」
車での会話は一切無いまま、車が駐車場に停車する。どうやら目的地のようだ。
拡声器を通さない素の声は、芯が通ったダンディーな声だった。
隊員について行くがまま、薄暗い路地を進んでいく。
と、一角に四、五階建ほどのビルが見えた。そこに隊員たちが入って行く。入り口には、同じ制服を着た、他の隊員らしき人達が屯して紫煙を燻らせていた。
「こっちだ。」
建物の中に入り、一つの部屋のドアを開ける。
「任務完了、ただいま戻りました。」
サッ、と二人の隊員が揃って礼をする。
奥には、如何にも偉いと言ったような風格の椅子に座った、若い女性。
あの若い女性がリーダーなのか……?
「そいつは何だ?」
若い女性が見かけとは裏腹に、低い声でそう言う。
「こいつは私が連れて来ました。少し話がしたくて。」
と、男性隊員が無表情に言う。
「……ふ、そうか。まあいい。何かわかったら伝えろ、出ていいぞ。」
「「失礼致します」」
二人揃ってそう言っているのを見て、思わず俺も礼をしそうになった。
まあしたところで何ら問題はないか。
「お前はもういい、戻れ。」
男性隊員が袋を持った女性隊員に向かってそう言う。
「はいはーい。おつかれさん。」
鼻につくような声でそう言った女性隊員は、奥へと消えていった。
「おい…」
「あ、はい!」
急に話しかけられ驚きつつ、平静を保つ。
「ちょっとついてこい。」
「あ、はい…。」
階段を上がり、ここは…二階だろうか?
ある部屋に案内され入ると談話室のようで、机に向かい合うように椅子が並べられていた。
男性隊員その奥にある個室に進んでいき、入れ、と言うふうに指示をした。
「座れ。」
言われた通り腰を下ろす。
男性隊員も座り、数秒に沈黙の後、重々しく口を開いた。
「あー、俺の名前は莢見華露だ。一級隊員。」
「…級位があるんですね…」
「あぁ。……焦らしても仕方ないな。お前は、モイエンターに会ったことがさっき以外であるか?」
「え…無い…ですけど…」
「本当か?」
「はい、本当です。意識があるうちはずっと。」
「うむ……隠さずに言うことにしよう。」
そこで俺は、ゴクリと唾を飲んだ。
「お前は、モイエント感染者だ。」
「……は?」