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優花

作者: 齊藤トルティーヤ

 「ちょっと待って、納得いかないんだけど」

 また始まったとクラスのみんなが目を伏せた。納得いってないのはクラスメイトの菅優花だけだ。

 いつもの光景と言ったらそうかもしれないが、いつもにしてはみんなその状況になれることはなかった。

 今行われているのは、桜高校3年3組のクラス会議だ。議題は大人ですらはっきりさせることのできない犯罪者を増やさないためにはというものだ。クラスのほとんどはそんなの考えたって答えなんてでない、正解なんてないと思っている。一人1つ考えをだすことが決定事項で話が始まった。ほとんどの答えは一人一人に犯罪は間違ってると思い込ませるとかあまり決定的ではない曖昧な回答ばかりだった。僕本人もそうだった。そして、あの菅優花も。みんな満場一致でとすんなり決まったはずなのに、優花はいいだした。

 「このまま満場一致で終わっていいのかな?もっといろんな意見を出し合って、話し合うべきじゃないかな」優花は、手を挙げて発言の許可が出る前に話し始めた。

 あの時、クラスがある意味一つになったと思う。優花以外のみんなが一斉に思っただろう。お前も同じ意見だろーが!と。

 優花はそこまで仲が良いわけではないが、名前で呼ぶぐらいだから多分仲良い方に含まれるんだろう。結局意見も出ずに、救いのチャイムが鳴った。みんなホッとした。優花は不満な顔をしている。

 休み時間になると、優花の周りには意外だと思うが人が集まる。僕からしたらあまり意外ではない。優花は、普段は明るく友達思いな人気者の女の子なのだ。そして、顔も可愛い方だと思う。隠れて好意を抱いてる人は結構いると思う。

 僕は休み時間になると仲良しの輝と翼のところへ行く、これが習慣だ。二人のとこへ行くと、話は優花のことだった。

 「あいつ今日もやってんなー、普段普通だし顔可愛いのにどーしてこうなるかね、今日は関わらんようにしとこ」輝は、優花を横目で見ながら言った。

「宗吾、このクラスじゃお前が一番仲良いだろ、機嫌直してこいよ。このクラスの秩序を保つ救世主になれるぞ」翼が、ニヤニヤしながら僕に言う。

「そんな仲良くないよ。ただ、昔からよく話す機会があっただけ」

小学校の時の委員会活動、中学の時の日直当番、その他諸々、優花のコミュニケーション能力が高かったことで人より話す機会が多かっただけ。

「いいからいけよ。」相変わらずニヤニヤして翼が言う。しょうがなく、僕は優花のところ重い足取りで向かった。

「優花、ちょっといい?話あんだけど。」

 周りの女子達が冷やかしている中、優花はいつも通りの表情で言った。

「いいよ、廊下行こっか。」

 翼と煇がニヤニヤしているのが、見なくてもわかった。

 「どうしたの?」

 教室の前の廊下で優花に聞かれて、言いづらいなと思いながら言った。

 「さっきのクラス会議、いつもそうだけど、あーいうのやめた方がいいぞ。」

 優花は言っていることを理解してないような表情を浮かべたので付け足した。

 「満場一致なんだからそれで終わりでいいだろ?わざわざ場を乱すようなことしなくてもさ、優花も辛いだろ。」

 斜め上を向いて何かを考えるそぶりを見せた後、僕の目をしっかり見て言った。

 「クラス会議って、答えなんてないと思う。考えて意見をぶつけ合うものだと思う。まとまらなくてそのまま授業が終わることはむしろいい授業!だから私は、みんなと違う意見を言いたいの。あんまりいい気持ちはしないよ、あとで色々言われてると思うしね。」

 そう言った、優花の微笑みはどこか切ない表情に思えた。

 「またやるの?次の時も。」

 「やるよ、私は。」

 わかったと言って僕が立ち去ろうとした時、優花が言った。

 「宗吾は、わかってくれると思ってたんだけどなー」冗談めかした声、表情は見えない。

 「わからないよ、ただ、無理はしてほしくないとは思うよ。」体の向きは変えず言った。優花の表情は分からない。

 「ありがと、気にしてくれてありがと、私を無理から守ってくれてもいいよ?」

 「ありがとう二回言ってるよ、気が向いたらね。」そのまま僕はトイレに行った。


 特に、何事もなく日々は過ぎ、クラス会議時間がやってきた。議題はいじめはどうすればなくなるのかであった。また似たような議題、バカなのかこの学校はと思いながら一人一人に渡された意見用紙に周りと合わせて書いた。

 翼を見るとニヤニヤしていた。優花を抑えめで指差しながら口を動かしている。多分、またやるぞって言ってる。

 翼がそんなことをしていると、先生に指名された。

 「宮本、何ニヤニヤしてるんだ。お前の意見を聞こう。」

 あちゃーと言いながら、翼は言った。

 「いじめは良くないことです!みんながそれを理解していれば起きない!そーいう授業増やせばいいと思います!」

 それが無難だなと思いながら優花を見た、優花は真剣に聞いている。

 「それじゃ、今の意見賛成の人手を挙げなさい。」先生は自分の手を挙げながら言った。クラス会議の時間に関しては先生も手を抜いているように見えた。そして、ぱっと見全員が挙げた。

 「全員か?では、逆に違う意見のやつ手を挙げなさい。」

 優花は今日も必ず手を挙げる。先生がそう言って一秒も立たない時

 「それでいいんでしょうか、もっと話し合った方がいいと思います。」

 手を挙げず、起立して言っていたのは僕だった。

 ざわざわしている、クラス中が僕を見ている。いつもニヤニヤしている翼や煇も流石に困惑してた。優花の顔は見ないようにした。

 「そうか、では坂西、君はどんな意見を書いたんだい?」

 僕は、数秒考えたあと口を開いて言った。

 「僕も、宮本君と同じような意見を書いてます。ただ、もっと意見出し合ってぶつかり会うことも大切なんじゃないかって、先週くらいか思ったといいますか。」

 相変わらず、ざわざわは止まらない。優花の顔も相変わらず見ないようにしている。また少し考えてから話を続けた。

 「例えば、いじめる側が本当の原因なのかとかですね。」声の大きさがどんどん小さくなるのが自分でもわかった。こんなこと言ったらもっとざわついて面倒くさいことになる。思った通り、完璧アウェイな状況になった。

 すごく嫌な雰囲気、きつい、今にもこの場から立ち去りたい。こんな気持ちだったのかな、よくあんなに堂々としていられたな、優花は強いな。そんなことを思って、なんでもないです、忘れてくださいと言いながら着席した。すると、意外にもそっから話は発展して、授業のチャイムがなるまでそれなりに会議は続いた。

 その日の会議、優花は静かだった。一言も喋らなかった。授業中、僕は優花を一度も見なっかた。

 「お前あれなんだよ!びっくりしたぞ!」煇と翼は珍しく僕の机に来た。

「別に、なんでもないからほんと、忘れてほしい」頭を押さえ、下を向いて言った。もう、あんなのはごめんだと思った。ただ、いつもと違う優花の静かさに疑問を抱いた。



「手汗星人!またね!」クラスの女子が下駄箱で優花に言っていた。

何言ってんだと気になって、上履きからスニーカーに履き替えながら優花の方を見ていると、優花が気づいてこっちに向かいながら、一緒に帰ろうと言ってきた。

「優花こっちなんだ、知らなかった。」

僕が純粋に驚いていると優花は言った。

「え!なにってんの、言ったことあるし!私も知らなきゃ帰ろうなんか言いませんー」ふて腐れている表情は可愛いと思った。

歩きながら、さっき気になったこと聞いた。

「そういえば、なんで手汗?」

「今日ね、意見用紙が授業中に濡れてぐちゃぐちゃになっちゃって、それでからかわれてたの。手汗じゃないけどそういうことにした。」

「じゃあなんでそんな濡れてたんだよ」

 「教えません!そんなことより何であんな事したの?私、びっくりしちゃった。」ニコニコしながら、しっかり目を見て聞いてきた。

その目をそらし、僕は言った。「さあ、頭おかしくなったかも、ほんとしんどかった。後悔ですわ。優花は強いな。逆に全然喋らなかったな今日」

 「私の苦労をわかってくれる人ができて嬉しいねー。宗吾は私を守ってくれんたんだと解釈したから私は、しっかり守られることにしたんだよ。」

 顔が見れない、周辺視でもわかるくらい、確実に目を見て喋っている。

 「真実は教えない、まあ、そう思ってるんだったらもっと有り難くて泣いちゃうくらいあってもいいかな」前を向きながら冗談を言った。

 「泣いたとしても見せないよ絶対、私は強いからね」

 優花がそう言ってから間が空いて、横を見ていると僕とは反対向きを向いていた。「どうした?なんか見える?」と優花の目線側を見ながら聞いた。

 「なにもないよ、気にしないでー。」と言い反対側を向いたままだった・

 その日の夕焼けのせいか、優花の少し見える頬と耳が真っ赤に見えた。

 


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