表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
no_title 題名のない物語  作者: 藤原 アオイ
第一章 project angel
51/68

これから始まるラプソディ

 49


 静まり返った僕の部屋。手の中には大量の汗が握られていた。制服で拭おうとしたが、やめておく。すぐ近くにあるはずのタオルが今はとても遠い。立ち上がろうにも足が全力でそれを拒否しているのだ。動きたくない訳ではない、動けないのだ。


 圧倒的な何か。さっきまで感じていた気配。そして、その言葉の重み。情報量が多すぎて処理出来ない。


「――――う、うーん。」


 どうやらお姫様がお目覚めになったらしい。


「生きてるってことは、船研に関係する誰かがいたってこと?」


 間違ってはいない。だから僕は二葉さんから聞いたことをすべて話すことにした。


 流れていく時間、最後に聞いたそれは恥ずかしいから触れないでおく。


「全部、知っちゃったんだね。」


 悲しそうにも嬉しそうにも見えるその表情が僕の心臓を貫く。


「その言葉の通り、自分は人間じゃない。ただの人形。いつ死ぬかもわからないマリオネット。来る者は拒み、去る者は追わないかぐや姫。」


 かぐや姫のエンドを知っているだろうか。1000年以上昔の物語。これにはいろいろな解釈があるが、最後にはかぐや姫は記憶を失い月に帰ってしまう。のこされた帝は不老不死の薬を富士の山で燃やし、そこで物語は完結する。それは実は誰も救われない物語なのだ。


 いつの間にか日が沈んでいた。見えるのは、雲に隠れ日の光を反射している月だけ。感情も記憶も失ったかぐや姫がいる場所。そう、そこは人が生きていくことが出来ない幻想の都。手を伸ばしたところで届かない、でもずっと近くにいる衛星。


「月が、きれいですね。」


 ぽつりと呟かれた僕の言葉。特に意味はないはずだった。でも、


「わざと言ってる?」


 こたえてくれる彼女がそこにはいた。その頬はちょっぴり赤く、その口元は少し緩んでいた。


 僕はそんな彼女が大好きで、だから離したくなかった。人はこれを恋という。でも、それとは少し違う気がした。

お読み頂きありがとうございます。

もしよければ評価、感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ